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アメイズ  作者: D-magician
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第28話 ムーヴの特訓

「キュウ。少し休憩したらどうだ?」


 コロコロとボールが転がるのを見てセイちゃんが言った。投げても投げてもなかなか思うように飛ばない。でも投げてみないと何もわからない。何かヒントをつかむために僕はまたボールを投げた。




「セイちゃん。ストラックアウトの練習できる場所ってない?今からでもできる場所。」


 帰ろうとしたセイちゃんに僕は駆け寄って聞いた。セイちゃんは驚いて僕に聞き返す。


「もしかして、あたしが頼んだことをやるつもりなのか?それならもういいぞ?諦めるから。」


「え?何で?諦めちゃうの?」


 セイちゃんは息をはぁーっと吐いて言った。


「諦めたくはないけど。ただあんたには厳しいだろ?的にも当たらないのに。」


「でも方法を考えることはできるよ。」


「だからあんたは的にも当たらないんだから。あんたの場合は的に当てる方法から考えないといけなくなるだろ?明日になるぞ?」


 セイちゃんの言うことは正しい。それでも僕は言い返す。


「場所だけ教えてくれたら僕一人でやってみる。だから場所を教えて。あるんでしょ?」


「だーかーらー!あんたは今日いろいろやって疲れてる!さらにメイをおぶって山から下りた!その状態のあんたに何ができる?、ムーヴの時点で的にボールが当たらなかったのに!」


