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アメイズ  作者: D-magician
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第99話 朝の特訓。

「メイちゃん。そろそろ起きようか。」


 頭をなでながら僕は小さな声でそう言った。するとメイちゃんは顔をあげて僕を見てうなずいた。僕は枕元のリュックから着替えを取り出す。メイちゃんは部屋をそーっと出ていった。


 メイちゃんが寝られてよかった…。


 そんなことを思いながら服を着替えた。体をぐーっと伸ばしながら部屋を見回す。ベッドではコウちゃんとユウちゃんがまだ寝てるみたいだ。


 ケンちゃん、隣で寝たのかな…。


 僕はそーっと部屋を出た。廊下を静かに歩いて隣の部屋の前に立ち、ドアノブをつかんで…。


 あっ、メイちゃんが着替えてるかも…。


 慌てて手をはなして部屋の前で待つことにした。鳥の声が聞こえる。すっきりと頭が冴えているのはメイちゃん以上に僕自身もぐっすり寝られたからだと思う。


 トン、トン。


 いつものリズムで肩をたたかれた。横を見るとメイちゃんが笑顔で僕を見ていた。


「あれ?メイちゃん、この部屋で着替えてるのかと思った。」


 メイちゃんは首を横に振る。


「ケンちゃんがいるから。寝てるけど。」


 そう言ってメイちゃんはそーっとドアを開けた。部屋の中の状況に僕は驚いて声を出しそうになった。ケンちゃんとセイちゃんが仲良く一緒に寝ていた。しかもベッドではなく床で…。僕は何も見なかったかのようにドアをそーっと閉めた。二人で階段を下りていく。


