第12話 テクニック
「何かせまく見えるね。ムーヴをクリアしたあとだからかな?」
「そうだよ~。ムーヴが広すぎるんだから~。ここはたぶんパズルと同じくらいだよ~。」
テクニックと呼ばれるこの部屋はムーヴと比べたらせまい。そのせいなのかはわからないけどムーヴより緊張しない。部屋の広さはユウちゃんが言うとおりパズルと同じくらい。その部屋が壁で3つに分けられている…、とユウちゃんから説明された。
「じゃあ、まずはこれ。やってみよ~。」
「…。ねえ、これはなに?」
僕たちの目の前には鉄の檻。長さは約3メートル、高さは約1メートル、奥行きは約3メートル。その中には5匹の犬。詳しくないからわからないけど、警察犬みたいな犬たち。パッと見た感じはかなり怖い。こっちをジッと見てるから余計にこわい…。
僕たちの前、檻の真ん中にガラスみたいな透明の箱がある。箱は高さは檻と同じ、横は60センチくらい、奥行きは40センチくらい。真ん中で仕切られていて、上の方には左右に二つ、それぞれ手を入れる穴がある。が、穴はフタのような物で塞がれている。そのすぐ横にはスイッチが見える。犬側には、真ん中くらいの高さに犬の顔が入る穴がある。穴は左右に1つずつあり、犬が顔を入れて上を向いてもたぶん上の穴に入れた人の手には届かない。噛まれないように作られているんだと思う。また犬側には仕切りがあり一匹ずつしかこの箱の前に立てないようになっている。そして上から見ると、犬の顔の穴より下には受け皿みたいなものが見える。
この箱の横には台があり、上には四角い箱。それをユウちゃんが開けると中にはドッグフードをピンポン玉くらいに丸めたものが入っている。
「見ればわかると思うから~。じゃあ…!」
「え?え?待って!ユウちゃん。」
いきなり説明を省こうとするユウちゃんを僕は焦って止めた。
「待って。見てもさっぱりだから。説明して。僕には犬のエサをあげるための穴にしか見えないから。」
「お~。わかってるね~。じゃあ大丈夫~。」
「いや、絶対大丈夫じゃないから。」
「ん~。じゃあ説明しま~す。」
「お願いします…。」
本気か天然かわからないこのユウちゃんのテンションはすごい…。
「まず、この箱の上のスイッチを押すと~」
ユウちゃんが箱のスイッチを押した。するとガチャッという音がして手を入れる穴のフタが開いた。
「そしてこのエサを持って~」
ユウちゃんがエサを右手に持つとそれを見た犬たちが集まってきた。そして一匹が箱の前にきた。他の犬は後ろに並んでいる。
「このエサを落としますと~」
ユウちゃんがエサを落とした。そのエサが犬の前にさしかかった瞬間!犬が顔を突っ込みエサをパクッと食べた。
「は~い。これが失敗で~す。」
「え?失敗?」
「うん。犬にエサを食べられたら失敗~。一回の挑戦でやれるエサは10個。そのうち6個を食べられずに落として受け皿にのせれば次の部屋のドアが開きま~す。では、キュウちゃん!頑張って~!」
ユウちゃんが指差す先には確かに次のドアがある。けど…。
「…。ユウちゃん、失敗は口で説明してくれてもよかったんじゃない…?1個エサ減らさなくても…。」
「大丈夫だよ~。キュウなら。ふぁいと~。」
「うん…。やってみるね。」
やってみるとは言ったけど…。あと9個でそのうち6個を成功させないといけないから、失敗できるのは3個。やってみるといえる余裕がある数じゃない。どうしよう。 僕はまずエサを1個持ってみた。犬の目線が僕に集中する。そのまま台から歩いて離れてみた。犬はついてくる。けど、箱の前の犬だけはそこから動かない。つまり、「離れたところに引き付けてダッシュでエサを箱に入れる」という方法は無理。
次に僕はエサを持って箱に手を入れた。箱の前にいる犬の目がエサをとらえている。僕は勢いよく下に投げるように落としてみた。これが成功するなら楽なんだけど。犬の目の前にきた瞬間、パクッと食べられてしまった。
「あと、考えられるのは~。」
