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アメイズ  作者: D-magician
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第51話 驚きの朝

 コケコッコー!


 僕はいつものように着替えて畑に出た。少し眠い。昨日はあまり眠れなかったから。




「あの子と、メイちゃんと会ったことがある気がする。」


 昨日の夜、おばあちゃんが突然そう言った。僕が階段を上っていく途中で。


「僕とメイちゃんが昔会ったことがある?」


 驚いて僕は階段をかけ下りておばあちゃんに聞いた。


「よく覚えてないんだけど確かあの子だった気がするのよ。気のせいかしらね。」


「おばあちゃん。それっていつ?どこで?」


「確かモトムちゃんが小学校にあがった頃だったと思うけど。場所は役場だったか、公園だったか…。昔のことだからね。」


「そっか…。ありがとう。聞いてみるよ。」


 僕はそう言って二階に上がった。布団を敷いて横になる。そして考える。


 メイちゃんに会ったことが?しかもこの町で?僕もメイちゃんも東京に住んでいる。もし会ったとしたら僕がここに遊びに来ていてメイちゃんもセイちゃんの家に遊びに来ていたとき。そんな可能性があるのかな…?その前に、メイちゃんがいつからセイちゃんの家に住んでるのかもわからない。でもメイちゃんを見ていると、ずっとこっちで暮らしているようには見えないし…。


 頭の中でメイちゃんがぐるぐる回る。知らないことが多すぎる。


 何でセイちゃんの家に住んでいるの?何で家族と一緒に住んでないの?何で笛があんなに上手なの?何であんなに才能があるの?何で才能を隠してたの?何で僕にこんなに優しいの?何で僕をこんなに信じてくれるの?昔本当に僕と会ったことがあるの?


 そしてそんなことよりも気になること。


『何でメイちゃんは話せないの?』


 僕は起き上がり横になりを繰り返していた。目をつぶって寝ようとしても気になって眠れない。また起き上がってみて、やっぱり横になって…。そして気づいたら空は明るくなり、ニワトリは朝が来たことを教えてくれた。




 半分寝ぼけた感じで畑に出ると、もうハウスに誰かいるみたい。中に入るとトマトを収穫している人がぼんやり見えた。


「おはよう。もうトマト採ったんだね。」


 僕はそう言ってかごにナスを入れていく。その人も僕のとなりに来てナスをかごに入れていく。僕はナスをかごに入れながら違和感に気づいた。


 おばあちゃんにしては小さい。おばあちゃんなら『おはよう。』と言ってくれるはず。つまりおばあちゃんじゃない…。じゃあ、今のは誰?


 僕はゆっくりと横を見た。その人はナスを採りながら僕を見てニコッと笑った。そして口を動かした。


「おはよう。キュウちゃん。何か眠そうだね。」


「メ、メイちゃん。何で?」


 僕が驚いて落としてしまったナスをメイちゃんは拾ってかごに入れた。


「もしかして私だって気づいてなかったの?」


 メイちゃんは不思議そうに首をかしげた。頭の上に『?』の文字が浮かんでいる。でも僕の頭の中は『?』の文字でいっぱいだった。


「それはそうだよ。今はまだ五時過ぎだし。畑にはおばあちゃんしかいないはずだよ。メイちゃんがいるなんて完全に予想外だよ。」


 メイちゃんは笑って口を動かした。


「昨日、キュウちゃんのおばあちゃんと約束したの。晴れてる日で私が手伝いに来たい日は来ていいって。」


「き、聞いてないよ。そんなこと。」


 僕はあまりの驚きでまだ心臓が落ち着かない。メイちゃんは僕を見て笑いながらもどんどんナスを収穫していく。僕も息をゆっくり吐いて気持ちを落ち着かせながらナスを収穫した。が…。


