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アメイズ  作者: D-magician
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第101話 プールの特訓

 バシャバシャ…。


 水しぶきが上がる。僕が体育でもっとも嫌いな競技。プールでの水泳の練習だ。



 昼はセイちゃんの家で食べて少し休憩、午後は学校の校庭でサッカーを習った。シュートは全然だったけど、ディフェンスは誉められた。そしてサッカーがある程度できるようになったとき、コウちゃんが言った。「暑いしプールに行こう。」と…。セイちゃんのお父さんの車でそれぞれの家に行って水着を用意。そのまま学校の近くのプールに来た。僕の水着はコウちゃんが借りてくれた。


「コウちゃん。僕…。」


「ああ。泳げないのか。じゃあなおさら練習だな。」


 コウちゃんは笑っているけど僕は笑えない。でもコウちゃんのおかげでスポーツも少しはできるようになれたし…。


「大丈夫だよ。僕もあまり泳げないから。」


 着替えたケンちゃんが僕にそう言いながらコウちゃんを追って更衣室から出ていく。僕も不安を振り払うようにみんなを追った。


「ユウ…。あんたは強気というか何というか…。よく着れるな…。」


「え~?何で~?体育じゃないんだから~。かわいいの着たいし~。」


 セイちゃんとユウちゃんの声が響いてきた。みんなが集まっている。僕も急いだ。でも話題の中心にいる二人の姿を見て驚いて足が止まった。ユウちゃんはビキニタイプ。セイちゃんが「よく着れるな」と言った理由がよくわかる。自分に自信がないととても着れないと思う。そしてセイちゃんに至っては競泳用水着だ。「どこのオリンピックに出るの?」とツッコミたくなるほど似合っている。


「まあ、いいんじゃないか?着たいものを着れば。」


「まあね。ただ、ユウちゃんのは目のやり場に困るよ…。」


 みんなが笑っている。僕も輪に加わった。


「よし。じゃあ準備体操して、泳いでみよう。」


「は~い。」


 みんなで準備体操をしてプールに入る。午前中と同じでケンちゃんにはセイちゃんが教えるみたいだ。


「キュウちゃ~ん。私も教わる側だから~。よろしく~。」


 僕の隣でユウちゃんが笑う。ユウちゃんも泳げないのかな…?


「さてと。まずはキュウ、なぜ泳げないのか教えてくれ。」


 唐突な質問に僕は驚く。泳げない理由を頭の中から探し具体的に答えた。


「たぶん溺れるのが怖いからかな。プールって真ん中が一番深いでしょ?背の高い人なら泳ぎ疲れたら立てばいいだろうけど、僕の場合真ん中で立ったら頭が水面に出ないから。『15mくらいのところで溺れたら』とか『足がつったら』とか考えたら怖くて。」


「そうだよね~。私もどこまで泳げるかわからないのに『25m泳ぎなさい。』って言われても~って思う~。もし途中で止まったら誰が助けてくれるの~?って心配になるよ~。」


 ユウちゃんは僕と同じ感覚らしい。少しほっとした。


「なるほど。わかった。じゃあ、まずはどれくらい泳げるかやってみよう。プールを横に泳げば深くて怖いって話はないだろうから。」


 僕とユウちゃんはコウちゃんの言うようにプールを横向きに泳いだ。僕はクロールで、ユウちゃんは平泳ぎっぽい感じで泳ぎきった。コウちゃんの言うように溺れる不安はなかった。でも僕にはもう一つ泳げない原因があった。


「キュウ。お前、目を開けられないんだな。」


 コウちゃんは一回しか見てないのに、それを言い当てた。僕は小さくうなずく。


「何でかはわからないけど、目を開けてられないみたい。潜るだけなら目を開けられるんだけど、泳ぐとダメみたい。」


「だろうな。ユウはまっすぐ泳いでるのにキュウはグニャグニャしてたからな。」


 コウちゃんは悩んでいる。僕は申し訳ない気持ちになる。


「よし。じゃあまずは慣れてもらうか。セイ!ちょっと手伝ってくれ!」


 コウちゃんが大声で呼んだ。セイちゃんは手を振って返事をした。ちょうどプールの反対側にいるセイちゃんが水に潜ったのか見えた。どうやって泳いでくるのか見ていたがなかなか水面に顔を出さない。


