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アメイズ  作者: D-magician
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第66話 大丈夫!

「メイちゃん。帰る?」


「うん。帰ろう。」


 僕たちはゆっくりと歩き出した。風が気持ちいい。ただ僕の心の中から不安な気持ちが静かに溢れてきていた。


 ケンちゃんを説得する。やると言ったからにはなんとかしたいけど、僕にできるのかな…?


 溢れ出す不安が顔に出ていたのかもしれない。メイちゃんがリュックから水筒を出した。そして僕にジャスミンを渡す。


「ありがとう。」


 ジャスミンとメイちゃんの優しさが心の不安をを和らげる。ほっとする。


「メイちゃん。僕って顔に出るタイプ?」


 メイちゃんは笑顔でうなずく。


「キュウちゃんは優しいから。嘘をつけないよね。」


 やっぱり。そう思いながらうなずき、そのまま下を向いた。


「うん。嘘をつくのは苦手なのに、本当の気持ちは怖くて言えなかった。今までずっと…。」


「そうなの?」


 メイちゃんは下から覗き込むように僕を見た。


「うん。だからかな…。結局嘘つきになって、怒らせて…。ごめんなさいって…。」


 そう。その結果が僕の謝る癖につながったんだ…。するとメイちゃんが顔をあげた。と思ったら僕の肩に頭をコツンと当てる。僕は顔をあげて横を見た。メイちゃんは勢いよく顔をあげて僕と目を合わせた。


「大丈夫。キュウちゃんはかっこよくなってる。ごめんねを言わなくなってるから。」


「え…?そ、そうかな…?言ってない?」


 メイちゃんは大きくうなずく。


「みんなにきけばわかるよ。大丈夫だよ。」


 メイちゃんは僕の正面に立って僕の肩に手をのせてからそう口を動かした。口の動きがかなり早かったのは興奮しているからなのかな。でもそれでも何を言ってるかわかるのは僕が他のみんなよりメイちゃんと一緒に過ごした結果。逆にメイちゃんも僕のそばにいたことの証。そのメイちゃんが『大丈夫』と言ってくれている。大丈夫な気がしてきた。


「ありがとう。メイちゃんがそう言ってくれたから自信が出てきた。」


 メイちゃんは大きくうなずいてから僕の横にきて歩き始めた。嬉しそうな笑顔。見てると僕も嬉しくなるような笑顔だった。初めて会ったときとは全然違うように見えた。


「メイちゃん。メイちゃんも変わったよ。」


「え?なにが?」


 大きく開いた目で僕を見た。


「初めてテントで会ったときはおとなしそうだった。でも今はかっこいいよ。」


「そ、そう?」


 メイちゃんは驚いた顔で僕を見た。


「そうだよ。『今は』って言ったけど、初めて会ったあの日も僕を助けてくれたよ。パズルの部屋から僕の手を引いて連れ出してくれたよ。あと名前も聞いてくれたし。」


「それならキュウちゃんもパズルを解いたよ。かっこよかったよ。」


「でも僕はあのときは謝ってたでしょ。メイちゃんはあのときからかっこよかった。しかもどんどん話してくれるようになったし。」


「それは…。」


 メイちゃんはそこまで口を動かしてから僕を見た。


「それは?」


「キュウちゃんが聞いてくれたからだよ。私の声を。」


 目が真剣だ。


「そうかな?僕はメイちゃんがそばにいてくれたからだと思うよ。メイちゃんはずっとそばにいて心配したり励ましたりしてくれたから。だから自然とメイちゃんと話せるようになったんだと思うよ。」


