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アメイズ  作者: D-magician
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第27話 小さなプライド

「キュウ。大丈夫か?辛くなったら言えよ。」


 セイちゃんが振り向いて僕にそう言った。僕はうなずき、それでも一歩ずつゆっくり坂道を下りていく。

 今日一日で僕の中の普通では考えられないような運動をした。ムーヴでぶら下がり、テレパスで走り、メイズで走り…。体のあちこちが痛い。それでも頑張って坂道を下りているのは、下りなくちゃ帰れないという当然の理由が一つ。そしてもう一つは僕の中に見つけたすごく小さなプライド。本当に小さな、でも確かに見つけた男としてのプライドだった。


「スー、スー。」


 僕の後ろで小さな寝息が聞こえる。僕と同じくらいの女の子。でも、僕はこの子にずっと支えられていた。たった二日間だとしても、ずっとそばで支えてくれた。だからこそ思う。


 守らないと!僕がちゃんと!僕が責任もって守らないと。


 僕はセイちゃんに心配されながらもゆっくりと確実に坂道を下る。力を使い果たしたみたいに疲れて眠ってしまったこの子をおぶって。そう、メイちゃんをおぶって…。




「よし、とりあえず山を下りるか!」


「は~い。」


「うん。そうだね。」


「りょーかい!」


 コウちゃんの声にみんなが返事をした。みんなの声は明るい。それはアメイズの探検が思った以上に進んだからだと思う。

 みんながアメイズの敷地を出て山から下る坂道にさしかかった頃、僕はその異変に気づいた。メイちゃんが少し遅れて歩いていることに。


「メイちゃん、どうしたの?」


 僕が振り向いて聞いた。メイちゃんはニコッと笑って口を動かす。


「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ。」


 僕はメイちゃんが追い付くまで待ち、それから二人でゆっくり歩いた。そして坂道を下りようとしたとき、ふいに僕の肩にメイちゃんの手がのった。


「メイちゃん?」


 僕が振り向くのとメイちゃんの体が傾くのが同じだった。


「メイちゃん!」


 僕は慌ててメイちゃんを抱き抱える。メイちゃんの口は「大丈夫。ごめんね。」と動いているが体には力が入っていない状態だった。


「おい!どうした?」


 僕の声に気づいてセイちゃんが坂道をかけ上がってきた。


「メイちゃんがいきなりこうなっちゃって。どうしよう。どうしたんだろう?」


 慌てる僕とは対照的に、セイちゃんは冷静に手首をさわったり額に手をあてたりしている。そして坂の下にいるみんなに向かって叫んだ。


「メイが疲れて倒れたー!たぶん寝てるだけだからー!ゆっくり下りるからー!先に行っててくれー!」


「大丈夫なの~?手伝う~?」


 ユウちゃんがよくとおる高い声で下から聞いた。


「大丈夫ー!」


 セイちゃんが大きな声で返事をした。


「わかった!何かあったら呼んでくれ!すぐ行くから!」


 コウちゃんの声が響いた。セイちゃんは手を振ってそれに答えていた。


「さてと。じゃあいくか。キュウ。メイをくれ。おぶっていくから。」


 セイちゃんが僕に言った。でもそのときには僕はメイちゃんをおぶっていた。


「いいよ。僕がいくよ。」


 それを聞いてセイちゃんは驚いて言った。


「おい。マジか?大丈夫か?あんただってかなり疲れてるだろ?」


