第44話 結果と反省。
「遅かったな。大丈夫だったか?」
「本当だよ。心配させやがって。迎えに行こうかと思ったところだ。」
コウちゃんとセイちゃんの声に出迎えられた。みんなはパズル台のそばでお茶を飲んでいた。
「ごめん。そんなに遅かった?」
「僕たちが出てきてから3分くらいかな。メイズは入った時点でもうタイマーが動いてたはずだから普通なら僕たちよりも早く出てくるはずだろ?」
ケンちゃんがそう言ってからお茶を飲んだ。理論が正しすぎて反論の余地もない。
「私が疲れちゃってキュウちゃんに運んでもらったの。だから時間がかかったの。」
メイちゃんが僕をかばうようにノートを持ってケンちゃんの前に立ちはだかった。
「そうなのか。それはお疲れさま。図面は完成したの?」
メイちゃんはうなずいてケンちゃんにノートを見せた。完成したメイズの図面だ。
「さすがだね。これでメイズはもう完璧にクリアできるね。」
「お~。すご~い。これで私でもクリアできるよ~。」
ケンちゃんの横からユウちゃんが顔を出した。図面を見てうなずいている。
「これがあればあたしかコウが走ればすぐ終わりそうだな。なあ?コウ。」
「だな。ケンやキュウたちの手をわずらわせる必要はないな。」
セイちゃんとコウちゃんもノートをのぞきこんでいた。
「ところでドア&キーはどうだったの?」
僕が聞くとみんなの表情が曇った。
「あれはキュウの分野だったかなと思う。正直俺たちじゃダメだったんだ。」
コウちゃんが笑った。
「う~ん。あれはパズルの部屋と同じ感じだよ~。5番目の部屋までは行けたけど、そこまででもけっこうかかっちゃったから~。」
ユウちゃんも腕を組んで考え込むように言った。
「だからみんなでいこうってあたしらは言ったのに。」
セイちゃんがそう呟いてから「あっ」と言って口を塞いだ。
「ああ。悪かったよ。僕のせいでいいよ。」
ケンちゃんが下を向いて呟いた。
「僕たちも賛成したんだからケンちゃん一人のせいじゃないよ。」
僕がそう言うとメイちゃんもうなずいた。
「いや、いいよ。かばってくれなくても。責任は感じてるし。」
ケンちゃんは下を向きっぱなしだ。
「まあ、済んだことは仕方ないだろ。」
コウちゃんがケンちゃんの肩をたたく。ケンちゃんは黙ってうなずいた。さっきまでの殺伐とした空気がコウちゃんのおかげで少し穏やかになった気がする。
「あっ、そういえば僕たちが出てくるまで待っててよかったの?どこかの部屋入らなくてよかったの?」
「あ、それなら問題ないよ。」
僕の疑問にケンちゃんが下を向いたまま答えた。
「パズルをはずすとタイマーが止まるみたいなんだ。だからミラーとテレパスはタイマーを止めてある。入るときはパズルをはめればいい。」
「そうなんだ。よかった。」
僕たちが待たせたせいで次の部屋に入れないのかと思ってたからほっとした。
「じゃあ次は…、その前に少し休憩だな。」
コウちゃんがそう言って笑った。コウちゃんが休憩を口にしたのは、僕の前にジャスミンが出てきたからだった。メイちゃんが何も言わずに僕に差し出した。
「ありがとう。いただきます。」
メイちゃんは笑顔でうなずいた。
「いいな~。私も飲みたいな~。」
ユウちゃんが僕たちをじーっと見て言った。
「完売です。また次回でお願いします。」
「え~。じゃあ仕方ないか~。」
目の前で店員と客みたいなやり取りが展開されている。僕は最後の一杯を大事に…。
あれ?メイちゃんの飲む分がない…。半分飲むかな…?口つけちゃったけど…。
「メイちゃん。」
メイちゃんにだけ聞こえるような小さな声で呼んでみた。メイちゃんは隣に立って僕を見た。
「なに?」
「半分飲んじゃったけど、メイちゃん飲む?」
「いいの?」
「メイちゃんがいいなら。」
ほとんど声を出さない僕と全く声を出さないメイちゃんの会話。成立していることが不思議なくらい。
「いただきます。」
メイちゃんはみんなが見てないのを確認してから僕の方に手を伸ばす。僕はジャスミンをスッと渡す。メイちゃんはそれをゴクッと飲んだ。
「ありがとう。」
メイちゃんは笑顔で僕に伝える。
「こちらこそだよ。いつもありがとう。」
僕は答えた。そして笑った。
「コウちゃん。このあとどうするの?」
「あー。そうだな。あと一回はどこかやれるから。」
