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アメイズ  作者: D-magician
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第26話 メイの才能

 みんなが注目している。とりわけケンちゃんは真剣な眼差しだった。


「じゃあ、僕の自信の根拠を説明するね。だけどその前にケンちゃんに聞いておきたいことがあるんだ。」


「僕に?なんのこと?」

 ケンちゃんはいきなり聞かれてびっくりしている。


「ケンちゃんは左手法でうまくいかなかったときのために何か他のこともやってたよね?ただ迷路を進む以外に。」


 ケンちゃんが僕をさらにじっと見た。そしてうなずいた。


「うん。やってた。キュウ、たぶん、君と同じことだと思うよ。やり方が違うだけで。」


「やっぱり。さすがケンちゃんだね。」


 当然のようにそう答えるケンちゃんに僕も笑って答えた。


「おい。二人で進めるな。いったい何やってたんだ?あんたら。」


「そうだよ~。説明説明~。」


「ああ。説明してくれ。」


「じゃあ、僕たちがそれぞれ何をしてたか説明するね。まずは僕から。」


 そう言って僕はメイちゃんに預けてた紙を受け取り、みんなに見せた。みんながのぞきこむ。


「何だ?この『正』って文字。その隣には右か左って書いてあるし。」


 セイちゃんは真剣に考えているみたいだ。


「なるほど。正の字なら歩きながら書きやすいか。ちなみに一画でどれくらい?」


 ケンちゃんは内容がわかっているだけある。質問の内容が深い。


「5でやったよ。1じゃ大変だし、10じゃ多すぎる気がしたから。」


「なるほど。的確だ。」


 ケンちゃんは納得したみたいでうなずいた。


「おい!説明!」


 セイちゃんが大きな声で言った。ケンちゃんはポケットから何かを取り出した。よく見ると携帯電話だった。


「ケン!あんた携帯持ってるのか?」


 セイちゃんがびっくりして叫んだ。


「一応言っておくけど使えないよ。これ。電話としては。親が使わなくなったのをもらったんだ。」


「じゃあ何で持ってるんだよ!」


「計算とかメモとかだよ。電話番号も登録できるし。あれ?話がずれたな。僕のデータはこれだよ。」


 ケンちゃんは携帯画面を見せた。


「ケンちゃんのは数字だね~。数字も20くらいからみたい。カタカナの『ヒ』は左の意味~?」


「あー、ってかとはキュウの『正』の字も数字か。一画で5。全部書いたら25か。」


「じゃあ数字は何だ?この二人はただ歩いてただけで定規とかを持ってたわけじゃないし。」


 セイちゃんは自分で言った大ヒントに気づいてない。そして大ヒントでわかった人もいた。


「あ、なるほど。そうか。歩数か。」


「正解。さすがコウちゃん。ちなみに僕はこれも持ってたから数字にしやすかったんだ。」


 ケンちゃんはベルトにつけていた万歩計を見せた。


「あ、じゃあ角を曲がるたびにリセットしたんだな。で、数字は携帯に入力か。やるなー!ケンは。」


「ケンちゃんは機械的でいいね。僕は数えながらペンで紙に書いたから若干正確かどうか怪しいから。」


「まあね。せっかく持ってたから使わないともったいないから。」


 ケンちゃんは嬉しそうに笑った。たぶんコウちゃんの『やるなー。』が嬉しかったんだと思う。


「おい。話がそれてないか?その歩数で一体何がまわかるんだ?』


 セイちゃんがそう聞いてきた。僕たちの話は確かに少し横にそれていたみたい。するとケンちゃんが説明を始めた。


「メイ。ノート1枚もらうね。まず僕の歩数を数字のとおりに定規でひく。まずは10歩、次は左に2歩って感じで。」


 ケンちゃんはメイちゃんから定規を借りて線をひいていく。そしてある程度進めたところで止めて僕を見た。


「キュウ、君のデータもかして。」


「うん。わかった。はいこれ。隣に歩数を5倍にした数字を書いておいたよ。」


 僕はそう言ってメモをケンちゃんに渡した。ケンちゃんはそれを受け取ると数字を見ながら線をひいていく。


「キュウは仕事が早くて助かるよ。おかげで計算する手間が省けた。」


 ケンちゃんはそう呟きながらも手を止めない。僕の数字は僕の歩数だからケンちゃんの数字とは少し誤差がある。ケンちゃんはそれを先に書いた自分の線と比較して頭の中で修正して線を書いている。その計算処理能力は本当にすごいと思う。


