第52話 自転車でゴー!
「おはようございます。モトム君を迎えに来ました。」
一階で声がした。僕は二階で手品の本を読んでいた。
「モトムちゃん。友達来たよ。」
「うん。もう準備できてる。」
というより一時間以上前からできていた。メイちゃんたちが帰ってから僕とおばあちゃんは朝ごはんを食べた。そしてそれから準備して…。終わったのが七時過ぎ。だからみんなを待つ時間の方が長かった。下に下りるとそこにはコウちゃんがいた。
「おはよう。コウちゃん。他のみんなは?」
「現地集合。俺が途中で寄ることになってたんだよ。」
「そうだったんだ。」
「なんだ?お迎えは俺じゃ不満か?メイに頼むべきだったか?」
「そんなことないよ。セイちゃんみたいなこと言わないでよ。」
コウちゃんは笑った。僕も笑う。
「あら。もしかして三名さんところの?」
おばあちゃんがコウちゃんを見て言った。コウちゃんはうなずく。
「はい。光慈です。」
「あらあら。大きくなったのね。ご家族は元気?」
「はい。みんな元気です。」
コウちゃんとおばあちゃんが話している。知り合いなのかな?
「おばあちゃん。コウちゃんのこと知ってるの?」
「この地区の会長さんで農協の組合長さんの息子さんだから。」
「そうだったの?」
驚いてコウちゃんに聞く。コウちゃんはうなずいた。
「俺の家はそこの道をさらに先に10分ほど自転車で走った先の牧場なんだ。だからキュウのおばあさんとうちの親は年に何回か顔を合わせてる。初めて俺たちが会ったあの日もメイからキュウの名字を聞いた時点でここかな?って予想はしてたんだ。ただ他の可能性もあったから、セイのお母さんに調べてもらったんだ。」
「そうだったんだ。」
初めて知った。まあ当たり前だけど。
「三名さんの家は酪農家で大規模ではないけど儲かってるのよ。みんながコツを教わりに見学に行くほど。」
「へー。」
「いや、まあ父さんたちのことなんで…。あっ、それよりキュウ。時間だ。行くぞ。」
コウちゃんが腕時計を見て言った。流行ってるのかな?メイちゃん以外はみんなしてたような…。
「うん。おばあちゃん。行ってきます。お昼はまた連絡するから。」
「はいはい。いってらっしゃい。コウちゃん。お父さんによろしく。」
「はい。お邪魔しました。」
僕たちは家を出て自転車に乗る。コウちゃんのはスポーツタイプ?とにかくかっこよくて速そうだ。でも後ろには人が乗れるように座席が付いている。初日はここに乗せてもらったのを思い出す。
「キュウ。ちょっと急ぐぞ。ついてこいよ。」
コウちゃんはそう言うと自転車を走らせた。僕も追いかける。コウちゃんの『ちょっと急ぐ』は僕にとっては『死ぬ気で急ぐ』だった。どんなに早くこいでも距離が少しずつ離れていく。僕は必死にペダルをこいだ。コウちゃんは町に入る手前で右に曲がり土手に上がる。僕も上がった。風が気持ちいいと一瞬だけ思った。だけどコウちゃんは土手をどんどん進んでいくから僕は見失わないように全力で追いかけた。
「キュウ。頑張れ。もう少しだ。」
コウちゃんが少しだけスピードを落として僕に言った。
「どこで待ち合わせ?」
「え?ああ。セイの家だけど。」
それを聞いた瞬間、一気に力が抜けた。
「コウちゃん。早く言ってよ…。セイちゃんの家なら知ってるから、もっと自分のペースで走ったのに。」
コウちゃんは僕の横に並んだ。そして僕の顔を見て言った。
「あっ、そうか。そうだな。でもユウのやつが、『少しでも遅れたら好きな人を大声で叫んでもらいま~す。』と言ってたぞ。それでもいいならゆっくり行こう。」
また?昨日のケンちゃんもそうだけど。好きな人?みんないるの?
