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朽葉家、道場へ



 ――レフィールを朽葉邸に連れて行くこと。



 これは、水明が現代日本に戻ってから必ずしようと思っていたことの一つである。

 いまの彼女は『敵に弱点を握られている』『剣筋に曇りがある』など、いくつかの悩みを抱えている状態にある。



 今回はその解決の糸口になればと思い、レフィールを鏡四郎に引き合わせようしたのだ。

 朽葉鏡四郎。力量は人外の境地にありながら、人界の境地に揺蕩い、剣士として遥かな高みにいる存在だ。そんな男ならば、レフィールの持つ悩みの核心を救い上げ、確かな解決策を提示してくれるかもしれないと思ったから。



 それゆえ昨日と同じく、お隣朽葉邸、日本家屋を訪ねると相成ったわけだ。

 いま水明の隣には、レフィールがいる。武者震いのような小さな震えにとり憑かれ、どこか昂っている様子を端々に滲ませている。彼女自身も認める剣の腕を持つ初美、その父親であり師匠。そんな人間に会うと言うのだ。所作の端々に落ち着かなさが見て取れるのは、ごく当たり前と言ったところだろう。



 いまは、ハイデマリーに調達してもらった服に身を包んでおり、浮世離れした美貌を除けばほぼほぼ当世風。当たり障りのないTシャツに、緩めのジーパン。ボーイッシュな格好にまとまっている。



 これから道場であるため、水明も、もっと動きやすい格好がいいのではないかと彼女に勧めたのだが。



「これでも十分動きやすいよ。この世界の服はみな上等だ」



 とのこと。そう言えばワンピースに身を包んだフェルメニアも、服の質が上等だと喜んでいた。



「ごうせいせんい――だったか? この世界の服はみんなチクチクしないのか?」


「向こうみたいなのだったら、不良品で突き返されるくらいにはな」


「それは……だがこれを覚えてしまったら、ふふふ、もう戻れないかもしれないな」


「それは仕方ないわな」



 二人でそんな冗談を言い合って歩いていると、やがて朽葉邸の前に。

 レフィールはふと門を見上げると、何を思ったのか隣の八鍵邸にも視線を遣り。



「スイメイくんの家とはずいぶんと趣が違うんだな」


「俺の家は海外の魔術体系を取り入れた影響で、かぶれちまったらしくてな。昔からあんな感じなのさ。一般的なのは、そこらにある家。初美の家は、この国の伝統的な造りなんだぜ?」


「こちらは落ち着いた雰囲気を感じられる」


「いいよな、和風の邸宅はさ」



 水明はうんうんと頷く。生まれが西洋のお屋敷にもかかわらず、和室で精神的な安らぎを感じるのは、日本人ゆえか。これはもうDNAのせいとしか言えないだろう。



 水明はそんなことを考えつつ、ズカズカと無遠慮に朽葉邸へと入って行く。

 それを見ていたレフィールが、驚きに目を丸くする。



「……勝手に入っていいのか?」


「ここはまー、もう一つの俺んちみたいなモンだしな。――雪緒さーん、いらっしゃいますかー? よねー?」



 間延びした声で呼びかけると、やがて玄関の衝立の奥から、初美の母である雪緒が現れる。

 いつものように和服に身を包んだ雪緒が、パタパタとスリッパの音を響かせた。



「水明さん、いらっしゃい。後ろの方が昨日言っていたお友達ですね?」


「レフィール・グラキスと申します」


「これはご丁寧に。初美の母の雪緒と申します」



 一度頭を下げたレフィールだったが、雪緒の姿を見直して、目をパチクリさせている。おそらくは、雪緒が母と言ったことに驚いたのだろう。鏡四郎も雪緒も、高校生の親と言うには容姿がやたら若すぎる。



