第62話 作戦と友達。
「コウ。大丈夫か?」
「あー。今になって痛くなってきた。あの人は本当に短気だよな。」
先輩の拳はコウの顔に命中。頬が赤く腫れていた。コウは保健室で冷やしながら笑っていた。
「短気は君もだ。あんな勝負挑まなくてよかったのに。負けたら僕だけじゃなくて君まで…。」
ケンはそこまで言ってしゃがみこんでしまった。コウはケンの肩をぽんっとたたいた。
「俺が勝手に挑んだだけだ。」
「でも、君まで…。君まで責任を取らなくても。」
ケンの目から涙がこぼれた。
「俺が勝手にしたことだ。それよりも聞きたいんだけど、あの先輩の弱点って何だ?」
「そうだよ!ケン。あたしも知りたい。」
ケンは涙をぬぐってから説明を始めた。ケンの説明は解りやすい。そして的確だった。
「なるほどな。そこまでわかってたから止められたんだな。」
「すごいな!ケン。あんたは天才だ!」
「そんなたいしたことじゃないよ。」
ケンは恥ずかしそうに笑った。
「じゃあ、聞かせてくれ。来週勝つにはどうしたらいい?」
コウの目が輝いている。ケンは落ち着いた声で言った。
「まず何人で勝負するのかとメンバーをどうするかを決めないと。そもそも僕と同じチームになってくれる人がいるのかどうか…。」
「わかった。じゃあ俺がそれを先輩と交渉してくる。あとは何が重要なんだ?」
「うーん。とにかくこっちと向こうのチームメンバーを知りたい。できれば三日前までにはほしい。それが決まらないと考えられない。」
「わかった。じゃあ行ってくる。お前らは教室に戻っててくれ。」
「え?おい!コウ!」
あたしが止めるのも聞かずにコウは保健室を出ていってしまった。
「セイ…。彼はすごいね。」
「ああ。普段はまともなんだけど。有言実行タイプだから。」
あたしとケンは二人で教室に戻った。
「おい!何でお前のためにコウがチームを辞めなきゃいけないんだよ!」
教室に入ったあたしたちを待っていたのは非難の嵐だった。コウはクラスの人気者で男子からも女子からも高い評価を得ている。それに比べてケンは転校生で嫌われ者。あたしもこうなることは予想していたけど、ここまでひどいとは思わなかった。
「おい!佐野!なんとか言えよ!」
「そうよ!三名君がかわいそうでしょ!」
男女問わずクラス全員からの非難の声。でもあたしは何だかイライラしてきた。
「おい!お前らちょっと待て!」
あたしの叫び声が教室内に響いた。叫んでたやつらは驚きのあまり言葉を失った。あたしは声をもとの大きさにして話し出した。
「まず男子!お前らはサッカーを一緒にやってたよな?あのときケンは何か悪いことをしてたか?あの先輩のドリブルを止めて味方にパス、これは何か非難されることなのか?」
男子は言葉を失っているみたいだ。
「そして先輩がケンに向かってキレた。これについてはあたしは先輩の意見もわからなくもない。ただ、あの先輩は何に対してキレてたんだ?ケンがまじめにやったことか?それとも前回まじめにやらなかったことか?あたしは先輩がキレてた理由はケンにドリブルを何度も止められたことだと思う。だってもしケンをドリブルで抜いていたらあんなにキレるはずないんだから。違うか?」
反論は出ない。あたしだから出さないのかもしれないけど。
「そして何よりも勝負なんてバカなことを提案したのは誰だ?ケンだったか?違うだろ!コウのバカが提案したんだろ!それに対してあの先輩がバカな要求を突きつけたんだろ!しかもそれをコウのバカが受けたんだ!この流れのどこにケンが関わってる?どこにケンの落ち度がある?言えるやつは言ってくれ!」
全員声も出ない。唯一声をあげたのはケンだった。
「セイ。ありがとう。でも、僕はクラスのみんなの意見もわかってる。彼が僕のために勝負を提案したことも。僕なんかのために彼がチームを辞めるのはおかしいという意見も。僕がいなければこんなことにならなかったんだから。」
全員言葉が出ないらしい。あたしも言葉に詰まった。
「よーし!そこまでだ!全員一度席に戻れ!」
