第70話 早朝に畑で。
「キュウ。間に合うか?家は知ってるから先に行ってもいいよ。」
「大丈夫だよ。まだ五時前だから。」
ケンちゃんと僕は自転車で走る。町を抜けて左右に畑が広がる道を進む。朝五時前だから当然少し肌寒い。僕は昨日ケンちゃんの家に行った格好。ケンちゃんは汚れてもいいようにジャージの上下とその上に軽く一枚羽織っている。
「キュウ。あの家だよな?君の家。」
ケンちゃんが指差す先に家が見えてきた。
「うん。あれ。よかった。まだ誰も来てないみたい。」
僕の言葉にケンちゃんは不思議そうな顔をした。
「こんな朝早くに誰か来るのか?」
僕はうなずく。
「昨日帰りに『明日も行くから』ってメイちゃんに宣言されたから。メイちゃんは来ると思う。あとそれにつられて…」
「セイも来るのか?どうしよう。ぶん殴られそうだ…。帰ろうかな…。」
ケンちゃんは不安そうな顔をした。が、次の瞬間!
「もうおせーよ!ばーか!」
バチーン!!
僕たちを後ろから高速の物体が追い抜いた。そして追い抜く瞬間にものすごい音が響いた。ケンちゃんの顔が一瞬で歪む。その物体は僕の家の前で止まった。
「よう!おはよう!」
セイちゃんだ。笑顔で手をあげている。
「ようじゃないだろ!おはようじゃないだろ!まったく朝から…。」
ケンちゃんは苦笑いでセイちゃんの横に自転車を停めた。
「ははは。わるい。朝だから力が有り余っててな。」
「その有り余った力を僕に向けるなよ。朝からリタイアする気はないんだから。」
二人は笑顔で会話している。僕はそれを見てほっとした。でもあることに気づいて辺りを見回す。
「セイちゃん。メイちゃんは?一緒じゃなかったの?」
自転車を停めながらセイちゃんに聞いた。
「ああ。メイなら中にいるんじゃないか?あたしが起きたときにはもう家にいなかったから。」
「え…?えー?」
驚きすぎて開いた口が塞がらない。いったい何時に起きたら僕たちより先にここに来れるのか…。僕は畑に急いだ。ハウスを覗いてみるが誰もいない。野菜を収穫した形跡もない。
ハウスにいないってことは…。
僕はニワトリ小屋を覗いた。そこにはニワトリと仲良く遊ぶメイちゃんの姿があった。ニワトリに何かを話しかけている。ニワトリもうなずいているように見える。
「メイちゃん。おはよう。」
僕の声に気づいてメイちゃんがこっちを見た。
「おはよう。キュウちゃん。」
そう口を動かしてから僕の目の前まで歩いてきた。真剣な顔でじっと僕を見る。
「ど、どうしたの?」
慌てて聞いた僕を見てメイちゃんは笑った。
「キュウちゃんはすごいね。私の思ったとおり。」
そう伝えたかと思うとメイちゃんは集めた卵を持って外へ出ていった。僕もニワトリが脱走しないか確認して外に出た。
「おーい。キュウ。メイはこっちだぞー。」
セイちゃんがハウスの入り口で手を振っている。走ってハウスに向かった。メイちゃんはケンちゃんとトマトを収穫していた。
「ケンちゃんには誰が教えたの?採り方。」
「ああ、あたしが少し教えた。あとはメイのやり方を見ながらやってるな。あいつは器用だから大丈夫だろう。」
僕はメイちゃんとケンちゃんを横目で見ながらピーマンを収穫した。
おばあちゃんの畑に人が増えていく。すごいな…。
気づくとメイちゃんが隣に来てピーマンを採っていた。僕も手を動かす。そしてあっという間に全部片付いてしまった。時間はまだ五時半にもなってない。
「意外と楽しいな。野菜の収穫。」
ケンちゃんがそう言って笑った。
