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アメイズ  作者: D-magician
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第104話 手紙。

 はぁー。


 僕は息を吐く。目の前には電話。さっきから何度か受話器を取っては置いてを繰り返している。今は7時50分。コウちゃんに言われた時間より早く電話をしようと思いここに立ったのはもう20分も前だった。何度か受話器を取ってはみたけどそのたびに胸が苦しくなり心臓が早くなった。自分の家に電話をかけるのがこんなに怖いのはお母さんにかけてしまった迷惑に対する負い目だ。僕はまた大きく息を吐いた。


 お母さん…。怒るかな…?それとも悲しむかな…?何で話さなかったのって…。


 時計を見ると55分。あと5分しかない。このままだと8時になっても電話をかけられない気がした。不安で手が震える。息苦しくてつらい。頭も痛くなってきた。


 電話、もしかけられなかったら…。


 そんな考えが頭の中をよぎったとき、それをかき消すような大きな声が頭の中に響いた。


『8時に電話してくれ。約束だ。』


 コウちゃんの声が頭の中に響く。『約束』という言葉とコウちゃんに見える優しい光が僕にまとわりつく不安をかき消した。


 そうだね。約束だよね。守らないと。


 時計を見ると59分を過ぎた。僕は大きく息を吸い込むと受話器を取ってダイヤルを回した。


 プルルルル、プルルルル。


 静かな廊下に受話器から聞こえる呼び出し音が響いた気がした。心臓が早い。気持ちが悪くなる。でも、もうかけちゃったから。

 5回呼び出し音が鳴ってガチャッと電話がとられた。


「はい。名園です。」


 お母さんの声だ。僕の心も体も震えた。不安が体の中から噴き出す。それを頭の中に残るみんなの声が抑えてくれた。


 信じてるから。


 僕はみんなの言葉に包まれた感覚で大きく息を吐いた。


「お母さん。僕です。モトムです。」


「モトム…。」


 お母さんの声が止まった。僕は大きく息を吸って大きく吐いた。


「お母さん。やっと話せるようになったから。話すから。僕に何があったのか。だから聞いて。」


 少し間をおいてお母さんの声で「話しなさい。全部。」


と聞こえた。僕は話し始めた。何があったのか。どうしてこうなってしまったのかを。



 15分後…。


 僕は受話器を置いた。


 お母さんは怒った。「何で話してくれなかったの?」と。お母さんは泣いた。「気づいてあげられなくて。」と。僕はそのたびに「ごめんなさい。」と謝った。そして僕はこっちの友達から勇気をもらったこと、いじめと向き合って学校にちゃんと行くことを伝えた。お母さんはお父さんに連絡して学校と話し合うと僕に伝えた。


 電話が終わった僕の体はまとわりつくものが全部とれて軽く感じた。心の中にあった不安や恐怖が気体になって吐いた息と一緒に口から出ていった気がした。


「やっと終わった…。いや、やっと始められる。戦いも挑戦も…。」


 僕はそうつぶやいて時計を見た。8時30分。長電話をしてしまったらしい。居間に戻るとおばあちゃんがお茶を飲みながら待っていた。


「全部話せたの?」


「うん。何もかも。ちゃんと話せたよ。」


「よかったね。」


 おばあちゃんは笑ってお茶をいれてくれた。僕は『ありがとう。』と言ってお茶を受け取りゆっくりと飲んだ。緊張してた体に染み渡る感じがする。


「今日はもう寝る?」


 おばあちゃんが僕に聞いた。


「9時に電話するって約束したんだ。みんなと。ちゃんと報告しないと。」


「そうなの。」


 おばあちゃんはそう言って食器を台所へ向かった。僕もお茶を飲み干してから手伝った。カチャカチャという音だけが静かな部屋に響いていた。


 9時ちょうどにコウちゃんの家に電話をして報告した。コウちゃんは電話の前にいたのか鳴った瞬間に出た。僕の報告を聞いて「お前なら大丈夫だと信じてた。よかったな。」と言ってくれた。

 電話を終えて受話器を置き、すぐにケンちゃんの家に電話。ケンちゃんもすごい早さで出た。ケンちゃんもコウちゃんと同じことを言ってくれた。

 最後にかけたのはセイちゃんの家。セイちゃんも「信じてたぞ。よかったな。」だった。今の僕にとって一番嬉しい『信じてた』の言葉をみんなが自然にかけてくれた。僕はそれだけで嬉しい。


「あっ、メイに代わるから。」


 セイちゃんがそう言ってメイちゃんに電話を渡した。言葉は僕に届かないけど受話器からはメイちゃんの息づかいが聞こえた。メイちゃんがそこにいることはわかった。


「メイちゃん。ちゃんと電話したよ。伝えられたよ。メイちゃん、いつも支えてくれてありがとう。」


 すると受話器の向こうからコツコツと受話器を叩く音が聞こえた。リズムからたぶん「どういたしまして。」だと勝手に判断した。


「メイちゃん。じゃあ、おやすみ。また明日ね。」


 メイちゃんからは音とリズムで「おやすみ。また明日ね。」と返ってきた。僕はゆっくり電話を切った。


 みんな、ありがとう。


 僕はそう心の中で何度も繰り返しながら二階に上がった。そしてすっきりとした気持ちでゆっくり眠りについた。




 翌朝、僕はサアーッという雨の音で目が覚めた。いつもより外が暗く見える。時計は5時前。いつもより遅い。


 今日はみんな来ないかな?雨降ってるし。


 僕は着替えて階段を下り、庭に面した窓のそばまで来た。


 あれ…?


 窓のそばに野菜を収穫した袋が置いてあった。隣の袋には卵も入っていた。


 メイちゃんかな…?こんな雨の日は来なくてもよかったのに。


 僕はそうつぶやいて袋を台所へ運ぼうとした。すると二つ折りの小さな紙が袋からスルッと滑り落ちた。ヒラヒラと風のない部屋を舞って床に落ちた。紙には『野菜と卵収穫しました。』という文字が見てとれた。


「メイちゃん。わざわざメモまで。真面目だな。」


 僕はそれを拾うとイスに座った。紙にはセロテープがはってあって開かないようになっている。僕はセロテープをきれいに剥がし、そーっとその紙を開く。そして驚いた。


 紙には色鉛筆で描いたと思われるきれいな虹と河川敷にある大きな木の絵。絵の下の方にはメイちゃんの小さな文字。


『聞いてほしい大事な話があるので、8時に約束の場所に来てください。待ってます。アカリ』


 

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