第80話 鍵と鍵穴とドア
「この部屋はシンプルだな。」
「そうだね。鍵穴が全部で三つ。」
十一番目の部屋に僕たちが入るとコウちゃんとケンちゃんの話し声が聞こえた。僕たちもそばによってドアを見る。
「確かにシンプルだね。これは。」
僕はそう呟いた。ドアには仕掛けは無さそうだし、ケンちゃんが言うように鍵穴はドアノブに一つとドアノブの上下に一つずつの三つ。
「で、鍵は?」
僕が聞く。みんなは『あっ。』と口を開いた。
「そうか!鍵がないな!探そう!」
「やばいな!どこだ?」
コウちゃんとセイちゃんが慌てて探し始める。でもケンちゃんは落ち着いていた。
「セイ!今、僕たちが入ってきたドアを閉めてみて。」
「え?ああ。」
セイちゃんが上に開いたドアを下に閉めた。するとそこにはドアノブが一つ。ドアノブには鍵がささっていた。
「お!鍵あった!ケン!あんたすごい!何でわかったんだ?」
鍵を持ってセイちゃんはケンちゃんのもとへ走った。鍵を受け取りながらケンちゃんは答えた。
「部屋に入ってドアを見てからまずは鍵を目で探したんだよ。でも見たところ、どこにもなかったし隠されてもいなさそうだった。だから鍵は目に入らないところにあると思って。あってよかったよ。」
ケンちゃんは鍵を差し込む。
「キュウ。もう時間がないからここからは一緒に進めよう。」
ケンちゃんが僕を見て言った。メイちゃんが時計を指差す。ドア&キーを始めてから四分と少し。いいペースでここまでは来たけどあと五部屋。確かに急ぎたい。
「うん。わかった。」
僕が答えるとケンちゃんは鍵穴を見た。
「どこがフェイクだと思う?」
ケンちゃんは真剣な目でドアを見ながらニヤッと笑った。
「さすが。僕なら真ん中。」
「僕と同意見!」
ケンちゃんはドアノブの鍵穴は回さずに上下の鍵穴に鍵を差し込み回す。ドアノブを回すと…。
「開いた!正解!」
ケンちゃんはドアを勢いよく開けた。
「真ん中はかかってなかったのか?」
セイちゃんが僕に聞く。
「そういうこと。鍵を探せばドアが開くなんて簡単な話はないと予想してたから。」
「なるほどな。」
セイちゃんは笑って次の部屋へ向かった。僕が隣を見るとメイちゃんはノートにメモを取っていた。
「メイちゃん。次、行くよ。」
メイちゃんはうなずいてから僕の服をつかみ、すぐにノートの作業を続けた。
「メイちゃん。進むね。」
僕はメイちゃんを引っ張ってドアを通り抜けた。
「うわー。すごい。」
僕は次の部屋で目を疑った。四方の壁にびっしりと鍵がかかっていた。二部屋前のドアノブはドア一面だったけど、今度は壁一面。
「キュウ。これ全部絵なんだよ。」
ケンちゃんが苦笑いで僕にそう言った。
「これ絵なの?」
驚いて壁をさわってみると確かに絵だった。そこに鍵があると錯覚するほど立体的な感じの絵だった。
「トリックアートだね~。富良野で見たよ~。」
ユウちゃんが笑った。コウちゃん、ユウちゃん、セイちゃんは壁をさわっている。
「みんなには壁を調べてもらってる。でもさっきまでの問題から考えると…。」
「壁にはなさそう。だよね?」
僕が聞くとケンちゃんはうなずいた。
「この部屋で時間をかけたくないから。あとはどこなら可能性がある?」
ケンちゃんに聞かれて僕は考える。
「壁の絵の中に鍵がないと考えると…。下か上。床は何もないから…。」
トントン。
「キュウちゃん、ケンちゃんの後ろに何かあるよ。たぶん絵じゃない何かが。」
メイちゃんがそう口を動かしてケンちゃんの後ろの空間を指差した。
「ケンちゃん。手を挙げてドアへ向かってまっすぐ歩いてみて。」
「え?ああ。わかった。やってみる。」
ケンちゃんは両手を挙げたまま、まっすぐ歩いていく。すると部屋の真ん中くらいで立ち止まった。
「あった!すごいな。メイは。何でわかったんだ?」
ケンちゃんは鍵を取りながら聞いた。
「え~?そこにあったの~?」
「まじか!壁の鍵は全部絵だったのか!」
「やるなー。俺は真ん中を歩いたはずなのに気がつかなかった。」
みんなが部屋の真ん中に集まってきた。鍵はちょうど部屋の中心にぶら下がっていて、どの方向から見ても壁の鍵の絵に溶け込んで見えにくくなっていた。
「メイちゃん、何でわかったの?」
メイちゃんは僕の顔を見て口を動かす。
「たぶんドアが閉まったときの風で鍵がゆれたんだと思う。キュウちゃんの肩越しに見てたおかげかな。」
僕はみんなにメイちゃんの言葉を伝えた。
「なるほど。」