僕が悩んでいると肩をトントンとたたかれた。振り向くとそこにはメイちゃんがいて、口をゆっくり動かした。
「犬を驚かせてあげて!」
「犬をおどろかす…?」
僕が聞くとメイちゃんは笑顔でうなずいた。
「あっ、そうか。」
僕はある方法を思い付いた。と、同時にあることを思い出した。それは自己紹介のマジックをしたときのこと。前半のペンのキャップとコインのマジック。セイちゃん以外はなぜかマジックのタネがわかっているようだった。そしてこの部屋に入る前にコウちゃんの言った「必要な技術」という言葉の意味…。
「メイちゃん、ありがとう。」
僕はメイちゃんにそう言った。メイちゃんは笑って口を動かした。
「頑張って。」
僕は笑顔でうなずき、エサを右手に持った。そして犬の前に立ち、犬に堂々とエサを見せた。犬の目線がエサに集中する。
「いきます。」
僕はそう言って、右手のエサを左手の上にのせ左手を握った。握った左手を穴に入れる。犬が左手の穴に顔を入れて待っている。僕の左手が開く。犬の目も開く。が、左手からはエサは落ちてこない。そして受け皿の上にゴトッという音とともにエサが落ちた。
僕は右手から左手にのせる動きをしたけど、実際は右手のエサを離さなかった。左手は握っただけ、右手のエサは見えないようにして握る。そして右手は動かさずに左手を動かす。この動きがスムーズにできれば犬の意識を左手に集中させられる。そして左手を穴に入れれば、犬は左の穴に顔を入れる。右と左の手を同時に開けば、左に顔を入れた犬は右のエサを食べることは絶対にできない。
「うん。これでいいみたい。」
僕は次のエサを取り、同じ動きをした。そしてエサを受け皿に落とした。それを繰り返す。できる限り早く正確に…。
「よし。クリア。」
僕が6個目を受け皿に落とすと、ガチャっという音がした。たぶん鍵が開いたんだと思う。
「お見事~!さすがキュウちゃ~ん!さあ次に行こ~う。」
ユウちゃんが大きな声でそう言ってドアに向かった。僕もついていく。隣をメイちゃんが歩く。僕と目が合うと口を動かして、
「かっこよかった。」
と笑顔で言ってくれた。
「ありがとう。」
僕も笑顔で返した。
ユウちゃんがドアを開けて中に入っていく。僕たちも続く。
「さあ、次はこれだよ~。頑張ろ~う!」
僕たちの前には金属の管が2本、それがコースのようにのびている。2本の間は15センチくらい、上りや下り、途中で狭くなっている場所もあるみたいだ。某テレビでやってるスプーンのやつに似てる気がする…。
「スタート地点で手を差し込んで、ボールを5個持ってゴールに運びま~す。15個運べば次のドアが開きま~す。というわけでお手本を見せま~す。見ててね~。」
ユウちゃんがそう言いながら2本の間に手を差し込む。そしてスタート地点の台の上にあるボールを指の間に1個ずつ挟んだ。それぞれの指に1個ずつだから4個、あと1個は?と思ったら手のひらにくっつけるようにして持った。
「キュウちゃんはマジックやってるからこの技の名前わかる~?」
ユウちゃんがいきなり僕に聞いた。僕の知っているマジックの技の中に確かにある。
「…。パーム…でしょ?手のひらとかにコインやカードを隠し持つ技だよね?」
僕は小さな声で答えた。
「正解~。っていっても私もケンちゃんが調べてくれたから知ってるんだけどね~。」
「パームはしないとダメなの?手に5個持ったりするとか…。」
「ボールが意外と大きいから手に持つと安定しないのと~、コースの途中で手の向きを変えたりする場所があるから~。このやり方が一番みたいだよ~。」
「そうなんだ。」
「じゃあ私が先に進むから、メイちゃんとキュウちゃんはついてきてね~。」
「う、うん。わかった。ついてくよ。」
僕は急いでユウちゃんの後ろについた。右手を差し込みボールを指にはさむ。ボールはピンポン玉くらい。確かに5個は手に全部持てない。指にはさんだ方が安定する。最後の1個を手のひらでつかむように持った。コインで練習してたおかげでしっかり持てる。3ヶ月くらい頑張って練習したから。こんなところで成果を発揮するとは思わなかったけど。
