第6話 自己紹介
「さてと…、じゃあとりあえず自己紹介でもやっとくか!」
僕が落ち着いたのを見て、コウちゃんがそんなことを言った。
「うん。そういえば名前を教えてなかった。」
ケンちゃんがコップに手を伸ばしながら返事をした。
「そうだね~。趣味とか得意なことか、あとはこんな性格で~す。とかかな~?」
ユウちゃんも笑顔でそう答えてから、ケンちゃんのコップに麦茶を注いだ。
「そうだな。あたしは何を言おうかな?得意なこと、得意なこと…。」
お菓子を食べながらセイちゃんはそう言ったあと、何を言おうか悩み始めた。真剣に悩み始めるセイちゃんをみんなが不思議そうに見ている。
たぶんみんな同じこと考えてる気がする。
するとメイちゃんがセイちゃんの肩をトントンとたたき、ノートを見せた。
「そんなに悩まなくてもセイちゃんの性格は言わなくてもみんなわかってるよ。」
それを見てセイちゃん以外の全員が笑いだした。やっぱりみんな同じことを考えていたみたいだ。
「誰も性格について悩んでるとは言ってないだろ!っていうか、さっきも言ったけどそんな一言のためにノートを使うなよ。」
「いや、メイはみんなの意見をまとめてノートに書いてくれたんだから。重要な使い方だぞ。」
コウちゃんはまじめな顔でそう言った。が、耐えられなくなったらしくまた笑いだした。
「ったく。あたしをなんだと思ってんだ!あんたらは!」
セイちゃんはそう言って自分のコップに麦茶を注いで飲んだ。
飲み方が完全に…、
「酔っぱらいみたいだよ。」
「!?」
コウちゃん、ユウちゃん、ケンちゃんの声がきれいにそろった。しかもメイちゃんが今ノートに書いた言葉も全く同じだった。僕も口には出さなかったが同じことを考えていた。
「もう、だめだ~。」
みんな笑い転げている。
「おい!自己紹介!さっさとやろう!さっさと!」
「あ~、笑った。そうだな。さっさとやりましょう。」
セイちゃんの「さっさと!」という言葉にコウちゃんが同意し、ようやく自己紹介が始まることになった。
順番はコウちゃんから時計回り、コウちゃん→ケンちゃん→ユウちゃん→僕→メイちゃん→セイちゃんの順だ。
それにしても…。
僕は部屋をぐるっと見回した。僕の部屋にこんなに人がいるのは初めてだ。ましてここはおばあちゃんの家で、この町は僕が何年かに一度しか来ない町なのに…。
「よし、じゃあ俺からやるぞ。」
コウちゃんが立ち上がった。パチパチパチとみんなが拍手する。
「拍手は必要か?まあ、いいや。三名光慈。12歳。得意なことは…、というより苦手なものがあまりないや。どんなことでも真剣にやればできるようになれると思ってるから。よろしく。あ、呼び方はコウでいいよ。」
みんなが拍手する。
「何か質問はある?」
コウちゃんが聞く?なぜかユウちゃんが手を挙げた。
「は~い。今は何年生ですか~?」
「何でだよ?全員クラスメイトだろ?あ、そうか。小6です…。というわけで次から省略ね。この質問。他は?なければ次の人。」
コウちゃんがそう言って座り、隣のケンちゃんが立ち上がった。
「佐野賢人。スポーツはあまり得意じゃないです。勉強とゲームは好きです。みんなからはケンって呼ばれてます。よろしくお願いします。」
「は~い。何のゲームが得意なんですか~?」
またユウちゃんが質問した。
「何でもやるよ。シミュレーション系が好きかな。テレビゲーム以外でも将棋やチェスもできるよ。以上です。」
「よし。次は私ね~。」
ケンちゃんが座りユウちゃんが立った。
「深見悠希。もうすぐ12歳で~す。勉強、スポーツはそれなりでピアノと料理が趣味。よろしくお願いしま~す。」
「確かにユウは料理得意だよな。よくお菓子とか作るし。あたしもよくもらうけど美味しいしな。」
「セイちゃん、言い回しが男の子っぽいよ~。いつから私の彼氏になったの~?」
「何でだよ。どこが男っぽいんだよ!」
「今の言い方も含めて全部~。かっこよすぎるよ~。」
二人を見てみんなが笑った。確かに言い回しならセイちゃんは完全に男だと思う。
「はい。じゃあ次~。今日の主役で~す。拍手~。」
ユウちゃんが座りながらそう言うとみんなが拍手した。僕は立ち上がってみんなを見た。当たり前だけどみんなが僕を笑顔で見ている。かなり恥ずかしい。
