第36話 ムーヴ攻略!
「よし!行くぞ!」
コウちゃんが僕たちを見て言った。
「うん!行こう!」
コウちゃんを見て僕は答えた。メイちゃんもうなずく。
昨日はコウちゃんとセイちゃんに助けてもらってなんとか最後までたどり着いた。だけど今日はそれじゃダメ。僕はストラックアウトを攻略するためにいるんだから。
コウちゃんが階段を下りていく。僕とメイちゃんもついていく。目の前には昨日も上った巨大ジャングルジムがある。
「俺が先頭で行くから二人ともついてこいよ。」
コウちゃんがジャングルジムの中に入っていく。
「メイちゃん、僕が先でいいよね?」
メイちゃんはうなずく。僕はコウちゃんの後ろを追いかけるようにジャングルジムに入った。昨日は移動するのも怖かったけど、今日はあまり怖く感じない。ただどうしても急ぎたい気持ちが先行してしまい、変な動きをしているみたいだ。そんなときメイちゃんは僕の肩をたたく。
「大丈夫だから。落ち着いて。」
メイちゃんの口から出た音のない声が僕の焦りを抑えてくれる。僕はうなずき「ありがとう。」と伝えた。
「さすがに昨日よりは速いな。さて、ターザンロープはどうする?」
ジャングルジムの上に立つと、コウちゃんが僕たちに聞いた。昨日はロープから手が離せなくてセイちゃんにロープをつかんでもらった。今日はそんなことにはなりたくない。するとメイちゃんが僕の肩をたたいた。
「私が先に行って、次にキュウちゃん、最後にコウちゃんの順番がいいと思うよ。」
「うん。そうだね。」
僕はうなずく。
「で、どうすることになったんだ?」
コウちゃんが僕に聞いた。僕は答える。
「メイちゃん、僕、コウちゃんの順番がいいって。僕もそう思う。」
「よし。じゃあそれでいこう。メイ、一人でいけるか?」
コウちゃんがメイちゃんを見た。メイちゃんはうなずいてロープを持ちギリギリまで下がる。そして勢いよく走ってロープにしがみつく。
鮮やかだ。昨日の僕に比べたら雲泥の差だ。
メイちゃんは向こう側にたどり着き、鉄の棒をつかんだ。そしてロープを僕の方へ送った。僕は受けとる。
「さて、キュウはどうする?カッコ悪い姿でもいいなら俺が投げてやるぞ?」
コウちゃんが笑った。でも目は真剣だ。昨日のセイちゃんと同じで試されてる感じだ。
「頑張るよ。メイちゃんと同じ動きができればいけるはずだし。」
僕はそう答えた。コウちゃんはうなずく。僕はロープを持ってギリギリまで移動する。そして勢いよく走りロープに飛び乗った。昨日は本当に怖かったけど、今日は大丈夫。鉄の棒の下にネットがあるのもわかっているから。僕をのせたロープが棒に近づく。メイちゃんが待ち構えている。
「メイちゃん。僕がつかめなかったらお願い。」
メイちゃんはうなずいた。そして棒が僕の手に当たる。僕は力一杯それをつかみ、そして移動した。
やった。成功だ。
僕はほっとして笑った。メイちゃんは下から僕を見て笑っている。
「よし。俺も行くから先に下りてていいぞ!」
コウちゃんがそう叫んだ。
「うん。わかった。」
僕は返事をして下りていく。昨日に比べたら本当にスムーズだ。下にたどり着くと上からメイちゃんがすーっと下りてきた。僕の前に着地してニコッと笑った。
「おーい!どいてくれー!」
僕とメイちゃんは急いで棒から離れた。すると昨日のセイちゃんと同じようにドーンという音をたててコウちゃんが着地した。
「よし。いいペースだ。どんどん行くぞ!」
コウちゃんが先に進む。僕たちもついていく。目の前にはロープがある。コウちゃんは一気に上る上級者用を、僕とメイちゃんは初心者用を上っていく。たぶんメイちゃんは上級者用で上れるけど僕のことを心配して初心者用を上っているんだろうけど。僕はメイちゃんに心配されないように素早くかつ慎重に上った。
「よし。本当にいいペースだ。あとはうんていで渡って縄ばしごを下りるだけだ。キュウ。昨日の作戦でいくぞ。」
コウちゃんは落下防止のネットの上を歩いて真ん中へ。
「じゃあ、いきます。」