「じゃあしゅっぱ~つ。レッツゴ~!」
ユウちゃんが歩き出した。僕が2番目、その後ろにメイちゃん。歩き出してすぐにコースの上下にフェンスがついた。右手のボールを落としたら拾えないようになっている。自然と右手に力が入る。
「キュウちゃ~ん。もしパームをしたりしなかったりができるなら最初のうちはしないで手のひらにのせておくと疲れないよ~。」
「あっ、そうなんだ。やってみるよ。」
手のひらの力だけを抜く。するとボールは手のひらの上をコロコロと動いた。
「最後の方はず~っとパームしっぱなしだから~。途中も手の向きを変えたりするし~。だからうまくやってね~。」
「うん。わかった。」
僕は指の力は緩めないように、手のひらのボールも落とさないように注意しながらユウちゃんに遅れないようについていく。なるべくユウちゃんとの距離をとりながら。近すぎたら止まらなきゃならなくなり、後ろのメイちゃんが僕にぶつかっちゃうかもしれないから。
コースは右に左に曲がり、その後、斜め上に進む。階段が用意されていて僕たちはそれを上りながら注意して進んだ。
「ユウちゃん。今さらだけど、この金属のコースに触れたら電気が流れるとかはないよね…?」
「うん~。大丈夫だよ~。私も他のみんなも何度か失敗してるし、コースにさわったこともあるから~。むしろ疲れたらコースに手をのせて休んだこともあるよ~。」
「そっか。よかった~。一応気になってたから。」
「あ、キュウちゃん。パームして~。ここから下りと手の向き変えるのがあるから~。」
「え、うん。わかった。頑張るよ。」
僕は指を内側に向け、手のひらをくぼませる。手のひらを転がるボールは手のひらの真ん中で止まる。そこで力を入れるとボールが親指と小指の付け根ではさめる。
「大丈夫そうだね~。じゃあ落とさないように注意してついてきてね~。行くよ~。」
「う、うん。」
ユウちゃんが階段を下り始めた。僕も続く…前に後ろをチラッと見た。
メイちゃんは…?
メイちゃんは僕のすぐ後ろにいた。僕と目が合うとニコッと笑い、口を動かす。
「だいじょうぶだよ。がんばって。」
その言葉が、「私は大丈夫」という意味か、それとも僕を心配しての「大丈夫」なのかはわからない。ただ少なくともメイちゃんは大丈夫に見えた。メイちゃんの手は小さい。でもボールはしっかりとはさまれていた。何度も練習したからできるのか、それとも当たり前にできているのか…。メイちゃんは謎が多い。
「うん。いこう。」
僕はメイちゃんにそう言って歩き出した。
階段に沿ってコースは下る。途中で階段みたいになっている場所や細くなっていて手の角度を変える場所もあった。
ふぅ。きつい
ムーブをやったからか、ボールを持つ手がしびれてきた。
「ユウちゃん。あとどれくらい?」
「もうすぐだよ~。あとこの階段を上って、滑り台をスーッと滑って終わり~。」
「階段?滑り台?」
ユウちゃんの目線の先には階段、その先には確かに滑り台がある。
「それってかなり大変じゃない?」
「大丈夫だよ~。たぶん。滑り台の下でボールを落とさなければ~。」
「…。それが大変だと思うんだけど…。」
ユウちゃんが階段を上る。僕も上る。上りながらユウちゃんの手を見た。ユウちゃんはピアノを弾けると言ってただけあって指が長い。だから安定してボールをはさんでるように見える。でもそれだけじゃないようにも見える…。よくわからないけど…。
階段を上ると、そこは天井ギリギリだった。しゃがんで進むのはけっこうつらい。足がビリビリしびれる。でも足に気をとられると、手のボールを落としてしまいそうになる。
頑張らないと。ここまで来て、また最初からは嫌だし…。
痛みというか痺れに耐えて進むと視界が開けた。目の前には滑り台が…、かなり急な滑り台が現れた。
