第48話 ここで解散。
「走れ!急がないと最悪水に飛び込むことになるぞ!」
コウちゃんが叫んだ。コウちゃんを追うように僕とメイちゃん、最後尾にはセイちゃん。みんな必死に螺旋階段をかけ下りていく。
「ユウちゃんとケンちゃんは?」
「あの二人は先に行かせた。今ごろあの橋を渡った先で待ってるはずだよ。」
コウちゃんは走りながらそう答えた。
「順調にクリアしたから余裕あると思ったんだけどなー。第5の部屋から出るときの時間が無駄だったなー。」
セイちゃんはそう言いながら僕とメイちゃんの速さに合わせて走る。僕たちがいなかったらコウちゃんを追い抜けるくらい速く走れるはずだから。
「メイちゃん、大丈夫?辛くない?」
メイちゃんはうなずく。でも目に見えて辛そうだ。
「メイ。階段さえ下りたらあたしがおぶってやるから。下まで頑張れ。」
セイちゃんが後ろから声をかけた。メイちゃんは「頑張る。」と口を動かす。
「うん。頑張って。あと少しだから。」
メイちゃんは僕を見てうなずいた。
「よし。一階だ。廊下が傾き始めてるな。急ごう。」
コウちゃんはそのまま廊下を走る。僕たちも追いかける。でもメイちゃんは限界に見える。
「メイちゃん。3つ数えたらのって。」
メイちゃんはうなずく。
「1、2、3!」
僕はメイちゃんをおぶって走る。もう三回目。呼吸はぴったりだ。
「コウちゃん、セイちゃん。先に渡って。」
「大丈夫か?メイをのせたままで。」
コウちゃんが走りながら聞いた。
「僕とメイちゃんを待ってたら橋を渡れなくなる人がでちゃうから。それよりは二人に橋を渡りきってもらった方がいいはずだよ。」
「了解。セイ!キュウに任せて先に渡りきるぞ。」
「わかった。キュウ。頼んだぞ。」
コウちゃんとセイちゃんがすごい速さで走っていく。
「メイちゃん。このまま渡るから。もしくは跳ぶから。もし落ちたらごめんね。」
メイちゃんは頭を背中にコツンとぶつけた。僕は全力で走る。廊下の先が見えてきた。橋は渡れそうだ。
「メイちゃん。一気に橋を渡るね。」
最後の力を振り絞って…、昨日も振り絞った気がするけど。僕は全力で橋に片足をかけた。すると僕の体重がかかったせいか、橋が動いた。僕は後ろに転びそうになる。だけど後ろに転んだらメイちゃんが水に落ちちゃう。
「キュウ!手を伸ばせ!」
その声で僕は手を伸ばした。僕の手が引っ張られ橋の上に転がるように倒れた。
「危なかったなー。落ちたらどうするつもりだよ。」
セイちゃんが僕の前にしゃがんだ。
「そしたら横向きに倒れてでもメイちゃんだけは水に落ちないようにするつもりだったけど。ありがとう。セイちゃん。」
「まったく。あんたは無茶しすぎだぞ。」
セイちゃんが手を差し出した。僕はつかんで立ち上がる。メイちゃんも僕の背中から下りて立っていた。
「メイちゃん。大丈夫?どこもぶつけたりしてない?」
「うん。ありがとう。キュウちゃん。」
メイちゃんは笑った。
「おーい!急げ!水がくるぞ!」
コウちゃんが僕たちに手を振った。横にはユウちゃんとケンちゃんもいる。
「キュウ、メイ。とりあえずここから脱出だ。走れるか?」
「僕は平気。メイちゃんは?」
「外までなら走れるよ。大丈夫。」
「よし。コウ!あたしらもすぐ行くから先に出てくれ!」
セイちゃんが叫ぶとコウちゃんも手を振って答え走っていった。
「メイちゃん。外まで頑張ろう。」
メイちゃんがうなずくのを見て僕たちは走った。薄暗い廊下を走りドアの外へ。最初はセイちゃん、次がメイちゃん。最後は僕。廊下を走り始めたときはみんな横一列だったから、これがたぶん短距離走の順位。自分の足の遅さがよくわかった。
