第17話 後悔と涙
「メイちゃん!どうしたの?」
僕はしゃがみこんでいるメイちゃんに近づいた。メイちゃんは下を向いたまま動かない。体がガクガクとふるえている。
「メイちゃん?」
僕はメイちゃんの前にしゃがみこんだ。メイちゃんの両方の肩に僕の両手をそっと添える。するとメイちゃんがゆっくりと顔をあげた。そして口を動かす。
「き、きゅうちゃん…。ご、ごめんね…。」
「え、どうしたの?何があったの?」
僕がそう聞くと、メイちゃんの目から涙がこぼれ落ちた。そして、口がゆっくり動いた。
「キュウちゃん。ごめんね。少しだけがまんして。お願い。」
「え?なにを?」
僕の言葉よりも早く、メイちゃんの両手が僕の背中に伸びた。そしてメイちゃんはギュッと僕に抱きついた。
「メ、メイちゃん?」
僕の胸にメイちゃんの顔が当たる。メイちゃんのふるえが僕の体に直接伝わる。メイちゃんの抱きつく力は強く、僕の体が痛いくらい。でもその力の強さが、メイちゃんの感じた不安や怖さがどれだけ大きかったかを物語っていると思えた。僕の胸のあたりが濡れている。僕の汗じゃない。メイちゃんの流した涙で…。
メイちゃんが泣いている。それを知ったとき、僕の中から後悔の感情が溢れてきた。どうしてこんなことに…。それを考えれば考えるほど、僕の中からそれは溢れ出す。僕はその溢れ出す感情に押し潰されそうになった。
僕がそばにいなかったせいで…。僕がメイちゃんを一人にしたせいで…。僕がメイちゃんと二人で入ろうって言ったせいで…。僕のせいで…。メイちゃんが…。メイちゃんが…。
僕の目から涙がこぼれた。そして僕は右手をメイちゃんの背中に、左手はメイちゃんの頭に添えた。そしてギュッと抱き締めた。
「ごめん…。ごめんね。メイちゃん…。僕のせいで…。僕のせいで。」
僕の涙がメイちゃんのに落ちる。涙が溢れ出して止まらない。メイちゃんよりも僕の方がふるえている。口から出る言葉は「ごめんね」だけになっていた。
トントン。
ふいに僕の肩を誰かがたたいた。振り向いてみたが誰もいない。肩をたたいた手はそっと僕の肩にのった。
「メイちゃん…。」
メイちゃんが顔をあげた。そしてもう片方の手を僕の顔へ伸ばし、そっと涙を拭いた。メイちゃんはゆっくり口を動かした。
「キュウちゃんのせいじゃないよ。私が悪いんだよ。私が怖くて動けなくなっちゃったんだから。閉じ込められたのはキュウちゃんなのに。」
「そんなことないよ。僕があの方法を考えたんだから。メイちゃんを一人にしちゃうことを考えなかったんだから。僕が悪いんだよ。僕が…。僕が…。」
僕の肩にのっていたメイちゃんの手がゆっくりと上にすすんだ。そして僕の頭をなでた。
「キュウちゃんは自分を責めすぎだよ。やってみたいって言ったのは私もだし。それにキュウちゃんは私のことをちゃんと考えてくれたよ。」
メイちゃんの顔がすぐそばにあるせいか、メイちゃんが本当に話しているような気がした。メイちゃんの口から出た音の無い声が、僕の耳を通って脳に直接届いているかのようだった。メイちゃんは僕の頭をなでながら口を動かした。
「キュウちゃんは、私の心配をしてくれた。『何かあったら笛を長く吹いて。』って言ってくれた。私の笛を聞いて戻ってきてくれた。私を心配して戻ってきてくれた。だから…。」
メイちゃんの両手が僕の顔の横で止まった。メイちゃんは僕の目をじっと見た。そして、一言。
「キュウちゃん。ありがとう。」
僕にそう伝えた後、ニコッと笑って見せた。僕は何も答えられなかった。涙は今も止まってない。むしろ勢いを増した気がする…。
メイちゃんの手が僕の頭と背中の方へのびていき、優しくなでた。僕も同じようにメイちゃんの頭と背中をなでた。お互いの頭がお互いの肩にのる。メイちゃんの温かさを感じる。メイちゃんの鼓動を感じる。
どれくらいたったのかはわからないけど、僕はやっと落ち着いた。僕が手を止めるとメイちゃんも同じように手を止めた。僕が顔をあげるとめいちゃんも顔をあげた。
「メイちゃん。ごめんね。ありがとう。」
僕がそう言って笑うとメイちゃんも、口を動かした。
「キュウちゃん。ごめんね。ありがとう。」
そしてニコッと笑った。
ゲーム台の時間を見ると3分くらいになっていた。みんなはもう他の部屋から出てきてるはず。心配してるかもしれない。
「みんな待ってるだろうから戻ろうか。」
僕がそう言うとメイちゃんはうなずいた。そして二人でドアの方へ歩き出した。
ドアを僕が開けようとすると、メイちゃんが僕の肩をたたいた。メイちゃんの方を見ると口が動いた。
「泣いたことはみんなにはないしょね。」
僕はうなずいてから言った。
「うん。秘密にしようね。」
僕たちは笑顔で部屋から出た。
さっき部屋であったことをないしょにして。泣いたことを秘密にして。