僕はうんていを渡り出す。昨日の経験をいかしてなるべく止まらないようにどんどん進む。そして真ん中くらいでコウちゃんに足を持ってもらい少し進む。そしてコウちゃんの手が届かなくなるところからラストスパート。手が痛いけど止まったら余計につらくなる。それに今日は向こうにセイちゃんがいるわけじゃないから動けなくなったらまず落ちる。しかも一度落ちたらもう一度最初から渡らなきゃいけないし、残りの力ではそのもう一度は不可能だと思う。だから絶対落ちるわけにはいかない。あと三回、あと二回。僕は手を進める。昨日はここでつかみそこなった。僕は力の限り手を伸ばしてつかむ。あと一回。手の痛みに耐えながら懸命に手を伸ばす。そして…、
「ついた。やった。」
僕は見事に渡りきった。昨日は最後の最後でダメだったからうれしい。
「キュウ!やったな!」
下からコウちゃんの声が聞こえた。コウちゃんは僕に手を振りながら、うんていのスタート地点に向かっていた。と、いうことは…。僕のすぐ横に小さなくつが見えた。僕が顔をあげたときにはすでにメイちゃんは目の前にいた。後ろを振り向く余裕がなかったから気づかなかったけど、メイちゃんはたぶん僕の後ろを僕のペースに合わせて移動していた。そうじゃなければメイちゃんは僕の倍のスピードでうんていをしたことになる。どちらにしてもすごい。
「メイちゃんはすごいね。」
そう言って僕は立ち上がりメイちゃんを見た。メイちゃんは笑顔で僕を見ていた。
「おーい。先に下りていいぞ!そして先にやっててくれ!」
コウちゃんがうんていをやりながら僕たちに言った。
「はーい。」
僕はそう返事をしてメイちゃんと縄ばしごに向かった。縄ばしごはただ下りるだけだし初心者用は途中に二回足場がある。僕はなるべく急いで下りていく。僕のすぐ上にはメイちゃんがいて、僕の動きに合わせて下りてきている。最初の足場で着地して縄ばしごで次の足場に下りていく。
ん…?あれ…?
下りていく途中、僕の足に何か違和感が。下りながらよく見るとさっき足をかけた部分の縄がほつれて切れそうになっている。これが違和感だった。するとメイちゃんの足が下りてきてそこにかかった。
「メイちゃん!そこ危ないから気をつけて!」
僕が叫ぶ。メイちゃんが驚いて下を見た。その瞬間!
ブチッ!
縄が切れた。メイちゃんの足が下に落ちた。メイちゃんはそのときちょうど縄が切れた方の足に体重をかけ、反対の足を次にかけるために伸ばした瞬間だった。そのため突然両足とも足場がなくなった感じになった。しかも予測していなかったことだったため手の力もあまり入れていなかったみたいでぶら下がることもできなかったらしい。僕の目にはメイちゃんの体が支えを失って僕の方へ倒れてくる映像がスローモーションで映る。両手とも縄ばしごをつかんだこの状態を維持していれば、メイちゃんが僕とはしごの間に収まってくれる気もする。ただ万が一にもメイちゃんを落としてしまうことは避けなきゃいけない。僕は左手で縄ばしごをつかみ、右手で落ちてくるメイちゃんの体を抱き締めた。メイちゃんの全体重が僕にかかる。縄ばしごをつかんだ左手にすごい衝撃が走った。僕は右手はメイちゃんを、左手は縄ばしごを離さないように力をこめた。
「キュウ!メイ!大丈夫か?」
となりの上級者用を下りていたコウちゃんが僕たちに聞いた。
「なんとか…。大丈夫。」
僕はコウちゃんにそう答えてからメイちゃんを見た。メイちゃんは僕とはしごの間に見事に収まった。そしてあまりの怖さで少し震えている。
「メイちゃん、大丈夫?」
僕が聞くとメイちゃんは僕の顔を見た。
「こわかった。落ちるかと思った。ありがとう。キュウちゃん。」
そう口を動かして手ではしごをがっちりにぎるメイちゃんを見て僕は右手をはしごに移した。
「メイちゃん。ゆっくり降りよう。」
僕とメイちゃんはゆっくりゆっくりと縄ばしごを下りていった。
「キュウ。大丈夫か?左手。」
やっと下についた僕たちを見て、コウちゃんが僕に聞いた。
「まだちょっと痛いかな。」
実はかなり痛い。手のひらはズキズキと痛むし、腕は感覚が麻痺している感じだ。だけど僕の左手をさすりながら「私のせいでごめんね。」と呪文を唱えるように口を動かすメイちゃんを見たらとても正直には言えない。
「その状態であれはクリアできそうか?」
コウちゃんが指差す先には、僕がここに来た理由であるストラックアウトがあった。