「何があったのかな?」


「外で話そう。」


 たぶん寝てるみんなに気遣ったのがわかったので僕はうなずく。


「あら。早いのね~。おばあさんが朝は畑に来なくていいって言ってたのに~。」


 一階に下りてみて驚いた。セイちゃんのお父さんもお母さんもすでに起きていて、紅茶を飲んでいた。


「習慣になっちゃってるので。目が覚めちゃったんです。」


「朝ご飯はここで出すから畑が終わったら帰ってきてね~。」


 セイちゃんのお母さんはそう言って笑った。僕たちは返事をしてから外に出た。そして自転車に乗り出発した。


「すごいね。あの時間にお茶を飲んでるなんて。」


「毎日の習慣だよ。」


 メイちゃんは口を動かして笑った。二人で土手を走り、橋を渡って町の中を進む。風が気持ちいい。人も車もいないのでどんどん進む。


「メイちゃん。大丈夫?」


 メイちゃんはうなずいて笑った。僕たちはかなりハイペースでおばあちゃんの家に到着した。


「メイちゃん。どっちやる?」


「私は野菜採るね。」


「うん。じゃあ僕は卵で。」


 メイちゃんはうなずくとハウスに向かった。僕も鶏小屋に入ってエサをやり、卵をもらった。卵を袋に入れてハウスに向かう。


「おう。おはよう。」


 ハウスに入ってみて驚いた。メイちゃんの隣でコウちゃんが野菜を採っていた。


「コウちゃん、いつの間に?」


 僕は卵を置いてから野菜の収穫を始めた。


「キュウたちが部屋を出てすぐに起きたかな。で、急いできた。」


「さすが…。」


 僕はかなり速く自転車をこいだつもりだった。でもここにコウちゃんがいるということは、コウちゃんはそれよりさらに速かったということになる。運動神経の違いなのかな…。


「ところで他のみんなは?」


 野菜を袋に入れながら聞くと、コウちゃんも袋に野菜を入れ始めた。


「ああ。ユウとケンはまだ寝てる。セイは今日は走りにいったよ。何か朝から慌ててるような顔してた。」


「そうなんだ…。」


 驚いたのかな?ケンちゃんと一緒に寝てた自分に…。


 想像するとおもしろい。コウちゃんは野菜の袋を全部持ってハウスを出ていく。僕たちもついていった。


「あら。今日は来なくてもよかったのに。」


 おばあちゃんが畑に出てきた。コウちゃんは挨拶をして野菜を渡した。


「じゃあ、これはセイちゃんのお母さんに渡してね。」


「はい。わかりました。」


 コウちゃんは野菜と卵を受け取って自転車に向かった。


「モトムちゃん。何だかいい顔してるけど、何かあったの?」


 そう言われて僕は驚いてメイちゃんを見た。


「いい顔してるの?」


 メイちゃんはうなずく。


「朝からずっとだよ。」


 みんなに話せたおかげで気分がすっきりしていた。ただ顔に出ていた実感はなかったけど、メイちゃんが言うならそうなんだと思う。僕はおばあちゃんの方を見た。


「みんなに色々聞いてもらったからスッキリしたんだ。」


 おばあちゃんは笑って「よかったね。」とだけ言った。何を話したかあえて聞かないおばあちゃんのやさしさを感じる。


「キュウ、メイ。行くぞ。」


 コウちゃんが僕たちを呼ぶ。


「じゃあ、おばあちゃん。行くね。」


 僕たちが手を振るとおばあちゃんも笑って手を振ってくれた。僕たちはコウちゃんのもとへ歩いていった。


「さて、さっそくキュウにやってもらうことがある。」


 コウちゃんは手にサッカーボールを持っていた。


「どうすればいいの?」


 コウちゃんは笑ってボールを地面に置いた。


「セイの家までサッカーのドリブルだ。」


「え?家まで?」


「ああ。歩いたら1時間くらいかかるかな?注意することは車が来たら止まることと横の溝に落とさないこと。あと町の中は通らずに土手を行くこと。」


「自転車はどうすればいい?」


「今日の帰りは俺が送ってやるから。」


 僕がうなずくとコウちゃんはドリブルのコツを説明した。


「メイはキュウと一緒に帰ってきていいから。キュウが危ないことしそうになったら止めてやって。」


 メイちゃんは笑顔でうなずいた。


「じゃあ、7時くらいには帰るようにな。」


 コウちゃんは手を振って風のように走っていった。僕はボールを軽く蹴る。ボールは溝の方へ転り、僕は慌ててボールを押さえる。コウちゃんは簡単そうにやってみせたけど、僕には難しい気がした。


「メイちゃん。スタートするよ。」


 メイちゃんはうなずいて口を動かした。


「車と溝に気をつけてね。何か気づいたらこれを吹くから。」


 メイちゃんは首からかけた笛を指差す。僕はうなずく。


「じゃあ、いきます。」


 ボールをゆっくり蹴った。ボールが転がる。それに追い付くように走って、また蹴って。ドリブルしながら進んでいく。朝早いこともあって車も全然来ない。ある程度進むとペースがつかめた。僕はリズムよく進んでいく。するとメイちゃんが僕の横に来た。僕はちらっとメイちゃんを見る。


「よそ見すると危ないよ。」


 メイちゃんの口の動きを見て、ボールを見た。ボールは変な方向に転がっていく。僕は慌てて追い付いた。


「難しいね。ボールを見ないでドリブルするのって。」


 メイちゃんはうなずいてから笑った。


「たぶんコウちゃんはその練習をしてもらうために私を一緒に帰らせたんだよ。」


「あ、なるほど。」


 僕は納得した。メイちゃんの口の動きを見たらボールは見れない。メイちゃんと話すときは体の近くでドリブルしないといけない。ドリブルをコントロールする練習となるべくボールを見ないでドリブルする練習…。


「けっこうレベル高いんじゃない?この練習。」


「頑張って。キュウちゃん。」


 僕はうなずいてドリブルを続けた。ボールを見てメイちゃんを見て、ボールが転がる先を見て。自転車で走ればすぐそこに感じる距離もボールを蹴りながら進むと遠くに感じる。メイちゃんは僕の代わりに辺りを確認してくれている。やがて土手についた。ボールを蹴りながら上ると土手の道がどこまでも続いているように見えた。セイちゃんの家に行くときに渡る橋もずいぶん遠くに見える。


「メイちゃん。少し急いでみるね。車が来たら教えてね。」


 メイちゃんは大きくうなずいた。僕はドリブルをスタートさせる。速く走るためにボールを強く蹴りそれに追い付くために速く走って…。


 息が苦しくなってきた…。足も少しずつ辛くなる…。でも、とにかくやってみる。信じてくれるみんなのために。戦える自分になれるならなってみたいから。


 何回かボールを土手の下に転がした…。何回かペースを落とした…。そのたびにメイちゃんが応援してくれた。だからまた頑張って走った。いつの間にか橋にたどり着いた。橋をゆっくり渡り、また土手をドリブルで走った。そしてコウちゃんの言ってた7時を少し過ぎた頃、僕はセイちゃんの家に着いた。みんなに笑顔で迎えられながら僕は入り口に座り込んでいた。

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