「ふぅ。まずはここまで書けた。」


 ケンちゃんは途中まで線をひいた紙をみんなに見せた。


「すご~い。こうなるんだね~。」


「さすがだな。」


「なるほど。これができればあたしでも迷わずにたどりつけるんだな。」


 その紙には僕たちの歩数を参考にしてひいた線によって迷路の壁の並びが描かれていた。それを見ればどこが行き止まりかなどがすぐにわかるようになっている。


「まだ一部だけど、僕とキュウのデータを合わせれば少なくとも今日歩いた迷路の図面が完成するよ。」


「お~!いいね~。次からは迷わないね~。お見事~!」


 ユウちゃんがそう言って拍手するとみんなもつられて拍手をした。


「ん?これはよくわかったけど、キュウの自信の根拠はどうした?」


 セイちゃんが我に返ったようにそう言った。


「そうだ。セイの言うとおりだよ。ここまでは僕とキュウは平等だろ?キュウは僕のデータを持ってないんだから。」


 ケンちゃんが僕を見た。僕はうなずいてからゆっくりと話した。


「うん。ここまでは一緒。ところでケンちゃん。もし今からデータをまとめて迷路の構造がわかったとするでしょ?そのデータで描いた迷路がこんな感じだったら仕掛けについてどう考える?」


 僕はさっきセイちゃんに解いてもらった迷路を見せた。『左手法と右手法の例外』の説明に使ったもので、真ん中に左手法と右手法では通らない場所が大きく存在する迷路だ。僕はペンでゴールの前の壁をまっすぐつなげて、ゴールできない迷路にした。


「ああ、これか。確かにデータをまとめた結果がこの迷路みたいに真ん中に何かがありそうな感じに仕上がったとしたら、僕も『立体交差』の案にたどり着くね。」


「でしょ?そして『回転ドア』の案は考えにくいでしょ?」


 ケンちゃんはうなずき僕をじっと見てから言った。


「ただ、それは僕とキュウのデータをまとめた結果がこうなったらの話で実際はまだこうなると決まったわけじゃないだろ?まさか君は自分のデータだけでこうなることがわかるって言うのか?」


 僕は首を振った。


「まさか。僕にはそんなことは無理だよ。」


「じゃあ、歩いたときの感覚でこうなることがわかるのか?」


 僕はまた首を振る。


「僕にはそんな能力ないよ。もしもそんな能力があったら歩数のデータもいらないでしょ?次は迷わないだろうから。」


「じゃあ、何なんだよ!君には能力がない。でも僕の案を否定した。その根拠は?」


 ケンちゃんが怒鳴るように言った。


「そう。僕じゃないんだよ。それができたのは。」


「え?どういう意味だ?君じゃないなら…。」


 みんなが静まり返った。


「ケンちゃん、さっきの途中までの迷路の図面貸して。」


「あ、ああ。」


 僕はケンちゃんから紙を受け取った。


「ケンちゃんはもちろんこの紙に描かれた迷路の先はまだわからないよね?まだまとめてないんだから。」


「それはそうだけど。今からやるんだから。」


「じゃあ、この迷路の先が描かれた図面があったら?」


「あるわけないだろ!まだまとめてないのに!」


 僕はメイちゃんからノートを受け取りみんなの前にゆっくり広げた。そしてケンちゃんのまとめた図面を横に置いた。みんなの視線がノートに集中する。そして、


「な、なんで?」


 ケンちゃんは驚いてそれを見ながら固まってしまった。


「え~、これは?どうして?」


 ユウちゃんも驚きのあまり語尾が伸びない。


「すげーよ。これは。」


 コウちゃんはノートに描かれたそれを目で追いながら言った。


「まさか…、これを描いたのって…?」


 セイちゃんが僕を見た。僕はうなずく。


「マジか。」


 セイちゃんはそう言ってそのあとの言葉が出ない。

 全員がそのノートを見て固まった。驚くのも無理はなかった。そこに描かれていたものは、ケンちゃんと僕の歩数のデータをまとめて初めてわかるはずの今日歩いた迷路の図面そのものだったのだから。その証拠にスタートから途中までをまとめたケンちゃんの図面とノートの中の迷路の図面は曲がり角の数も行き止まりの位置もまったく同じだった。