 セイちゃんがまわりを気にしながら叫んだ。僕はそれに恐怖を感じた。足が震え泣きそうになった。でも続けた。


「確かに可能性はゼロに近いかもしれない。でもやってみることはできる。やらなかったらゼロだけどやったら少しくらいは…。」


「そんなことして体を壊したらどうすんだよ!明後日からはまたやれるのに!」


「僕がいつまでこっちにいられるかはわかんないんだから。それにもし明日の昼までにできなかったら明後日の夕方までは休むしかないんだから。無理してみてもいいでしょ?」


 セイちゃんが言い返さない。いや、言い返すのをやめたみたいだ。


「ったく。どこからそんなやる気が出てくるんだよ…。」


 セイちゃんはそう呟いた。そして急に笑顔になった。


「わかった。あたしの負け。教えるよ。練習できる場所。」


「ありがとう。」


 僕は頭を下げた。セイちゃんは髪をクシャクシャにしながら言った。


「まずはあんたのばあちゃんに連絡!飯を食べてからやるのか食べずにやるのかを相談!それを決めてから移動だ!」


「うん。わかった。」


 セイちゃんは自転車を走らせすぐそばの交番に向かった。僕とメイちゃんもついていく。


「すいませーん。」


 セイちゃんは交番に入るなり大きな声で叫んだ。僕とメイちゃんは驚いて交番に入らずに中をうかがう。すると警察官のおじさんが奥から出てきた。


「はーい。なんだ。セイちゃんか。どうしたの?」


「あ。電話かしてほしいんですけど。」


「あ~。いいよ。使いな。」


 どうやらセイちゃんとは顔見知りみたいだ。


「ありがとうございます。」


 セイちゃんは頭を下げてそう言った。そして振り向いた。


「おい。キュウ。電話使っていいって…。おい!あんたら何してるんだよ!」


 外からのぞく僕たちを見てセイちゃんはあきれている。僕たちはこそこそと中に入った。


「電話お借りします。」


 僕がそう言うとおじさんは「どーぞ。」と言って笑った。


 僕はおばあちゃんに電話をかけた。


「もしもし。あ~、モトムちゃん?どうしたの?」


 僕はそう聞かれて戸惑った。何て説明しよう…。するとセイちゃんが僕の電話をヒョイっと取り上げた。


「もしもし。私は昼にお邪魔した友達のセイカです。モトム君に野球の練習に付き合ってもらってですねー……」


 なるほど。その手があったか。


 僕が感心している間にセイちゃんはどんどん話を進め、あっという間に僕に電話を返した。


「モトムちゃん。友達にご迷惑をかけないようにね。あと気を付けて帰ってくるんだよ。」


「うん。わかった。」


 正直に言うと何もわかってない。でもとりあえずそう言うと電話を切った。


「よし。いくか。ありがとうございました。」


 セイちゃんはそう言って交番を出た。僕とメイちゃんも「ありがとうございました。」と言って頭を下げ、交番を出た。


「よし!いくぞ!ついてこい!」


 セイちゃんが自転車を走らせた。僕たちもついていく。信号を渡って道を左に曲がり、橋を渡った。下には大きな川が流れていた。


「セイちゃん。何がどうなったの?どうまとまったの?」


 僕が聞くとセイちゃんが笑いながら答えた。


「今から九時くらいまであたしの練習につきあってもらうって話にした。飯はこっちで食べることになったから。」


「え?悪いよ。そんなの…。」


「いいから!とにかくついてこい!」


 セイちゃんは大声でそう言ってスピードを上げた。僕とメイちゃんも頑張ってついていく。橋を渡ってすぐに右に曲がり土手の砂利道を走る。だんだん暗くなってきたみたいで夕焼けと青空と川沿いの草木の緑がすごくきれいに見えた。ただセイちゃんがかなりのスピードで走るからそれどころではなかった。おいていかれないように必死だった。途中で曲がり土手を下りる。そしてすぐにセイちゃんが急ブレーキをかけた。僕も慌ててブレーキをかける。そしてなんとか止まった。後ろを見るとメイちゃんがゆっくり僕の横を通り抜けて目の前の家の横に自転車を停めた。セイちゃんも自転車をその横に停める。


「キュウ。ここに停めていいぞ。」


 セイちゃんはそう言って隣を指差す。僕は恐る恐る自転車を停めた。


「セイちゃん…。ここはどこ?」


 僕がそう聞くとセイちゃんは笑って答えた。


「どこって。あたしの家だよ。あたしとメイの。」


「え?セイちゃんとメイちゃんの?」


 僕が聞くとメイちゃんはコクリとうなずき家のドアを開ける。すると奥から女の人が出てきた。


「あらメイちゃん。おかえり。セイは?あとこの子は?」


「あたしとメイの友達。今からちょっと練習するから。飯、この子の分も用意してー。」


 セイちゃんの返事が見えないところから聞こえる。女の人は僕を見て笑顔で言った。


「あらあら。セイがご迷惑をかけまして~。セイの母です。よろしく。」


「名園求です。セイちゃんとメ、じゃなくてアカリちゃんにはお世話になって…。」


「おーい!キュウ!いいからこっちに来い!」


 僕の挨拶が終わる前にセイちゃんが僕を呼んだ。


「はーい。あっ、えーと。」


 返事をしたはいいけど挨拶の途中。僕が行くかどうか迷っていると、


「行ってあげて。あの子はすねると手がつけられなくなるから。」


「母ちゃん!今余計なこと言わなかったか?キュウ。さっさと来い!」


 セイちゃんは地獄耳なのだろうか?僕はセイちゃんのお母さんに一礼してセイちゃんのもとへ走った。


「遅い!母ちゃんにつかまると長くなるし余計なことを吹き込むから面倒なんだ。」


 セイちゃんは腕を組んで何かぶつぶつ言っている。僕はセイちゃんの奥にあるものを見た。


「すごい立派だね。作ったの?これ。」


 そこにはムーヴにあったものとそっくりな的があった。あまりにそっくりすぎてこわいくらいだ。


「あー。父ちゃんに頼んで作ってもらったんだ。今だから言えるけどたぶん寸法は完璧だぞ!なんたってメイが決めたんだから。」


「あー、そうだね。メイちゃんがやったなら完璧だ。」


 セイちゃんと僕はさっき完璧を見せつけられたからよくわかる。これはきっとムーヴにあるものを完璧にコピーしたものだろう。


「ここから投げるの?」


「ああ。そこから。どっちのボールで挑戦するんだ?」


「僕はこっちにするよ。たぶんこっちの方がいい気がする。」


 僕が選んだのはサッカーボールの方。小さいボールだと変な方へ飛んでいく気がしたから。


「じゃあやってみるね。」


 僕はそう言ってボールを投げた。的に当たらない。的の奥にはネットが張ってあり、ノーコンの人でも大丈夫になっていた。ボールもどうやって用意したのか10個ある。僕はどんどん投げ、終わると全部拾いまた投げる。それをただひたすら繰り返した。





