第38話 パズルと勝負
「キュウ、僕に半分やらせてくれ。」
パズルに手を伸ばした僕にケンちゃんが言った。僕は手を一度戻してケンちゃんを見た。
「いいけど、どうする?どれをやる?」
僕が聞くとケンちゃんは少し考えてから答えた。
「昨日と同じパズルならメイズとミラーが簡単だったはずだろ?だからそれでいいよ。」
ケンちゃんに言われて僕はパズルを見た。昨日と同じパズルかどうかを。結論としては昨日と同じパズル。ほとんどが今は完成しているのでそれをバラバラにしてはめるらしい。逆に昨日と同じくバラバラのものを完成させてはめるのはユウちゃんが『六芒星』と言ったパズルとメイちゃんが手伝ってくれたからこそ完成させられた『ダイヤ』のパズル、そして『ルービックキューブ』。僕はメイズとミラーのパズルを拾い集めてケンちゃんの前に置いた。
「よし。じゃあやってみる。」
ケンちゃんはそう言って始めた。僕はまずはケンちゃんの動きを見ながら手を動かす。
「これは…、たしかここを合わせてたから…。こうして通して完成!」
ケンちゃんが一つ完成させた。僕が昨日解いたのを見ていただけであんなに簡単に解けるのかと思うほどだ。
「ケン。やるな。」
「すご~い。その調子~。頑張って~。」
ケンちゃんはうなずいて次のパズルを始めた。僕はその動きを見ながら一つ完成させてメイちゃんに渡した。
「キュウ。こっち見ながらなんて余裕だね。」
「え?あ、まあ。そうかもね。昨日解いたからね。ケンちゃんこそすごいね。」
「僕も君の動きを見てたからね。」
「だとしてもできることじゃないよ。しかも昨日だってみんなと話ながらだったでしょ?」
そう言ってる間に僕とケンちゃんは二つ目を完成させた。
「キュウ。試しに勝負しようか?どっちが先に完成させられるか。」
「え?勝負は苦手だよ。」
「なんだよ。君の方が有利だろ?」
「確かに僕の方が有利だけど。」
「じゃあいいだろ?」
そう言われて僕は悩んだ。勝負する理由がわからない。でも断る理由も見当たらなかった。
「うん。わかった。」
「じゃあスタート。」
ケンちゃんはいきなりそう言った。そしてその直後すごい速さで手を動かした。僕もあわてて手を動かす。
「こうして…、完成っと。次、次。」
ケンちゃんはそう言って続けた。
「おお~。ケンちゃん一歩リード~。キュウちゃんの巻き返しは~?」
ユウちゃんは実況を始めた。なんか盛り上がってきた。
「キュウ。手を抜いてない?」
またケンちゃんが僕にそう言った。
「もちろんだよ。」
僕は答えた。
「じゃあ負けたら好きな人の名前を叫んで。」
「えー?なんで?」
いきなりの提案に僕は驚いた。
「勝てる勝負ならいいだろ?僕が負けたら何をしてほしい?」
「そんな。いきなり言われてもわからないよ。」
「じゃあ、僕に勝てばいいんだよ。」
僕の好きな人…?よくわからないけど…。むしろ僕が好きになっていいのかな…?それさえ迷惑な気がしていた…。とりあえずケンちゃんに勝つしかない。
「うん。わかったよ。勝てばいいんだ。」
僕はそう言ってパズルを解いた。一つ、また一つ。ケンちゃんも全く同じペースで進み、ケンちゃんも僕もあと二つになった。
「残り二つで~す。どちらが勝つのでしょうか~。」
ユウちゃんの盛り上がりも最高潮だ。ケンちゃんは『六芒星』、僕は『ダイヤ』のパズルの組み立て。メイちゃんが手伝おうとした。
「メイ。勝負だから手助けはダメだよ。」
ケンちゃんがそう言った。メイちゃんは出そうとした手を引っ込めて僕を見た。心配そうだ。
「メイちゃん。ありがとう。大丈夫だよ。」
僕はそう言って笑った。昨日解いたおかげでどの角度から見ればいいかわかってる。僕は昨日のメイちゃんの手を思い出してパズルの向きを変える。そしてくっつける。ダイヤのパズルが完成した。
「ね?メイちゃん。大丈夫だったでしょ?」