「そう。これはメイちゃんが描いたものだよ。しかも迷路を歩きながら。」


 僕がそう言うとみんなが目線をノートからメイちゃんに移した。


「これを見ればわかるけど、確かに真ん中に僕たちが行ってない場所がある。そしてケンちゃんの案の回転ドアがありそうな行き止まりもない。だから僕は自分の案に自信が持てたんだよ。これが僕の根拠。」


 みんなはまだ固まっている。そして最初に動いたのはやっぱりケンちゃんだった。


「ノート貸してくれ。歩数のデータと確認したいから。」


 そう言ってケンちゃんはノートの前に座りデータを見ながら確認を始めた。


「じゃあ、もしかしてメイがずっとキュウの後ろにぴったりくっついていたのって…。」


 セイちゃんが僕に聞いた。僕はうなずく。


「うん。僕も最初はわからなかった。メイちゃんに『つかんで歩いていい?』って聞かれたときなんて、正直どうしたんだろうって心配したくらいだった。でも迷路の中で真剣に線をひいてるのを見たら何かすごいことをやってるんだと思えたから。」


「メイちゃんは、どうやってこれを描いてたの~?」


 ユウちゃんが身を乗り出すように聞いた。


「左手で僕につかまって右手で鉛筆を持って。ノートはバインダーにはさんで首からさげて。」


「そんな状況で、しかも前を見ないで描けるものなのか?」


 コウちゃんはノートをちらっと見てから僕に聞いた。


「無理だよ。もし前が見える状況だったとしても、自分の歩幅とか歩く速度が変わるなかでこれを仕上げるのは不可能だよ。しかも、定規もなしにまっすぐの線をひくなんて。」


「定規もなし?それは確かに不可能だな。」


 セイちゃんが目を丸くしながら言った。


「メイちゃん。すごすぎるよ~。この才能は~。すごすぎて言葉が見つからないや~。」


 ユウちゃんがメイちゃんを見て笑いながら言った。


「ああ。さすがに言葉も出ない。『才能』で片付くレベルじゃないな。まさしく『天才』って感じだ。」


 コウちゃんも笑いながらそう言った。メイちゃんは恥ずかしそうにうつむいた。


「メイにはこんな才能もあったんだな。初めて知った。」


 セイちゃんはメイちゃんの頭を撫でた。


「うん。キュウの自信の根拠がよくわかった。確かにわかった。」


 ノートに向かっていたケンちゃんが顔をあげた。みんながケンちゃんを見る。


「すごいよ。距離や道幅まで。何も間違いを見つけられなかった…。」


「ケン。それってつまりは…?」


 コウちゃんがケンちゃんに聞いた。ケンちゃんはうなずく。


「完璧なあの迷路の図面。これさえあればあの迷路の半分以上はクリアできる。」


「やった~。すご~い。ばんざ~い。」


 ユウちゃんはとびあがって喜んでいる。


「よし!次は絶対クリアしよう!」


 コウちゃんも両手を上に伸ばして叫んだ。


「よっしゃー!次が楽しみだー。」


 セイちゃんもコウちゃんの真似をしながら叫んだ。


「次までに正しい道順を調べてコピーしておくよ。」


 ケンちゃんはそう呟いた。そして僕を見た。


「今回は残念だけど僕の敗けだよ。」


 ケンちゃんのその言葉に僕は首を振った。


「それは違うよ。それを言うなら『今回はメイちゃんの勝ち』でしょ?」


 ケンちゃんは笑顔でうなずいた。


「そうだね。今日はメイの勝ち。」


 ケンちゃんはメイちゃんの頭をポンポンと軽くたたいた。そしてこう呟いた。


「でも、メイには勝てる気がしないや。」


 ケンちゃんは他のみんなのそばに歩いていった。それを見送る僕の肩を後ろからトントンとたたいた人が。メイちゃんだ。僕は振り向く。するとメイちゃんがゆっくり口を動かした。


「私の勝ちじゃないよ。だってキュウちゃんが私を引っ張ってくれなかったらできなかったし、キュウちゃんが私を気遣ってくれてなかったら失敗してたかもしれないんだから。」


 僕の顔がまた熱くなった。僕は大きくうなずいてからメイちゃんに言った。


「じゃあ、二人の勝ちだね。」


 メイちゃんは笑顔でうなずいた。暮れ始めた太陽でメイちゃんが輝いて見えた。


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