第35話 手品と数式
薄暗い廊下を進む。今日で3回目。特に昨日は最初から最後までいたおかげでここの暗さや雰囲気にもだいぶ慣れた。
「それにしても朝にセイから電話もらったときはビビったよ。」
「本当だよね~。いきなり電話かかってきたと思ったら『アメイズに集合だ!三時半!』だよ~。説明なしだったから何事かと思ったよ~。」
先頭を歩くコウちゃんとユウちゃんが話し出した。ユウちゃんはセイちゃんの声真似を織り混ぜて話すからセイちゃんが興奮していた様子がよくわかる。
「僕への電話もそんな感じだったよ。落ち着かせて説明させるのにけっこう大変だった。」
ケンちゃんが二人の会話に加わる。
「私もだよ~。『とにかく、とにかく。キュウが、キュウが!』って。あの説明だと『アメイズまで救急車を一台!』って感じだったよ~。」
「説明してもらえただけましだよ。俺なんて『アメイズに三時半集合。来れるよな?来れる!そうか!わかった!じゃあな!』で終わり。しかもかけなおしたら話し中だし。」
セイちゃん…。すごい…。そんなに興奮してたんだ…。コウちゃんにかけた電話はもはやいたずら電話のレベルだ…。
僕が考えているとコウちゃんが振り返って僕を見た。
「なあ、キュウ。お前が思い付いた方法は誰でもできるのか?」
「たぶんできると思う。ただコウちゃんとセイちゃんがやると逆に難しいかもしれない。」
僕はコウちゃんに聞かれてそう答えた。
「え~?じゃあ私やメイちゃんでもできるの~?その方法~。」
今度はユウちゃんが後ろ向きに歩きながら僕に聞いた。
「たぶんできるはず。あっ、僕より力がない人だとできないかもしれない。ただユウちゃんもメイちゃんもケンちゃんも僕より力はありそうだから大丈夫だと思うよ。」
「へ~。力がありすぎても無さすぎてもダメなんだ~。おもしろ~い。楽しみ~。」
ユウちゃんは横歩きをしながらそう言った。
「ああ。とにかく楽しみだ。期待してるぞ。」
コウちゃんもこっちを見ながらそう言った。僕はうなずいてからメイちゃんを見た。
「自信持って。大丈夫だから。」
メイちゃんは口を動かして右手をグッと握って見せた。僕も真似して左手をグッと握った。
廊下を進みフロントロビーに出た。パソコンの前にケンちゃんが座り、カタカタとキーボードをたたく。そして最初の課題を選ぶ画面になった。
「あっ、どうするかなー。これ。」
そう言ってケンちゃんの手が止まった。
「どうした?ケン。」
コウちゃんが聞くとケンちゃんは腕を組んで答えた。
「僕がいつも解いてるのは『将棋』『リバーシ』とかの対戦物だったんだけど、今回は変な数式とかの問題だから…。謎解きは時間がかかるから。でもリセットしてやり直すのも時間かかるし。」
ケンちゃんは試しに選んでみせた。画面に問題が表示される。
問1、○△□に当てはまる数字を1~9の中からそれぞれ選びなさい。
○△7-7○△=□△○
→□+△+○=□△
→□+△=○
○△7、7○△、□△○はそれぞれ三桁の整数、□△は二桁の整数であるとする。
問2、Aさんがトランプを一枚引きました。そのカードの数字を2倍にして3を足して5倍します。そこにマークがスペードなら1、ハートなら2、クラブなら3、ダイヤなら4を足しました。この答えが109だったときのAさんの引いたカードを次から選びなさい。
①H-2 ②S-4 ③C-8
④D-7 ⑤S-6 ⑥D-9
⑦S-3 ⑧D-2 ⑨H-5
※表示の意味は、S→スペード、H→ハート、C→クラブ、D→ダイヤ
「これはパスだな。」
コウちゃんがつぶやく。
「う~ん。パスだね~。計算きら~い。これ解かないとダメなの~?」
ユウちゃんも両手でバツを作る。
