第34話 集合時間
「メイちゃん。余裕だよね?僕たち30分までに着くよね?」
僕は不安になってメイちゃんに聞いた。メイちゃんは時計を見てうなずいた。
「まだ3時10分だよ。あと5分くらいでたぶん着くから15分前だよ。」
メイちゃんはそう口を動かしてから笑った。
「そっか。よかった。昨日は夢中で上ってたからどれくらいで上に着くかわからなくて…。」
僕はそう言いながらも少し焦り気味に階段を上っていく。メイちゃんと一緒にアメイズに続く階段を。
僕たちは3時前にセイちゃんの家を出発し町に向かった。橋を渡って町に入ったときメイちゃんが僕の肩をトントンとたたいた。
「どこからいく?山の上。右、左、真ん中があるけど。」
「え?左は役場で真ん中は階段だよね?右もあるの?」
僕は信号を渡ったところで止まりメイちゃんに聞いた。メイちゃんはうなずく。
「右はもう少し行って大きな道路に出る手前にあるよ。坂道は急だけどここからなら左よりは早く着くと思うよ。」
僕は少し悩んだ。でも答えはすぐに出た。
「真ん中の階段でいこう。自転車だと疲れちゃってムーヴのアスレチックがクリアできなくなっちゃうかもしれないから。階段なら昨日も上ったし体力が残せると思うんだ。」
メイちゃんはうなずいた。
「もしかして右から行きたいの?メイちゃん。」
僕が聞くとメイちゃんは首を横にブンブン振った。
「私は近い道があるって言っただけ。キュウちゃんの判断は正しいよ。」
メイちゃんは口を動かした。でもメイちゃんはきっと右の道に行ってみたいように思えた。
「帰りはその道から下りてこようか?」
メイちゃんは満面の笑みでうなずいた。そして「やっぱりやさしいね。」と口を動かした。
「メイちゃん。真ん中の道へ急ごう。僕たちがみんなを待たせるわけにはいかないから。」
メイちゃんは大きくうなずいた。そして僕たちは昨日と同じ道、広場の横の階段を目指した。
階段が坂道に変わった。今日の昼に通ったサイクリングロードを横目に見ながらどんどん上った。そして坂を上りきって左に曲がるとアメイズの駐車場が見えてきた。
「15分前だよ。大丈夫だよ。」
メイちゃんがそう教えてくれたのでようやく僕も落ち着けた。少なくとも遅刻はないみたいだ。二人で駐車場に入っていくとアメイズの正面玄関前に人が見えた。何かのプリントをながめている。そして僕たちを見つけるとスッと手をあげた。そのしぐさで誰だかすぐわかった。
「ケンちゃん。すごく早いね。」
僕たちはケンちゃんに駆け寄った。
「うん。メイズの図面を用意したりしてたら3時になっててね。少し早いけど家を出たんだ。そしたら本当に早く着いちゃって。」
ケンちゃんはプリントを僕たちに見せた。そこには昨日メイちゃんの才能とケンちゃんと僕の努力で作り出した迷路の図面があった。さらに最短ルートがわかるように赤いペンでなぞってある。
「メイズは少なくとも準備は万全だよ。むしろ僕は君が発見したムーヴ攻略法の方が興味があるよ。」
ケンちゃんが僕を見た。
「その方法でちゃんとクリアできるのか?」
僕はうなずく。
「うん。少なくともストラックアウトはいけるはずだよ。むしろアスレチックが不安なくらい。」
「そっか。そこまで自信がある方法なんだ…。」
ケンちゃんは腕を組んでうなずき、そして考え込んでいる。
「ちなみに僕にも思い付けたと思う?」
いきなりケンちゃんから投げ掛けられたその質問に僕は戸惑った。
「うーん。どうかなー?ただ一つだけいえることは、この方法を思い付けるとしたら僕かケンちゃんだったと思う。コウちゃんには思い付かない方法だと思うよ。」
「それはどうして?」
ケンちゃんが僕を見て聞いた。
「コウちゃんは運動神経がいいからかな。」
「君の話はいつも難しいな。ダメだ。後で説明してもらうよ。」
ケンちゃんが笑ってそう言った。
「後で?今でもできるよ?」
僕がそう言った瞬間、後ろから手が伸びてきて僕の両目を隠した。
「だ~れだ~?」