「これを滑ってあの台の上にボールを置けば終わり~。」
「ユウちゃん…。これ、急すぎない?」
僕たちの目の前の滑り台は公園にあるものとは明らかに角度が違う。下から上がってこれないような角度だった。
「じゃあ行くよ~。」
僕が見てる前でユウちゃんが体を寝かせるようにして、一気に滑っていった。そして滑りきった先で体を起こし、台の上までコースに沿って手を移動させる。そして、
「これでクリア~です。」
ボールを台の上に置いた。
「キュウちゃん。いいよ~。」
下からユウちゃんが手をふっている。でも僕にはこれはかなり怖い。しかも手を緩めちゃいけないし。
「キュウちゃ~ん。大丈夫だから~。」
ユウちゃんの声が聞こえる…。でも意を決して滑り台を滑ることと手の力を抜かないことを一緒にできる気がしない。そこで、
「メイちゃん…。お願いしてもいい?」
僕はそう言ってメイちゃんを見た。メイちゃんは僕が何をしてほしいかわかってるみたいで大きくうなずいた。僕はそれを見て自分が情けなく思えた。
でも、失敗するよりはいい。
僕はゆっくりその場に寝た。右手を緩めないように注意して。そして、メイちゃんの方に左手を差し出した。メイちゃんはその手をギュッと握ったあと僕の顔を見て、
「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。」
と、笑顔で言った。僕はひきつった笑顔でうなずき、メイちゃんに言った。
「メイちゃん。お願いします。」
メイちゃんはうなずき「いくよ。」と口を動かす。そして僕の手をグイッと押した。
「ああ~。」
微妙な悲鳴とともに僕がすごい早さで落ちていく…。メイちゃんの笑顔が遠ざかっていく。僕ができることはただひとつ。ボールを落とさないこと。手のひらは上を向けている。パームしている手はゆるめてない。あとは…。
ドーン!
考える時間もなく僕は滑り台を滑りきり、クッションみたいなものが足にぶつかった。かなり怖かった…。右手を見るとボールが5個、しっかりあった。僕はフラフラと起き上がり台の上まで右手を移動させ、
「ク、クリア…。」
台の上にボールを置いた。そして、ふぅーっと息を吐いた瞬間!
ドーン。
振り向くとメイちゃんが滑ってきていた。僕と目が合うといつものようにニコッと笑い、体を起こした。僕は左手を差し出した。いつも助けてもらっているお礼の気持ちか、それとも…?
「ありがとう。」
メイちゃんが笑顔で僕の左手に左手をのせてにぎった。
やっぱり小さいな。
メイちゃんの手が僕の手に力をかけたとき、僕はそんなことを考えていた。メイちゃんが立ち上がって左手をはなし、右手のボールを台に置いた。
「よ~し!じゃあ最後の課題へ急ぎましょ~う!行くよ~!」
ユウちゃんが奥のドアに向かって歩き出す。僕たちもついていく。僕はムーヴの疲れと今ので手がかなり痛い。右手をブラブラ振ってみる。かなりだるい。
「メイちゃんは平気なの?右手。」
僕が聞くとメイちゃんは笑顔でうなずいた。やっぱりメイちゃんは強いと思う…。
僕たち3人はドアを通った。そこには壁があり端の方にドアがある。壁の真ん中にはいろんなところで見かけるATMみたいなものがある。近づいてみるとそこにはカードを差し込むような入り口とカードを置ける台、そしてトランプがある。トランプは2つで、それぞれ裏が青と赤。枚数ははたぶん青と赤を合わせて1セット分、54枚くらいに見える。台は学校の机くらいの高さで、カードの差し込み口みたいなものは台の奥の方の壁で目線の高さくらいにある。
「青と赤のトランプがありま~す。まず青はマークを下、赤はマークを上にしま~す。そして青と赤を1枚ずつ取って重ねて2枚を1枚のように持ちま~す。で、2枚をずれないように差し込みま~す。これを全部やればクリアで~す。」
「うん。かなり大変だね。ユウちゃん、これって時間制限は?」
