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アメイズ  作者: D-magician
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第50話 また明日ね。

「坂を下りてからもけっこう距離あるんだね。」


「そうみたい。いつもセイちゃんの後ろだったから。」


 僕たちはそんなことを話しながら、伝え合いながらゆっくりと歩いていた。坂を下りた先にあった道、ここを行くとパン屋さんなどがあるあの道に続いているとメイちゃんが説明してくれた。ただ僕たちが自転車を停めた広場までなかなか着かない。


「ごめんね。階段を下りた方がよかったね。」


「謝らなくていいよ。僕も行ってみたかったんだから。あの道。」


 メイちゃんはそれでも「ごめんね。」と繰り返している。もっと早く着く予定だったみたいだ。あまりにも謝り続けるメイちゃんに僕はちょっと意地悪な質問をしてみた。

「メイちゃん。さっきの坂道。やっぱり嫌だったの?」


 メイちゃんは驚いた顔で首を横にぶんぶん振った。


「じゃあ家に早く帰りたいの?」


 メイちゃんはまた首を横に振る。


「僕はこの道を選んでよかったと思ってるよ。新しい知らない道を歩けたし、メイちゃんといっぱい話せたし。メイちゃんが手をつないだりして一緒に歩いてくれたし。できるなら、まだ着かないでほしいな。どこまでも続いてほしいなと思うよ。」


 メイちゃんは目を大きくして何度もうなずいた。


「じゃあ、もう謝らないで。もっと話しながら歩こう。」


 メイちゃんはうなずいた。


「キュウちゃん。本当に優しいね。」


「そんなことないよ。思ったことを言っただけ。」


 僕はメイちゃんがようやく笑顔になったのを見てから前を向いた。メイちゃんに何を聞こうか考えようとしたけど、遅かった。すぐそこにある信号のそばには昨日電話を借りた交番。信号の奥にはパン屋も見える。


「着いちゃったね。」


「うん。そうだね。」


 知ってる場所に来るとあとは意外と早い。メイちゃんたちの家がある道の前を通り、パン屋の前を通り…。結局何かを聞くこともできないまま、広場に着いてしまった。メイちゃんが時計を見るともう六時近かった。ずいぶんゆっくり歩いてきたみたいだ。


「暗くなるから帰ろうか。」


 メイちゃんはうなずいて自転車にまたがった。僕も自転車でメイちゃんの横に並ぶ。


「キュウちゃん。今日は一緒にいてくれてありがとう。楽しかった。」


「僕も楽しかった。いっぱい歩いたし、いっぱい話せたし。ありがとう。」


 メイちゃんと目があった。ドキドキする。そして名残惜しい気がする。でもメイちゃんを早く帰らせてあげないと。


「じゃあ、また明日。」


 僕がそう言うとメイちゃんはうなずいた。


「また明日ね。キュウちゃん。」


 そしてお互いに手を振りながら自転車を走らせた。でも僕は少し走ったところで止まって振り返った。


 メイちゃん、大丈夫かな?


 心配になってメイちゃんが自転車をこいで進む姿を見る。やっぱりふらふらしてるように見える。何かあったら大変だ。僕は引き返して急いでメイちゃんを追いかけた。メイちゃんがよっぽどゆっくり走っていたせいか、信号を渡ったところで追い付いた。


「キュウちゃん。どうしたの?」


 メイちゃんが不思議そうに僕を見た。


「メイちゃん。心配だから家まで送るよ。」


「そんな。大丈夫だよ。ちゃんと帰れるよ。」


 メイちゃんは驚いた顔でそう口を動かした。僕はメイちゃんの手をそっとにぎった。そしてメイちゃんの目をじっと見て言った。


「メイちゃん。送らせて。」


「はい。」


 メイちゃんはうなずいた。そして二人でメイちゃんたちの家を目指した。橋を渡り土手を走り…。メイちゃんの横をゆっくりと走った。本当は話をしたいけど、暗くなってきたし危ないし。だからメイちゃんを気遣いながら走った。走ること10分ちょっとで無事に家にたどり着いた。メイちゃんが自転車を停める。するとセイちゃんが走ってきた。


