第77話 次回への準備
「やっぱりまだ戻ってないか。」
メイズから出たセイちゃんがあたりを見回す。
「セイちゃんのクリアが早かったからね。それに向こうは時間切れまでやってるはずだし。」
となりのメイちゃんもうなずく。
「見に…、行かない方がいいよな…。」
セイちゃんは止まっているのが嫌みたいだ。
「そうだね。少なくとも僕は行かない方がいいね。それにあと2分くらいだし。」
「そっか。じゃあ座って待つか。」
セイちゃんはパズル台のそばに座ろうとした。するとメイちゃんがリュックからシートを出して敷いた。
「さすがだな。メイは。用意周到…?だな。」
「そうだね。メイちゃんはすごいよ。」
セイちゃんと僕はシートに座った。メイちゃんはリュックから水筒とコップを取り出して僕たちにいつものをついだ。
「あー、うまいなー。」
セイちゃんはビールを飲む酔っぱらいみたいだ。
「うん。おいしいね。」
心からほっとする。そんないつもの味。メイちゃんも座ってゆっくりと自分の分を飲んだ。
「あ~!いいな~。私も飲みた~い!」
突然大きな声が響き、ドア&キーの部屋からユウちゃんが走ってきた。
「お疲れ!早かったな!コウとケンはどうしたんだ?」
セイちゃんがコップをユウちゃんに差し出す。
「今来るよ~。あっ、ほら。出てきた~。」
ユウちゃんの目線の先にコウちゃんとケンちゃんが歩いてきた。
「俺たちの方が遅かったか。ってことはとんでもなく早い時間でクリアしたんだな。セイは。」
「ああ。四分切った。目標は三分だよ。」
コウちゃんとセイちゃんの笑顔の会話とは対照的にケンちゃんは落ち込んでいるように見えた。
「ケンちゃん。どうだったの?」
僕からの問いかけにケンちゃんは顔をあげた。
「九番目の部屋までは行けたんだよ ただ、そこでダメだった。」
「九番目?それってすごい成果だよね?」
ケンちゃんは頭を抱え、次の瞬間大きな声で言った。
「あー、なんだったかなー?確かに見たんだよ。あったんだよ。キュウに借りた本の中にー。」
ケンちゃんは持ってきた自分のリュックの中から僕が貸した本を取り出して勢いよくページをめくる。
「コウちゃん。どんな問題だったの?」
ケンちゃんを横目に見ながら聞くとコウちゃんは腕を組みながら言った。
「あれは…、なんていえばいいかな…?チェーンに鍵が付いてて…。」
「コウちゃん、ストップ!」
ケンちゃんが遮るように叫んだ。
「キュウに聞いたらわかるに決まってるから!今は僕に調べさせて!考えさせて!」
真剣な目でケンちゃんはコウちゃんに告げた。
「ケン。あんたの気持ちもわかるけど、今日はクリアを優先するって言ってなかったか?」
セイちゃんがまるで子供に諭すようにケンちゃんに聞いた。ケンちゃんはセイちゃんをじっと見てからうなずいた。
「うん。わかってる…。ただ…、あと少しで解けそうだったから…。」
ケンちゃんはそう言って動かなくなった。みんなが何も言わなかったので時間が止まったかのように感じた。
「よし!じゃあこういうのはどうだ?」
コウちゃんが笑顔で口を開いた。みんなが注目する。
「次の時間までケンは考える。で、次はみんなでドア&キーに挑戦。あの部屋まではキュウが挑戦して、そこからはケンが挑戦。ケンが解けなかったらキュウがヒントを出す。それでもダメならキュウがクリアする。どうだ?」
「オー!」
みんなから歓声と拍手が起きた。
「さすがコウちゃ~ん。ナイスアイディア~。」
「それでいこう!なあ?ケン!」
「うん。そうしてくれると助かるよ。」
さすがはコウちゃんだ。すごいなー。
僕はそう思いながらコウちゃんを見た。僕が思う理想のリーダーがそこにいた。みんなの考えをまとめ、誰も損をしない方法を提案する。少数派の意見を決して疎かにしない。そんなリーダーがいた。
「よし。じゃあドア&キーはそれで決定。今からはどうする?テレパスかミラーに挑戦するか?」
コウちゃんが笑顔でみんなを見た。みんな考える。
「僕はこのまま次のドア&キーまで休憩した方がいいと思う。」
最初に意見を出したのはやっぱりケンちゃんだ。みんながケンちゃんを見る。ケンちゃんは話を続けた。
「テレパスもミラーもキュウとメイが必要だし、次のドア&キーのスタートまでは七分くらいだからそんなに時間もない。しかもミラーはキュウとメイの負担が大きすぎるから。できれば次のドア&キーをやってからの方がいいと思う。確実にクリアするために。」
パチパチパチ…。
みんなが拍手した。誰もが納得できる意見だった。
「さすがケンちゃ~ん。お見事な意見で~す。」
「いいアイディアだ。」
みんなから誉められてケンちゃんは少し恥ずかしそうだ。
「よし!じゃあ少し休憩!」
コウちゃんはふぅーっと息を吐いた。メイちゃんはコウちゃんとケンちゃんに飲み物を運ぶ。セイちゃんとユウちゃんは笑顔で何か話している。僕はそんなみんなを見ながらジャスミンを飲んだ。
あれ…?何か変…?
「コウちゃん。ちょっと聞きたいんだけど。」
「どうした?」
コウちゃんが僕を見た。
「さっきドア&キーに入った時間から10分経ってない気がするんだけど。気のせい?」
コウちゃんは口を「あっ」と動かした。
「そうだった。七番目の部屋からは時間制限があってな。部屋ごとに最大二分だったんだよ。ケンは五番目まではすごい早さで片付けて、六番目もすぐに解いた。七番目の部屋も時間はかかったけどギリギリで通過、八番目はすぐに通過。で、九番目の部屋が解けなかった。だからこの時間に出てきたってわけだ。」
「なるほど。そうだったんだ。」
時間制限はあるような気がしてたけど、けっこう大変みたいだ。僕が考えているとメイちゃんが隣に座った。僕のコップを見てジャスミンをつぎたした。
「キュウちゃん、あんまり悩むのもよくないよ。それに次でクリアしないといけないわけじゃないんだから。」
メイちゃんは口をゆっくりと動かしてから、ニコッと笑った。
「そうだよね。でも、僕は次でクリアできそうな気がするよ。ケンちゃんがいるから。」
メイちゃんはうなずく。二人でケンちゃんを見た。ケンちゃんは僕たちの視線に気づかずに僕が貸した説明書やノートを必死にチェックしていた。
「頼もしいね。」
メイちゃんが口を動かす。僕はうなずく。
「うん。今までと違って信頼できる友達だから。あと僕はそこまで思ってないけど、ライバルらしいから。」
メイちゃんは驚いた顔で僕を見た。そして笑って口を動かす。
「最強のライバルだね。でもだからこそキュウちゃんもすごいよ。」
「そうなのかな?でも、ライバルにしてくれたケンちゃんのためにも僕も頑張ろうと思う。」
メイちゃんはうなずく。何度も何度もうなずく。
「頑張ってね。キュウちゃん。私、見てるからね。応援するからね。」
メイちゃんは僕の服をつかんでそう口を動かした。
「うん。ありがとう。」
メイちゃんにそう言ってから僕はジャスミンを飲んだ。そしてまた必死にページをめくるケンちゃんを二人でのんびり見ていた。




