第78話 前半のドア。
「よし。そろそろ時間だ。行くぞ。」
コウちゃんが立ち上がった。
「は~い。休憩終了~。頑張りましょ~う。」
ユウちゃんは体をぐーっと伸ばす。
「おい。ケン。行くってさ。」
セイちゃんがケンちゃんの肩をポンっと叩く。ケンちゃんは本から顔をあげた。
「あー、見つからない。ここにある本じゃないみたいだ…。」
ケンちゃんは休憩中もずっとドア&キー九番目の部屋の仕掛けのヒントを本の中から探していた。どうやら見つからなかったみたい。
「キュウ。あの部屋についたらヒントよりまず手品の名前を教えて。聞けば思い出せるはずだから。絶対に。」
ケンちゃんの目は真剣だ。僕はうなずく。
「わかってるよ。」
その言葉を聞いてケンちゃんは笑顔になった。
「キュウちゃん。行こうか。」
僕の肩をたたいてメイちゃんがそう口を動かした。メイちゃんはみんなからコップを回収したりノートを用意したりと慌ただしく動いていた。どうやら全部の準備が整ったみたいで僕の横に立ってニコッと笑った。
「よし。全員準備できたみたいだから行くか。」
コウちゃんがドア&キーに向かって歩き出す。みんながついていく。
「キュウ。君が先頭だよ。九番目の部屋までは頼むよ。」
ケンちゃんが振り向いて僕に言った。
「うん。わかってる。頑張るよ。」
僕は返事をすると先頭にたった。ドア&キーの部屋の前に立ち、時間になるのを待つ。失敗したらと思うと緊張する。不安が体から吹き出す。時間になるのを待っているときは一分間でもすごく長く感じる。
トン、トン。
小さな手が僕の肩をたたく。となりを見るとメイちゃんが僕の顔をじっと見ていた。そして口を動かす。
「キュウちゃんなら大丈夫。自信もって。」
やっぱり不安が顔に出ていたみたいだ。僕はメイちゃんを見てうなずく。
「うん。頑張るよ。」
メイちゃんはニコッと笑ってうなずいた。僕はドアの上を見た。タイマーがあと一分。僕は大きく深呼吸。あと30秒、僕は頭の中で前回やったドアを思い出す。
「あと五秒。四、三、二、一。スタート。キュウ!頼むぞ!」
コウちゃんの言葉に押されるように僕はドアを開けた。そういえば前回はタイムアタックだった。今回も九番目の部屋までできるだけ早く行かないと。
「いきます!」
僕は目の前のドアノブをつかむ。
「最初は確か左に…。」
ドアノブを左に回しドアを開ける。メイちゃんがドアを押さえてくれたので僕は次のドアまで走った。
「二番目は、確か…。」
僕はドアノブを右手で一回転、左手で押さえてさらに一回転。手前に引くとドアが開いた。
「よし。次は…。」
次のドアまで走る。ドアノブを回す。左にドアがスライドする。
「キュウ!いいペースだぞ!」
セイちゃんの声が響いた。
「一度解いた場所は時間かけないようにしないとね。」
そう答えながら四番目のドアノブをつかむ。
「これは下から上。」
ドアノブを持って下に動かし、前に押して上に持ち上げる。ドアはスーッと上がっていく。
「あっ、五番目だ。あたし理解してないから隣で見るぞ!」
セイちゃんが僕の左側に来た。右側にはずっとメイちゃんがいる。僕の動きを見ながらもノートに図面を書いている。
「この部屋は、壁の鍵はフェイクでチェーンのトリックだから…。」
左側の壁にかかった鍵は無視して右側のチェーンをつかむ。南京錠を上に移動させるように滑車にかかったチェーンを回す。
「そういえば、これってどうやって取ったんだ?前は確かチェーンを引きちぎったような…。」
それを聞いてみんながクスクスと笑っている。
「なんだ?そう見えたんだぞ?なあ?メイ。」
みんながメイちゃんを見てさらに笑いだした。メイちゃんは前回と同じく『セイちゃんじゃあるまいし。』というページを開いていた。
「さすがはメイだ。完璧なツッコミだよ。」
「あ~、おかしい~。」
「おい!メイ!あんたはまた余計なことを!」
セイちゃんが叫ぶ。
「余計なことを言ったのはセイだろ。キュウ、手を動かしてくれ。」
ケンちゃんは半分笑いながら僕に言った。
「うん。わかってる。セイちゃん、ここを見て。チェーン同士が交差してないでしょ?」
セイちゃんが覗き込む。僕の指差す先にはチェーンが繋がらずにくっついている。
