第31話 二人での山道
「風が気持ちいいね。」
メイちゃんは笑顔でうなずく。二人で土手の上を走る。川沿いの緑が太陽の光で輝いて見える。
「まずはどこに行く?」
僕が聞くとメイちゃんは笑顔で口を動かす。
「着いてからの…。」
「お楽しみだね。了解しました。」
メイちゃんの伝えたいことを口の動きから先読みして僕がそう言うと、メイちゃんは弾けるような笑顔でうなずいた。こんな笑顔は最初のメイちゃんからは全然想像できなかった。
僕たちは橋を渡り町に入った。よく考えたら昨日はあっという間に通りすぎたからあまりよく見てなかった。だから町の中も新鮮な感じがした。左に曲がってすぐにパン屋さんがあった。ここは昨日ユウちゃんとセイちゃんが買いにいった店だ。少し先の道路の反対側には水の流れる広場、その横の階段から昨日は上がっていった。広場の正面にはお菓子屋さんがある。「ドーナッツはここだよ。」とメイちゃんが教えてくれた。僕は昨日のことをまるで昔のことのように思い出していた。メイちゃんは道をまっすぐ走り、祭り会場だった役場の前の信号を渡る。そして少し進んだ先のお菓子屋さんの前に自転車を停めた。
「ちょっと待ってて。」
メイちゃんは僕にそう伝えてから中に入っていった。そしてすぐに戻ってきた。あっという間過ぎて買ったかどうかもわからない。
「出発しまーす。」
メイちゃんはそう口を動かしてから自転車に乗って今来た道を走り出した。僕は後を追う。するとメイちゃんは役場へ続く道を上がっていく。僕も続く。坂は急なため歩くのも大変だったから自転車だともっと大変に感じる。でもメイちゃんがどんどん進むのに僕が止まるわけにはいかない。役場を過ぎたところでメイちゃんは急に自転車を降りた。僕もメイちゃんの横まで来て自転車から降りた。メイちゃんは広い駐車場の片隅に自転車を停めた。
「メイちゃん。ここは?」
「図書館だよ。上に見えるのが体育館。」
僕が自転車を停めながら聞くとメイちゃんが笑顔で説明してくれた。そしてさらに続けた。
「目的地はここじゃないよ。もう少し上なんだけど…。キュウちゃん、大丈夫?疲れた?」
僕は首を横に振る。
「大丈夫。だから連れていって。」
メイちゃんはうなずいてから歩き出した。僕もメイちゃんの横を歩く。なんかドキドキする。これからどこに行くのかわからないのもあるけど、女の子と二人でどこかに行くのも初めてだから。体育館の横を通りすぎてメイちゃんはその先にある木でできた橋を指差した。
「あそこ。遊歩道みたいになってて、山の中を歩けるんだって。ただ今は整備されてないみたいだし、一人じゃ心細くて。」
メイちゃんはそう言って僕を見た。
「メイちゃんは怖がりな冒険家だよね…。うん。わかった。行ってみよう。」
僕がそう言うとメイちゃんがうなずいた。そして二人で木でできた橋を渡り山の中へ続く道に入っていった。
「すごいね。この道。」
山の中を進む道は思った以上にアップダウンが激しかった。ときどき太い木が道を遮るように倒れていた。しかも木でできた階段は枠だけが残っているためつまずきそうになる。たぶん昔はウッドチップが敷き詰められていたんだろう。
「大丈夫?」
メイちゃんはときどき僕の顔をのぞく。だから僕は笑顔をたやさずにその道を歩いた。実際この道は空気がいいし、ワクワクするから楽しい。
20分くらい歩くと視界が開けた。目の前には芝生…。よく見るとどうやらパークゴルフ場らしい。たぶん遊歩道が使われなくなったあとにパークゴルフ場ができたんだろう。僕たちはパークゴルフを楽しむお年寄りに変な目で見られながら道なりに歩いた。そしてパークゴルフ場からだいぶ歩いたところで、メイちゃんが立ち止まった。
「キュウちゃん。ここどこだかわかる?」
僕は辺りを見回す。すると少し先に見慣れた建物を発見した。
「なるほど。こっちから来たんだ。いろんな道があるんだね。アメイズに来る道。」
「せっかくだから行ってみようか。」
メイちゃんは歩き出した。僕もとなりを歩く。そしてアメイズの駐車場に着いた。
「探検以外で来るの初めてだよ。」
僕がそうつぶやくとメイちゃんはアメイズの正面口の方へ歩いていく。そして入り口の前の階段に座った。そして僕に手招きをする。僕もメイちゃんの横に座った。
