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師弟、すれ違い


 しかして、そんな水明の嫌な予感は的中することになる。

 それは、ホテルで出立の準備を整えた、翌日のことだ。

 早朝、隣の客室に泊まっていたフェルメニアが、慌てて水明の部屋のドアを叩いた。



「スイメイ殿スイメイ殿! 大変です!」



 聞こえてきたのが、ドアを通してくぐもった悲鳴。彼女の声の調子から、かなり切羽詰まっているということが窺える。機器類を暴走させてしまったとか、黒のGが出て来たとか、そんなチャチなものでは断じてない、もっと困窮した感じがする焦りようだ。



 水明の方はといえば、夜に情報の整理をすべて終わらせ、今日これから、全員に代執行の指令を改めて伝えようというところでの、この駆け込みだ。幸先が悪いことこのうえない。



 他愛ないことであればいいのだがと、そんなむなしい希望を抱きつつ、ドアロックを外してドアを開ける。

 慌てて出て来たのか、寝間着姿のフェルメニアはいつか見たような、整えていない頭のまま立っていた。



「フェルメニア、どうしたんだ突然?」


「はい! あの! マリー殿がいなくなってしまって!」


「うん? いなくなった? ちょっとお出かけしただけじゃなくてか?」


「いえ、それがそうでもないらしく。起きたらこれが……」



 そう言ってフェルメニアが見せてきたのは、一枚の紙きれだった。



「書置きか?」



 そう訊ねると、フェルメニアは神妙な表情で頷く。

 水明は紙きれを受け取って、文字が書かれているだろう面を見ると、



 ――今回の件、ボクが一人で解決してくる。



 そんな端的な言葉が、書かれていた。

 水明は弾かれたように部屋に戻り、昨日ウィゲルからもらったメモを探す。ホテル備え付けの机の引き出しに入れたのだが――それが忽然と消えていた。



 図らずもチッという舌打ちが出てしまう。



「あいつ……!」


「スイメイ殿、やはりマリー殿は一人で行ってしまわれたのでしょうか?」


「そうだろうな。こんな洒落にならん冗談なんてするようなヤツじゃない。間違いなく一人で行きやがった」



 まさか一人で飛び出して行ってしまうとは、と、水明は困ったように息を吐く。

 しかし、だ。問題は彼女がどうして急にこんなことをしでかしたのか、だ。

 それがよくわからない。



「その、マリー殿はいつもこんな感じなのですか?」


「いや、こんなのは今日が初めてだ。いつもなら指名依頼が来ても、我関せずで他人事なのに、一体どうしたんだか……」


「もしや、依頼の内容を見て危機感を持ったとかでは?」


「だったら、俺が寝てる間に忍び込んで来るのはおかしいな。動機と行動が前後してる」



 そう、依頼内容に危機感を抱いての行動というのはまず考えられない。

 そもそも水明は依頼の内容についてはずっとはぐらかしたままだったし、忍び込んでメモを見るまで依頼の内容がなんなのかわからなかったはずなのだ。



 それに、まず忍び込んで来てまで見る動機が必要になる。そんな動機に心当たりはないし、危機感を持ったのならば、それこそまずは寝ている自分を叩き起こして文句を言うはずなのだ。



 にもかかわらずこれである。一人で勝手に解決するなど、一体何が、彼女をそこまで駆り立てたのか。



「あの、スイメイ殿。スイメイ殿のもとに届いた依頼とは、一体なんなんです?」


「それは……神格の召喚と同化だ」



 フェルメニアは耳慣れぬ言葉に、小首を傾げた。


      


       ★




 ――ハイデマリー・アルツバインは、人造生命体(ホムンクルス)だ。

 人造生命体(ホムンクルス)とは生命の営みではなく、人の意思、人の手によって造られた生命であり、その母体は肉の器である胎ではなく、ガラスでできた試験管(フラスコ)を大元とする。母体の栄養によって育まれたものではなく、哲学者の石(ラピス・フィロソフォルム)によって力を与えられた超常の存在だ。