「お待たせ!」


 次の瞬間、ザバーッという水の音ともにセイちゃんが目の前に現れた。ゲームのボスのような現れ方だったので僕は驚いて後ずさった。


「セイ。キュウが泳ぎながら目を開けるのが苦手らしいから、二人で引っ張って水の中に慣れさせようと思って。」


「なるほど。了解。」


「ちょっと、二人とも。何をどうすればいいか説明してよ。」


 慌てて二人を見ると、不気味な笑みを浮かべている。次の瞬間、二人がそれぞれ僕の手をつかんだ。


「え?え?何するの?」


「今からお前を連れて一番向こうまで泳ぐから。お前は死ぬ気で息を止めることと、なるべく目を開けること、あとできればばた足してくれればいいから。」


「え?息を止めて?ばた足?」


 僕はこれから何が起きるかわからなくてただただ慌てていた。でも二人はただただ不気味な笑みを浮かべていた。

そして…。


「よし。いくぞ。キュウ。息止めてなるべく目を開けろよ。せーの!」


 ドボンというにぶい音とともに水に潜った。半分引きずり込まれたに近い。僕の体は二人に引っ張られて水の中を進み始めた。


 なるべく目を開けて、あとはばた足をして…。


 とりあえず必死に足を動かし、恐る恐る目を開けてみた。


 すごい…。水の中って、泳ぐってこんな感じなんだ…。泳げない、泳ぐのが怖いから潜ることをためらってた僕には想像できなかった世界。プールの底の色、周りの壁の色、手をひいてくれる二人の姿。意外とはっきり見える。意外と明るい。何より二人のおかげで意外と怖くない。ここで手を離されたら間違いなく溺れるはずなのに…。


 息苦しくなった頃、僕の目の前に壁があった。そこに手でふれると同時に僕をつかんでいた二人の手がはなれた。僕はゆっくりと水面に顔を出した。


「どうだった?潜水で25m泳いだ感想は。」


 コウちゃんが笑っている。セイちゃんも笑っている。反対側にはさっきまで隣にいたユウちゃんが見える。


「すごかった…。泳ぐってこんな感じだったんだ…。」


 コウちゃんは僕の頭をポンッとたたいて笑った。


「目をしっかり開けて泳げれば泳いだ距離がわかる。そしたら怖さは半減するだろ?」


 僕はうなずく。確かに泳いでいる場所が大体わかれば、『あの位置まで泳げば足がつく。』と思えるから。


「じゃあ次は息継ぎが簡単な平泳ぎから…、」


 コウちゃんがそこまで言ったとき、高い声でコウちゃんを呼ぶ声が聞こえた。


「コウちゃ~ん!私にも教えてよ~!」


 ユウちゃんが反対側で水をバシャバシャとさせている。


「今行く!じゃあ、キュウに教えるのは…。ああ、わかった。じゃあメイに任せた。」


 コウちゃんの目線は僕の後ろ。振り向くとそこにはメイちゃんがいた。笑顔でうなずいている。


「メイちゃん、いつの間に?」


 驚く僕を見てセイちゃんが爆笑した。


「何言ってるんだよ。あたしたちを追ってちゃんと泳いでたぞ。潜水で。」


 メイちゃんを見ると小さくうなずく。


「じゃあ、ここからはメイに任せた。」


「あたしもケンに教えるから。頼んだぞー。メイ!」


 そう言い残すとコウちゃんはユウちゃんの、セイちゃんはケンちゃんのところへすごい速さで泳いでいった。僕は呆然と二人を見送っていた。


 トン、トン。


 肩をたたかれて慌てて振り向くとメイちゃんが口を動かした。


「教えていい?」


「うん。お願いします。」


 メイちゃんはニコッと笑ってから泳ぎ方についてお手本を交えて説明してくれた。


足や手の正しい動かし方から顔を水面に出しながら泳ぐ方法まで。とてもわかりやすい。一通り説明したあと、メイちゃんが反対側を指差した。


「じゃあ、向こうまで一緒に泳ごう。大丈夫。キュウちゃんならもう泳げるよ。」


「え?そうかな…。大丈夫かな…。」


 まだ少し不安はある。でもメイちゃんが何度も「大丈夫。」と口を動かして伝えてくれた。


「うん。じゃあやってみるよ。でも溺れたら助けてね…。」


 メイちゃんは大きくうなずいた。僕もうなずく。


「じゃあ、隣を泳いでね。」


 メイちゃんは僕にそう伝えるとゆっくり泳ぎ始めた。僕も合わせるように泳ぐ。習った泳ぎ方で頑張って泳ぐと思ったより順調に進んでいる気はする。ただ、もうすぐ真ん中の一番深いところ。溺れたらという不安がよぎる。すると隣でメイちゃんが顔をあげながら泳いでいた。僕も習った方法で顔をあげながら泳いでみた。メイちゃんはニコッと笑ったあと水の中へ潜っていく。僕も大きく息を吸ってメイちゃんの真似をするように潜ってみた。ただ上手く潜れないのでばた足で…。メイちゃんの隣に並ぶ。メイちゃんの手が伸びてきて僕の手を握った。僕も握り返す。メイちゃんはばた足に変えてスピードを上げた。僕も頑張って隣を泳ぐ。遅れないように、負担をかけないように。

 突然メイちゃんが泳ぐのを止めて立ち上がった。僕もつられて立ち上がる。メイちゃんを見ると満面の笑みでゆっくり口を動かした。


「ね?泳げたでしょ?」


 僕はキョロキョロとまわりを見た。そして気づいた。反対側までいつの間にか泳いでいたことに。


「メイちゃん。僕、泳げた。ちゃんと泳げた!」


 メイちゃんはうなずく。


「キュウちゃん。自信持って。次はクロールだよ。」


「うん。お願いします。」


 メイちゃんは僕の手をぎゅっと強く握って笑顔でうなずいた。

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