「セイ~。キュウちゃん。ごはんですよ~。」


 突然呼ばれたことと、まるでユウちゃんのような声だったことで僕は驚きのあまりボールを地面に叩きつけてしまった。声の主はセイちゃんのお母さんだ。


「はーい。キュウ!いったん飯にしよう。」


「う、うん。」


 僕はセイちゃんに連れられて家にあがった。外見も中も一般的な家だけど、玄関前におそろしいほど大量のトロフィーや賞状が飾られていた。いくつかはセイちゃんの名前が入っているが、残りはおそらくセイちゃんの両親のものだと思う。


「ああ。すごいだろ!父ちゃんは野球とサッカー、母ちゃんはバレーボールとソフトボールをやってたらしいんだ。」


「うん。別の種目で賞状をもらえてるんだから。セイちゃんがスポーツできる理由もよくわかった。」


「だろ?あたしなんてまだまだなんだよ。」


 セイちゃんはそう言って笑った。



「は~い。どんどん食べてね~。」


 焼き肉、刺身、山盛りのサラダ…。健康にたくましく子供が育ちそうなメニューだ。


「いただきます。」


 僕は取り皿に一通り取ってから一つずつ食べた。隣にいるメイちゃんも同じように食べている。セイちゃんの家族はご飯の上にそのままのせて一緒に食べる。家庭によって食べ方は違うのがよくわかる。


「なあ、キュウ君。名字は何ていうんだ?」


 僕にそう聞いたのはセイちゃんのお父さんだ。


「名園です。名園求といいます。」


「そっか。昨日メイちゃんが母さんに調べてほしいって頼んだのが君だったのか。」


「そうそう。メイちゃんが急に頼むからびっくりしたけど、せっかくの頼みだからいろいろ使って調べたのよ~。」


 セイちゃんのお母さんにメイちゃんが頼んでくれた…。だから今日僕はここにいるんだ…。


「名園さんって確か町から少し行ったところで農業やってるおばあさんだろ?確か、息子さんが東京で会社勤めしてるって言ってたけど。」


 そう。それが僕のお父さんのことだ。


「おばあちゃんと知り合いなんですか?」


 僕が聞くとセイちゃんのお父さんが答えた。


「ああ。ときどき野菜をいただいてるよ。道の駅で余ったら買わせてもらってるし。そうか。セイと同い年のお孫さんがいたのか。」


 それからセイちゃんのお父さんはいろいろ話してくれた。僕のおばあちゃんのことやお父さんのこと、セイちゃんのこと。でもなぜかメイちゃんの話にはならなかった。

 食べ終わって片付けを手伝おうとしたら、セイちゃんに引きずられるように外に連れ出された。


「続き続き!」


 セイちゃんのその言葉に僕はうなずき、またボールを投げ始めた。何度も何度も。でも来たときからあまり成果が上がらなかったので悩んでいた。


「セイ。キュウ君が何を目指しているか聞いたか?」


 突然の声に振り返るとそこにはセイちゃんのお父さん、その横にはメイちゃんがいた。お父さんはシャツに短パン、その体を見るとアスリートという単語が連想された。メイちゃんはワンピース、アメイズではズボンだったので余計にかわいく見えた。


「何を目指すって的に当てることだろ?」


 セイちゃんがお父さんに言った。するとお父さんはボールを拾って的に投げた。的のど真ん中をボールが突き抜けた。


「キュウ君。的にただ当てたいのか、それとも今みたいにボールに勢いが必要なのかで考え方は全然違うんだよ。場合によっては投げ方も変えるべきだから。」


 そう言われて僕は考えた。確かにボールは届けばいいから勢いはいらない。むしろできるだけまっすぐ投げたい。僕はセイちゃんのお父さんに聞いた。


「スポーツが苦手な素人が的をねらいたいとき、一番コントロールのいい投げ方って何ですか?」


 それを聞いてセイちゃんのお父さんは少し考え、それからボールを持った。


「人によって違うけど、たぶんこれかな。」


 ボールを両手で頭の上に持ち、そのまままっすぐ投げた。サッカーのスローインの投げ方だった。


「重要なのは体を捻らないこと。あとはボールを頭の上からまっすぐ投げるようにすること。それさえ注意すればこれが一番いいんじゃないかな。」


 すごくわかりやすい説明。僕はうなずいてボールを持ち、的の正面に立った。そして言われたように投げてみる。すると!


 バシン!