「あっ、ほんとだ!何でここだけ?」
セイちゃんが驚いて僕を見た。
「つまりこの部分だけ磁石なんだよ。だからくっついてるんだよ。それを力一杯引っ張ると…。」
パチーン。
チェーンが外れた。僕はチェーンから鍵を取ってドアの鍵穴に差し込み回す。ガチャリという音がして鍵が開き、ドアを手前に引くと開いた。
「これを戻さないとまずい気がするから…。」
僕は手に持っている鍵をチェーンに戻そうとした。
「それは僕がやるよ。君は次に進んでくれ。」
ケンちゃんが僕から鍵を受け取ってチェーンのところへ走っていく。
「じゃあ先に進むね。」
僕はそう言って次の部屋に入った。ここからは僕は初めての部屋だ。第六の部屋はドア以外には何もない部屋。つまり鍵は必要ないらしい。僕はドアの前に立った。ドアノブを回してもドアは動かない。少し後ろにさがってドア全体を見てみる。
「あれ?」
僕は不自然なところを見つけた。ドアノブはドア全体から見て右側にあるのに、なぜかドアが開く金具も右側にある。普通は逆にあるはず…。さらにドアノブのないドアの左側に不自然なキズが…。
「あー、なるほどね。」
僕はドアノブとドアがつながっている金具を回す。するとドアノブが簡単に取れた。それを左側のキズに合わせて回すとドアノブがくっついた。ドアノブを回して引くと…、ドアは開いた。
「やるなー。さすが!」
「お見事~。」
みんなから歓声がわく。僕は照れながらも次の部屋に急いだ。第七の部屋に入り中を見回す。
「あっ、鍵だ。」
部屋の右の壁に鍵の束がかかっているのを見つけた。鍵の束は理科の実験で使うメスフラスコを絵で描いたみたいな形をしている。細長い部分は金属の板でできていてところどころに穴があり、その穴が壁のフックにかかっている。またその板の横にはギザギザの切り込みが入っている。その板の下には太い針金みたいな金属がフラスコみたいな形を作っている。その針金に鍵がかかっていて数は20個以上はありそうだ。
「これ、ケンちゃんが時間かかったやつだ~。」
ユウちゃんが小さな声で言った。確かコウちゃんの説明も、この部屋はギリギリだったと言ってた。
「えーっと、この束は…。」
僕は鍵の束を壁からはずして上下逆に持ってみた。それを一度壁にかけてみる。
「キュウちゃん、何でまた壁にかけたの?」
メイちゃんが僕の肩をたたいて聞いた。
「うーん。まだわからないけど、壁にかけるだけならこの方がかけやすいし取りやすいと思って。」
僕は少し離れて束を見た。
「あっ、もしかして。」
ドアノブと鍵穴を見ると今までより少し大きい気がする。
「そっか。わかった。」
僕は鍵の束を持ってドアノブの前に立った。
「キュウ、あんたは鍵穴を見ただけでどの鍵で開くかわかるのか?」
セイちゃんが僕に聞いた。僕は鍵の束を横向きにして細い部分を鍵穴に差し込んだ。
「え?えー?まさか…、そうなのか?」
驚くセイちゃんの声が響く中、僕は鍵の束を回す。するとガチャリと音が鳴った。ドアノブを回すとドアは開いた。
「すご~い。早かったね~。気づくの~。」
「ああ。早かった。どこで気づいたんだ?その束が鍵だって。」
ユウちゃんとコウちゃんが驚いて僕に聞いた。すると僕が答える前にケンちゃんが答えた。
「僕が先に解いたから。だろ?」
「うん。そういうこと。さすが。」
僕の答えを聞いてケンちゃんは笑顔でうなずく。
「説明は後にして次の部屋をさっさとクリアしてくれ。そしたら僕の出番だから。」
僕はうなずいて次の部屋に入った。第八の部屋はドア以外には何もない。僕はドアノブをつかんで回す。そして前後左右に動かしてみた。ドアは動かない。
「ということは、」
僕は上下に力を入れてみる。すると下に少し動いた。しかも下というより斜め下に。僕はその方向に力をかけてみた。ドアは向きを変え、横向きになった。
「開いたけど、これは乗り越えないといけないの?」
僕はドアノブに足をかけてドアを乗り越えた。僕の横をセイちゃんとコウちゃんが踏み台なしで乗り越えていく。僕がどくとユウちゃんとケンちゃんが乗り越えていく。最後にメイちゃんが乗り越えた。
「よし。ここからは僕が先頭。」
ケンちゃんがドアに向かって歩き出す。僕にはそれが頼もしく見えた。




