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アメイズ  作者: D-magician
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第105話 約束の場所で

 雨は強くはないけど止む気配もなかった。僕はカッパを着て、傘も一応持って自転車を走らせた。


 雨の中を走るのはいつぶりだろう。メイちゃん、ちゃんと傘さしてるかな…。


 気持ちがペダルをこぐ力に変わり自転車は速度を上げた。目的地へ向かってただただ急いでいた。メイちゃんとの約束の場所へ。




 手紙を見てからの僕は慌ただしく動いていた。一応畑とニワトリを見て、二階に上がりアメイズに行く荷物をリュックに詰めて。


「何を慌ててるの?」


 階段を下りた僕におばあちゃんが聞いた。


「メイちゃんと話をする約束をしたんだ。8時に待ち合わせだから。」


「あら。こんな天気に大変ね。すぐ朝ごはんにするね。」


 おばあちゃんは台所で料理を作り始めた。僕も手伝う。するとおばあちゃんが僕を見た。


「ところでどこで待ち合わせなの?」


「約束の場所。」


「へー。それはどこだかわかってるの?」


「うん。大丈夫。約束したことは何度もあるけど、場所が決まっているのは一つだけだから。」


「じゃあちゃんと行ってあげないとね。」


 おばあちゃんは料理を盛り付け、僕はごはんをよそう。まだ6時過ぎだけど早い朝ごはんを食べた。


「メイちゃんはモトムちゃんに何を話すのかねー。」


「昔の話かな…。まだ声が出た頃の…。」


「そう。愛の告白じゃないの?」


 僕の手からはしが落ちた。


「違うと思うよ。」


「そうなの。メイちゃんはかわいいから大歓迎よ。」


「違うと思うよ…。」


 僕は食べ終わり食器を片付けた。時間を見ながら少し休んで、7時に家を出た。





 雨というより霧雨の中をカッパを着て走る。さすがに晴れた日よりは運転しづらい。いつもより時間がかかる。ただ一昨日にサッカーのドリブル練習をしたこともあり、そんなに辛くなかった。自転車は土手の上を走り、橋を渡って反対側の土手に入った。すぐ先にセイちゃんの家が見えてきた。僕は少し速度を落としてセイちゃんの家の自転車置き場を見た。やっぱりメイちゃんの自転車はない。僕は急いで自転車をこいだ。


「この木の下でなら、キュウちゃんになら話せる気がする。」


 メイちゃんはそんな風に言ってたのを思い出す。その場所が、川のそばの木が見えてきた。土手の道沿いにメイちゃんの自転車もあった。時計を見ると7時半。


「まだ30分もあるのに。」


 僕はメイちゃんの自転車の隣に停めてから土手の階段を駆け下りた。背中にはリュック、手には一応傘を持って。木へ続く芝生の道を走り左の木を目指した。目の前の大きな木、その影に赤い傘が見えた。僕は走るのをやめて息を落ち着かせながらゆっくり近づいていく。そして赤い傘の隣にしゃがんだ。確かにメイちゃんはいた。メイちゃんは目を閉じて木にもたれかかるように座っていた。その姿はまるで木の精霊のようだった。