 セイちゃんの言うことはかなり正しい。僕にもかなり疲れがある。


「うん。でも、最後くらい。メイちゃんにはずっと助けてもらったから。お願い!」


 セイちゃんは僕を見ていきなり笑いだした。


「いきなりどうした?今日の昼の泣いてたキュウと同一人物には見えないな。」


 そう言ったあと、突然真剣な顔で僕を見た。僕は試されているような気がしたので真剣な顔で見返した。セイちゃんは僕の顔を見てからうなずき、急に笑顔になって言った。


「よし!あんたに任せた!ただ、無理はするなよ!あんたが倒れたらメイも危険なんだから!それだけは忘れるな!」


「うん。わかってる。危なくなったら呼ぶよ。」


 セイちゃんはそれを聞いてうなずき、歩き出した。僕も歩き出す。メイちゃんの両足を両手でぎゅっと押さえる。僕の足には僕とメイちゃんの体重が一気にかかる。メイちゃんはそんなに重くないけど、それでもけっこうつらい。ただ、背中に感じるメイちゃんの体温と耳元に聞こえるメイちゃんの寝息が僕には心地よく、僕に力を与えてくれたような気がした。




 坂道が終わり、ちゃんとした階段にかわった。僕はゆっくり一段一段下りていく。ふいに僕の首に何かが触れた。それはスーッと動いて僕の肩にのった。そして僕の肩をトン、トンとたたいた。


「起きたんだ。大丈夫?気分はどう?」


 僕が振り向くとメイちゃんの顔が目の前にあった。いつもなら口の動きを見るところけど、今はメイちゃんの口があまりに近くにあるから…。恥ずかしい。ドキドキする。だからメイちゃんにこう頼んだ。


「背中に字で書いてよ。そしたら僕が返事するから。」


 するとメイちゃんが右手で僕の肩に字を書いた。僕は歩くのに集中しつつも肩に書かれる字を読んだ。


「ありがとう。大丈夫?」


「大丈夫だよ。どういたしまして。」


 いつもは僕が『ありがとう』でメイちゃんが『どういたしまして』だから、いつもと逆だなと思う。


「私、もう歩けるよ。下りるよ。」


 メイちゃんの言葉に僕は首を振った。


「もうすぐ着くから。だからそれまで寝たふりをしてて。」


 そう言ったあと一呼吸おいてからこう続けた。


「それにメイちゃんにはずっと助けられてるから、だから僕が助けたかったんだよ。 だからお願い。もう少しだけ。」


 メイちゃんは僕の肩にぐるぐると円を描いた。そして、また字を書いた。


「わかった。ありがとう。下までお願いします。」


「うん。任せて。たまにはかっこいいところを見せたいから。メイちゃんに言われるまで全然考えてなかったのに。メイちゃんが何度もそう言ってくれたから欲が出ちゃった。少しでもいいからかっこよくなりたいって。」


 自分で言ってみて恥ずかしくなった。耳が熱いからたぶん真っ赤になってるんだと思う。するとメイちゃんの指が動いた。


「キュウちゃんはかっこいいよーーー。」


 そう書いたメイちゃんの手は僕の肩から首、顔の横をすべり僕の頭を三回くらいなでた。そしてまたすべるようにして肩まで戻るとそのまま僕の胸の前にあったもう片方の手と交差した。メイちゃんが両手にぎゅっと力を入れる。僕とメイちゃんの体がくっつく。メイちゃんの体温はもちろん心臓の音まで聞こえそうなほどくっついている。僕はドキドキしながらもゆっくりと階段を下りていった。



「お~。お疲れさま~。メイちゃん大丈夫~?」


「頑張ったな!キュウ。疲れただろ?」


 やっと広場にたどり着くとユウちゃんとコウちゃんが出迎えてくれた。僕はゆっくりとメイちゃんを下ろす。メイちゃんはゆっくりと着地してから立ち上がり、僕に深々と頭を下げた。


