第76話 みんなで前進。
「おーい。ずいぶんのんびりだな。」
「遅いから心配したよ~。セイちゃんが転んでみんなを道連れにして落ちたかと思ったよ~。」
螺旋階段を上って二階に上がるとコウちゃんとユウちゃんが手を振っていた。ユウちゃんの明るい声のブラックジョークが響く。
「誰が落ちるか!」
セイちゃんはそう叫ぶとパズル台に走っていった。
「何個できたかな?あの二人。」
ケンちゃんが笑顔で僕に聞いた。
「うーん。半分くらいかな。」
「六個か。たぶんそんなとこだな。」
僕たちはパズル台へ向かった。台の上の完成したパズルは八個。ルービックキューブ、六芒星、僕がメイちゃんに手伝ってもらったダイヤ、ケンちゃんが苦戦したパズルの四つが残っていた。
「すごいね。八個も解いたんだ。」
「予想以上だね。」
僕とケンちゃんは驚きながら言った。
「まあ、俺たちもキュウとケンのやり方を見てたからな。それにキュウの本をけっこう読んだから、なんとなくわかるようになってきたし。」
「そうだね~。キュウちゃんの本には色々書いてあったからね~。」
コウちゃんとユウちゃんが笑う。
「じゃあ、残りを解こう。キュウ、君はどれをやる?」
ケンちゃんが僕を見た。
「ケンちゃんはリベンジでこのパズルとキューブがいいんじゃない?」
僕はケンちゃんに前回苦戦していたパズルとルービックキューブを手渡した。
「そうだな。じゃあ、キュウは残りの二つ。そして競争だ。」
「また?いいけど今回は罰ゲームなしだよね?その二つは説明書読んだんだから。」
僕のその言葉にケンちゃんは「そっか。」とつぶやいた。
「よし。じゃあ罰ゲームはなしで。コウちゃん、合図して。」
「わかった。よーい、スタート!」
ケンちゃんと僕はパズルをスタート。ケンちゃんは苦戦したパズル、僕は六芒星から取りかかった。カチャカチャとお互いのパズルが音をたてる。
ケンちゃん、早い…。確実に前よりも早い。
ケンちゃんを横目に見ながら僕も急ぐ。そしてほぼ同時に完成した。
「二人ともすご~い。」
「やるな!さすがだ!」
みんなから歓声がわいた。僕たちは次のパズルに取りかかった。僕は自分のパズルを解きながらもケンちゃんのルービックキューブを解く音を聞いた。
迷ってない…。急がないともう…。
僕の手がパズルを回転させパーツを一つはめる。次のパーツを取ってパズルを回転、そしてはめた。
これで最後…。
僕が最後のパーツのはまる場所を探し始めたとき、カチャッという音がしてケンちゃんの手が止まった。
「よし。僕の勝ち!」
ケンちゃんがそう言ってキューブを台に置いた。
「すご~い。ケンちゃん。やったね~。キュウちゃんに勝ったね~。」
「おお!やったな!ケン!あたしが見込んだだけのことはある!」
ユウちゃんとセイちゃんはケンちゃんの背中をバシーンと叩いた。
「痛いよ!二人とも。」
ケンちゃんは叫んだ。でも笑顔は変わらない。これ以上ないほどうれしそうだ。
「さすがだね。やっぱりケンちゃんはすごい。」
僕はそう言いながらパズルを完成させた。
「キュウ、君のおかげだよ。少し自信がついたよ。」
ケンちゃんはそう言って笑った。
「よし!じゃあ、ケンたちはドア&キーに行ってこい!あたしたちはメイズでタイムアタックをしてくるから。」
セイちゃんが笑顔で叫んだ。
「そうだな!じゃあ行こう!ケン!ユウ!」
「は~い。ケンちゃん。行くよ~。」
コウちゃんとユウちゃんが笑顔で見た。
「うん。わかった。」
ケンちゃんは笑顔でドア&キーの部屋を開けるパズルをはめるとコウちゃんたちのところへ走っていく。
「ケンちゃん。頑張ってね。」
