第103話 自信と覚悟
ケンちゃんは10時過ぎに帰っていった。僕は習ったことを復習して、気づくと11時になっていた。下の階は電気が消えているので静かに下りてシャワーを浴びた。
体が痛い…。一日でこんなにスポーツをしたことはなかったし…。ただ、バスケのディフェンスはほめられた。プールではメイちゃんと一緒に25m泳げた。
一日でこんなにもできるようになるとは思わなかった。僕の中でそれは確かな自信に変わった気がした。
部屋に戻って少し勉強をしてみたけど、眠気に勝てずに布団に入りそのまま泥のように眠った。
翌朝、時計を見ると4 時30分。ついこの間までは起きるのが辛かったはずなのに。そう思いながら着替えて畑に出た。キョロキョロと辺りを見回してみたけど誰もいない。
さすがにまだ来てないか…。それとも今日は来ないのかな?毎日来てたのがすごいことだし…。
そんなことを考えながらニワトリ小屋に向かう。中に入った瞬間、目の前が真っ暗になった。誰かの手が僕に目隠ししたらしい。
メイちゃん…にしては手が大きいし指も長い気がする。たぶん声を出さないのもメイちゃんだと思わせるためだと思うから…。
「セイちゃん…だよね?」
「マジか?何でわかったんだ?」
僕を目隠しした手がはずれて前が見えるようになった。振り向くとセイちゃんとメイちゃんが笑っていた。
「メイちゃんにしては手が大きかったから。指も長かったし強そうな感じがしたから。」
「強そうって何だよ!あたしの手はそんなにごつくないぞ!手の大きさだって…。」
セイちゃんはメイちゃんと手を合わせてみた。やっぱり一回りメイちゃんの方が小さい。
「メイの手、こんなに小さかったのか。っていうか何でメイの手の大きさわかるんだよ。」
「メイちゃんには何度も助けてもらってるから。手を引っ張ってもらったことも多いし。」
メイちゃんを見ると嬉しそうにうなずいた。
「そっか。まあ恋人の手くらいわかるべきか。さて仕事仕事。」
「こ、恋人って…?」
セイちゃんはハウスの方へ走っていってしまった。メイちゃんを見ると恥ずかしそうに笑った。僕も顔が熱い。
「メイちゃん、昨日は寝られた?」
メイちゃんは小さくうなずく。
「でも早く起きちゃった。早くここに来たかったから。」
メイちゃんが真剣な目で僕を見ていた。僕の顔は余計に熱くなる。メイちゃんはニコッと笑ってから手際よく卵を取っていく。
「キュウちゃんもやろうよ。」
メイちゃんが僕を見てゆっくり口を動かした。僕は慌てて手伝う。メイちゃんをチラッと見ると嬉しそうに卵を集めていた。
「よし。メイ、帰るぞ!キュウ!今日も体育館集合な!」
朝の畑作業が終わり、セイちゃんはそう言ってメイちゃんを連れて帰っていった。メイちゃんは「あとでね。絶対だからね。」と何度も口を動かして僕にそう伝えた。僕は何度も「大丈夫。絶対行く。」と答えた。二人を見送った後、僕はおばあちゃんと朝ごはんを食べた。久しぶりな気がしたのは最近みんなと一緒に食べてたからだと思う。おばあちゃんがいろいろ聞いてきたので、僕はアメイズのことを隠しながらいろいろ話した。おばあちゃんは嬉しそうに僕の話を聞いてくれた。
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
食事を終えてすぐ僕は家を出発。おばあちゃんは玄関で手を振ってくれた。今日もいい天気。ここに来た頃は空の色を意識する心の余裕もなかった。今それがあるのはみんなが僕に力をくれたから、自信をつけさせてくれたからだと思う。僕は自転車を勢いよくこいでみんなとの待ち合わせ場所に向かった。
「よう。キュウ。来たな。じゃあまずはバスケからいくか。」
「うん。お願いします。」
体育館に着いてすぐコウちゃんとの練習がスタート。昨日教わったことを確認し、できていたら次へ進む方法。昨日と比べると運動量が減って技術力を上げるメニューになっていた。たぶん明日からのアメイズへの影響を抑えるために考えたんだと思う。本当によく考えられていると思う。