「そうだろ!あたしも昨日やってそう思ったよ。だから今日も来たんだ。」
笑うセイちゃんにメイちゃんはすかさずノートを見せた。
「セイちゃんは昨日はニワトリを逃がしただけでしょ。」
「メイ!余計なことを書くな!ちょっとしたミスだろ?」
「ニワトリも逃がしたのか。犬だけにしろよ。」
ケンちゃんのつっこみも入った。セイちゃんは大ダメージを受けたらしく言葉も出ない。
「あらあら。昨日より早く出てきたのに、もう終わっちゃってるのね。」
見るとおばあちゃんが畑に出てきていた。みんなで『おはようございます。』と声を合わせて言った。
「昨日は急にモトム君を泊めることになってすいませんでした。」
ケンちゃんがおばあちゃんに言った。
「モトムちゃんと仲良くしてくれてありがとう。これからも仲良くしてあげてね。」
「はい。」
そんなおばあちゃんとケンちゃんのやり取りを僕たちは遠くから見ていた。
「みんな。せっかく来たんだからあがってお茶でも飲んでいって。」
「はーい。」
みんなが玄関に向かう。僕もゆっくり向かう。
トン、トン。
メイちゃんが肩をたたいた。メイちゃんを見ると笑ってこっちを見ていた。
「キュウちゃん、私の勝ち、だよね?」
メイちゃんが口を動かす。
「うん。メイちゃんの勝ちだよ。ところでメイちゃんのお願いは何?」
メイちゃんはうつむいて少し悩んでいた。だけどまた顔をあげて笑顔で口を動かした。
「またあとで。」
「メイちゃん。後回しが増えてるよ。忘れないでね。」
メイちゃんはうなずく。二人で家に入った。
「キュウ、メイ。遅いから先に頂いてるぞ。」
セイちゃんは僕たちにそう言いながらお茶を飲んでいる。僕たちも座ってお茶を飲んだ。
「キュウ。そういえば僕が借りれる本とか他にない?せっかく来たんだし借りれるなら借りておきたいんだ。」
ケンちゃんがお茶を飲みながら聞いた。
「あるよ。まだまだたくさん。今からリュックの荷物を置きに二階に行くからついてきて。」
「うん。わかった。」
僕とケンちゃんは二階に向かった。でもケンちゃんの後ろにはセイちゃんとメイちゃんもついてきている。結局みんなで僕の部屋に入った。
「ここに入ってるから。好きなだけ持っていっていいよ。」
僕は押し入れを開けた。そこには手品の本と推理やパズルを題材にした漫画が入っていた。手品の本はこの夏に家からリュックで運んだもの。他のものは読み終わったら休みのときここへ持ってきてはしまいこんでいたからかなりの量がある。
「すごいな。この漫画全部借りていい?漫画ならすぐに読み終わるから。」
「もちろん。ここにある漫画はアメイズで使えそうなものが多いと思うから。読んでほしいよ。」
ケンちゃんは家から持ってきたカバンに漫画をどんどんつめていった。
「キュウ。ケンが読み終わったやつはあたしに貸してくれ。漫画はあたしが読むし、それ以外はあたしの家にあればコウとユウが読めるから。」
セイちゃんも興奮気味だ。
「もちろん。みんなに読んでほしい。そうすれば本に書いてある仕掛けなら必ず誰かが思い出せるから。」
「キュウ。ここで読める本は今読むことにするよ。全部入らないから。」
「じゃあ、あたしも今読む。」
ケンちゃんとセイちゃんは漫画を読み始めた。僕はちらっと時計を見た。5時45分…。朝ご飯までもう少し時間がある。僕はたたんである布団にもたれかかった。
眠くなってきた…。昨日あんまり寝てなかったからな…。
寝るつもりはなかった。ただケンちゃんとの話し合いが上手くいったこともあって僕は一瞬で眠りに落ちていった。




