第84話 ミラーの奥へ。
トン、トン。
僕の肩をメイちゃんが二回たたく。
「了解。」
僕はそう答えて壁を触っていない手を前に出す。すると少し進んだ先に鏡の壁がある。僕はそれに合わせて曲がる。メイちゃんが僕の肩を手ですーっとなでてトンとたたいた。僕は通路を進みながら両手を広げ壁をさわる手を変えた。メイちゃんが僕の後ろで図面を見ながら合図して、僕は合図にしたがって動く。前回のミラーで決めたメイちゃんとの連携プレイで僕たちはミラーの迷路を進む。
「いいね~。二人のラブラブコンビネーションは~。」
「だから二人の集中を乱すようなことは言うなー。あたしたちはあの二人がいないと進めないだから。」
ユウちゃんとセイちゃんの声が聞こえる。正直セイちゃんの叫び声も集中力を乱すよ…とはさすがに言えない。
「キュウ、メイ。大丈夫か?」
コウちゃんの声がすぐ後ろから聞こえた。たぶん歩く順番は僕たち、コウちゃんとケンちゃん、ユウちゃんとセイちゃんになっているみたいだ。
「大丈夫だよ。ね?メイちゃん?」
僕が聞くとメイちゃんは僕の背中に頭はトンと軽くぶつけた。そして指で背中に文字を書く。
「この壁に沿って進んで左にドアだよ。」
「うん。わかった。コウちゃん。突き当たり左にドアで迷路は終わりだって。」
「わかった。みんなに伝える。次の部屋も先頭は頼むぞ。」
コウちゃんはそう言って後ろのみんなに伝えた。みんなの『はーい』という返事が聞こえた。
トン、トン。
メイちゃんが肩をたたいた。慌てて壁にふれていない手を前に伸ばす。でも左側にドアが見えた。どうやら今のは『もうすぐドアだよ。』という意味だったみたいだ。
「メイちゃん。スピード落とすよ。」
メイちゃんの頭が僕の背中にコツンとぶつかる。僕は徐々にスピードを落としていきドアの前に立った。ゆっくりドアを開けて広い部屋に入った。僕たちの後ろからみんなが次々入ってきた。
「よし。キュウ、メイ。お疲れ。ここからは俺が先頭やるから。」
コウちゃんが僕たちを追い抜いた。
「図面見なくて大丈夫なの?」
「大丈夫だ。僕がコピーを持ってるから。」
ケンちゃんがコピーを見せながら僕たちを追い抜く。
「あいつらに任せてやってくれ。特にケンは負けず嫌いだから。活躍したいんだよ。」
セイちゃんが優しい顔で僕の肩に手をのせて言った。たぶんケンちゃんのことを一番理解しているからこその言葉なんだろう。
「うん。じゃあ僕たちは後ろからついていくよ。メイちゃんの図面作りもあるから。」
「そうしてくれ。」
セイちゃんは笑顔のまま僕たちを追い抜いてケンちゃんの後ろについた。
「私もお先に~。ラブラブを見すぎると体に悪そうだから~。」
ユウちゃんが冷やかしか毒舌か微妙なことを言いながらセイちゃんの後ろについた。コウちゃんの後ろにみんなが続くいつもの並び方。頼もしく、かっこよく見える。
「メイちゃん。みんなに任せて僕たちは図面作りを頑張ろうか。」
メイちゃんは笑顔でうなずく。僕もうなずいてからみんなの後ろについて歩いた。コウちゃんは部屋の真ん中の大きな柱みたいな壁をよけて入ってきたドアと反対側に移動した。するとケンちゃんが図面とまわりを見て『あの辺だよ』と指差した。その場所へセイちゃんが走り、まるで車のワイパーのように手を動かして入り口を探した。
「あっ、あった。ここだな。」
「サンキュー。セイ。じゃあ行くか。」
コウちゃんはそう言ってセイちゃんの見つけた入り口に入っていく。みんなもついていく。僕とメイちゃんも続いた。前に入ったときも感じたけどこの通路は高さが1メートルくらいだからみんな少しかがんで進む。
「ここせまいね~。」
「あんたはまだマシだろ。ユウ。あたしはもっとせまく感じるよ。」
ユウちゃんとセイちゃんがそんなことを話しているうちに最初の部屋についた。
「みんなで入るとせまいな。ここは。」
「コウちゃん、たぶん前回は四人だったから余計にそう感じるんだよ。」
「で、次はどこに道があるんだ?」
コウちゃんとケンちゃんの会話にセイちゃんがわって入った。
「ああ、最初はここだ。」
コウちゃんはそう言って僕たちが今来た通路の上に上った。そしてゆっくりと立ち上がりながら壁を確認する。
「ここも高さは下と同じだな。勢いよく立つと頭を打つから。」
「は~い。」
ユウちゃんが返事をしながら上の段に上る。コウちゃんは簡単に上ったけどユウちゃんはちょっと大変そうだ。コウちゃんに手を借りてゆっくりと立ち上がった。
「これなら踏み台がほしいな~。」
ユウちゃんはそうつぶやいた。
「おい!ユウ。どいてくれ。」
セイちゃんはそう言ってから軽々と上に上った。
「ケン、上がれるか?」
「いくら僕でも大丈夫だ。」
ケンちゃんは上の通路に手を置いてユウちゃんと同じように上った。
「メイちゃん、僕が先に上って荷物を受けとるね。」
僕は少し助走をつけて勢いよくジャンプ。そして通路に這い上がった。
「メイちゃん、リュックとか貸して。」
メイちゃんはうなずくとリュックとノートやバインダーを僕に渡す。そして僕と同じように助走をつけて勢いよくジャンプ。
「えっ?」
次の瞬間、メイちゃんの顔が僕の目の前にあった。メイちゃんは僕やユウちゃんのように手をついて上るのではなく直接通路に飛び上がってきた。驚く僕を見てにこっと笑うメイちゃんの顔。その顔が僕を見ながら上がっていく…。
「あっ、ダメ!」
僕はとっさにメイちゃんの手を引いた。メイちゃんはバランスを崩して僕の方へ倒れてきた。僕は受け止めるようにメイちゃんを支えた。
「メイちゃん。そんなに勢いよく立ったらダメだよ。天井が低いんだから。」
僕がそう言うとメイちゃんは口を『あっ』と動かしてから小さくうなずいた。
「よし、二人とも進むぞ。」
後ろから声をかけられ振り返るとみんながニヤニヤしながら僕たちを見ていた。
「いろんな意味ですごいな。あんたらは。」
「うん。君たちの動きは飽きずに見られるね。」
「私にはメイちゃんの動きは確信犯に見えたよ~。」
みんなは僕たちに言葉を投げ掛けながらコウちゃんのあとを追って奥へ進んでいく。
「メイちゃん。僕たちも行こう。」
リュックを渡しながらそう言うとメイちゃんは小さくうなずいた。すぐにリュックを背負って僕の後ろにピタッとついた。
「じゃあ、いきます。」
僕はメイちゃんを引っ張ってゆっくり歩き出した。するとすぐにメイちゃんが僕の背中に文字を書いた。
「わざとじゃないよ。」
ユウちゃんが言った「確信犯」という言葉が嫌だったみたいだ。
「わかってるよ。」
僕は答えた。でもメイちゃんからは返事がない。後ろをちらっと見るとそこにはすでに集中モードに入ったメイちゃんの姿があった。