「名園求です。小6で12歳です。勉強もスポーツもあまり得意じゃないです…。え~と、パズルや知恵の輪を解くのが好きなのと、あとクイズや推理小説の本をよく読みます…。」
「おお~。パズルは何歳からやってるのですか~?何種類くらいやってるのでしょうか~?」
ユウちゃんがすごい早さで質問してきた。
「9歳くらいからやってます…。20種類は解いていると思います…。」
「すげーな。あとは?パズルとクイズ以外に好きなものは?」
コウちゃんの質問がとんできた。
「少し前から手品の本も読んでます…。まだ全然できないけど…。」
「まじで?それはさっき言っておくべきだぞ!なになに?トランプが変わるとか?お金が増えるとか?空を飛ぶとか?」
セイちゃんの質問が、というより興味がすごい。
「まだそんなにできないから…。始めたばっかりだし…。」
僕は小さく答えた。すると僕の足に何かが当たった。見るとメイちゃんがボールペンで僕をつついている。そしてノートを僕に見せた。
「何かみたい!何でもいいから!」
「え?でも…。」
「お?あたしへのツッコミ以外は自己主張しないメイからのリクエストだ。これはやらないとな!拍手~!」
セイちゃんがそう言って拍手をした。みんなも一緒に拍手。やらなきゃいけない空気になった。メイちゃんの方をチラッと見ると、「大丈夫。頑張って。」のページを開いていた。
「うん…。じゃあこの前覚えたのを…。メイちゃんボールペンって持ってる?キャップのあるやつ。」
メイちゃんはリュックからペンケースを取り出した。そして黒のボールペンを僕に渡した。
「じゃあいくよ。」
みんなから見える僕の動きは、まずボールペンのキャップを外し、ボールペンを左手で持ちポケットにしまう。次にキャップを左手でみんなに見えるように持ちそれを右手に移す。右手に息を吹きかけると…、
「あっ、キャップがコインに変わった!何でだ?」
「お~。すご~い。」
セイちゃんは僕がびっくりするほど驚いている。他のみんなも驚いてくれている。
僕は右手のコインを親指と人差し指と中指でつまみ左手でそれをこするような動きをする。そうすると…、
「あっ、キャップに戻った!」
セイちゃんの反応がおもしろい。
左手でポケットからボールペンを取り出し、キャップを握った右手を叩く動きをする。
「1、2、3!」
右手を開くとキャップはある。でも…、
「左手のボールペンがないぞ!どこやった?」
「実は左の耳に…。」
「なんだ。挟んでたのか~。」
「うん。じゃあ今度はちゃんと消すね。」
僕はボールペンを持ち、もう一度右手を叩く。そして手を開くと、
「あれ。消えた!」
「そしてボールペンも…。」
僕がボールペンを空中に投げる動きをすると、
「あ、ボールペンも消えた。だめだ。訳がわからない。」
「以上で終わります。ありがとうございました。メイちゃんボールペンありがとう。」
メイちゃんにボールペンを返すと、みんなから拍手が起きた。
「十分すぎる特技だぞ!びっくりしすぎて疲れたぞ。あたしは。」
うん。セイちゃんは驚きすぎてたと思う…。
「ああ。すげーよ。前半はともかく、後半はさっぱりだった!」
「うん。すごかった。僕も後半はわからなかった。たぶんペンを耳にはさんだのに理由があるんだとおもうけど。」
コウちゃんは前半はわかったらしい。ケンちゃんは後半も何となくはわかってるみたい…。
「でもすごかったよ~!お見事でした~!」
ユウちゃんの盛り上がげ方も見事だと思う。
僕は座りながら横を見ると、メイちゃんがノートを開いていた。
「すごかった!!!かっこよかったよ!!!」
「ありがとう。かっこいいって初めて言われたよ。」
めいちゃんはニコッと笑って立ち上がった。そしてノートの自己紹介を書いたページをみんなに見せた。
「星明です。11歳です。音楽と美術が好きです。よろしくお願いします。」
「おお~。好きなことが増えたね~。前は名前と年だけだったのに~。すごいすごい。」
ユウちゃんが拍手しながら言った。
「メイちゃんは謎が多すぎるから。一つ謎が解けてよかったよ。」
ケンちゃんのその言葉にメイちゃんの笑顔もみんなの笑顔も少し曇った気がした。気のせいかな…?