 その製作者は、魔術界では知らない者はいないとまで言われるほどに高名な錬金術師にして、自動人形(オートマタ)作りの名手、エドガー・アルツバイン。同界隈では人形術師(ドールマスター)と呼ばれ、これまで数多の自律人形を生み出し、歴史の節目節目に、その人形たちを活躍させたという。



 ハイデマリーは、その錬金術師が最高傑作とまで口にするほどに、完成された人造生命体(ホムンクルス)だ。従来の、他者の造ったそれと同じく、感情は乏しいものの、自らの意思で活動し、魔術にまで秀でた才を発揮する。他の者との優劣の焦点は、万能の触媒である哲学者の石(ラピス・フィロソフォルム)を通してより多くの知識を引き出すことができることにあるだろう。



 天才中の天才と、そんな言葉で評されるほどの力を持つ彼女。

 天才ゆえに、なんであろうと可能であるはずの彼女。

 そんな、悩みとは無縁であるはずの彼女がいま、もどかしさに心揺さぶられている。



 その理由は、彼女の師となった少年、八鍵水明にあった。



 いつもならば、代執行の依頼くらいすぐに教えてくれるにもかかわらず、いつになく煮え切らない態度を見せて、内容を告げるのを渋る。まるで「お前のことなど信じていない」と言われているような気がして、気が付けばホテルの彼の部屋に忍び込み、代執行の依頼書を盗み見ていた。



 いまはおもちゃ箱から飛び出した大きなウサギ――ほぼ生物にしか見えないウサギの乗り物に乗って、とある場所を目指していた。



 ある、目的のために。



「こんなとんでもないのを悠長にそのままにしておくなんて、水明君は一体何を考えてるんだ……」



 彼女が呟いたのは疑問と、そして苛立ちだ。

 どうして、八鍵水明ともあろう者が、これほどの事件を放置しておくのかと。

 神格の召喚と同化。



 ハイデマリーは以前にも、彼と一緒に神格にかかわる事件に携わった経験がある。そして様々な魔術師たちが危険視するように、神格の召喚という儀式は未曽有という言葉が言い過ぎでないというほどしっくりくる『災害』だった。



 放置しておくのはあり得ない。それなのに、依頼書に目を通してもすぐには動かず、急を要するわけではないと言いながら、日本で異世界から連れて来た少女たちの世話に奔走していた。



 もちろん、ハイデマリーも、彼女たちのことが重要ではないとは言うつもりはない。

 だが、それでもこの依頼に比べれば、優先順位は下げなければならないはずだ。

 にもかかわらず、水明はいつものようにへらへらとしたまま。

 そうでなくても、言いたい文句は山ほどあったというのに。



「水明君のバカ、水明君のバカ、水明君のバカ……」



 突然いなくなって魔術の指導も停滞したうえ、戻って来たら戻って来たで、今度は三人も女の子を連れて来る始末。そして彼女たちにかかりっきりで、魔術の研究や自分の指導はそっちのけとくれば、苛立ちも募ると言うもの。



「水明君はボクをなんだと思ってるんだ……」



 連れて来た彼女たちにも事情があるため、態度にこそ出さなかったが、ハイデマリーだって面白くはない。ハイデマリーは水明の弟子……一番弟子だ。放っておいていいものではない。一番弟子なのだから、一番、目をかけなければならない存在なのだ。それなのに、構うわけでもなく、あるとすれば頼み事ばかり、ことあるごとに子供扱い。



「子供だと思ってるんなら、そう思っていればいいさ。ボクがこれを解決すれば、水明君(キミ)だって認識を改めざるを得ないはずだ。ボクは子供じゃないんだ……」



 …………ある意味それは、子供のような嫉妬であり、彼女自身が内に抱える『ホムンクルス』という存在が潜在的に持つ、劣等感の表れだったのだろう。



 曰く、ホムンクルスとは、哲学者の石(ラピス・フィロソフォルム)が正しく機能する『本物』であることを証明するために造られたものだという。命までも創造してしまう完全な触媒を用いて生まれたものであり、この世のあらゆる叡智に通じ、ホムンクルスを造った者に、様々な助言を与えるのだと言われている。