「メイ。遅かったな。」


 そう言ったところで僕に気づいた。


「なんだ。キュウもいたのか。わざわざ送ってくれたのか?」


「うん。ちょっと心配だったのもあって。ごめんね。遅くなっちゃって。少し遠回りしたらこんな時間になっちゃったみたい。」


「遠回り?どこに行ったんだ?」


 セイちゃんは笑って僕に聞いた。


「セイちゃんたちが行った道を歩いて下りたんだ。あの道行ったことないからどうなってるのか知りたかったから。」


「あー、あっちか。自転車だとカーブが少ないから早いんだけどな。歩いたら確かに少し遠回りか。」


 そこまで言ってからセイちゃんは僕の手をつかんだ。


「そうだ。ちょっと来てくれ。」


「え?いいけど。」


 僕は自転車を下りてついていく。メイちゃんも僕の横を歩く。すると見えてきたのはストラックアウトだ。セイちゃんは帰ってきてからまたやってたらしい。


「説明頼む。あたしはやり方を聞いてないから。」


 セイちゃんはボールを持ってそう言った。


「うん。でもその前に電話をかして。おばあちゃんに帰るの七時になるって伝えるから。」


「おう。そうだな。」


 セイちゃんは庭から家の中に向かって「電話とってー。」と叫び、僕はおばあちゃんに電話をかけてそのことを伝えた。そして電話を返してからセイちゃんにムーヴの説明をした。


「なるほど。床のマスで投げる位置を…。そうか。じゃあ、あたしはこれくらいかな?」


 セイちゃんは僕の投げていた位置の倍の距離に移動してボールを投げた。見事に的に命中。そしてあっという間に感覚をつかんでボールを全部の的に当てて見せた。さすがはスポーツ少女だ。


「じゃあ、そろそろ帰るね。」


「おう。悪かったな。時間とらせて。」


 僕は歩いて自転車を置いた場所に戻った。そして自転車にまたがる。すると家の中からメイちゃんが慌てて走ってきた。手にはコップ。たぶん中身は…。


「ありがとう。メイちゃん。いただきます。」


 熱いジャスミンを息で冷ましながらゆっくりと飲んだ。今日一日の疲れが吹き飛ぶとまではいかないけど、すっきりとした気分になれた。


「あら~。やっぱりキュウちゃんだったのね~。メイちゃんが慌ててお湯を沸かしてると思ったら~。」


 セイちゃんのお母さんが出てきた。その後ろにはお父さんも。


「昨日の特訓の成果は出たかな?キュウ君。」


 セイちゃんのお父さんが僕に聞いた。


「はい。おかげさまで。ありがとうございました。」


「こちらこそ、メイちゃんがすっかりお世話になって~。ありがとね~。キュウちゃん。」


 セイちゃんのお母さんが笑った。


「こちらこそメイちゃんのおかげで楽しかったです。」


 そう言ってメイちゃんを見た。恥ずかしそうな笑顔だ。


「メイちゃん、ごちそうさま。今日は一日お世話になりました。楽しかったよ。ありがとう。」


「こちらこそ楽しかったよ。ありがとう。」


 メイちゃんは僕の手をそっとにぎった。


「また明日ね。あと、約束だからね。」


 僕はうなずいてメイちゃんの手をにぎり返す。


「うん。また明日ね。また歩こうね。」


 メイちゃんは笑顔でうなずく。僕も笑顔でうなずく。


「じゃあ。また明日ね。さようなら。」


 僕は自転車を走らせた。メイちゃんとセイちゃんの家族が手を振ってくれている。すごくうれしい。僕は手を振りながら土手を上り、家に向かって自転車を走らせた。町が昨日までと違う町に見えた。




「ただいま。」


「おかえり。モトムちゃん。ご飯の用意しておくから先にお風呂に入っちゃいなさい。」


「はーい。」


 おばあちゃんの家に着いたときにはもう真っ暗だった。僕は言われたとおりにお風呂に入る。足は筋肉痛のようなだるさ、腕はメイちゃんを落とさないように支えた痛み。セイちゃんに習ったマッサージをして、湯船で体を休めた。お風呂から出るとご飯の用意ができていた。食べながらおばあちゃんと話す。話題の中心はメイちゃんと何を話したか。


「メイちゃんは三人兄弟の末っ子。前まで住んでた場所はモトムちゃんと同じ東京だって。」


「そうなんだ。だから畑仕事であんなに喜んでたんだ。」


 おばあちゃんとメイちゃんが話したことはそれだけだったらしい。それでも僕にはメイちゃんについての新たな情報だった。


 メイちゃんも東京に住んでたんだ。もしかしたらどこかで会ったことあったりして。でも何でこっちに住んでいるんだろう?他の家族は?


 メイちゃんの謎は深まるばかりだった。そして寝る直前におばあちゃんに言われたことが原因で僕はその日なかなか寝られなかった。


「おばあちゃんは昔あの子に、メイちゃんに会ったことがあるような気がするのよ。覚えてない?」


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