僕が手を振るとケンちゃんも笑顔で手を振り返してくれた。そしてみんながドア&キーに入っていった。
「キュウ。あたしたちも行こう。」
セイちゃんが僕の肩をたたいた。
「うん。行こうか。」
僕はパズルをはめてドアを開けてメイズに向かった。となりを歩くメイちゃんが僕の肩をトントンとたたく。
「キュウちゃん、負けたのくやしい?」
メイちゃんは僕をじっと見ながら聞いた。
「うーん。今まで負けることが多くてなれてるから…。そこまでくやしくはないかな。少しはくやしいけど。」
「そうなんだ。」
メイちゃんはそう口を動かした。
「おーい。二人とも!さっさと行くぞ!」
メイズの入り口でセイちゃんが僕たちを呼んだ。僕とメイちゃんは早足で向かう。
「よし。入ろう。ところで時間は誰が見るんだ?」
セイちゃんがドアを開けながら聞く。
「セイちゃんが走って僕たちが入り口のそばでセイちゃんがゴールに着くのを見てるよ。時間も僕たちではかるよ。」
「了解!」
セイちゃんはどんどん廊下を進み、二つ目のドアを開けた。目の前にメイズが広がる。
「よし。メイは図面をくれ!キュウは時間を計る準備を頼む!」
セイちゃんは準備運動をしながら僕たちに指示を出す。メイちゃんは図面をセイちゃんに渡してから僕のとなりに来た。メイちゃんの時計はタイマー機能もあるらしく、僕は何も準備をすることはなかった。
「セイちゃん。いくよー。」
「おう!準備オッケー!」
「じゃあ、よーい、ドン!」
僕のその合図でセイちゃんは鉄砲玉のように階段をかけ下りてメイズに消えていった。僕とメイちゃんは階段に座ってセイちゃんが出てくるのを待つ。
「どれくらいで出てくるかな?」
メイちゃんに聞く。
「三分くらいでいけるかもね。」
メイちゃんは笑顔で口を動かした。僕たちは同じ時計を見ているから自然と距離は近い。少し顔を傾けたらメイちゃんにぶつかるくらい…。
「メイちゃんがとなりにいると心が穏やかになるなー。」
心の中で言ったつもりが口に出してしまった。メイちゃんが驚いた顔で僕を見た。
「あっ、ごめん。口に出しちゃった。でも、本当にそう思うよ。マイナスの気持ちもメイちゃんがそばにいてくれるおかげで抑えられてる気がするから。」
メイちゃんは恥ずかしそうにうつむいた。時計をしていない右手で僕の手に文字を書く。
「私も同じだよ。キュウちゃんのおかげ。ありがとう。」
「僕の方こそ。いつもありがとう。」
僕はメイちゃんを見た。メイちゃんも僕を見た。目があった。ドキドキする。顔が熱くなる。
「ゴール!タイムは?」
突然セイちゃんの声が響いた。僕は慌てて時計を見る。メイちゃんはすでに時間を指差していた。
「3分45秒。すごいよ。セイちゃん。」
僕が叫ぶとセイちゃんは嬉しそうに手を振った。スタートとゴールを繋ぐ橋がゆっくりと降りてきた。セイちゃんはそれを走って渡った。
「いやー、四分切れてよかった。三分は切れなかったなー。」
セイちゃんにはまだ余裕があるように思えた。
「あと何回か挑戦したらたぶん三分切れるよ。」
「ああ。絶対切ってやる。」
セイちゃんは笑った。
「よし、じゃあ戻ろう。あいつらはまだ出てきてないだろうけど。」
「うん。そうだね。」
僕たちはメイズの出口へ向かって歩き出した。
「キュウ、あたしもレベルアップできてるか?」
セイちゃんが歩きながら僕に聞いた。僕はうなずく。
「みんなレベルアップしてるよ。セイちゃんも僕たちも。」
となりを見るとメイちゃんも笑顔でうなずいた。
「そっか。それならいいんだ。」
セイちゃんの嬉しそうな声が廊下いっぱいに響いた。




