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アメイズ  作者: D-magician
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第1話 祭りでの出会い

 コケコッコー!


 ニワトリが「起きろ!」とばかりに鳴いた。まだこの目覚ましには慣れないし正直心臓に悪いと思う…。外を見ると空が明るい。夏だからというのもあるけど東京に比べると北の大地は日が昇るのが早く感じる。布団をたたみジャージに着替え階段を降りる。ここに来て一週間毎日繰り返している。早起きもつらくはない。


 家の裏の畑に出ておばあちゃんを探す。


「おはよう。おばあちゃん。何すればいい?」


「おはよう。モトムちゃん。じゃあトマトとナスを採ってきて。おばあちゃんは卵を取ってくるから。」


 そう言っておばあちゃんは鶏小屋に向かう。僕はビニールハウスに入り、置いてあるかごにトマトとナスをもいで入れていく。こっちに来た頃はどれを採っていいかわからなかったけど一週間もたてばさすがに慣れた。 かごを担いで家に帰るとおばあちゃんはすでに取ってきた卵を目玉焼きにしていた。僕も野菜を洗ったりご飯をよそったりしておばあちゃんを手伝う。そしていつものように朝食を二人で食べる。一週間全く変わらない僕の習慣…。


「モトムちゃん。毎日手伝ってくれなくてもいいんだよ。たまにはゆっくり寝てても…。」


「うん。ごめんなさい。でも何かしないと落ち着かなくて…。」


「いや、謝らなくてもいいんだよ。何も悪いことはしてないんだから。おばあちゃんは助かってるから。」


「うん。ごめんなさい。」


 この僕の「ごめんなさい」は完全に口癖になっている。直そうとは思っていてもなかなか直らない。いや、治せない…。


 僕の名前はモトム。本名は名園求ナゾノモトムという。一応小学校6年生。東京に生まれ東京で育った。ただ、今は訳あっておばあちゃんの家に住まわせてもらっている。

 おばあちゃんの家は空港から車で一時間。近くの町まで歩いて10分。町には東京にあるようなガヤガヤとした人混みがないから落ち着く。でも東京にあるような店もないし遊ぶ場所も公園しかないから行かない。だから僕は毎日おばあちゃんの家や庭や畑で過ごしている。


 お茶を飲みながらテレビを見ていたおばあちゃんがふと気づいたように言った。


「そういえば今日は町で夏祭りがあるから行ってきたら?」


「何があるの?食べ物とかだけでしょ?」


「食べ物とかだけだけど美味しいものがあるよ。お金あげるから行ってらっしゃい。」


 あまり面白そうには感じないけど、おばあちゃんの言葉に小さな強制力のようなものを感じた。


「……。じゃあ…、お昼に行ってみるよ。」


 僕はそう答えた。おばあちゃんはそれを聞いてうれしそうに笑った。それを見て僕も静かに笑い、その後二階の部屋に上がった。


「行ったら何か変わるかな…。」


 小さく独り言を言ってから畳んだ布団に倒れ込んだ。そしていつのまにか深い眠りに入っていった。


「モトムちゃん。そろそろ起きたら?」


 おばあちゃんの声を聞いて僕は長い時間寝ていたことを知った。


「今何時?」


「もう2時半だよ。」


 さすがにびっくりした。今まで少し寝ることはあったけど昼を過ぎたことはなかったから。


「2時半?寝過ぎちゃった。お昼は?」


「お祭りで食べてらっしゃい。」


 おばあちゃんは笑いながらそう言って千円札を僕に渡した。


「7時くらいから花火もやるから。見てから帰ってらっしゃい。夕ご飯は作っておくから。」


「は~い。行ってきます。」


 おばあちゃんに見送られて家を出た。


 祭りに行ったら何かあるのかな…。


 そんなことを考えながら町までの道を行く。車はほとんど走っていない。人もほとんど見かけない。畑では大きな機械が仕事をしている。


 10分か…。東京で歩いたら1

駅くらいになるかな…。


 そんなことを考えながらゆっくり歩いていく。道路の両側に建物が立ち並ぶ東京と違い、両側が畑のせいか道が広く長く見えた。



 夏祭りの会場は町役場。役場は町の中心部。町を突き抜けていく道を進み信号を左に曲がり坂を上ったところにある。上り坂はかなり急に感じた。おばあちゃんの話では役場を通りすぎてさらに上ると図書館と体育館があり、道は山の上まで続いているらしい。


