第82話 もしかして…。
「よし。とりあえず戻るか。」
「は~い。」
コウちゃんとユウちゃんが立ち上がる。
「ケン!行くってさ!」
「聞こえたから大丈夫だ。」
セイちゃんとケンちゃんも立ち上がり出口に向かって歩き出した。
「メイちゃん。終わった?」
メイちゃんはまだノートに集中している。定規を使わずに完璧にまっすぐな線を引き、完璧な縮尺の図面を作り出していく。
「みんな。メイちゃんがもう少しかかるから、先にテレパスに挑戦してて。」
「了解!先に行く!」
「ごゆっくり~。」
「こっちは安心して任せてくれ!」
「メイを頼んだぞー!」
みんなが手を振りながらドアの奥に消えていった。僕は台によりかかりながらメイちゃんを見ていた。メイちゃんの右手は迷いなく動き続ける。思い出してみてもメイちゃんが消ゴムを使うのを見たことがない。間違えないのか間違えない自信があるのか…。とにかくすごい。するとメイちゃんが顔をあげた。僕を見て口を動かす。
「お待たせしました。終わったよ。」
メイちゃんはニコッと笑った。ノートには最後のこの部屋の正確な図面が完成していた。
「じゃあ戻ろうか。みんな行っちゃったし。」
僕が歩き出すとメイちゃんは隣に来た。ドアを開けながら出口に向かう。
トン、トン。
肩をたたかれて隣を見るとメイちゃんが口を指差してからゆっくり動かす。
「何で最後はケンちゃんに頼んだの?」
きっとあとでみんなに聞かれる質問。だから僕の答えも決まっていた。
「それは時間がなかったからとケンちゃんの方が早く解けるからだよ。」
「ケンちゃんの方が早く解けるの?他の部屋はキュウちゃんの方が早く解けたのに?」
メイちゃんは驚いている。僕はうなずいてから話を続けた。
「他の部屋は解き方がわからない問題だったよね。その場合はクイズや手品の種類をより多く知ってる僕に有利だったんだ。ただ最後は『ルービックキューブを完成させる』って答えがわかっていたから。そしたらルービックキューブをより早く解ける人がやるべきだと思って。」
「でもケンちゃんもキュウちゃんと同じ攻略方法なんでしょ?そしたらキュウちゃんも同じ早さじゃないの?」
メイちゃんの目が真剣だ。何でかわからないけど怖いほど真剣だ…。
「僕もケンちゃんも同じ攻略法だよ。ただ僕は攻略法の暗記しかしてないけど、ケンちゃんは暗記した上で応用方法も考えてたんだ。だから僕が二回手順をふむところをケンちゃんは一回で済ませられる。だからケンちゃんの方が早いんだよ。」
「そうなんだ…。」
メイちゃんはなぜかガッカリした顔になった。僕は不安になって聞いた。
「メイちゃん。どうしたの?」
「ううん。ただキュウちゃんに勝ってほしかったなと思って。」
メイちゃんは口を動かしてから下を向いた。顔がちょっと赤い気がする。僕はメイちゃんの頭を優しくなでた。メイちゃんが僕の方を見る。
「メイちゃん。ありがとう。あんまり期待されたことがなかったからうれしいよ。次は頑張って勝つよ。」
「ほんと?」
メイちゃんが目を輝かせる。僕はうなずく。
「うん。頑張ります。」
メイちゃんは笑顔で大きくうなずいた。僕はその顔を見てほっとした。
メイちゃんは本当は負けず嫌いなのかな…?
僕はそんなことを考えながらメイちゃんと早足で入り口を目指した。その途中、僕は気になってたことをメイちゃんに聞いてみた。
「メイちゃん。もしかして解こうと思えばルービックキューブ解けるんじゃない?」
メイちゃんは驚いて僕を見た。その顔からは戸惑いや不安が見える。そしてゆっくりと口を動かす。
「キュウちゃん。何でわかったの?」
「やっぱりそうだったんだ。わかってたわけじゃないんだ。ただ、メイちゃんの才能みたいなものを見てるとルービックキューブができないとは思えなくて。」
メイちゃんはうつむいた。体が震えている。
あ…。メイちゃんにとって嫌な質問だったみたい。
僕がメイちゃんに謝ろうとしたとき、メイちゃんは急に顔をあげた。僕の顔をじっと見つめてからゆっくりと口を動かす。
「キュウちゃんは何でもできる人って嫌い?」
突然の質問に僕は戸惑う。メイちゃんは目から涙をこぼしながら音のない言葉を続けた。
「キュウちゃんの言うとおり。ルービックキューブはたぶん解けるよ。でも他のパズルは初めてだと解けないの。本当だよ。信じて。」
メイちゃんの頬を涙が流れる。僕は手を伸ばしてそれを拭いた。
「もちろん信じるよ。それに僕には才能がないから、メイちゃんが羨ましいしかっこいいと思う。本当だよ。」
メイちゃんは自分の手で涙を拭う。でも涙は止まらない。
「よかった。キュウちゃんが嫌いじゃなくて。」
メイちゃんはそう口を動かすとニコッと笑って見せた。涙が止まらない中での精一杯の作り笑いだった。その笑顔が僕の心を揺さぶり僕の目から涙を溢れさせた。
「なんでキュウちゃんが泣くの?」
メイちゃんが作り笑いのまま僕の涙を手でそっと拭った。
「ごめんね。悲しませるつもりで聞いたわけじゃないけど…。メイちゃんが泣くほどつらいことだったのに…。ごめんね。変なこと聞いて…。」
僕がそう言うとメイちゃんは首を横に振った。
「確かにつらいこともあったけど、少なくともキュウちゃんは嫌いにならないって言ってくれたから。気持ちを教えてくれたから。だから聞いてくれてありがとう。キュウちゃん。」
メイちゃんはハンカチを取り出して僕に渡した。僕は涙を拭いた。
「ごめんね。泣いちゃって。どうしても涙が抑えられないんだ。直したいんだけど。」
僕がそう言うとメイちゃんは僕の頭をやさしくなでてから口を動かした。
「我慢する必要はないよ。我慢しちゃうと泣けなくなっちゃうから。感情が出せなくなっちゃうから。」
メイちゃんは頭をなでてた手を下ろして僕の手を握った。
「私はキュウちゃんに会えたおかげで泣いたり笑ったりできるようになったんだよ。」
「メイちゃん…。」
メイちゃんの顔を見る。メイちゃんは僕の手を引いて歩き始めた。
「行こう。キュウちゃん。みんな待ってるよ。」
「いつもの僕のセリフだね。」
僕たちは出口に向かって歩きだした。メイちゃんの手が熱く感じた。