「お疲れさま~。」
ユウちゃんが紙コップにお茶をいれて持ってきてくれた。
「ありがとう。」
僕は入り口のそばで座りながら受け取った。僕の隣にはメイちゃんが座っていてお茶を飲みながらノートに『ドア&キー』の図面を書いている。あの部屋では何もしていなかったから、思い出しながら書いているはず。それなのに図面は恐ろしく正確。ドアの大きさ、ドアノブの位置や部屋の広さ、第5の部屋に至っては鍵の束からチェーンと南京錠まで全てを絵と文字でわかりやすくまとめている。
メイちゃん。そんなに頑張ったら歩いて帰れなくなるよ。
僕は口から出そうになったその言葉を飲み込んだ。メイちゃんは始めたら最後までやってしまいたいだろうから。
「そういえば、『ドア&キー』はどこまでいけたんだ?さっき第5まで行ったって言ってたけど。」
コウちゃんが僕に聞いた。
「時間がないから第5をクリアして引き返したよ。」
「え~!第5もクリアできたの~?あの時間で~?」
ユウちゃんがびっくりするような声を出した。びっくりしたユウちゃんの声にみんながびっくりしている。集中モードのメイちゃんが手を止めるほどだ。
「さすがだな。時間があったらまだまだ行けたのか?」
「やってみないとわからないかな。ただ今回はみんなが先に入ってたからやり易かったんだと思うから。」
コウちゃんの質問に僕がそう答えた。
「それは僕たちが先に入って失敗したからうまくいったってことか?」
いきなりケンちゃんが僕に聞いた。声がとがっている。
「失敗したからうまくいったなんて言ってないよ。ただ『みんなが先に第5まで行った』ということと、『僕の分野』って教えてくれてたから。」
「だからその意味は?」
ケンちゃんはさらに言葉を尖らせる。かなり怖い。でも聞かれたことには答えないと…。
「まずみんなが第5の部屋まで行ったってことは、そこまではそれほど『僕の分野』ではなかったんだと思った。みんながドアをいじるとは考えにくいからたぶんドアノブを回すのはコウちゃんかケンちゃん。コウちゃんはわからないけど、ケンちゃんは絶対に消去法でやったはず。それでも第5の部屋につくまでかなりかかったってみんなは言ってた。だから僕は最初から引っかけ問題だと思って解き始めたんだよ。」
「なるほど。ケンが先に入ったからこそ正攻法を最初から捨てることができてたってことだな。」
僕の言葉にコウちゃんは納得したらしい。
「そうか。僕が先だったからか…。でも…。」
ケンちゃんは下を向いたままだ。
「よし。どうする?とりあえず下へ行くか。」
「そうだね~。とりあえず下りましょうか~。」
コウちゃんとユウちゃんが山から下りる話をし始めたときケンちゃんが顔をあげた。
「あー、僕は今日は帰るよ。家でやることがあるから。」
ケンちゃんがそう言って立ち上がる。
「そうなのか。じゃあ今日はここで解散にするか。ケンはそっちから帰った方が早いし、俺はこっちの方が早いから。ユウとセイはどっちから下りるんだ?」
「私はコウちゃんと同じで~。セイちゃんは~?」
「あたしはケンの行く道の方が近いな。」
みんながそれぞれ自転車にまたがった。
「じゃあ、今日はここで解散!また明日な!行くぞ。ユウ。」
「は~い。みんな~。また明日ね~。」
コウちゃんとユウちゃんが手を振って左の方向、役場や体育館がある方へ走っていく。
「じゃあ僕も帰るよ。」
「お、おい。ケン。」
ケンちゃんは振り向かずにただ手を振って右側に走っていった。