メイちゃんは笑顔でうなずいた。
「ほぼ同時だね。じゃあ僕の勝ちかな。君のはそれだから。」
ケンちゃんがそう言って最後のパズルを持った。僕もルービックキューブを持つ。そしてケンちゃんのパズルの動かし方を見てから、ルービックキューブを始めた。
「あれ?確かこうやってたはず…。」
「お~っと、ここで初めてケンちゃんが悩んでいま~す。キュウちゃんはよくわからないけど手を動かしていま~す。」
ケンちゃんの戸惑ったような言葉とユウちゃんの解説で僕は勝ちを確信した。僕は上をずらし横をずらしとどんどん動かして…。
「完成。僕の勝ちだね。」
僕は完成したルービックキューブを置いた。
「お~。キュウちゃんの勝利~。ケンちゃんは最後のパズルが誤算だったようで~す。」
「何でだ?このやり方で解けたはず…。」
ケンちゃんはまだパズルにしがみついている。
「ケンちゃん。やり方は間違ってないよ。ただ、ケンちゃんだと解けないんだよ。」
「は?どういう意味だよ!」
ケンちゃんは僕を見て叫んだ。僕は恐怖を感じながらも言った。
「ケンちゃん。動かす手を逆にしてみて。」
「逆?こっちか?それで何かが…。あ!解けた。」
「そう。そのパズルは利き手が逆だとやり方が変わるんだよ。もしケンちゃんが利き手の左手で解くなら上下を逆にして考えないといけなかったんだよ。」
「そっか。くやしいな。負けた。」
ケンちゃんは予想以上に悔しがっている。そんなに勝ちたかったのかな?
「は~い。じゃあキュウちゃんはケンちゃんに何か要求か命令をどうぞ~。」
ユウちゃんにそう言われて思い出した。僕は『好きな人の名前を叫ぶ』ということが嫌だっただけで、ケンちゃんに何かをしてほしいなんて考えてなかったから。
「ケンちゃん。今は思い付かないからまた今度で。」
「ああ。わかった。ただ必ず何か命令なり要求なりしてくれよ。言い出したのは僕だから。」
ケンちゃんはようやく顔をあげて僕を見た。
「うん。わかった。」
僕はうなずいて答えた。
「よし。気分を切り替えてムーヴをクリアするぞ。こっちが本来の目的なんだから。」
コウちゃんがケンちゃんの背中をバーンと叩いた。
「わかったから叩かないでよ。さっきから。」
「それはケンちゃんのせいでしょ~?下を向かずに次に向かいましょ~!いいかな~?」
「は~い。」
ユウちゃんにそう返事してケンちゃんは背筋を伸ばした。
「じゃあメイズをクリアしよう。一応作戦も考えてきたから。」
「おー。さすがだな。ケン。頼むぞ。」
「は~い。頑張りましょ~う。」
やっと普通の空気に戻った。僕はホッとしてパズルを持った。
「じゃあ、メイズを開けるよ。」
「ああ。頼む。」
僕はパズルをくぼみにはめた。メイズの電気がついた。
「よし。いくぞ!」
「は~い。」
「うん。いこう。」
三人はメイズのドアに向かって歩き出した。僕が歩き出すとメイちゃんが僕の服をグイッと引っ張った。
「どうしたの?メイちゃん。」
メイちゃんは僕を見て口を動かした。
「もし負けてたら、どうするつもりだった?」
僕はそれを聞かれて悩んだ。そして小さな声で答えた。
「今までそんなこと考えなかったから…。それに僕が誰かを好きになったらその人に迷惑かなって思うし…。自分に自信がないから…。」
メイちゃんは服から手をはなし、僕を見て笑った。
「キュウちゃんはかっこいいから自信もっていいよ。」
メイちゃんは僕の隣に並びメイズに向かって歩き出した。
「メイちゃん。ありがとう。メイちゃんにはいつも自信と勇気をもらってるよ。」
メイちゃんは笑顔で歩いた。僕も笑顔で歩いた。メイズに入る少し手前でメイちゃんが口を小さく動かした。
「よかった。」
「何がよかったの?」
そう聞くとメイちゃんは僕を見て「なんでもないよ。」と伝えた。僕には何がよかったのか全然わからなかった。