「よく見てたね~。」
みんなからほめられてメイちゃんは少し照れたような顔をした。でもすぐに僕の肩をたたいて口を動かした。
「それよりも急がないと。」
「そうだね。みんな急ごう。」
みんなはうなずく。ケンちゃんはドアの鍵を開けて次の部屋に入っていく。
「キュウ!鍵は俺が戻すから先に行け!」
僕はコウちゃんを見てうなずく。
「メイちゃん。いくよ。」
メイちゃんがうなずくのを見て僕は歩き出す。僕の後ろでは集中状態のメイちゃんがノートに図面を書き続けている。僕はメイちゃんが転んだりぶつかったりしないように気を付けて次の部屋に入った。
「今度は鍵穴か。」
ケンちゃんの声が聞こえた。僕はドアの前まで移動した。
「うん。鍵穴だね。」
僕はうなずく。ドアには鍵穴がたくさんある。ドアノブのまわりだけじゃなく、それこそドア一面に鍵穴がある。
「鍵はどこにあるの?」
僕の問いにケンちゃんは指差す。その先からセイちゃんが長い棒みたいな物を何本も抱えて歩いてきた。
「何で鍵にこんなに長い棒がつかなきゃならないんだよ。まったく。」
セイちゃんはケンちゃんの前にそれをガランと置いた。長い棒の先には鍵がついている。
「確かに。何で長い棒が必要なんだろう?」
ケンちゃんはそう言いながら一本拾って鍵穴に差し込んでみる。
「ここじゃない。またはこれじゃないか。この方法じゃ時間が足りないな。」
ケンちゃんは腕を組んで考えている。
「とりあえず俺たちが片っ端から試すから、ケンとキュウは考えてくれ。」
コウちゃん、セイちゃん、ユウちゃんはそれぞれ一本ずつ持って鍵穴に向かった。
ケンちゃんの言う通り何かあるはず…。鍵に付いた棒の意味も、鍵穴がたくさんある意味も…。
僕は考えながらドアから離れた。ドアを遠くから見てみる。
ん?あれは…?
ドアの上に不自然な四角い金属の箱。その横には不自然な形の窓。あの窓から隣の部屋に行ける…?でもあの窓は天井近くにあるから普通に考えたら通れないけど…。
僕は走ってドアに近づき上を見た。すると金属の箱に見えたものは店先にあるシャッターの収納とそっくりだった。しかもシャッターを下ろすときに棒を差し込む穴みたいな部分もある。
「みんな!鍵をここに持ってきて!」
僕は叫んだ。みんなは不思議そうな顔で鍵を僕のまわりに並べた。
「メイちゃん、コウちゃん。パズルでやったやつお願い。」
「え?ああ。物を順番に送るやつな。了解。」
コウちゃんはそう言って鍵を一本拾って僕に渡す。僕は棒の長さと鍵の形を見てからメイちゃんに渡す。メイちゃんはそれを床に並べていく。
「これじゃない。これも違う。」
一つずつ確認していくと六本目に僕の想像通りの形の棒があった。棒の長さが長めで鍵の形が普通と違ってフックみたいな形の部分がある。
「たぶん、これ!」
僕はそれを上の箱の穴に差し込む。
「セイちゃん。これ、引っ張ってみて。」
「了解!任せろ!」
セイちゃんは棒を引っ張った。するとガラガラという音とともに巻き取られたシャッターみたいなものが上から出てきた。
「おお!シャッターっぽいけど真ん中はハシゴなんだな。よし。あたしが行こう。」
セイちゃんはそのシャッターのハシゴみたいな部分を上に進む。そして窓みたいな部分にたどり着いた。
「おーい。鍵穴があるんだけど。」
セイちゃんが上から叫んだ。
「たぶんこれ!」
僕はシャッターを押さえながら鍵をはずした。
「俺が投げる。セイ、投げるぞ!」
コウちゃんはやり投げのようにセイちゃんに向けて鍵を投げた。
「ナイスパス!」
セイちゃんは当然のように片手でキャッチ。目を見張るようなコンビプレーだ。
「これを差し込んで…、開いた!裏から鍵を開けられるかやってみる!」
セイちゃんは窓を開けて中に入っていく。
「セイ!急いでくれ!ダメだったら全員がハシゴを上らないといけないからな!」
ケンちゃんがセイちゃんに聞こえるように叫んだ。でも次の瞬間!
ズドーン!
ガチャリ!
「よし。開いたぞ。みんな入れ。」
ドアが開いてセイちゃんが顔を出した。その前に響いたすごい音はセイちゃんが飛び降りたときのものだろう。
「何も飛び降りなくても…。」
「時間短縮だろ?」
苦笑いのケンちゃんに対してセイちゃんはとぼけたような笑顔だ。
「よし。進もう。」
コウちゃんが中に入っていく。みんなもついていく。
「メイちゃん。行こうか。」
「うん。」
僕たちも次の部屋に入っていく。
あと二部屋。間に合うかな…。