「メイちゃん。」


 隣に座って呼び掛けてみた。メイちゃんは目を閉じたまま動かない。


「メイちゃん。」


 もう一度呼んでみた。するとゆっくり目を開けて穏やかな笑顔を見せた。口がゆっくり動く。


「キュウちゃん。おはよう。」


「おはよう。メイちゃん。」


 メイちゃんは腕時計で時間を確認した。


「早いね。まだ30分だよ。」


「メイちゃんの方が早く来てるでしょ?何時に来たの?朝ごはんちゃんと食べた?」


 メイちゃんは小さくうなずいた。まだ眠そう。


「6時半に食べて準備してさっき着いたの。木に寄りかかって雨の音を聞いてたら眠くなっちゃった。」


 メイちゃんは体をぐーっと伸ばした。傘は三脚みたいな付属品に固定されていて手で持たなくてもいいようになっていた。メイちゃんが出す道具は不思議なものが多い。メイちゃんはリュックから水筒を出した。蓋を開けたときのにおいでいつものだとわかる。さらにメイちゃんは腰を少し浮かせて座っていたビニールシートみたいな敷物を隣に少し広げた。そこを指差して「座って。」と僕に伝えた。僕はうなずいてカッパを脱ぎ傘をたたんでそこに座った。敷物の幅と傘の大きさのせいもあってメイちゃんとぴったりくっつく感じになった。メイちゃんはニコッと笑いながらジャスミンを差し出した。僕は顔の火照りを気にしながらそれを受け取って飲んだ。

雨のせいもあって気温もそんなに高くない。サァーッという雨の音だけが聞こえる。まるで時間が止まったかのようだ。


 トン、トン。


 いつものリズムで肩をたたかれた。横を向くとメイちゃんの顔がすぐ近くにあった。僕の顔を、僕の目を真剣な顔で見ている。


 メイちゃん…。聞いてほしいのかな?


 メイちゃんの目からそんな意思を感じて僕はそれを口に出した。


「メイちゃん。教えて。メイちゃんのこと。メイちゃんが今まで話せなかったこと。僕に話せるなら全部話して。ちゃんと聞くから。」


 メイちゃんは少しの時間うつむいてから僕の顔を見てうなずいた。そして手をすっと伸ばして僕の手に触れると指を絡めてつないだ。


「全部教えるから…。だから約束して。絶対嫌いにならないって。」


 メイちゃんはそう口を動かすと真剣な目で僕を見た。僕は大きくうなずく。


「約束するよ。絶対に嫌いにならない。メイちゃんが僕にそうしてくれたように、僕もメイちゃんを裏切らない。だから信じて。」


 メイちゃんは僕の目を見つめて動かない。僕も動かない。メイちゃんがつないだ手に力をこめる。僕も同じように力をこめる。メイちゃんが痛くないように。僕の気持ちが届くように。どれくらいそうしていたかはわからない。5分くらいたったかもしれないし1分くらいかもしれない。メイちゃんがいつもの穏やかな暖かい笑顔で口を動かした。


「ありがとう。キュウちゃん。」


 メイちゃんはつないだ手に込めた力をゆっくり弱めた。僕も同じように力を弱めるとからめていたメイちゃんの細い指が僕の指からするりとぬけた。メイちゃんはリュックからファイルを取り出した。その中には普通の紙やノートを破いたものまで色々な紙が挟まっていた。メイちゃんはその中からホッチキスでとめられたひとかたまりを取り出して僕の方へ差し出した。受け取って一番上の紙を見ると『メイの日記』と書いてあった。


「日記…なの?」


 メイちゃんはうなずいて手を伸ばし一枚目をめくった。そこには『私がメイになるまでをまとめました』と書いてあった。たぶん今までの日記の中からわざわざまとめてくれたのだろう。


「じゃあ、読むね。」


 僕はそう言ってページをめくろうとした。するとメイちゃんが肩をたたいた。


「キュウちゃん。ひとつお願いしてもいい?」


「なに?何でも言ってよ。」


 メイちゃんは僕に座る向きを変えさせた。今までは木に寄りかかっていたけど、今度は木が横にくる形に座った。メイちゃんは僕と背中合わせに座った。僕の手にゆっくり文字を書く。


「これなら読んでるキュウちゃんの顔を見なくてすむし、キュウちゃんを近くに感じられるから。」


 メイちゃんの体温が背中に感じる。メイちゃんの不安みたいなものも感じる。


「うん。読み終わったら教えるよ。」


 メイちゃんは頭を僕の肩にコツンと当てた。


 僕だけに教えてくれるメイちゃんの過去…。知って後悔だけはしないと心に誓う。


 僕はゆっくりとページをめくり、ゆっくりとメイちゃんの過去に入っていった。



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