「ないよ~。このフロアに入って7分たったみたいだから、あと3分でクリアしないといけないけど~。」
「このトランプは青と赤は同じ枚数なんだよね?さっきの説明だと。」
「うん。同じ枚数だね~。スタートの時点、つまり今は青と赤がきれいに分かれてるよ~。」
僕の質問にユウちゃんは的確に答えてくれた。おかげで何をどうしたら早く終わるかがわかった。
「ユウちゃん。これ、僕がやってみていい?」
僕の言葉にユウちゃんが驚いて言った。
「お~。いいよ~。いつもは赤を台に並べて青を重ねてってやるけど~。一人でできるの~?」
「うん。できるはず。最後だし。頑張る。」
「よ~し。任せたよ~。いいよね?メイちゃ~ん?」
僕がメイちゃんの方を見る。メイちゃんは笑顔でうなずき、「がんばって」と口を動かしてくれた。
僕はうなずき、台の前に立った。そして、大きく息を吸って。
「いきます!」
と、大きな声で言った。それは心の中の不安を言葉で打ち消したかったから。
僕は右手で青トランプを裏向き(青面が上)で、左手で赤トランプを表向き(赤面が下)で持つ。持ち方はトランプを普通にきる持ち方で。トランプの端を台の上でトントンと打ち付けトランプの縁が上の面と垂直になるようにする。そして両手のトランプの束を上向きに持ち、一番下のトランプ同士をくっつける。1枚ずつ重なるようにしながら力を加えると…、
スーッ!
トランプが1枚ずつ交互に入っていく。
「フ、フェイロシャッフル…。」
ユウちゃんがそうつぶやくのが聞こえた。
僕はトランプをきれいに整え、台の上に広げてみた。きれいに交互になっているか確認する。
「よし。次は…。」
僕はトランプをきれいに整えて左手で持つ。人差し指で少し斜めに傾ける。右手を上からかぶせるようにして、親指でトランプをはじき上から2枚目で止める。そして2枚を同時に親指で押し出し人差し指以外で反対側の縁を押さえ持ち上げる。差し込み口に近づけ、持ち方を少し変え差し込む。
「ダブルリフト…。」
ユウちゃんがまたつぶやいた。
僕はこの動きを繰り返す。急ぎながら丁寧に。3枚持たないように、2枚がずれないように気を付けて。
持って差し込んでのひとつの流れで約2秒。なんとか間に合うはず。ずっと練習してきたんだから。
心の中でそう言い聞かせながら指を動かす。手が痛いのを忘れて必死に動かす。
あと少し。あと3回、2回 、最後~。
僕が最後の2枚を1枚のようにして差し込んだ瞬間、顔の横から手が伸びて差し込み口の横のボタンを押した。
ガチャッ。
ドアが開いた音がした。ボタンを押した手が僕の顔の横を通りすぎ、肩をトンとたたいた。振り返るとユウちゃんが笑っていた。
「すごいね。キュウちゃん。びっくりした。」
「う、うん。ありがとう。」
ユウちゃんが息をスーッと吸って、
「クリア~です。みんなのところに行きましょ~う。」
びっくりするほど大きな声だった。ユウちゃんが歩き出した。僕もついていこうとするけど、緊張がとけたせいか少しフラフラした。すると僕の両肩を小さな手が支えてくれた。振り返るとメイちゃんが笑っていた。
「すごかった。かっこよかった。すごくかっこよかった。」
そう口を動かしながらメイちゃんは僕の肩をバシバシとたたいた。そしてまた手をそっと僕の肩にのせて、
「おつかれさま。かっこよかったよ。」
と、口を動かした。
「ありがとう。メイちゃん。」
僕は肩にのったメイちゃんの両手をそっとおろし、ぎゅっと握って言った。メイちゃんが笑顔でうなずいた。僕も笑顔でうなずいた。
「お~い。キュウちゃ~ん、メイちゃ~ん。何やってるの~?次のフロアに行くよ~。」
部屋の外からユウちゃんの声が響いた。僕はハッとして、メイちゃんの手をはなした。なぜか心臓がドキドキしていた。メイちゃんを見ると
「みんな待ってるから。行こう。」
口を動かして笑った。
「うん。行こうか。」
僕も笑った。そしてドアの方へ歩き出した。
僕はこの部屋のおかげで少しだけ自信を持てた気がした。