「メイちゃん。そんなに頭を下げなくても。また倒れちゃうよ?」


 メイちゃんはそれを聞いて頭をゆっくりあげてニコッと笑って口を動かす。


「キュウちゃん、どうもありがとう。」


「どういたしまして。」


 僕もそう言って笑った。


「おーい!買ってきたぞ!ドーナッツ!」


「あっ、キュウ。おつかれ。」


 セイちゃんとケンちゃんが歩いてきた。セイちゃんは手に袋を提げている。


「みんな一個ずつな。飲み物はさすがに買えなかった。」


 セイちゃんが袋から白い紙箱を取り出した。みんながそこから何かを一個ずつ取っていく。


「ほれ。あとあんたとメイの分だよ。」


 セイちゃんが箱ごと僕に渡した。箱の中にはアーモンド型のものが入っていた。真ん中に切れ込みがあり、クリームが挟んである。


「アメリカンドーナッツだよ。すぐそこのお菓子屋さんで売ってるんだ。これで110円。お得だろ?」


「ドーナッツってリング状じゃないんだね。この挟まってるのは?」


「カスタードだよ。あの店の一番人気!遠くからわざわざ食べに来る人もいるくらい有名なんだよ。」


「へー。じゃあ、いただきます。」


 僕は箱の中から一つ取り出しメイちゃんに渡した。そして最後の一つを取り出してガブッと食べてみた。ドーナッツはフワッと柔らかく、中のカスタードは甘さ控えめで美味しい。そしてとても食べやすい。


「美味しいね。これなら確かにお得だね。」


「だろ?食べやすいからどんどん食べれるんだよ。で、たくさん食べても値段が高くないから後悔しない!」


「そうだね~。セイちゃんは前に一人で五個も食べたもんね~。」


 ユウちゃんがそう言って笑った。


「いいだろ?何個食べたって!」


「いいけどさ~。財布の中身を見ないで買っておいて、10円足りないって叫ぶのはね~。」


「おい!お金が足りなかったのは二年も前の話だろ!最近はちゃんと買ってるし。変な話を吹き込むなよ。」


 セイちゃん、四年生でお金が足りないのはたぶん恥ずかしいことだよ。


 そんなことを考えながらドーナッツを食べていると、コウちゃんが僕たちの前に来た。横にはケンちゃんもいるから全員が集合した感じになった。


「よし。じゃあ今日はこれで解散。明日はセイが用事で遅れるから、中止の予定。もし雨が降ってセイが間に合うなら連絡する。」


 コウちゃんがリーダーっぽくみんなに伝えた。みんなはうなずく。


「よし。じゃあ何もなければ終わり。もう6時過ぎだからみんな気を付けてな。じゃあな。」


 コウちゃんはそう言って自転車にまたがる。僕たちに手をふってから走りだした。コウちゃんの家は僕の住む家と同じ方向らしい。そしてあっという間に見えなくなった。


「コウちゃんは家が遠いから大変だな~。じゃあ私も帰りま~す。といってもすぐそこだけど。じゃあね~。」


 ユウちゃんがみんなに手をふって自転車を押しながら歩いていく。


「いいな。ユウちゃんの家はすぐそこだから。まあ僕の家も遠くはないけど。じゃあ、また。」


 ケンちゃんも自転車に乗って走り出す。コウちゃんとは逆方向だ。


「よし。じゃあ、あたしたちも帰ろう。メイ、自転車乗れそうか?」


 セイちゃんがメイちゃんに聞いた。メイちゃんはうなずく。


「よし。キュウ。今日はお疲れ。また次回活躍を期待してるよ。」


 セイちゃんの言った『次回』という言葉がなぜか悲しく聞こえた。『明日』じゃなく『次回』という言葉に。


「キュウちゃん。じゃあ、またね。」


 メイちゃんがニコッと笑って自転車にまたがった。セイちゃんも自転車をこぎ始めた。


「セイちゃん!ちょっと待って!聞きたいことがあるんだ。」


 僕は慌てて呼び止めた。セイちゃんは不思議そうにこっちを見ている。


 『次回』を『明日』にする方法。それはわかっている。でもできる可能性は今のところ限りなくゼロに近い。でもゼロじゃないならやってみたい。


 僕はこっちを見ている二人に駆け寄った。

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