とりあえず頭の中でいろいろ叫んでみてから僕はコウちゃんを見た。
「コウちゃん。それをもっと早く教えて。そして急ごう。」
僕はスピードアップ。コウちゃんも僕の横を並走する。土手を走るといつもセイちゃんたちの家に向かうときに渡る橋に出た。町の中を抜けなかったので時間を短縮できた気がする。橋を渡って反対の土手へ。一生懸命ペダルをこぐ。セイちゃんたちの家が見えた。土手を下りてそのまま到着。
「コウちゃん。間に合ったの?」
僕は息を切らせながら聞いた。
「ああ。大丈夫だ。」
コウちゃんは答えた。すると奥からメイちゃんが走ってきた。
「キュウちゃん、お疲れさま。大丈夫?」
「うん。なんとか。」
僕はそう答えて自転車を停めた。
「メイ。俺には何もないのか?」
コウちゃんが自転車を停めながらメイちゃんに聞いた。コウちゃんにはメイちゃんが僕に何を言ったかはわからないけど、少なくとも何かを言ったのはわかったみたいだ。するとメイちゃんは首からさげたバインダーのノートを開きスラスラと文字を書いた。
「おはよう。コウちゃんは全然疲れてないね。」
「メイ…。キュウには絶対もっと優しい言葉をかけただろ。」
コウちゃんはメイちゃんの頭をポンッとたたいた。
「わざわざそんなこと言わなくてもいいだろ?コウ。メイはキュウにしかなつかないんだから。」
セイちゃんが笑いながら現れた。手にはコップを二つ。その一つをコウちゃんに渡した。
「おう。ありがとう。あとおはよう。セイ。あれ?キュウの飲み物は?」
「だからキュウの分は責任もってメイが出すからいいんだって。」
二人の会話を聞きながらメイちゃんを見る。メイちゃんは笑顔でうなずいて僕を手招きする。ついていくとそこにはテーブルセット、そしてカップが二つ。
「待ってて。」
メイちゃんは僕にそう伝えてから家に入り、ティーポットを持ってきた。そしてカップにそそぐ。
「どうぞ。飲んで。」
「うん。いただきます。」
僕はイスに座ってその飲み物をゆっくり飲んだ。
「おいしい。いれたて?」
メイちゃんはうなずく。そして僕の隣に座って自分の分を飲んだ。
「なるほど。完全に二人の世界だな。」
僕の後ろからコウちゃんがのぞきこんだ。するとメイちゃんがノートを見せる。
「みんなの座るイスもちゃんと用意したよ。飲み物はセイちゃんがそこから持っていったんだよ。」
「でもキュウにはいれたてのジャスミンなんだろ?」
コウちゃんは笑って反論した。
「コウのもいれたてだぞ!あたしの。」
セイちゃんがコウちゃんに言った。コウちゃんはセイちゃんを見ながらもう一度飲む。
「そうなのか?このほうじ茶。」
「それもジャスミンだよ…。」
不穏な空気が流れた。ジャスミンをほうじ茶に変えたセイちゃんの不思議なお茶のいれ方…。ある意味すごい。
「お~い。おはよ~う。みんな揃ってる~?」
ユウちゃんワールドがスタートした。一瞬で空気を変えた。
「みんなでお茶~?私も飲みたいな~?」
「ユウ。俺のとキュウの、どっちが飲みたい?」
コウちゃんが少し笑いながら聞いた。ユウちゃんは飲み物を見比べてから腕を組んで考えた。
「今はジャスミンじゃなくていいかな~。ちょうだ~い。ほうじ茶~。」
「セイ、リクエストだぞ。」
コウちゃんは笑いをこらえながらセイちゃんに言った。
「ああ…。取ってくるよ。ほうじ茶。」
セイちゃんは家に入っていく。ユウちゃんはコウちゃんが笑ってる理由がわからないみたい。メイちゃんを見ると目があった。
「おいしい?」
僕はうなずく。メイちゃんもうなずく。セイちゃんが戻ってきてユウちゃんにお茶を渡した。ユウちゃんは一口飲んでわかったらしく笑いをこらえている。楽しいお茶会のはずだけど、僕は気がかりなことがあった。僕だけじゃないだろうけど。
何で来てないんだろう?どうしたんだろう?ケンちゃん。