「それはキュウちゃんが…。」


 メイちゃんの口が止まった。そしてなかなか動かない。時間が止まったのかと思うほどだった。


「キュウちゃんだからだよ。きっと。」


「え?僕だから?」


 メイちゃんはうなずいてから笑った。


「キュウちゃんだからなの。」


「メイちゃん。その理由は?」


 僕は食い下がってみた。すごく気になる表現だから。


「キュウちゃん。また今度にさせて。今度必ず話すから。お願い。」


 お願いされてしまったらこれ以上聞くことはできない。諦めるしかなかった。


「うん。今度絶対話してね。約束だよ。」


 メイちゃんはうなずく。そして僕の方に小指を差し出した。僕は小指をからめた。


「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます。ゆびきった。」


 口ではそう言ったけど指はきれなかった。メイちゃんがぎゅっと力を込めて指を離さなかったから。メイちゃんは笑った。そしてゆっくり指の力をゆるめたあと僕の横にきて手をつないだ。


「山を下りるまで。」


 メイちゃんは口を動かしてからゆっくり歩きだす。僕も歩く。


「メイちゃんの手、小さいよね。」


 僕は恥ずかしさを紛らわせるためにそう言った。でもメイちゃんが恥ずかしそうにうつむいたので余計に恥ずかしくなった。


「メイちゃん…。」


 手をつなぐのは僕だけなの…?それとも違うの…?つなぐ理由は何…?僕は特別なの…?


 聞きたいことが込み上げてくる。でも聞けない。聞いたらメイちゃんを困らせてしまう気がする。


「どうしたの?」


 メイちゃんが僕を見た。


「え?えーと…。」


 聞きたいけど聞く勇気がない。僕は悩んでいた。するとメイちゃんが手をぎゅっと握る。そして僕を見ながら口を動かした。


「キュウちゃん。ここ、曲がる?」


 メイちゃんが指差す先には階段へ続く道。昨日みたいにまっすぐ行くか、ここを下るかを僕に聞いていた。


「うーん。今日は曲がろうか。」


 メイちゃんはうなずく。二人でハイキングコースを下った。


「メイちゃん。ケンちゃんはちゃんと聞いてくれるかな…。僕の話。」


 メイちゃんは僕を見た。


「大丈夫。ちゃんと聞いてくれるよ。うまくいくよ。」


 メイちゃんはにこっと笑った。


「どうしても不安で…。メイちゃんにそう言ってもらうと落ち着くんだ…。ありがとう。」


 するとメイちゃんは僕の前に回り込んだ。


「キュウちゃん。ケンちゃんとの話、もしうまくいったら私のお願いを一つ聞いて。うまくいかなかったらキュウちゃんのお願いを聞くから。」


「え?お願い?」


 びっくりした。まさかメイちゃんから賭け事の話が飛び出すとは思わなかった。


「うまくいったらメイちゃんのお願いを聞いて、うまくいかなかったら僕のお願いをメイちゃんが聞くの?」


「うん。私はキュウちゃんなら絶対うまくいくって信じてるから。」


 メイちゃんの目が輝く。僕は小さくうなずいた。


「わかった。頑張るよ。」


「うん。頑張って。」


 メイちゃんの賭けの条件だと僕はケンちゃんとの話し合いがうまくいかない方が得に思える。でもメイちゃんやみんなの期待を裏切れるはずもない。そんなことを考えていたら道がハイキングコースから階段に変わった。メイちゃんは手をすっと緩めた。メイちゃんの顔が寂しそうに見える。


「メイちゃん。また二人で歩こうね。」


 メイちゃんはうなずいた。そして笑顔を見せてくれた。広場に着いて自転車に乗る。


「今日も送っていこうか?」


 僕の言葉にメイちゃんは首を横に振った。


「ケンちゃんとの話し合いがあるんだから。頑張ってね。絶対大丈夫だから。」


 メイちゃんは真剣な目で僕を見ながら何度も『大丈夫』と言ってくれた。


「うん。頑張るね。」


 僕はそう答えた。メイちゃんは何度もうなずいた。


「じゃあ、また明日ね。」


 僕はメイちゃんに手を振って自転車をこぎだす。するとメイちゃんが僕の横に来た。


「また明日の朝ね。行くから。」


 メイちゃんはそう口を動かしてから僕の背中をぽんっとたたいた。そして向きを変えて家の方へ走っていった。


 メイちゃんはすごいな。


 そうつぶやきながら僕も家に向かって自転車を走らせた。

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