第53話 メイとあかり
「ケンちゃんはどうしたの?」
みんながお茶を飲みながらのんびりしているので聞いてみた。
「あー。ケンは用があるからって。アメイズには来るって言ってた。」
「そうなんだ…。」
昨日、様子が変じゃなかった…?気のせい?
セイちゃんを見ると少し怖い顔に見える。そして小さな声で「あのバカ。」とつぶやいた。本当につぶやいたのかはわからないけどそう口を動かしていたのは確か。メイちゃんと一緒にいるようになって人の口の動きで何を言ったのかわかるようになったから。
「さて、ケンがいないと進まない会議。何からやろうか?」
コウちゃんがみんなを見た。するとユウちゃんが元気よく手をあげた。
「は~い。メイちゃんのノートを見てクリアできた部屋のおさらいと、できなかった部屋の問題点の確認をしたらいいと思いま~す。」
「おー。それは重要だな。よし。まずはそれをやるか。メイ。ノートを見せてくれ。」
メイちゃんはうなずいてノートをコウちゃんの前に広げた。
「マジか…?スゲー。」
「え?これって…。」
みんなが固まる。僕は何度も見ているからもう驚かないけど。みんなが見ているのはメイちゃんがまとめたアメイズの図面。ページをめくればそれぞれの部屋の広さなどの情報が詳しく書かれている。もはや設計図だ。
「メイ。いつのまに作ったんだ?」
セイちゃんがメイちゃんに聞く。メイちゃんは答えようとしたがノートはみんなの前に広げてある。だから僕の肩をトントンとたたいてから口を指差した。そしてゆっくりと動かす。僕はそれを見てみんなに伝えた。
「『みんなが方法を悩んでいるときや、夜に家で少しずつまとめてたよ。一階はパズルの部屋に苦戦してた時間にまとめてたよ。』だって。」
「そんなことやってたんだ~。気づかなかったよ~。」
図面を真剣に見ながらユウちゃんは驚いている。
「そうか。正直最初の頃はメイはセイの付属品みたいな印象だったからな。その頃からすでに才能を見せてたんだな。俺たちが気づかなかっただけで。何かごめんな。」
コウちゃんは優しくメイちゃんにそう言って頭をさげた。メイちゃんは優しい目でコウちゃんを見て、そして口を動かした。
「『あのときは私も勝手にまとめてただけで、これがみんなの役に立つとは思ってなかったから。むしろセイちゃんについてきてただけの私を迷惑がらないでくれたことの方がうれしかったよ。だからメイズでみんなの役に立てたときは本当にうれしかったんだよ。みんなありがとう。』」
メイちゃんはみんなに深々とおじぎをした。その瞬間、みんなから拍手が起きた。もちろん僕も。
「メイちゃ~ん。感動した~。こんなにかわいくて賢くて素直で優しい子だったなんて~。私は今までの自分の行いを反省してるよ~。」
ユウちゃんはそう言ってメイちゃんに駆け寄って思いっきり抱き締め、両手を握りブンブンと大きく振って握手した。メイちゃんは想像以上のユウちゃんの行動にしばらくされるがままだったけど、最後は笑顔でうなずいていた。
「ああ。今は頼れる仲間だからな。いなくちゃ困るからな。これからも頼むぞ。」
コウちゃんは笑顔でメイちゃんの頭をなでた。メイちゃんはコウちゃんを見上げ、ニコッと笑ってうなずいき手をスッとコウちゃんに差し出した。コウちゃんはその手をぎゅっと握った。固い握手だ。僕は少し離れて三人を見ていた。すると僕の頭にポンッと手がのった。セイちゃんだ。
「キュウ。ありがとな。やっぱりあんたのおかげだ。」
「え?なにが?」
僕はセイちゃんを見上げる。セイちゃんはメイちゃんを指差す。
「あれが『あかり』なんだよ。『メイ』じゃなくて。昔はあんな感じだったんだよ。でも1月にこっちに来たときにはもう『メイ』だったんだよ。それからもずっと。でも今目の前で笑ってるのは『あかり』なんだ。あんたのおかげで少しずつ戻ってきてるんだよ。」
セイちゃんはみんなにばれないように涙をそっとふいた。そして三人を見て笑顔でうなずいている。
そうなんだ。僕の横にいつもいてくれたメイちゃんはみんなの前にいたメイちゃんじゃなかったんだ。
僕はそんなことを考えながらメイちゃんを見ていた。メイちゃんは僕を見て笑顔でうなずいた。僕もうなずいてみせた。
「よし。じゃあ、メイのノートで研究だ。」
コウちゃんがもとの位置に戻る。ユウちゃんもコウちゃんの横に移動する。
「あ~!そういえば昨日ムーヴのストラックアウトの攻略法教えてもらってな~い。それからやろうよ~。」
ユウちゃんはノートを指差して言った。ムーヴのページだ。そこには『攻略法は次のページ』と書いてある。次のページをめくってみると攻略法についての説明が細かく書かれている。
「あっ、そうか。説明を受けてないのはケンとユウだけか。セイ、すぐ出せるか?」
「あいよ。今持ってくる。」
「僕も手伝うよ。ユウちゃんはそのページを読んでイメージしておいて。」
「は~い。」
ユウちゃんの返事を聞きながらセイちゃんを追いかけた。そして物置からストラックアウトの道具を運ぶ。
「ユウちゃん。その説明でわかった?」
「うん。ばっちり~。メイちゃんの説明がわかりやすいから~。」
ストラックアウトをセットするとユウちゃんが歩いてきて練習を始めた。隣にいるコウちゃんが投げ方のアドバイスをしている。コウちゃんは内容が頭に入っているので僕が教える必要はない。僕はメイちゃんの横の椅子に座った。メイちゃんは僕を見てからゆっくりと口を動かした。
「キュウちゃん。ありがとう。」
「僕はなにもしてないよ。」
メイちゃんは僕をジーッと見て、それからみんなの方を見た。みんなはストラックアウトの練習をしている。すると僕の手をメイちゃんがそっと握った。僕はメイちゃんを見る。
「私が私らしくいられるのはキュウちゃんのおかげだよ。」
「そうなの?確かに僕のメイちゃんのイメージは最初とあまり変わらないけど。」
メイちゃんは笑顔でうなずく。
「キュウちゃんの前だと私らしくいられるの。みんなの前だとうまく自分を出せないけど。」
「そうなんだ。でも何で僕の前だと出せるの?」
メイちゃんは少しうつむいた。そして顔をあげて口を開いた。と、思ったら急いで握っていた手をはなし引っ込めた。後ろを見るとみんなが僕たちを見ていた。
「お~い。お二人さ~ん。いい感じなところ悪いけどちょっと来て~。」
ユウちゃんの明るい声が響く。
「メイちゃん。いこうか。」
メイちゃんはうなずく。立ち上がってみんなのところへ歩く。
メイちゃんってどんな声だったんだろう?
僕は歩きながらそんなことを考えていた。