「お茶にしよう。」
メイちゃんはリュックから水筒と白い箱を取り出した。水筒の中身は昨日と同じジャスミンティー、白い箱からはカップに入ったプリンみたいなものが出てきた。普通のプリンと違い色が真っ白だ。
「キュウちゃん、どうぞ。」
僕はうなずいてそれを受け取った。
「いただきます。」
となりを見るとメイちゃんも「いただきます。」と口を動かした。僕はカップに入ったプリンみたいなものを食べてみる。
「おいしい。プリンみたいだけどちょっと違うね。白いのもそうだけど、ホワイトチョコみたいな味もするし。」
メイちゃんは笑顔で口を動かした。
「白いプリンっていうんだよ。一時はいろんなお店で作ってて、それぞれオリジナルのものを売ってたんだって。」
メイちゃんの説明を受けながら、僕はジャスミンティーを飲んだ。なんだかホッとする。ここには人も車もあまり来ないから時間が止まっているかのようだ。するとメイちゃんが僕の肩をトントンとたたいた。メイちゃんが手を差し出している。僕はその手をスッと握った。するとメイちゃんの顔がみるみる赤くなった。そして恥ずかしそうに口を動かす。
「ちがうよ。水筒のフタだよ。私も飲むから。」
「え?あ、ごめん。ごめんね。そうだよね。」
僕はあわてて手をはなし、フタをその手に渡した。メイちゃんはそれにジャスミンティーを注ぎゆっくりと飲む。それに比べて僕はドキドキを止めるのに必死だ。顔はたぶん真っ赤、手も少し震えている。
恥ずかしい。自分の行動が恥ずかしすぎる…。
そんな僕の肩をメイちゃんがまたトントンとたたいた。メイちゃんがジャスミンティーを僕に差し出し、「落ち着くよ。」と口を動かした。僕は息を大きく吐いてからジャスミンティーをゆっくり飲んだ。
「うん。落ち着くね。」
メイちゃんは笑顔で僕を見てうなずいた。また時間が止まった気がした。メイちゃんは空を見ている。僕もつられて空を見た。雲一つない真っ青な空だ。
5分くらいたった頃、メイちゃんがスッと立ち上がった。そして僕に手を差し出した。
「え?フタ?」
フタを差し出すとメイちゃんはフタを持っていた僕の手首を優しくつかんだ。
「そろそろいこう。」
メイちゃんに手を引かれて僕は立ち上がった。メイちゃんの手は僕の手首から手の方に移動する。そして僕の手からフタを受けとると水筒にかぶせた。
「帰りはこっちから。」
メイちゃんは指差して来た道と反対側へ歩き出した。僕も一緒に歩く。
「美味しかったね。プリンとジャスミンティー。」
メイちゃんはうなずく。
「でもあとでプリンの代金は教えてね。ちゃんと払うから。」
メイちゃんは首を横に振った。
「いいよ。今日は。」
「ダメだよ。ちゃんと払うよ。」
僕もさすがに譲れない。するとメイちゃんは立ち止まって僕を見た。
「じゃあ、今日は私。次はキュウちゃんが払って。ね?」
僕は悩んだけど、メイちゃんは言い出したらけっこう頑固だと思うから納得することにした。
「うん。じゃあ次は僕が払うからね?絶対だからね?」
メイちゃんは笑顔でうなずき歩き出した。メイちゃんは昨日通った坂を下る。僕は昨日のことをまた思い出す。すると僕の肩をトントンとたたいた。
「昨日はごめんね。重くなかった?」
メイちゃんが僕にそう聞いた。僕は首を横に振る。
「大丈夫だったよ。だからもしもまたフラフラしたら僕がおぶっていくよ。安心して。」
「気を付けるから大丈夫。それにもしキュウちゃんが倒れたら今度は私が助けるんだから。」
メイちゃんは昨日のことを思い出したのか恥ずかしそうに僕にそう伝えた。
「これ以上メイちゃんに助けてもらったら、全部返せなくなっちゃうよ。さっきだって……、」
僕はふと思い出したことをメイちゃんに聞いてみた。
「さっき『次は』って言ってくれたよね?じゃあまた僕と一緒にどこか行ってくれるの?」
メイちゃんが目を大きくして僕を見た。メイちゃんの顔が真っ赤になった。僕の顔も真っ赤になった。恥ずかしい。すごく恥ずかしいことを言った…。でも今さら言ったことを撤回はできない。
「また行こうね。次は僕がお金払うから。」
僕はそう言って歩き出した。メイちゃんもうなずいて歩き出す。顔が熱くて汗もすごい。僕は少しの間、恥ずかしくてメイちゃんの顔を見ることができなかった。




