第85話 限界。
「うーん。さっきから同じ場所を行ったり来たりしてる気がするな。」
コウちゃんが次の入り口を探しながらつぶやいた。
「う~ん。確かにね~。ただ入り口の位置が毎回違うから同じ場所ではないはず…。だよね~?キュウちゃん、メイちゃん。」
コウちゃんと一緒に入り口を探すユウちゃんが僕たちに聞いた。僕は後ろにいるメイちゃんのノートを見る。ノートの図面は確実に着実に進んでいる。
「うん。ちゃんと進んでるよ。同じ場所には戻ってないよ。」
「ならいいんだけど~。何か目が回ってきた~。」
ユウちゃんはそう言って体をぐーっと一度のばした。
「確かに目が回る感じだね…。あっ、あったよ。ここに。次の入り口。」
ケンちゃんが手を挙げた。
「よし。じゃあそこ以外に入り口がないか確認してから進もう。」
コウちゃんとセイちゃんが手を上下に動かしながら他の入り口がないか確認していく。ただ、この作業ももう九回目。みんなに疲れと焦りが見え始めた。僕はメイちゃんのノートを見た。
ミラーの最初の迷路、次の広間を抜けて僕たちが入ったこの場所は、天井の低い通路と四角い部屋が交互にあるみたいだった。四角い部屋を隅々まで調べると必ず一つ通路が見つかる。その通路の高さは1メートルくらいでそこを抜けるとまた四角い部屋にたどり着く。それを最初の部屋も含めて九回繰り返した。壁がが鏡なのは変わらないし作業自体も同じことの繰り返しなので余計に疲れる。精神的に辛く感じる。
「よし。他に通路はない。進むか。」
「うん。ただ時間があと四分だから次でダメならそろそろ戻るべきだと思うよ。」
「そうか。じゃあケンの言うとおりにするか。」
コウちゃんはそう言って通路の奥へ進んでいく。
「みんな~。頑張ろ~。」
さすがのユウちゃんも疲れたらしく声の張りがない。それでもコウちゃんの後ろを追いかけるのはそれだけの理由があるからだと思う。ユウちゃんだけじゃなく他のみんなも。たぶんコウちゃんじゃなかったらついていかないんじゃないかと思う。
「メイちゃん。進むよ。」
後ろを見るとメイちゃんがうなずいた。でもメイちゃんも辛そうだ。この部屋と廊下の連続するエリアに入ってからメイちゃんは忙しそうだった。見つかる通路の高さや位置を部屋ごとにメモし、部屋と廊下の配置も丁寧に図面にしている。ノートのページも三枚使ってどんなことがあっても大丈夫にしているみたいだ。
「メイちゃん。もしもスタートに戻るときは僕の背中にのっていいから。だからあと少し頑張って。」
メイちゃんにだけ聞こえるくらいの声でそう伝えるとメイちゃんは僕の背中に頭をコツンとぶつけた。僕はメイちゃんに気を配りながら通路を進んだ。
「あー、また部屋か。」
通路の先でコウちゃんの声が響いた。僕は早足で通路を抜けた。そこは残念なことにまた四角い部屋だった。通路の出口が高い位置なので僕はメイちゃんに伝えてから床に飛び降りた。メイちゃんも僕に続いて飛び降りた。
「この部屋で通路を探したら帰るか。」
「は~い。」
みんなが疲れた顔で通路を探し始めた。
さすがに一筋縄ではいかないか…。
僕はそんなことを考えながら通路を探そうとした。するとメイちゃんが肩をたたいた。
「メイちゃん、どうしたの?」
メイちゃんはノートを指差してから僕たちの来た通路の下を指差した。僕はメイちゃんの指差す先に手をのばし、そしてうなずいた。
「こうなってたんだ。なるほど。みんな!通路は一つはここにあるよ。」
僕は今出てきた通路のすぐ下を指差す。
「すぐ下だったのか。灯台もと暗しだね。」
ケンちゃんがふぅーっと息を吐きながら言った。
「じゃあ、そこ以外がなければ…。どうする?入らずに引き返すべきか?」
コウちゃんが他の通路を探しながら聞いた。
「僕たちが先に行って見てくるよ。」
僕がそう答えるとみんなの手が止まった。
「その先にゴールがある保証があるのか?」
セイちゃんが僕たちを見た。僕は首を振る。
「むしろここを行くとスタート地点に戻ると思う。だけど引き返すよりは早いと思うから。」
「え~?ゴールじゃないの~?」
ユウちゃんががっかりしたように言った。
「でも今から戻るならそこがスタート地点に続いてた方が楽だな。よし、キュウとメイはそこを見てきてくれ。」
コウちゃんは手を動かしながら言った。
「うん。メイちゃん、行こう。」
僕とメイちゃんは通路に入っていく。進んだ先の部屋を覗いてからメイちゃんを見た。メイちゃんは小さくうなずいた。
「じゃあ、みんなを呼んでくるね。メイちゃんは座って待ってて。」
僕が通路を戻るとみんなが待っていた。どうやら入り口は他になかったみたいだ。
「スタートに戻れるのか?」
「うん。このエリアの最初の部屋に戻れるよ。」
僕はそう言って、また通路を進んだ。みんなが僕の後ろを続く。メイちゃんが通路の出口に腰かけて待っていた。
「どうなってるのか説明してくれ。」
ケンちゃんが僕に聞いた。僕はメイちゃんのノートをみんなに見せた。そこには部屋と通路の位置がわかりやすくまとめられていた。