 ゆえに、完成されたホムンクルスとはそのすべてが、生まれながらにして天才と言うことになる。

 天才。それは誰もが夢見るものだ。この世に存在する誰も彼もが、知りたいという欲求の奴隷であり、知性ある者どもを崇め奉る信奉者である。学びを至上とし、また、学びに価値を見出す。



 だからこそ天才とは、人々にとって憧憬となる。

 知性者のトップ、ヒエラルキーの頂点。

 劣等感とは、対極にいると言えるだろう。

 だが、ホムンクルスの叡智の出所は、経験の蓄積によって生じた『結実』とはまったくかけ離れたものである。



 知性者でありながら、無垢でありまっさら。識者はそれを、『真』と定義して宣うのだろう。無垢だからこそ、尊いものなのだと。まっさらだからこそ、かけがえのないものなのだと。

 だが、どんな言葉で飾っても、それは作られた天才だ。自己の経験なしに得た『知識』をありがたがるのは、その知識の恩恵を受けようとする者以外にあり得ない。



 であればそれは、劣等感に結び付くや否や――


     


      ★




 ハイデマリーがホテルからいなくなったことが判明したあと、水明たちはホテルの一室に集まっていた。

 軽く身支度を整えたあと、朝のルームサービスで朝食をオーダー。あるいはベッドの上に腰かけ、あるいは逆向きのイスの上にもたれかかり、あるいはソファの上に腰を下ろしてという風に、各々の顔が見えるよう向き合っている。



 そこで話されるその内容は、「おいもとおにく、ばっかり、です」という食事の話ではなく、これまで水明が多く語らなかった、今回の代執行の依頼についてだ。



 ウィゲルのもとを訪ねたことで、情報が集まり切り、話す準備が整ったということもあるが、ハイデマリーが飛び出していったせいで、話さなければならなくなったという状況でもあった。



「――神格の召喚と同化、ですか?」



 水明の言葉にまず訊ねの声を上げたのは、フェルメニアだった。

 聞き返すような彼女の言葉に、水明が応える。



「ああ。特に説明するほどじゃないが……内容はそのままだ。神格に近付いて、それと合一することを目指すっていう、まあ、こっちの世界ではよくありがちな魔術の儀式の延長線上にあるものだ」



 神との合一、宇宙との一体化。例を挙げれば、ネオプラトニズムなどが関連するといえるだろうか。もちろん、召喚するという時点で、今回の件がそれらよりも直接的で暴力的だということは、疑いようもないのだが。



 概要の説明はしたが、異世界組はあまりピンと来ていない様子である。それもそのはず、異世界の神秘主義は、現代世界の神秘主義とは大きく異なる。魔術は、叡智を手に入れる過程で副次的に得られるものというのがこの世界の神秘であり、魔法を覚えることを主眼に置く異世界とでは、そもそも考え方が違うのだ。