「ユウちゃん…。声を出したらわかっちゃうよ。ここに来る女の子はメイちゃんとユウちゃんしかいないんだし。」
僕がそう言うと手がス―っと消えた。
「え~。でも『だ~れだ』って言わないと~。ルールでしょ~?」
「というよりメイがしゃべらないんだから。ユウ以外の選択肢がゼロだよ。俺ならメイに目隠しさせてユウに言わせたかな。」
振り返るとコウちゃんとユウちゃんが立っていた。
「二人とも今日はどちらへ?」
ケンちゃんが聞いた。僕たちかコウちゃんたちかがわからないから僕は様子をみた。
「あー、今日は俺は学校でサッカーやってた。で、昼頃からセイの様子を見に行ったよ。まさかサボることはないとは思ったけど一応な。」
「私は午前中は家でピアノ弾いたり~、クッキー焼いたり~。お昼食べてからはセイちゃんを見に行ってコウちゃんに会って~。で、今に至りま~す。」
もしかして二人で遊んでたのかと思ったけど違ったみたいだ。でもセイちゃんを見に行くことは決まっていたのかもしれない。
「ケンは何してたんだ?」
コウちゃんが聞いた。
「午前中は図書館で本を読んで、午後はこれをまとめてたよ。」
ケンちゃんはコウちゃんにプリントを渡した。
「おー。さすがだな。これがあればメイズは今日中にクリアできるかもしれないな。お疲れ!ケン。」
「お疲れさま~!ケンちゃ~ん!」
「これくらいはたいしたことじゃないよ。」
コウちゃんとユウちゃんの言葉にケンちゃんは照れたようにそう答えた。でもすごくうれしそうに見える。
「で~?二人はどこでデートしてたの~?キュウちゃんとメイちゃんは~!教えなさ~い!」
「え?で、デート?」
ユウちゃんがいきなり発した『デート』という単語に僕は驚いた。
二人で確かにいろいろまわったけど、デート?デート…だったの?メイちゃんはどう思ってるんだろう…。
メイちゃんの方を見るとノートにすごい勢いで何か書いている。そして書き終えるとみんなに見せた。
「この辺をぐるっとまわってからキュウちゃんの家でお昼を食べて、午後は川のそばの木を見に行ったよ。」
わかりやすい。今日の僕たちの行動を見事に一文でまとめてみせた。
「お~。見事なデートだね~。いいな~。楽しそ~う。」
僕たちの行動はデート になってる。決定?メイちゃんはそれでいいの?
僕はそんなことを考えながらメイちゃんを見た。
「しかし、メイも積極的だな。そんな性格は今まで少しも見せなかったのに。キュウにどれだけの魅力を感じたんだ?」
え?魅力?そんなものが僕にあるはずない。背もメイちゃんと同じくらいで高くないし、頭もよくない。運動も苦手でメイちゃんに助けられてばかり…。いいところを探す方が大変だと思う…。
「はい。みんな。キュウたちのことは後にしよう。そろそろ時間だよ。中に入ろう。」
僕の頭が混乱して何を言おうか悩んでいたら、ケンちゃんがみんなにそう告げた。メイちゃんの時計も3時28分だった。
「よし。ケンの言うとおりだ。後にしよう。まずはこっちが先だ!」
「は~い。二人とも~、終わったらた~っぷり話してもらうからね~。」
コウちゃんとユウちゃんはそう言って歩き出した。ケンちゃんもその後ろを歩く。僕とメイちゃんはそのさらに後ろを歩いていく。
「メイちゃん。デートでよかったの…?」
僕が小さな声でメイちゃんに聞いた。
「否定すると余計に大変になるから。これが一番いいの。」
メイちゃんは僕にそう伝えてニコッと笑った。
「キュウちゃんはデートじゃ嫌だった?」
メイちゃんが僕の顔をじっと見ながらそう口を動かした。僕は首を必死に横に振って答えた。
「嫌じゃないよ。嫌なわけないよ。僕はそんなこと言われたことないから。すごくうれしいよ。うれしいよ…。」
メイちゃんは僕を見て笑顔でうなずいた。
「お~い。お二人さ~ん。早く入るよ~。」
ユウちゃんの呼ぶ声が聞こえる。僕たちは急いだ。横を歩くメイちゃんの口が小さく動いた。
「よかった。」
僕には何のことかわからない。ただ僕はメイちゃんが『デート』と言われて嫌じゃないと思ってくれたことが本当によかった。




