第25話 キュウの発想
「じゃあ、僕の考えた方法を説明します。」
僕はゆっくりまわりを見ながら話し始めた。みんな笑顔で僕を見ている。ただケンちゃんだけは少し表情が暗い気がした。
「さっきケンちゃんが言ったように、それぞれ右手法と左手法を使った二人が出会ったということは迷路のほとんどをまわったことにはなる。ただ例外もあるんだよ。」
「例外?どんな状況だ?」
コウちゃんが質問してきた。僕はメイちゃんのノートに迷路を描いて説明する。
「この迷路。普通の迷路だけど、実は左手法と右手法を使ったら通らない道があるんだ。」
「何でだよ。全部通りそうだぞ?」
「なるほど。確かにあるね。」
セイちゃんにはわからなかったみたいだけど、ケンちゃんはすぐに見破った。
「セイちゃん。この赤いボールペンで左手法と右手法でさわるはずの壁をなぞってみて。」
「ああ。わかった。」
セイちゃんは左手法のつもりでスタートから左側の壁をなぞり始めた。この迷路にはゴールがあるからセイちゃんはあっという間になぞり終えた。
「次は右手法でと。」
セイちゃんが右側の壁をなぞり始めた。
「あ~。わかった~。なるほど~。」
「おお。ほんとだ。確かにあるな。」
「何でなぞってるあたしより先に見つけるんだよ!」
セイちゃん以外はわかったらしい。セイちゃんのペンは壁をなぞりそのままゴールした。
「あっ、本当だ。真ん中と左側の一部。なぞってない!」
「そう。これが例外。壁が独立している、つまり右と左の両方の壁にまったく接触してない場所があった場合に左手法と右手法で通らない場所ができるんだ。」
「なるほど。この真ん中の四角は右と左につながってない。だからその中は入ってないのか。」
セイちゃんが納得した。
「でも~、そうすると結局ゴールもないってことじゃない~?」
「そうだな。ただの袋小路ができただけだ。」
ユウちゃんとコウちゃんが問題点を的確に指摘した。僕はうなずく。
「うん。ただし、それは二次元ならだけど。」
僕がそう言った瞬間、パーンとケンちゃんがてを叩いた。
「そうか!いや、まてよ。でも…。」
ケンちゃんは呪文を唱えるようにぶつぶつとつぶやいている。たぶん頭の中で色々なシミュレーションをしているんだろう。
「おい。ケン。一人で進むな。」
「セイ。キュウがわかりやすく説明してくれるから。僕は一人で考えたいんだ。」
「おい!いきなり邪魔者扱いか?」
「セイ、キュウが続きを話せないから。それに一人で考えたいって言ってるんだから。」
セイちゃんをコウちゃんが止めた。
「あ、ああ。わかった。キュウ、続けて。」
「うん。続けます。」
僕はそう言ったあとケンちゃんを見た。ケンちゃんは考えることに集中しているらしく僕の視線に気づかない。
「二次元って平面ってことでしょ~?紙の上じゃ無理ってことでしょ?二次元じゃないってことは~、四次元!?」
ユウちゃんのいきなりのその言葉でみんながいっせいに笑いだした。ケンちゃんもさすがに聞こえてたみたいで震えながら笑いをこらえている。
「ユウ。いきなりそこにいくなよ。マンガやアニメじゃないんだから。」
コウちゃんが笑いながらつっこむ。
「さすがのあたしもちゃんと数は数えるぞ。」
「え~。ワープ的なものを期待したのに~。時間や空間を飛び越したかったのに~。」
「ある意味で僕たちのいる空間がユウちゃんワールドにワープしてるよ。いろいろ飛び越してるよ。」
ケンちゃんが的確なつっこみをいれた。僕も確かにそう思う。ユウちゃんのイメージやキャラクターなど、あらゆるものを飛び越した…。完全にユウちゃんワールドにワープしている…。
「じゃあ話を戻して~、三次元だったら何ができるの?」
ユウちゃんがいきなり話を戻してきた。みんなもユウちゃんワールドから戻ってきた…。
「つまり紙の上では不可能でも実際に僕たちのいた迷路ならできることがあるってこと。そうだろ?キュウ。」
ケンちゃんがいつもの明るい表情に戻っていた。
「うん。それが僕の考えた方法。左手法で解けない迷路に隠された通路。つまり立体交差!」
「立体交差?え?」
みんなの表情を見る限りたぶんわかってないのはセイちゃんだけ。
「セイちゃん。ある少年が庭でウサギを見つけて上からかごをかぶせて重石をのせました。ところが少年がウサギ小屋を作っている間にウサギは逃げてしまいました。ウサギはどこから逃げたでしょう?」
「なお、ウサギはかごをぶっ壊しません。」
僕の出した問題にケンちゃんが変な注意事項を付け足した。それを聞いてみんなが笑った。
「わかってるよ。そんなこと。そんなのウサギが穴を掘って…。あっ!そうか!トンネルか!」
「正解!上からは無理でも下からなら隣につながっているかもしれないってこと。」
「なるほど!それならわかる。さすがだな!キュウ!」
セイちゃんが盛り上がっている。それに水を差すようにケンちゃんが言った。