「たぶん。両手で投げるけど、大丈夫なはず。」
僕はそう言ってストラックアウトの前に立った。足元を見るとメイちゃんが朝に書いてくれたのと同じマスがある。大丈夫。僕は大きく息を吸い込んだ。
「いきます!」
僕はそう叫んでボールをスローインの構えで投げた。ボールは2に当たる。僕は床のマス一つ分後ろにさがり、ボールを投げる。ボールは5に当たる。僕はさらにマス一つ分さがりボールを投げて8に当てた。
「すごいぞ!キュウ!三連続!」
コウちゃんの驚く声が響く。僕は右に一マス移動し9、前に一マス移動し6。どんどん当てていく。そして10球で全部の的に当てることができた。ミスは一回。練習の成果としては上出来だ。
「キュウ!見事だな!」
コウちゃんが僕のところに来てそう言った。
「うん。結果は出せた。ただ問題が…。」
「どうした?」
コウちゃんが首をかしげた。
「左手がかなり痛い。だから投げるのもきついんだ。」
「マジで?やっぱり痛かったのか。」
僕は左手をさわる。熱を持ってるのがわかる。冷やさないといけない気がする。すると僕の左手に何かが触れた。
ペタッ。
「ツメタ!冷たい。」
僕の左手に何かがはりついて、その冷たさに僕は小さな悲鳴をあげた。左手には大きく切られた湿布がはりついていた。横を見るとメイちゃんがリュックに残りの湿布をしまっている。
「メイちゃんはすごいな。何でも出てくる…。」
僕がそう言うとメイちゃんが目の前に立った。そして次の瞬間、
ペチン!
メイちゃんは僕の頬を力なく叩いた。僕は驚いてメイちゃんを見た。メイちゃんは口を動かす。
「無理しちゃだめ。そんなことして手が動かなくなったらどうするの。キュウちゃんのばか。」
音は無い。だけどたぶん全力で叫んだんだろう。メイちゃんは下を向いてはあーっと息を吐いた。目からは涙がこぼれる。
「ごめんね。メイちゃん。」
僕はそう言ってメイちゃんの頭をなでた。そして顔をあげたメイちゃんに伝えた。
「じゃあ、あとは頼むね。」
メイちゃんは恨めしそうな顔で僕の顔をジーっと見てからうなずいた。そして笑顔になって僕の代わりに次のストラックアウトの前に立った。
「おい!何でメイが?メイにもできるのか?」
コウちゃんが僕に聞いた。僕はその場に座り、コウちゃんを見上げながら言った。
「メイちゃんは僕とずっと一緒にいた。僕が的に当たらないときも攻略法を見つけたときも。だからメイちゃんの頭にはこの攻略法の内容が完璧に入ってる。」
「だけど、方法を知ってれば誰でもできるわけじゃないだろ?」
コウちゃんが僕にさらに聞いた。僕はボールを投げるメイちゃんを見ながら言った。
「この攻略法はまっすぐ投げられることと、僕より力があること。あとは自分の投げる位置がわかること。その三つさえあればできるんだ。メイちゃんは少なくとも僕より力はある。まっすぐ投げるのはあのフォームでなんとかなるから。」
「じゃあ、自分の投げる位置さえわかればってことか?」
コウちゃんの言葉に僕は首を振る。
「コウちゃん。それをメイちゃんがわからないはずがないよ。それはメイズで思い知らされたでしょ?自分の歩く歩幅とかで完璧な図面を書けるメイちゃんが的までの距離がわからないはずがないよ。だから二球失敗するくらいで十分なはずだよ。」
メイちゃんが戻ってきた。9球。つまりパーフェクトだった。
「さすがだね。メイちゃん。」
僕が右手をあげると、メイちゃんの右手がパチーンと当たった。
「あと3分か。よし!キュウ!メイ!攻略法教えてくれ!最後は俺がやってクリアしたい!」
「うん。わかった。教えるよ。」
僕はコウちゃんに方法を説明し、コウちゃんが投げたボールの飛び方を見てメイちゃんが投げる位置を示す。そしてコウちゃんが的にボールを当てていく。そして10球目。全部の的にボールが当たった。
「これはすごい!発明だな!」
コウちゃんは目を輝かせてそう言った。たぶん攻略法の成果に驚いたみたいだ。
「メイちゃん。コウちゃんはすごいね。」
「うん。そうだね。」
僕とメイちゃんは違うところに驚いていた。それは今コウちゃんが投げていた位置が僕たちの投げていた位置より二倍近く離れていたことだった。