「最初の部屋がここ。僕たちが通ってきた部屋がこの順番。」
「あー、なるほど。つまりさっきの部屋は二回目の部屋の真上に、その前の部屋は最初の部屋の真上にあったんだね。だからこの通路を通ると最初の部屋に出るってわかったんだ。」
ケンちゃんの言葉に僕はうなずく。
「うん。最初の部屋の通路は全部で三つあったみたい。僕たちのいる通路の下が最初の部屋で見つけて入った通路でその下に入り口へ続く通路があるんだよ。」
ケンちゃんは納得したようにうなずいている。
「おい!とりあえず早く下りようぜ。時間がもうないぞ!」
セイちゃんが僕たちに言った。
「うん。じゃあ僕から下りるね。」
僕は通路にぶら下がる格好で下の通路に足をかけた。通路の左右の壁にはよく見ると切れ込みが入っていて手をかけられるようになっていた。僕はそれを使ってゆっくりと下まで下りた。
「よし。次は俺が行くから。」
コウちゃんはぶら下がりながら下の通路に足をかけ、そこから軽くジャンプして下りた。
「コウちゃ~ん。私ちょっと怖いんだけど~。」
「わかった。俺が下で支えてやるから。ゆっくり下りてこい。」
そう言ってコウちゃんは二段目の通路に上った。ユウちゃんは恐る恐るぶら下がりながら下りていく。たぶん本当に怖いんだと思う。コウちゃんがユウちゃんを抱き抱えるように支える。ユウちゃんはコウちゃんにつかまりながらゆっくりと下りた。
「ありがと~。コウちゃん。」
「ああ。どういたしまして。」
「おーい!下りたならどいてくれ!」
コウちゃんとユウちゃんの絵になりそうなシーンをセイちゃんの叫び声がぶち壊した。
「どいたよ~。」
ユウちゃんがそう返事した瞬間、
ドーン!
すごい音とともにセイちゃんが降ってきた。
「何も飛び降りることないのに。」
「何言ってんだよ!時間ないだろ!」
セイちゃんはそう言って上を見た。
「ケン!下りれるか?助けてやろうか?」
「大丈夫だ!これくらいなら下りれる!」
ケンちゃんはゆっくりと真ん中の通路に足をかけると、下まで飛び降りた。
「君にできたことを僕ができないわけにはいかないからね。」
ケンちゃんは僕にそう言ってにやっと笑った。僕は笑顔でうなずいた。
「メイちゃん。リュック受けとるよ。」
僕が手を振るとメイちゃんはリュックを僕の方へ投げた。僕はしっかりとキャッチ、メイちゃんはそれを見て笑顔でうなずくとゆっくりと下へ移動し始めた。手をかけてぶら下がりながら下の段に足をかけた。と、次の瞬間メイちゃんの右手がズルっと滑った。体が後ろに倒れそうになる。
「メイちゃん!」
叫ぶとともに僕の体が勝手に動いた。走って二段目の通路にジャンプ、片足を引っかけた状態から一気に立ち上がり、通路から身を乗り出すようにしてメイちゃんの体を支えた。
「メイちゃん、手をはなしていいよ。」
メイちゃんは手をはなして僕に抱きつく。
「ごめんね。」
そう口を動かしたメイちゃんの顔からは能力を使い果たしたことが見てとれた。
「メイちゃん、下りれる?下りたらあとは僕が連れていってあげるから。」
メイちゃんは小さくうなずいてから通路に手をついてゆっくりと下りた。僕もメイちゃんの隣に下りた。
「コウちゃん、メイちゃんが限界だから。時間もないし急いでミラーから出よう。」
コウちゃんは大きくうなずいた。
「おう。わかった。キュウはメイを頼む。メイのノートをケンに渡してくれ。先頭は俺がいくから。」
僕はうなずいてメイちゃんのリュックから図面の書いたノートを出してケンちゃんに渡した。
「よし。あとは僕たちに任せて!」
ケンちゃんは帰り道の順路のページを開いてから僕にそう言ってコウちゃんの後ろを歩きだした。
「キュウ!メイを頼んだぞ!」
「私たちがちゃんと案内するから~!」
セイちゃんとユウちゃんも僕の肩をポンっと叩いてからコウちゃんたちに続く。
「メイちゃん、この通路をくぐったら僕の背中にのって。」
メイちゃんは小さくうなずいた。僕は通路をかがみながら進む。メイちゃんは僕の服をつかみながらついてきている。通路を抜けて広間に出たとき壁から水が流れ始めた。
「メイちゃん!のって!」
メイちゃんは僕の肩に手をのせてジャンプ。僕はみんなを追いかけて走った。
「突き当たりを右でしばらくまっすぐ!」
「了解!」
ケンちゃんがノートを見てコウちゃんに指示を出す。コウちゃんはみんなより早めに歩いて曲がり角を確認していく。曲がり角につくとセイちゃんかユウちゃんがそこに立ち僕を誘導。完璧なコンビネーションだ。
「メイちゃん、あと少しだから。しっかりつかまっててね。」
メイちゃんは小さくうなずいて僕の肩に指をのせた。
「ごめんね。」
「メイちゃん。メイちゃんは頑張ったから今疲れてるんだよ。だから謝ったらだめだよ。」
するとメイちゃんの指がまた動く。
「ありがとう。」
「うん。どういたしまして。そしてこちらこそ、ありがとう。あとは任せて。」
メイちゃんは僕の首に手を回してぴったりくっついた。僕はメイちゃんをのせてみんなを見失わないようにミラーの迷路を駆け抜けた。