 見事に的に当たった。


「すごい。さすが父ちゃん。」


「そうか?照れるなー。とりあえずキュウ君はそのフォームで同じように投げてごらん。枠内には入るはずだよ。」


「ありがとうございます。」


 僕が頭を下げるとセイちゃんのお父さんは僕の頭をポンポンとたたき、「頑張りなさい。」と言って家の中に戻っていった。


「よーし。」


 僕はボールを次から次へと投げた。すると確かに枠内にはおもしろいように入るようになった。


「あとは狙った的に当てる練習。」


 僕がボールを拾うとメイちゃんが的を直してくれた。そして僕のそばに駆け寄って口を動かした。


「どこに当てたかメモするから。どんどん投げてね。」


 そしてメイちゃんはまた的の横に移動した。


「じゃあ、あたしはボール拾いでもするか。キュウ、どんどん投げろ。持ってきてやるから。」


「二人ともありがとう。僕、頑張るよ。」


 それから僕はボールを次から次へと投げ、セイちゃんは拾っては僕のそばに運び、メイちゃんは当たった的を戻しつつノートにまとめた。それはセイちゃんのお母さんに呼ばれるまで続いた。


「もう九時になるよ~。そろそろ帰りなさ~い。おばあちゃんが心配するよ~。」


「マジで?あたしたち、そんなにやってたのか。キュウ。体は大丈夫か?」


 セイちゃんにそう言われた瞬間、どっと疲れがきた。僕はその場にしゃがみこむ。メイちゃんが走ってきて僕に飲み物をくれた。ジャスミンティーだった。


「メイちゃん。データ見せて。」


 メイちゃんはうなずいてからノートを僕に見せた。わざわざ表にしてくれていた。枠外は『外』、当たった的は『1~10』の数字で記してある。すごくわかりやすい。そして最後にはメイちゃんの感想が…。


「投げ方を変えてから枠外に外れる回数は減りました。あと上の段(1~3)はよく当たります。逆に7~9をねらって投げたときは届かないことがあるみたいです。」


 通知表の先生の言葉みたいだった。メイちゃんを見るとニコッと笑った。


「メイちゃん。このページもらうね。」


 僕はメイちゃんがうなずくのを見てからそのページを破いてポケットにしまった。


「じゃあ帰るね。ありがとうございました。」


 僕はみんなに一礼して自転車に向かう。すると僕の前に車が止まった。


「今からじゃ危険だから家まで送るよ。自転車ものせなさい。」


 セイちゃんのお父さんだ。確かにここから帰るとき何かが起きないとも限らない。


「ありがとうございます。お願いします。」


 僕はそう言うと車の後ろに自転車を積んだ。そして車の助手席に乗った。


「それならあたしも送ってくよ。」


 そう言ってセイちゃんが後ろの席に座った。その横にはメイちゃんも。


「キュウ君、モテモテだなー。よし、出発だ!」


 セイちゃんのお父さんがそう言って車を発進させた。セイちゃんのお母さんは手を振って見送ってくれた。僕は手を振り返した。

 暗い道を車が走る。僕たちはデータを見ながらどうすればいいのか話し合った。でも話がまとまるより前におばあちゃんの家に着いてしまった。


「うちの孫がお世話になりまして。」


 おばあちゃんがセイちゃんのお父さんと少し話している間、僕は自転車を下ろしながらセイちゃんに聞いた。


「明日、朝からまた使わせてもらえる?」


 セイちゃんはやれやれといった顔をした。でもそのあとニコッと笑って言った。


「あたしはいつも6時には起きてやってるから。その時間からは来ていいぞ。ただ無理はするなよ。」


「うん。わかった。じゃあ6時過ぎに行くかもしれないから。」


 僕はうなずいてそう答えた。


「じゃあ、失礼します。」


 セイちゃんのお父さんがそう言って車に乗った。僕が車からはなれようとすると、メイちゃんの右手が僕の方へ伸びた。そして僕の顔をさわり頭をなでた。


「ありがとう。おやすみ。」


 メイちゃんはそう口を動かして笑った。


「うん。僕もありがとう。おやすみ。」


 僕もそう言って笑った。セイちゃんのお父さんが車を発進させた。僕は車に手を振った。


「また明日ね~。」


 そう言って車を見送った後、僕は気づいた。


 ああ。『次回』が『明日』に変わった。そうだ。僕はただ会いたかったんだ。明日もみんなに。

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