「キュウ!ごめん!ニワトリが脱走した!」


 驚きのあまり僕はまたナスを落とした。ニワトリが脱走した事実も驚きだけど、それ以上に驚くことがある。


「セイちゃん。何でここに?」


 セイちゃんは慌てながら答えた。


「メイが行くって言うから朝のトレーニングがてら一緒に来たんだよ。それよりニワトリだよ。ニワトリ。」


 メイちゃんを見ると笑顔でナスを拾っていた。


「うん。わかった。まずはニワトリだね。」


 僕はハウスを出てニワトリ小屋に向かった。小屋の外には確かにニワトリが逃げていた。僕は小屋に入りエサをスコップに入れる。そして外に出てニワトリを呼んだ。


「おーい。エサだよー。こっちだー。」


 ニワトリはエサにつられて小屋に入る。エサ箱にエサを入れてニワトリが全部入ったのを確認して小屋を閉めた。


「さすが飼い主!」


 セイちゃんとメイちゃんがパチパチと拍手する。僕は少し照れてはみたけど…。


「メイちゃんもセイちゃんも、来るなら言ってくれればいいのに。」


「あたしは今朝初めて知ったんだぞ!あたしは悪くない!」


 セイちゃんは反論した。確かにそのとおりだ。


「私はおばあちゃんに言ったよ。おばあちゃんからキュウちゃんに伝わるかと思ったから。」


「う、うん。確かにそのとおりだけど…。」


 僕がそう言うとメイちゃんが目の前に来た。僕の顔をじっと見る。


「来ちゃダメだった?」


 そう口を動かして心配そうな顔をした。僕は首を横に振る。


「違うよ。驚いただけ。こんな朝から会えるとは思わなかっただけ。」


「よかった。」


 メイちゃんは笑った。


「あらあら。もうすっかり終わっちゃったみたいだね。」


 おばあちゃんが家から出てきた。


「うん。終わったみたい。おばあちゃん言ってくれればよかったのに。メイちゃんが来るかもって。」


「あら。言ってなかった?」


 おばあちゃんはそう言ったけど、わざとらしいようにも見える。


「おはようございます。なんかメイがわがまま言ったみたいですいません。」


 セイちゃんがびっくりするほど礼儀正しい挨拶をした。


「あら。夏木さんとこのお嬢さん。いいのよ。畑はやりたい人がやるのが一番なんだから。」


 するとメイちゃんがおばあちゃんの前に走っていった。何か伝えているらしい。おばあちゃんもうなずいたり何か話している。


「あんたの家系はすごいな。メイが何を話してるかわかるなんて。」


 セイちゃんが僕の横に来てそう言った。


「うん。昨日もいつのまにか話してた。でもメイちゃんは口の動きを見てれば何を言ってるかわかるよ。」


「そうなのか…。でもあんたに会って変わったのは事実だよ。よく笑うようになったし自分の意思を示すようになった。今日がいい例だ。あたしよりも早く起きてることだけでも衝撃的なのに、いきなり『キュウちゃんのところに行ってきます。』って言い出すし。」


「うん。そして今ここにいるんだよね。僕にはそれが衝撃的だった。」


 セイちゃんが僕を見下ろす。僕は見上げる。隣にいるとセイちゃんの背の高さが、僕の低さがよくわかる。セイちゃんは笑顔で僕の頭をくしゃくしゃとなでた。


「セイちゃん。今のは何か意味があるの?」


「二日前までは泣き虫だったのに、いい男になったなと思って。『少し』、いや『かなり』か。見直したよ。」


「今も泣き虫だよ。メイちゃんに聞けばわかるよ。」


「でも、あたしには普通に話せてるだろ?敬語とか『様』とかなしで。」


「セイちゃんが禁止したからでしょ?付けていいなら付けるよ?」


 セイちゃんはまた僕の頭をくしゃくしゃにする。そして左手を見た。左手には腕時計。セイちゃんの腕だから普通に見えるけど、僕の腕に付けたらごつくて重そうに見えると思う。