コウちゃんは僕にそう答えて腕時計を見た。なんか高そうだ。
「あと15分で5時。さてどうする?みんな。」
コウちゃんが聞いた。
「テレパスかミラーでしょ~?どっちがクリアに近いの~?」
「ミラーじゃないか?第2エリアを調べればいいんだろ?」
セイちゃんがユウちゃんにそう答えた。確かにそのとおりではあるけど…。
「ただ、メイちゃんが限界だから。できることは次のエリアへの道を見つけるくらいだね。それより先はまたメイちゃんの力が必要だと思う。」
「なるほどな。キュウの言うとおりだ。無理に先に進むのはやめよう。テレパスの方はどうだ?やれることはあるか?」
コウちゃんがお茶を飲みながら僕に聞いた。
「テレパスで確認したいことは一つだけかな。」
「それは『メイの笛がどこまで聞こえるのか』だろ?」
ケンちゃんが顔だけを僕の方に向けてそう聞いた。僕はうなずく。
「うん。一人しか奥の部屋に進めないならなおさら伝える方法が必要だから。今のところメイちゃんの笛が突破口だと思う。」
「なるほど~。じゃあメイちゃんにお願いするしかないね~。」
ユウちゃんのその言葉にメイちゃんがビクッとした。僕以外のみんなは知らない。メイちゃんが暗いところと狭いところが怖いことを。
「メイちゃん。みんなに話していい?テレパスであったこと。」
僕が小さい声で聞いた。メイちゃんは小さくうなずく。
「みんな、実はメイちゃんは暗いところや狭いところが怖いみたいなんだ。」
みんな驚いた。
「え~?そうなの~?初めて知ったよ~。」
「ああ。初耳だよ。じゃあ今までもけっこう辛かったのか?」
コウちゃんがメイちゃんに聞いた。メイちゃんは首を横に振った。
「メイちゃんは一人になるのが怖いんだよ。だからだれかといれば大丈夫。今までは一人になることがなかったから怖くなかったんだと思う。そうだよね?」
メイちゃんは僕を見て何度もうなずいた。
「だからメイちゃんに奥に行かせることはできない。他の人がメイちゃんに笛を借りて奥に行くしかないよ。」
「そうなのですか~。じゃあ、メイちゃんの笛を吹ける人だね~。」
メイちゃんは首から笛をはずした。そしてスッと僕の前に差し出した。さも当然のように…。
「いいの?僕で。」
「大事にしてね。」
「うん。わかった。」
「お~。当然のようにキュウちゃんに託すメイちゃんがすご~い。」
ユウちゃんが盛り上がっている。
「じゃあ、テレパスの実験やるか。そのあと時間までメイズを探検する流れでいこう。」
コウちゃんがパズルをはめた。テレパスとミラーが開いた。
「よし。出発!」
「は~い。」
コウちゃんとユウちゃんが歩き出す。いつもだとケンちゃんが続くはず。だけどケンちゃんは座ったまま動かない。
「おーい。ケン。行くぞ。」
コウちゃんが呼ぶ。ケンちゃんは動かない。するとセイちゃんがケンちゃんの前に立った。
「背中をバチーンと叩かれるのとコウのところまで走るのどっちがいい?」
「僕が行く必要ないから座ってるんだよ。先に行ってくれ。」
ケンちゃんは座ったままセイちゃんを見た。
「わかった。じゃあ背中はやめて顔にしよう。」
セイちゃんはいきなり手を振り上げた。僕とメイちゃんが止める間もなくその手を勢いよく振り下ろす。ケンちゃんはとっさに両手で顔をガードした。
「引っ掛かったな。よいしょっと!」
セイちゃんはケンちゃんの顔のギリギリで手を止めて、そのままケンちゃんの両手手をつかみ背負った。
「バカ!離せ。下ろせよ。セイ。」
ケンちゃんは暴れるがセイちゃんは全く動じない。
「キュウ、メイ。急げよ。」
セイちゃんは僕たちを見てニコッと笑い、すごい勢いで走った。僕とメイちゃんも顔を見合わせて走る。
「コウ。全員そろったから入ろうぜ。」
「ああ。そうだな。入ろう。」
コウちゃんは笑ってドアを開けた。
「いいから下ろせよ。子供じゃないんだから。」
「座って駄々こねるのは子供だよ~。」
セイちゃんに捕らえられて暴れるケンちゃんの頭をユウちゃんがなでた。
「やめてよ。ユウちゃん。そしてさっさと下ろせ!セイ。」
「逃走する可能性があるからテレパスが終わるまではこのままだ。大人しくしてろ。」
セイちゃんは笑っている。
「キュウ。頼むぞ。」
コウちゃんが僕の背中を押した。僕はうなずく。
二度目のテレパス。何か突破口を見つけないと。