 会場に着くと人の多さにびっくりした。普段は車も人もあまり見かけなかったので、どこにこんなに人がいたんだろうと思うほどだ。といっても東京の神社などの祭りの半分くらいの規模だと思う。

 僕はとりあえず何があるかを見て回った。屋台はほとんどが焼きそばやフランクフルトなどの定番メニューで、僕もその定番メニューの焼きそばとフランクフルトを買った。

 祭り会場には4、5人で使えそうなテーブルとイスが用意されていた。が、ほぼ満席で家族連れやカップル、それに子供たちが友達グループで利用していた。なので僕は会場の隅の木に寄りかかって食べることにした。定番メニューはちゃんと定番の味がした。食べ終わって時計を見ると午後4時半を指している。


「花火まであと2時間半…。」


 ポツリと独り言を言ってから僕は悩んだ。


 2時間以上も時間を潰せる自信はないし、祭り会場も一回りしたし。こっちに来てからずっとおばあちゃんの家から出てないから友達いないし。というより友達が普通にできるなら今ここにいないし…。


 悩めば悩むほど気分が暗くなっていく。そして決めた。


 帰ろう。これ以上いてもすることはないし、花火は家から見ればいいし…。


 それでも最後に一回りしてから帰ろうと思って歩いていると会場の片隅に小さなテントが見えた。何を売っているかも書いてないし、座っているのは僕と同じくらいの女の子…。とりあえず近づいてみる。女の子は机の上のノートに何か書いていたみたいだけど、僕に気づいたみたいで顔をあげた。絵に描いたようにおとなしそうな女の子に話しかけてみる。


「ここはお店なの?」


「……。」


 その子からは返事がない。


「何か売ってるの?」


「……。」


 やっぱり返事がない。なんでだろう?不思議に思いながら机の上を見るとそこにはジャラジャラとしたおそらく知恵の輪みたいな物が3個、それとなぜかルービックキューブが置いてある。


「これやっていいの?」


「……。コクリ。」


 返事はないけど今度はうなずいてくれた。

やっていいんだ。僕が一つ目の知恵の輪を手に取ると、その子は時間を計り始めた。


「タイムアタック?」


 僕は小さく呟きながらも知恵の輪に取りかかる。静かなテントの中でカチャカチャと音がなる。


「これは簡単。」


 僕はそう言いながら一つ目を20秒で外して見せた。その子は目を大きくした。どうやら驚いてくれたみたいだ。


「次のもたぶんすぐとれるよ。」


 僕は笑いながら次の知恵の輪を外す。今度も20秒くらい。その子はもっと驚いてくれたみたい。


「次のとルービックキューブは時間計るの一緒でいいよ。」


 僕は最後の知恵の輪も20秒くらいで外し、ルービックキューブに取りかかった。そして約5分後。


「僕、パズルとか得意なんだ。」


 僕は得意気に完成したルービックキューブをその子に渡した。


 いつぶりだろう。こんなに楽しいと思えたの。


 僕はそんなことを考えながら帰ろうとした瞬間、いきなり後ろに引っ張られた。振り向くとその子の左手が僕の袖をつかんでいた。


「えっ、もしかしてお金いるの?」


 僕の質問にその子は首を大きく左右に振った。右手で新しいノートを取り、それを机に置いて鉛筆で何かを書き始めた。そして驚きながら見ている僕に、その書き終えたノートを見せた。


「お願い。私たちを助けて。」


 その文字からは強い意思を感じた。そして絵に描いたようにおとなしそうだったその子の目からも。

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