「いや、これ以外は僕がクリアできそうな問題なんだ。けど、ムーヴのドアの問題が全部こんな感じなんだよ。問1はたぶんやればできるけど。問2がね…。どうする?みんな。諦めていい?」
「ちなみに間違えるとどうなるんだ?」
コウちゃんが腕を組んで聞いた。
「あー。そうか。わざと間違えて違う問題を出すって方法があった。よかった。リセットしなくて。じゃあこの問題は諦めるよ?」
みんながうなずく。ケンちゃんがキーボードを押そうとした…。
「あっ、待って!」
僕が止めた。みんなが驚く。
「なんだよ。キュウ。」
ケンちゃんが僕を見た。
「間違えてもいいなら僕にやらせて。」
「運試し?別にかまわないけど。」
ケンちゃんがキーボードから手をどけた。僕は画面を見る。
「問1は…法則リストの数理、問2は確か…。」
「おい。キュウ!早くしろよ!時間がもったいない!」
ケンちゃんが僕に言った。僕は手を伸ばす。
「問1の○は9、△は8、□は1。問2は15を引くから…ダイヤの9。だから答えは6番!」
僕はキーボードを押して数字を入力、決定をクリックした。そしてムーヴの部屋を見ると、パッと電気がついた。それは僕が問題を解いてドアが開いたことを示していた。
「あ~、開いた~。すご~い!」
「マジか?解いたのか?今の。」
ユウちゃんとコウちゃんの声が響いた。
「な、なんで?」
ケンちゃんは画面を見ながら固まっている。画面にも確かにクリアの文字。
「よかった。さすがに間違えたらまずかったから。」
僕はほっとしてそうつぶやいた。メイちゃんを見ると口がまだ開いたままだった。
「コウちゃん。ムーヴに入ろう。時間がないから。」
僕の言葉にコウちゃんはうなずいた。
「そうだな。早くやらないとな。みんな入るぞ。」
「待って、コウちゃん。」
ケンちゃんがそう言って立ち上がった。
「どうした?ケン。」
「ムーヴはコウちゃんとキュウとメイで行ってほしい。」
ケンちゃんの提案にコウちゃんは驚いた。
「どうしてだ?みんなで行くんじゃないのか?」
ケンちゃんはうなずいた。そして冷静に説明をした。
「現状でアスレチックを問題なくクリアできるのはコウちゃんとメイ。僕たちはどこかで手助けが必要になる。今回はキュウがいかないと始まらない。でも僕とユウちゃんは行っても足を引っ張る上にキュウの法則も見てることしかできない。だったら僕とユウちゃんで残りの部屋をクリアした方が効率がいい。」
すごくケンちゃんらしい意見。ただケンちゃんの言葉にはなんだか暗いものを感じた。
「さんせ~い。その方がいいよ~。だからコウちゃんたちは行ってきて~。」
ユウちゃんがケンちゃんをちらっと見てからそう言った。コウちゃんはユウちゃんの目をじっと見て、その後うなずいた。
「わかった。ケンの意見を採用する。キュウ、メイ。行こう。」
僕とメイちゃんはうなずく。そして三人で階段を下りた。
「キュウちゃ~ん。しっかりね~。あと~、戻ってきたらムーヴの攻略法と、さっきの問題の解き方教えてね~。」
「うん。わかったー。
ユウちゃんが手を振りながら大きな声でそう言ったので僕は手を振って答えた。
コウちゃんはムーヴのドアを開けた。
「キュウ!頼むぞ!」
コウちゃんはそう言って僕を見て笑った。僕はうなずいてコウちゃんとメイちゃんを見て言った。
「うん。コウちゃん、メイちゃん。アスレチックは迷惑かけると思うけどお願いします。最後までたどり着けたら必ずクリアしてみせるから。」
「ああ。任せとけ!」
コウちゃんは大きくうなずいてそう言った。メイちゃんもうなずいた。
「よし!絶対にクリアだ!」
コウちゃんが進む。僕とメイちゃんも続く。
絶対クリア!
コウちゃんが言ったその言葉を僕は何度も何度も心の中で言い続けた。