 彼女たちにとって、神との合一? なにそれおいしいの? 状態である。



「うーん。異世界基準で考えると……そうだな。女神アルシュナを現世に召喚して、それと一体になるっていう感じだな」



 さすがにそれで事の重大性がわかったか、目に見えて焦り出す三人。



「そ、そそそそそれはものすごく途轍もないことなのでは!?」


「つまり、今回の依頼は、それを止めろ、ということ、なのですね?」



 リリアナの訊ねに水明が頷くと、今度はレフィールが怪訝そうに眉をひそめた。



「スイメイ君。なぜ、それをいままで放っておいたんだ? 私たちの用件よりもまず先に、どうにかするべきものだろう。マリー嬢が先走ったのもわかるぞ?」



 独断に同調するような言葉に、しかし水明は首を横に振った。



「いや、今回のは緊急ってほど緊急性はないんだ」


「なぜだ?」


「たぶん、今回の一件、千夜会としてはどちらに転んでもいいと思ってる節がある」


「え……? そんな大事をですか?」


「まあ、まずだ。基本的に神との合一っていう儀式が、どうして止められるに値するかって話になるだろ?」


「確かに、悪いことをするわけではないのなら、止められる理由はありません、ね」


「だろ? 別に連中に悪意がないのなら、魔術結社ではありがちな実験儀式だ。成功例のデータを徴収することはあっても、事前に止めに入ることはない」



 水明は息継ぎをするかのように言葉を区切り、また話し出す。



「要は、千夜会の任務なんて、突き詰めてしまえば魔術師たちの思惑だ。世界平和と魔術の成果を秤にかけたら、魔術の成果に傾くくらいは、正義とはかけ離れてる組織なのさ」


「でも、取り締まっているのですよね?」


「魔術組織の利益のために、名目上警察として動いているに過ぎないんだ。それも、明るみさえ出なければベターだと考えているくらいには黒い連中だ」


「だが、今回はそれでも止めろという依頼が君のところに来た。なら、その千夜会という組織も、それなりの危惧を持っているということではあるのだろう?」



 レフィールの訊ねを、水明は「そうなんだがな」と言って肯定する。



「ま、どちらに転んでもいいって言うその証拠に、今回の敵は監視されている。見ろ」



 そう言って、いくつかの資料や写真をファイルから取り出した。



「これは……」


「報告書と」


「しゃしん、ですね」


「これは、これまで、俺のところに届いた情報だ。こっちの世界に復帰した連絡を入れてからすぐ、逐一こうやって情報が届けられている」



 水明が取り出した資料の説明をすると、リリアナが手を上げる。



「すいめー」


「なんだ?」


「おかしい、です。どうしてこんなに都合よく、情報がこまめに、送られてくる、のですか?」


「そんなの簡単だ。千夜会が、俺に依頼を送ったっていう情報を向こうさんに流したんだろう」


「え? なぜそんなことを……?」


「連中の儀式を早めるためだ」



 水明はフェルメニアの訊ねにそう返すと、すぐにその理由を話し始める。



「要するに、千夜会は俺が自由に動けるうちに、この件を解決させようとしてるんだろ。向こうさんに情報を流して儀式を早めれば、俺もさっさと動かざるを得なくなる。せっついて、いいようにコントロールしてるのさ」


「それは……随分と危ういな」


「だな。だが、俺が現場にさえいれば、儀式に失敗しようが成功しようが、成功しておかしなことをやろうと目論もうが、上手く終息させると思ってるんだろう」



 千夜会からの、水明の実力についての信頼はかなり大きい。それは、彼のこれまでの活躍があってのものだ。赤竜討伐に比べれば、各段にグレードが落ちるゆえだろう。



「でもどうしてスイメイ殿なのですか? スイメイ殿以外にも、魔術師はいるでしょう」


「この手のことをきっかり不備なく解決できる手駒が、俺しかいないからだろ。いわゆる専門家ってヤツさ」


「駒か」


「あまりいいものとは思えませんね」


「だが、ネームバリューではある。誰もが一目置くし、なによりこれ見よがしに権威を振りかざせるからな。なんだかんだ便利なのさ」



 フェルメニアが「質問があります」と言って挙手をする。



「スイメイ殿。神格とは、やはりこの世界で信じられている神なのですか?」


「あー、この話はそこが厄介でな。おそらく自前で作ったモンだと思う」


「ふえ? 神を作る、ですか?」


「カルト教団と一緒さ。宗教を立ち上げるってなったとき、どうしても自前で神を設定しなきゃならんだろ? この神はどういった神で、信仰することによってどんなご利益を与えてくれるってヤツだな」



 水明はどこか虚しさが感じられる笑いを見せる。



「基本的に、この世には神なんてものはいないのさ」


「は?」


「え?」


「要するに俺がいつも言っている神格っていうのは、外殻世界に存在する神秘的なグレードの高い無色の力だ。実際、外殻世界に神なんていう全知全能の存在がいるわけじゃない。基本的には人間が勝手にそれに器を与えて、『何々の神』っていう型に嵌めこんで呼び出す。それが、神格ってものなんだ」



