第79話 ヒントと解き方
「キュウ!僕が悩んでいる間に、手品かパズルに似たやつがあったら教えて。」
ケンちゃんはそう言ってカチャカチャと鍵の束をいじる。鍵の束は針金を十字架の枠にしたような形。真ん中から左右に10センチ、上にも10センチ、下には少し長く20センチくらいに見える。それぞれの方向へ進む二本の針金同士は3センチくらいはなれている。そこに鍵が一本だけワイヤーで繋がっていた。十字架の枠は上の部分が金具で壁に固定されていて取り外すことはできない。ワイヤーは鍵の上の穴を通って輪になっていて、十字架の枠にワイヤーの輪の部分をひっかけて反対側から鍵を輪に通してひっかかっているように見える。でもそれが取れないってことは…。
「ケンちゃん、もしかしてワイヤーの輪より鍵の方が長いの?」
「ああ。そうなんだ。簡単に取れるかと思ったらワイヤーが短くて鍵が引っ掛かって取れないんだよ。」
なるほど。確かにそれは普通にやったら取れない。そして…。
「ケンちゃん。『さよなら鉛筆』『知恵の棒』『推理漫画の24巻』といえば?」
「あっ、そうか!あれかー。」
さすがはケンちゃん。頭に本の内容はしっかり入っていたみたいだ。すぐに手を動かし始めた。
「あの手品と同じなら、まずは…。」
ケンちゃんは鍵を十字架の下まで移動させる。ワイヤーの輪に十字架の枠を通すようにワイヤーを左右に移動させる。そのまま上に持ち上げていくと鍵が枠の中を通れるようになる。鍵を枠の中に通して下にずらすと…。
「よし!取れた!」
ケンちゃんの手には鍵が握られていた。満面の笑みで僕を見た。僕も笑顔でうなずく。
「おー。そうやって取るのかー。」
「すごいね~。解けたケンちゃんも、手品の名前を覚えてたキュウちゃんも~。」
「ワイヤーを切る道具はいらなかったんだな。」
普通に感動するコウちゃんとユウちゃん、あくまで、無理矢理な発想のセイちゃんの言葉。
「じゃあ、次へ進もう。」
ケンちゃんは鍵を回してドアを開けた。
「ケンちゃん、鍵、戻しておくよ。」
ケンちゃんはうなずいて僕に鍵を投げて次の部屋へ進んでいく。僕もさっきのケンちゃんの逆の手順で鍵を十字架につけた。僕の動きをメイちゃんはじっと見たあとノートにさらさらとメモをした。
「メイちゃん、次の部屋に行こう。」
メイちゃんはうなずきながらもノートにまだ何かを書いている。
「え~。」
次の部屋からユウちゃんの声がした。たぶん『何これ~』の意味の『え~』だと思う。よくわからないけど僕も急がないと。
「メイちゃん!つかまって!」
メイちゃんは驚いた顔でうなずき僕の後ろに来て服をぎゅっとつかんだ。
「行くよ。メイちゃん。いい?」
うなずくメイちゃんを見てから歩き出す。次の部屋へ急いだ。
「あー…。確かに『え~』だね。これは。」
僕はそうつぶやいて部屋の中に入った。メイちゃんも僕の横に来て『あっ。』と驚いている。
「このパターンもあるんだね。」
ケンちゃんはふぅーっと息を吐いた。
「うーん。これは…。」
コウちゃんは腕を組んでドアを眺めていた。僕たちの前にある次の部屋へのドア。そこには数えきれないほどのドアノブがドアの隅々に取り付けられていた。ドアノブがないのは上下30センチくらい。あとは右も左もドアノブを回す手が入るくらいの隙間を残してびっしりだった。
「いくつあるのかな~。え~っと10、20…。眠くなる~。」
ユウちゃんはそう言って笑った。
「悩んでも仕方ない。セイ!片っ端からドアノブを回してくれ!」
「おう!了解!」
ケンちゃんの指示でセイちゃんがドアの右側から順にドアノブを回し始めた。ケンちゃんは左側のドアノブを回しながら解決方法を頭の中で探している。
トン、トン。
「キュウちゃん、そろそろ30秒だよ。」
「うん。ありがとう。」
『30秒』は僕とケンちゃんで決めた時間。ケンちゃんがヒントなしで考える時間。ここからは僕も考えてヒントを出す。このドアの場合、僕はなんとなく解き方がわかった気がする。だからそれにちなんだヒントを出した。
「ケンちゃん!選択肢がたくさんある場合その選択肢は?」
「ほとんどフェイク!」
ケンちゃんは僕の問いにすぐに答えた。
「じゃあ選択肢が多いときの解答は?」
「『その選択肢に意味はない。』だろ?」
ケンちゃんはすぐに答えた。そして手を止めた。
「あっ、そっちか!」
ケンちゃんは僕のヒントから解き方を見つけ出した。
「セイ!ドアノブはいいからドアの端を押してみてくれ!」
「わかった。」
セイちゃんはドアの右端を力一杯押した。でもドアは開かない。
「開かないぞ?」
セイちゃんがケンちゃんを見る。ケンちゃんは少し考えて…。
「違う!横じゃない!下だ!ドアノブのない場所を押すんだ!」
「了解!下だな。下、下ー。この辺からー。」
セイちゃんはドアの真ん中でしゃがみこんでドアノブのない部分を押した。
ギィー!
「おお!動いた!簡単に上がったよ!」
セイちゃんが押したドアは奥にゆっくりと上がった。
「なるほど。キュウの本にあった『手品には無駄はない。もし無駄なところがあったら、それは意図的に無駄なことをしている。無駄なことをしなければならない状態である。』という言葉の意味だ。」
ケンちゃんは次の部屋へ入っていく。みんなもついていく。
「なあ、キュウ?あんたはどこで気づいたんだ?今のドア。」
僕の横に来てセイちゃんが聞いた。
「さっきケンちゃんが言ったとおりだよ。ドアの下の方にドアノブがないのはなんでかって考えた。あとはあのドアノブの数を全部調べるのは大変だから、それ以外の方法も考えたんだ。」
「ドアノブで開く可能性は考えないのか?」
セイちゃんは不思議そうに僕を見た。
「それはケンちゃんが先にやるってわかってたから。実際にセイちゃんにそう指示を出したでしょ?ケンちゃんは可能性を先に潰していくタイプ。だから僕は最初からありえそうな方法を考えなくてよかったんだよ。」
「なるほど。あんたにケンがさっき言ってたことか。」
セイちゃんは納得したらしく笑顔で次の部屋へ進んでいった。
「でも、見ただけで解き方を思い付くなんてやっぱりすごいね。キュウちゃんは。」
僕の肩をトントンとたたいてメイちゃんはそう口を動かした。
「そうかな。ありがとう。メイちゃん。」
メイちゃんはニコッと笑った。
「次の部屋に急ごう。」
あと五部屋。なんとかクリアしたい。
僕は期待と不安で一杯の心を抑えながらもメイちゃんと次の部屋へ向かった。