メイちゃんがこっちをチラッと見てノートを見せた。
「何か質問ありますか?」
質問も疑問もたくさんあるけど、何を聞いていいかわからない。だからリクエストをしてみた。
「首にかけてる笛で何か吹いてみてほしい…。あ、できればでいいんだけど…。」
メイちゃんが驚いたような困ったような顔をした。
「ごめん。ちょっと気になっただけだから。つい。ごめん…。」
僕が戸惑っているとメイちゃんがこっちを見てニコッと笑った。
「うん。いいよ。」
ノートにそう書いたメイちゃんは手に持っていた鉛筆とノートを下に置いた。そして首にかけてた笛を取り、みんなに笑顔で一礼した。みんな驚いて拍手もせず注目している。
メイちゃんは笛を構え、そして演奏を始めた。 昔の映画のオープニングに使われた曲。上手すぎて声も出ない。少なくとも小学生のレベルではない。言葉で表現できないほどきれいなメロディ。体を突き抜けて心をゆさぶるような音楽。感動していたら、いつのまにか曲が終わっていた。メイちゃんが笑顔で一礼する。その姿を見て、みんな我に返ったように拍手した。
「おおー。すげー。鳥肌がたったよ。」
「え~。スゴすぎる~。びっくりしたよ~。今度はぜひ一緒に演奏しようよ~。」
コウちゃんとユウちゃんが拍手しながら言った。僕は感想さえ口にできないでいる。
ケンちゃんもそんな感じにみえる。でも不思議なことにセイちゃんだけホッとしたように笑っている。もっと僕の時みたいに感動するのかと思っていた。
「どうだった?」
メイちゃんが座ってからノートにそう書いて僕に見せた。
「すごかったよ。びっくりしたよ。かっこよかったよ。」
僕の口から出た感想は驚きすぎたせいで、外国人が話す片言の日本語みたいだった。
「ありがとう。」
メイちゃんがそんな僕の言葉を聞いてノートにそう書いた。
「よし。最後はあたしだな!」
感動の空気を消し去るようにセイちゃんが立ち上がる。みんな驚いている。僕も驚いた。
「夏木清華、11歳!好きなことは…」
「よし、そろそろ行くか!」
セイちゃんの自己紹介の途中で、いきなりコウちゃんが割って入った。
「何でだよ!あたしまだ名前と歳しか言ってないぞ!」
セイちゃんがびっくりしてコウちゃんに詰め寄った。
「いや、もう3時だから。片付けて出発しないと。」
「だからあたしの自己紹介は?あたしに聞きたいこととかは?」
冷静に答えるコウちゃんにセイちゃんはさらに興奮する。
「大丈夫だ。セイ。お前ほど見たままなヤツはなかなかいないから。説明は不要だ。」
コウちゃんのその言葉にみんなが笑う。
「待て!お前が決めつけてるだけかもしれないだろ?よし、わかった。それならキュウに聞いてみよう。キュウが見た私のイメージと私が同じなら認めよう。」
キュウ?誰のこと?いきなり知らない名前が出てきた…。でも話の流れからおそらく僕なんだろう…。一応確認しておかないと…。
「ねえ、キュウって僕のこと?でいいんだよね?」
「ああ、そうそう。もうあたしの頭の中ではキュウで登録しちゃったから。いや、それはおいといて…。ずばり私のイメージは?」
セイちゃんは真剣だ。だから僕もイメージを正しく言葉にした。