声のする方を見るとコウが立っていた。みんながコウを見る。そして静かに席に戻った。コウはゆっくり歩きと黒板の前に立った。
「えーっと、話はだいたい伝わってるだろうから省くな。まずクラスの中から四人サッカーに出てくれ。」
「その前にどう決まったか説明しろ!」
あたしがコウに怒鳴った。コウはうなずいた。
「そうだな。サッカーは普通の試合と同じ人数。力を平等にするために向こうは四年生と五年生の半々で11人、こっちは三年生と六年生で11人だ。」
「そっか。それなら公平だな。」
あたしがそう言うとコウは大きくうなずいた。
「六年生には話をつけてある。キーパーとフォワード、あとはどこでもできる人を四人頼んでおいた。あとは三年生から五人出すだけだ。みんな!俺とケンを助けるために頼む!」
コウが頭を下げた。ケンがコウの隣に立って一緒に頭を下げた。
「コウちゃん。俺やるよ。」
「俺も。」
次から次へと手があがる。しかも運動神経のいい人ばかり。コウの人望からなのか…。とにかくメンバーは決まった。
「じゃあメンバーは俺が六年生と話して決めるから。みんな、ありがとう。」
コウはもう一度頭を下げた。ケンも頭を下げた。クラスからは拍手が送られた。
放課後、六年生のところに行ったコウが帰ってきた。手には紙が二枚。一つはこっちのチームのメンバー表、もう一つは相手チームのメンバー表だ。
「ケン。とりあえず情報は揃ったぞ。これからどうする?」
ケンは相手チームのメンバー表から四年生を選んで印をつけた。
「相手の五年生メンバーは知ってる人?」
「ああ。みんな同じチームの人だ。」
「それぞれのポジションをまずは教えて。あとはどんな感じの人かも。」
「了解。まずは…、」
コウはそれぞれの人のポジションと特徴、性格も含めてケンに教えた。ケンはノートに情報をメモしていく。
「うん。なんとなくわかった。相手のチームもある意味予想通り。」
「なに?予想通り?むしろ何を予想してたんだ?」
「あの先輩の考えそうなメンバーだってこと。作戦が立てやすい。」
ケンは笑った。あたしにはよくわからないけどどうやら勝てそうらしい。
「次は味方について教えてほしいんだけど。えーっと三名君。」
そう言われてコウはいきなり笑い出した。どうやらつぼに入ったらしい。ぽかーんと見ているあたしたちに気づいてコウはようやく笑うのをやめた。
「ああ。悪い。なんかおかしくって。」
コウはケンの肩に手をぽんっとのせた。
「コウでいいぞ!ケン!」
コウは笑った。それを見てケンはうなずく。
「わかったよ。コウちゃん。じゃあ味方について教えて。」
「ああ。まずは…、」
コウが味方の説明を始めた。ケンは一人一人の情報を細かく聞いてメモを取った。さらに誰が誰よりうまいかなどの情報、誰と誰の相性が良いかなどもメモした。この話し合いだけで下校時間ギリギリまでかかった。
「うん。情報はまとまった。あとは僕がこの人たちの動きを見れるといいんだけど、チームの練習は朝?」
「ああ。朝練はやってる。七時からだ。あと夕方もやるときがある。朝練はバスの関係で来れない人もいるからな。」
「うん。練習風景はこっそり学校の中から見させてもらうよ。」
ケンはまとめたノートをランドセルにしまった。
「よし。じゃあ今日は解散だな。俺もバスに乗らないといけないから。じゃあな!」
コウは手を振ってから廊下を走っていった。
「ふぅ。なんか今日はいろいろ疲れたな。帰ろうぜ。ケン。」
「うん。帰ろう。」
あたしたちは二人で教室を出てゆっくり歩いて帰った。途中でいろんな話をした。ケンは前の学校のことや家のこと、あたしはコウのことやあたしの家のこと。話があまりにも尽きなくてあたしはケンの家のそばまで歩いた。よく考えたらコウ以外の人とこんなにしゃべったことはなかった。
「ケン。あたしは友達でいいか?」
ケンとわかれる前に聞いてみた。
「セイがいいなら。君は僕の嫌いなタイプかと思ったけど、そうじゃないことがわかったから。」
ケンは笑った。あたしも笑った。あたしにとってはコウ以外の初めての本当の友達ができた瞬間だった。




