第30話 練習終了
「キュウ。それくらいにしとけ。」
セイちゃんにそう言われたのは時計が8時を過ぎた頃。僕はあれから休み休みではあるけどずっとボールを投げていた。
「あんたは限度って言葉を知らないのか?やればいいってもんじゃないだろ!」
セイちゃんは時計を僕に突きつけた。
「え、あら。そんなにやってたんだ。何か不安が消えなくて…。失敗したらどうしようって。」
僕はその場に座り込んだ。メイちゃんが僕の横に来てノートを見せた。今までの結果がズラーっと表にまとめてある。そしてその下にメイちゃんは何か書き込んだ。
「成功率9割!大丈夫!絶対!」
内容よりもその力強いメイちゃんの字を見て僕は思わず笑ってしまった。
「メイちゃん、ありがとう。おかげで不安が消えたよ。」
メイちゃんは笑顔でうなずいた。僕も笑顔でうなずいた。
「あー、みんな連絡ついた。全員来れるって。まあ一人でも欠けたら無理なんだけどな。」
それを聞いて僕はうなずく。
「そうだね。ユウちゃんがいないと入れないし、ケンちゃんがいないとドアが開けられない。それにコウちゃんがいないと僕はムーヴの最後までたどり着けない気がするからね。」
「ああ。ムーヴはコウがいないとダメだし、テクニックはユウがいないとだめだからな。」
ユウちゃんはそう答えてから僕の前にしゃがみいきなり僕の頭をくしゃくしゃとさわった。
「でも今はあんたがいるおかげであたしがいなくてもムーヴはクリアできそうだし、ユウがいなくてもテクニックはクリアできそうなんだから。あんたはやっぱりすごいな。」
「誉めても何もでないよ…。」
僕は照れながらそう言った。
「みんな~。お茶でもどう~?」
セイちゃんのお母さんが僕たちを手招きしている。
「今いく!キュウ、メイ。いこう。お茶だ。」
セイちゃんが立ち上がって歩き出した。僕とメイちゃんもついていく。
「は~い。お茶とお菓子ね~。」
セイちゃんのお母さんはわざわざ庭にあるベンチまでお茶とお菓子を持ってきてくれていた。
「ふぅー。朝の一杯はうまいなー。」
セイちゃんは酔っぱらいみたいな言い方をしながらお茶を飲んだ。
「ところでキュウちゃんはいつ頃からこっちに来ていたの~?」
セイちゃんのお母さんがお茶を飲みながら僕に聞いた。
「一週間前くらいです。」
「へ~。おばあさんの家ではいつも何をしてるの?」
「朝におばあちゃんの畑を手伝って、昼間は庭の花とかを見てました。」
「そうだったの~。じゃあセイたちとはどこで知り合ったの?」
質問がどんどんくる。僕はお茶を飲む暇もない。
「夏祭りの会場です。」
そこまで言って僕は言葉を止めた。そして考えた。
アメイズのことは秘密にしてるのかな…?夏祭りのテントの話は大丈夫かな…?
「あたしたちのやってたパズルゲームのテントにキュウが来たんだ。それで仲良くなったんだよ。なあ?キュウ。」
僕が悩んでいるのがわかったのか、セイちゃんが助け船を出してくれた。僕はうなずく。
「それまで友達がいなかったのに、みんなが仲間に入れてくれて。だからとても楽しいです。」
僕の言葉にセイちゃんのお母さんは笑顔でうなずいた。
「さてと。キュウ。これからどうする?今9時だけど。あたしはぼちぼち出発するけど。」
「あっ、そうか。どうしよう…。」
僕が悩んでいるとメイちゃんが肩をトントンとたたいた。そして僕の方を見て口を動かす。
「もし、キュウちゃんさえよかったら…。一緒に自転車でこの辺をまわらない?」
「え?いいの?」
僕が聞くとメイちゃんは笑顔でうなずいた。
「キュウ。メイはなんだって?」
セイちゃんが僕に聞いた。セイちゃんはメイちゃんの口の動きでわからなかったみたいだ。
「自転車でこの辺を案内してくれるって。」
「そっかー。そりゃいいな。案内してもらえ!ただ、あんまり体力つかうなよ。」
そう言われて僕はうなずく。
「キュウちゃん、メイちゃんが何を言ったのかどうしてわかったの?」
セイちゃんのお母さんが驚いた顔で僕に聞いた。
「メイちゃんの口の動きでわかるんです。読唇術って感じで。最初はノートに字で書いてもらってたんですけど、こっちの方が早いので。」
「そうだったの…。」
セイちゃんのお母さんはそう言ってメイちゃんを見た。
「メイちゃん。よかったね。」
セイちゃんのお母さんはメイちゃんにそう言ってからニコッと笑った。メイちゃんは小さくうなずいた。僕は意味がわからないから黙って二人をながめていた。
「おい!じゃあ、あたしは行くぞ!」
セイちゃんが自転車にまたがりそう言った。
「うん。いってらっしゃい。」
僕が答えるとセイちゃんは笑った。
「じゃあ、またあとでな。」
セイちゃんは大きな声でそう言って自転車で走っていった。
「あなたたちもいってらっしゃい。自転車だと移動だけでかなりかかるから。」
セイちゃんのお母さんが僕たちにそう言った。
「はい。いってきます。ごちそうさまでした。」
僕がそう答えると、メイちゃんが肩をトントンとたたく。
「鍵とリュックとってくるから。ちょっと待っててね。」
「うん。わかった。ゆっくりでいいからね。」
メイちゃんはうなずくと家に駆け込んだ。そしてすぐにリュックを背負って出てきた。
「ゆっくりでいいって言ったのに。」
僕がそうつぶやくとメイちゃんはニコッと笑って口を動かす。
「キュウちゃん。いこう。」
「うん。」
僕がうなずくとメイちゃんは自転車のところへ駆け出した。僕もメイちゃんを追って…、と思ったけどその前にセイちゃんのお母さんに向き直った。
「おじゃましました。」
僕がそう言うとセイちゃんのお母さんは笑顔で僕に言った。
「また遊びに来てね~。あと、メイちゃんをよろしくね。」
僕はうなずいて自転車のところに走っていった。
「お昼はどうするの~?」
セイちゃんのお母さんが僕たちに聞いた。僕はメイちゃんを見る。メイちゃんは「どうする?」と口を動かした。
「12時前には連絡します。」
「は~い。いってらっしゃ~い。」
セイちゃんのお母さんはそう言って僕たちに手を振った。僕たちも手を振った。
「じゃあ、いこうか。」
僕がそう言うとメイちゃんはうなずいた。そしてメイちゃんの自転車が走り出す。僕もついていく。
メイちゃんは僕をどこにつれていってくれるんだろう?
僕はワクワクしながらメイちゃんの自転車を追いかけた。