「得意なことはスポーツ、勉強…っていうより頭を使うのと座ってるのが苦手そう。嘘とか言い訳とかは嫌いっぽい…。と思います…。」
「おい!失礼なほど当たってるぞ!何でだ?あたしってそんなに頭悪そうなの?」
当たったらしい…。
「頭で考えるより体が勝手に動くタイプ、本能で行動するタイプに見えるよ…。」
「う~…。否定できない。くそ~。自己紹介不要って…。そんなに単純なのか?」
セイちゃんがブツブツと呪文のように何か言っている…。
「セイ。見たまんまだったんだからよかっただろ?よし、後片付けして出発!」
コウちゃんの合図でみんな動き始める。ゴミを片付けたり、食器やコップをまとめたり…。
「あっ、そうだ!」
コウちゃんが何かを思い出したのか急に大きな声を出した。みんな動きを止めた。コウちゃんは僕の方を見て言った。
「お前のあだ名、キュウでいいか?セイだけじゃなく、みんなお前の名前はキュウだと思ってたから。ダメか?」
みんなが僕を見ている。僕は笑って答えた。
「うん。いいよ。みんなが呼んでくれるなら。キュウでいいよ。」
「よし、よろしく。キュウ。」
「うん。よろしく。コウちゃん。」
みんな笑っている。僕も笑っている。あだ名で呼ばれるのはうれしい。仲間として認められた気がした。
「私も握手~。よろしく~。キュウちゃん。」
「こちらこそよろしく。ユウちゃん。」
コウちゃんに続いてユウちゃんと握手。見るとケンちゃんが後ろに並んでいた。
「僕も。よろしく。キュウ。一緒に頑張ろう。」
「うん。頑張ろう。よろしくケンちゃん。」
ケンちゃんの後ろにメイちゃんが並んでいたがいきなりセイちゃんが割り込んできた感じになった。
「あたしも。よろしくな。キュウ!」
「う、うん。よろしくお願いします。セ、セイカサマ…。」
「何でだー!何で私だけ敬語?なんで私だけ様付き?」
「いや、なんか怖いっていうか勢いに押された感じで…。」
全員大爆笑。コウちゃんは笑いすぎて転がっている。
「あたしのイメージって…。わかった!あたしからの命令だ!様付けるの禁止!あと敬語も禁止!いいか!」
「セイちゃん対等の関係を命令するって面白すぎだよ~。あ~、お腹が痛い。」
「うるさい!ユウは黙ってなさい!わかったか?キュウ!」
「うん。よろしく。セイちゃん。」
「それでいいんだよ。最初からそうしろよ。」
セイちゃんはそう言いながらも笑顔で僕と握手した。セイちゃんはおもしろいキャラだと思う。 セイちゃんとの握手が終わるとセイちゃんの影からメイちゃんが現れた。
「よろしくね。キュウちゃん。」
ノートを見せたあと、ニコッと笑いそっと右手を差し出す。
「うん。よろしくね。メイちゃん。」
僕も笑って握手をする。メイちゃんの首にかけてある笛が光って見える。メイちゃんの顔を見るとすごく優しそうな顔をしていた。
「よし。さっさと片付けして行くぞ!」
コウちゃんの声を聞いて、僕とメイちゃんは握手をやめ片付けを始めた。
僕の手に残るみんなと握手した感覚…。仲間に入れてもらえた証し…。
頑張らなきゃ!
僕は手をグッと握った。みんなの暖かさを感じたこの手を。