「セイちゃん、腕時計なんて持ってたんだ。」


「ああ。五、六年前に知らないおじさんにもらったんだ。タイマー機能とかいろいろ付いてるから走るときは着けてるんだよ。」


 セイちゃんは僕の顔の前に左手を伸ばして時計を見せてくれた。確かにいろいろな機能があるみたいですごく高そう。そしてあまりに当然のようにセイちゃんが言ったから聞き逃しそうになったけど…。



「待って。知らないおじさんにもらったの?この時計を?それって大丈夫なの?」


「だってくれたんだから。返したくても誰だかわからないし。使わないよりは使った方がいいだろ?」


「まあ、たしかにそうだけど…。」


 セイちゃんはもう一度時計を見た。そして前を見る。視線の先にはメイちゃんがいた。


「メイ!そろそろ帰るぞ!」


 メイちゃんはこっちを見て大きくうなずいた。僕とセイちゃんはメイちゃんのところへ歩いていく。メイちゃんはずっとおばあちゃんと話してたみたいだ。


「朝からすいません。お邪魔しました。」


 セイちゃんがまた驚くほど礼儀正しく挨拶をした。


「いえいえ。こちらこそ楽させてもらっちゃって。メイちゃんには言ったけど、これ。うちの野菜。持ってってね。」


「すいません。こんなに頂いてしまって。」


 セイちゃんは完全に別人だ。とても僕の頭をくしゃくしゃにしてた人と同一人物には見えない。セイちゃんとおばあちゃんのやり取りを見ていると肩をトントンとたたかれた。横を見るとメイちゃんが笑顔で僕を見ていた。


「キュウちゃん。朝から楽しかったよ。ありがとう。」


「僕は何もしてないよ。でも、朝からメイちゃんたちに会えると思わなかったから。僕も楽しかったよ。ありがとう。」


 メイちゃんは満面の笑みだ。たぶん僕もそうだと思う。


「じゃあ、お邪魔しました。行くぞ。メイ。」


 セイちゃんが歩き出す。メイちゃんもついていく。僕とおばあちゃんも見送るために歩いた。家の前に置いてあった自分の自転車に乗って二人は手を振りながら帰っていく。僕とおばあちゃんも手を振って見送る。セイちゃんたちが角を曲がったので僕とおばあちゃんは家に入ろうとした。するとすごい勢いでセイちゃんが戻ってきた。


「どうしたの?セイちゃん。」


「悪い。すっかり忘れてた。っていうかメイが伝えたかと思って。」


 セイちゃんは息を大きく吐いた。そして口を開いた瞬間、メイちゃんが間に滑り込んできた。


「キュウちゃん。今日も時間ある?」


 僕の目の前で目を輝かせてこちらを見ている。そのメイちゃんの肩をセイちゃんがバシンと叩いた。


「メイー。あんたはせっかくあたしが急いで来たのにー。」


 メイちゃんは『痛い』と口を動かした。


「うん。今日も大丈夫だよ。」


 それを聞いたメイちゃんは笑顔でうなずいた。


「よし。9時過ぎに迎えに来るから。待っててくれ。」


 セイちゃんが僕に言った。


「うん。じゃあ待ってるよ。」


「うん。待っててね。」


 メイちゃんが笑顔で口を動かした。


「よし。じゃあまたあとでな!」


 セイちゃんが手を振って自転車を走らせた。


「キュウちゃん。またあとでね。」


 メイちゃんもそう口を動かして笑顔で手を振って走っていく。


「いい子達だねー。」


 手を振る僕におばあちゃんがそう言った。僕はうなずく。


「うん。みんな優しいし思いやりがあるよ。」


「それはよかったねー。」


 おばあちゃんはそう言って笑った。本当に嬉しそうに笑った。


「ところで、キュウちゃん?」


 おばあちゃんはそう言って僕を見た。


「お嫁にもらうならどっち?」


「それは…。っていきなり何を?やめてよ。」


 おばあちゃんは笑いながら家に入っていった。僕は一瞬で熱くなった顔を冷ますために家の前で立ち尽くしていた。

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