途中で二回バスケの試合に参加した。昨日の人がコウちゃんに頼んだらしくその人をマーク。相手の人が僕の弱点を見つけて僕を抜くと、コウちゃんがその対応の仕方を教えてくれた。弱点をすぐに的確に直してくれるのもコウちゃんのすごいところだと思う。
「よーし。昼にしよう。」
12時になってコウちゃんがみんなを呼んだ。みんなで体育館の外に出るとユウちゃんとメイちゃんがリュックからお弁当を取り出した。どうやらみんなで作ったらしい。ユウちゃんはハムサンドやタマゴサンド、メイちゃんはおにぎり。「おー。」と僕たちが見ているとセイちゃんがドンッと大きなタッパーを置いた。中身は半分がゆでたまご、もう半分はレタスをちぎっただけのサラダ。「あたしだってこれくらいできる。」と胸を張るセイちゃんを横目にケンちゃんが一つ割ってみた。白身は固めで黄身は半熟…。「セイ、弁当用はちゃんと茹でた方がいいよ。」とケンちゃんが言うとみんなが笑った。セイちゃんは「ねらって半熟にしたんだからな。」と言っていた。みんなで食べる昼ごはんはそれだけで楽しい。コウちゃんは最初にタマゴサンドを、僕はおにぎりを手に取った。一口食べて隣を見るとメイちゃんがコップを差し出しながら不安そうな顔をしていた。「おいしいよ。」と伝えるとメイちゃんは嬉しそうに笑った。僕は少し照れた。
午後もコウちゃんとセイちゃんにスポーツを習い、昨日と同じようにプールに向かった。みんなのおかげでプールに怖さを感じない。たぶん一番深いところで止まっても大丈夫な自信と25mなら泳げる自信があるからだと思う。
「クロールで行って平泳ぎで戻りましょう。」
メイちゃんが笑顔で口を動かした。僕はうなずいてクロールで泳ぎ始めた。
水の中も見えるしどれくらい泳いだかも大体わかる。怖くない。
僕は難なくクロールで泳ぎきると平泳ぎで戻る。隣を見るとメイちゃんがこっちをチラチラと見ながら同じペースで泳いでいた。メイちゃんの器用さや何でもできる感じがすごいと思う。平泳ぎで泳ぎきると、メイちゃんは「次は背泳ぎね。」と口を動かして笑った。僕が笑顔でうなずくとメイちゃんは嬉しそうに泳ぎ方を教え始めた。
「さて、じゃあ今日は解散!」
プールの外に出たコウちゃんは空に向かって叫んだ。みんながつられて「はーい。」と空に向かって叫んだ。気持ちがいいくらいの青空だった。
「さて、解散の前に。」
コウちゃんが真剣な目で僕を見た。
「キュウ。自信ついたか?」
僕はうなずく。
「うん。この二日間で。自信かどうかはわからないけど、できたことが多かったしできなかったことができるようになったから。できるようになる感覚はわかった。」
「それが自信だ。大丈夫だ。」
コウちゃんはそう言って笑った。みんなも笑顔で僕を見ていた。少し恥ずかしい。けど今思っていることを、みんなのおかげでできた覚悟をみんなに伝えた。
「今日、家に電話する。お母さんに全部話すよ。」
みんながうなずく。するとコウちゃんが僕の前に立った。
「キュウ。お前は見違えるほどいい顔になった。それはここにいるみんながわかってる。お前ならちゃんと話せる。ちゃんとわかってもらえる。大丈夫だ。」
そして僕の肩をバシッと叩き、言葉を加えた。
「キュウ。何も問題がなければ8時に電話をかけてくれ。そして電話が終わったら9時に俺に報告してくれ。ちゃんと電話をしたこと、ちゃんと話せたことを。俺は電話の前で待ってるから。わかったな。」
コウちゃんがまっすぐな目で僕を見ている。コウちゃんから優しい光が見える。
「うん。わかった。8時に家に電話して、9時にコウちゃんに電話するよ。約束する。」
するとコウちゃんの横にケンちゃんが来た。
「僕はコウちゃんの後でいいから。僕も待ってる。」
僕はうなずく。
「その次はあたしの家だ。あたしたちも待ってる。」
セイちゃんとメイちゃんが僕を見る。僕はうなずく。
「私の家はいいよ~。コウちゃんから連絡もらうから~。それにキュウちゃんはできる子だって信じてるから~。だから頑張って~。」
ユウちゃんはコウちゃんの横から顔を出して笑った。
「うん。必ずお母さんに全部話す。その後みんなに電話するから。約束する。」
僕は大きな声で言った。僕を信じてくれるみんなに、そして自分の中の弱い心に言い聞かせるように。