 水明の神に関する考えに、当然レフィールは微妙な顔を見せる。



「……だがそうなると、アルシュナもいないということになるぞ?」


「これは基本的な考え方だ。もちろんその中で、意思を持ったり、勝手に形を持ったりする力だってある。要は高位の精霊とか悪魔とかがそれだな。それらが世界に干渉して、その世界に手を加えるということもあるし、それが、世界が熟成されていく中で信仰され、神にまで存在が昇格したものが、異世界で言うアルシュナなんだろう。基本的にそれも全知全能じゃないから、個人個人の神の定義によっては、神ではないというヤツもいるだろうな」


「む……」



 神ではない、という言葉を聞いて、レフィールには少々思うところがあったか。だが、個人が神を定義する際、欧州で信じられている神のように、全知全能な神もあれば、東洋のように複数の神がいて、それぞれ役割を持っているものもある。アルシュナも、邪神と盤面争いをしている時点で、万能ではないだろう。



 水明は再度口を開く。



「話が脱線したな。要するに今回の連中は、自分たちで神を勝手に設定して、外殻世界から無色の力を呼び出して、その『自分たちが好きに設定した器』を与えてってことを、監督省庁(せんやかい)への届け出もなく好き勝手やろうってなって、問題になってるわけだ」


「自分たちの好きなように、か」


「そこがこれの怖いところだな。どんな神が出て来るかは連中の心づもり一つ。なにが出て来るかわからない。もしかしたら世界を滅ぼすくらいに強大な神とかかもしれない。召喚魔術の規模や供物にする魔力が大きければ大きいほど、設定したものに近付けられるから、現実的じゃないってバカにもできない」


「ですが、そう簡単に行くのですか? 技術的にもかなり難しいものだと思いますが」


「すいめー、具体的には、どうやってことを運んでいる、と?」


「まず挙がるのは、魔力を持った者たちにその神の存在を強く信じ込ませるっていうことだ。そうすれば、信仰心に篤い人間が大量にいなくても、ある程度は代替できる。もちろん手間はスッゲーかかるんだが、それは指令が来てもすぐに行われずにここまでかかったことから、わかると思う」


「でも、信じ込ませるというのはどうやって――あ!」



 フェルメニアがポンと手を叩く。そんな彼女の気付きに先んじて、リリアナが口を開いた。



「薬、ですね?」


「そうだ。集めた連中を強いトランス状態に置くことによって、信仰(しんじるちから)を真に近付ける。準備が整ったら、あとは儀式をするだけだ」



 質問の答えを口にしたところで、今度はレフィールが疑問を口にする。



「状況はわかった。だがどうしてマリー嬢に説明を渋ったんだ? 少しずつでも言っていれば、結果も違ったと思うが?」



 確かにそうだ。ハイデマリーは時折、信頼されていないと勘違いしているような素振りを見せていたため、訊ねられたときに話していれば、結果はまた違っていたかもしれない。


 だが、努めて話さなかったことについては、きちんとした理由がある。



「その……相手がな、ホムンクルスなんだ」


「そうか。彼女と同じということか……」



 フェルメニアが質問を口にする。



「同類であるため、マリー殿も同調する可能性があると?」


「ああいや、それはない。ただ、同類を倒さなきゃならないってのは、どう感じるんだろうなって思ってな。裏がちゃんと取れるまで話さないようにしたのが、裏目に出ちまったわけだが」


「れーじのときと、同じです、ね」


「そうだな。まったく気を遣って動くといつもこれだ」



 水明はそんなボヤきじみたため息を吐く。結果裏目に出た形だが、誰もそれを責めることはない。話すか話さないかのさじ加減が難しいのは、往々にしてあることだ。特にこういったものを難しい。



 ……しかして、説明も一段落着き、水明は立ち上がる。



「専属の車もそろそろ着くころだ。エントランスに行って、待機してよう」



 その言葉に頷く三人を見て、水明はハイデマリーのことを思い浮かべる。



(次は、ちゃんと腹割って話、しないとな……)



 そんなことを考えながら、水明は部屋の出入り口に向かうのだった。






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