「待った。キュウ。僕には疑問が二つある。」
その言葉に今度はセイちゃんが反応した。
「何だよ。ケン。キュウに何の文句があるんだよ。」
「文句なんてないよ。疑問が二つあるだけだ。」
「は~い。二人ともやめなさ~い。」
ユウちゃんが止めに入った。
「ユウちゃん、今回は僕は悪くないよ。」
「そうだね~。セイちゃん!まずはケンちゃんの疑問について聞きましょ~う。」
「ああ。わかった。」
「では~、話を戻してケンちゃんの質問ど~ぞ~!」
ユウちゃんが絶妙な感じに話をもとに戻した。
「よし。じゃあ質問一つ目。下にトンネルがあるというけど僕たちは一階から二階に上がった。フロアの図を見る限りメイズの下はムーブがある。ムーヴは確かに階段を下りてから始めたけど、それでもかなりの高さまで上がったりもした。しかもメイズも下に階段を下りて始まった。ムーヴの上とメイズの下にそんなに空間があるのか?」
「お~。なるほど~。ではキュウちゃん反論をど~ぞ~!」
ユウちゃんが僕にマイクを向けるような素振りを見せた。
「うん。ケンちゃんの意見はもっともだと思う。」
僕が認めたのを見てセイちゃんがつっこんだ。
「おい!反論しろよ!いきなり認めるのかよ。」
「セイ。キュウが話終わってからにしてくれ。キュウ。それで終わりじゃないだろ?」
「うん。ケンちゃんの言うことは正しい。ただそれはこのアメイズの構造が普通の建物の一階と二階だったらの話。」
「なんだそれ?」
「そのこころは~?」
セイちゃんとユウちゃんが聞いてきた。ケンちゃんは腕を組んで僕の言ったことをイメージしているみたいだ。
「つまり学校の教室の二階の高さと、例えば体育館を二つ重ねてそれを二階建てって表現するのじゃ高さが違うでしょ?」
「そうだな。天井がめちゃくちゃ高い部屋も一階だからな。天井の高さが違うなら建物自体の高さも違うな。つまりキュウはアメイズの二階は普通の建物より高い場所にあるって考えているってことか?」
「お~。セイちゃんが珍しく理解がはや~い。回転ドアのときとは大違~い。」
僕が言う前にユウちゃんがつっこんだ。
「ユウ。うるさい!でも何でそんなことを考えたんだ?」
セイちゃんがもっともな質問をしてきた。
「うん。一階と二階をつなぐ階段が螺旋階段だったことかな。そこで何となく考えてた。」
「何で螺旋階段だったからそんなこと考えたんだ?」
「うん。むしろまず考えたのは何で螺旋階段だったのかなってこと。ただ二階に上がるなら普通の階段でよかったはずだから。で、あの階段を上がりながら思ったのは二階までがずいぶん遠いってことだった。いくら僕でも二階に上がるだけならそんなに時間はかからないはず。だからここの一階から二階まではかなりの高さがあるって考えたんだ。」
「なるほど。あたしは全然気づかなかった。」
「私も~。たぶんワクワクしてたからかな~。いざ次の階!って~。」
二人のその言葉で二人と比べて僕の体力がいかにないかがよくわかる。
「僕はメイちゃんに心配されるほどだったから。だからそんなこと考えたんだよ。」
僕はそう言ってからメイちゃんを見た。そして小さな声で「いつもありがとね。」と伝えた。メイちゃんは笑顔で「どういたしまして。」と口を動かした。
「うん。一つ目の疑問はわかった。でももう一つの疑問、こっちが僕が聞きたい方だ。」
ケンちゃんがそう言って僕を見た。
「うん。そうだと思ってた。こっちじゃないだろうって。」
「さすが。じゃあもう一つの疑問。それはキュウの自信がどこからきたのか?」
「は?それこそ、その疑問の意味がわかんないぞ!自信があったらいけないのか?」
セイちゃんが怒鳴った。でも僕にはこれも何となく予想できていたから落ち着いていた。
「セイ、まずは聞け。キュウの今までの性格は言葉のいろんなところに『たぶん』とかが入るほど自信がないものだった。でも僕の回転ドアの案に対してキュウが言ったのは『次の迷路にある』『この迷路にはない』というものだった。つまり僕の案を否定できて、自分の立体交差の案が正しいと思える絶対的な自信がないと言えないはずなんだ。僕はその自信の意味を、根拠を知りたいんだ。いったい何を発見したんだ?」
ケンちゃんが聞き終わるとみんなはシーンと静まり返った。
「ん~。よくわからないけど、キュウちゃんが何か自分の案を通せる根拠を見つけたってことだね~。キュウちゃん、あるの~?根拠?」
ユウちゃんが僕に聞いた。
「あるよ。僕一人では絶対に見つけられなかった、ケンちゃんの案を否定できた根拠。そしてメイズをクリアするための発見。」
「よし、それを聞かせてくれ!」
コウちゃんがそう言って僕を見た。
「うん。」
僕はうなずいてメイちゃんを見た。メイちゃんはうなずいてノートを持って僕の横に立った。
これを説明したらみんなは絶対に驚く。僕の案の根拠に。そしてそれ以上に、それを可能にした才能に。
そう。メイちゃんの圧倒的な才能に。