「お美しいですね」


「あらお上手ですこと。誰にでもそんなに凛々しく吹いていては、女の子を泣かせますよ?」


「いえ、そのあたりスイメイくんほどではありません」


「ふふふ、それは確かに」


「……なんか昨日今日にかけてやたら話の出汁にされてる気がするんだが俺」



 出汁にも味噌にもされていることに、水明はもやもやとしていると、二人から微笑みかけられる。そして、レフィールと雪緒の会話が終わったのを見計らって訊ねた。



「雪緒さん。師範(せんせい)はいまどちらに?」


「道場ですよ。今日はお稽古がありますから」


「あー、今日はあるのかー」



 間延びする声が、その面倒臭さを思わせる。

 このまま道場に行けば、他の弟子たちと鉢合わせることになるだろう。

 水明は基本的に、彼らとは折り合いが悪い。そのため、突然部外者を連れて行くとなると、文句を言い出す者もいるかもしれないということは十分に考えられた。



 だが、考えても仕方ないかと、考えることはやめにした。

 いずれにせよ、鏡四郎にレフィールを引き合わせなければならないのだから。



「こちらへどうぞ」



 雪緒の案内に従って、レフィールと共に靴を脱いで家に上がる。

 縁側から見えるのは、手入れの行き届いた美しい庭園だ。レフィールが、異世界にはない風情の庭を見て、ほうと感嘆とした息を漏らす。



「ルメイア殿が月を見ながら一杯やりたいと言い出しそうな庭だ」


「あー、あの狐のギルドマスターならそんなこと言いそうだわ」



 そんな話をしていると、やがて道場に到着。引き戸を開けると、初美を含む弟子たちが、道場の端に並んで座っていた。



 これから訓示があるのか、それとも禅でも行っていたのか。水明が入ると、ざわりとどよめきが走る。それはやはりというか当然、驚きだろう。



 いままで道場に顔を出さずに一体何をしていたのか。

 そんなことを考えているに違いない。視線の質も、あまり良くはなかった。



 そう思われるのは、水明が道場に来ないことが多く、彼らに不真面目と取られているためだ。もちろんそれには理由があるのだが、それを言って聞かせるわけにもいかないのだが。



 ともかくと、水明はまず神棚に拝礼し、レフィールにもやってもらうと。



(スイメイくん。あまり歓迎されていないような雰囲気だが?)


(俺のせいだ。申し訳ないんだが、居心地悪いのは勘弁してくれ)



 人知れずそんな話をしつつ、拝礼を終わらせると、水明はあることに気付く。



「お? 帰ってきてたか馳斗(はせと)


「ええ。お久しぶりです水明さん」



 言葉と共に頭を下げたのは、鏡四郎に似たイケメンだった。前髪を後ろに撫で付け、ロン毛気味。道場着に身を包んで、脇には木刀が置かれている。



 初美の弟である、朽葉馳斗だった。



「事情はもう聞いてるよな?」


「ええ。あの水明さんが随分大胆なことしたなぁとは思いましたね」


「おい、なんだそれは? 俺のせいになってるじゃねえか」


「はは、冗談ですよ」



 非難混じりの粘っこい視線を向けると、馳斗が快活に笑う。その笑い方は、父親である鏡四郎にそっくりだ。水明も、馳斗とは初美と同じで、昔からの馴染みである。幼いころは初美のときと同様によく世話を焼いたため、かなり尊敬されていたりするのだ。



 久しぶりに会う従弟と気安く談笑していると、ふいに険を孕んだ声が上がる。



「おいお前、道場にも顔を出さないでいままでなにをしていた?」


「ん? ああ、諏訪さんか」



 非難がましい声を放ったのは、道場でも有望株と目されている青年だった。自分の力量に自信があり、やたら先輩風を吹かせるタイプのであるため、ここでこうして強めな発言をしているのだろう。



 そんな差し出がましい睨みつけに対し、水明はどこ吹く風で肩をすくめると、



「やめろやめろ」



 すぐに止めに入ったのは鏡四郎だ。



「師範しかし!」


「お客の前だ」


「だからといって、それでは下の者に示しがつきません!」


「示しねぇ……」



 鏡四郎も止めたいのか止めたくないのか、態度は曖昧、判然としない。

 一方で初美と言えは、諏訪の言い分に苛立ち始めているのか、落ち着かなさを表し始めている。



 ……確かに、神秘関連の仕事で海外渡航が多く、稽古には参加できなかったし、剣士としての道理を持ちすぎると魔術師として大成しないという父の意向で、途中からまともな稽古ができなくなった。不真面目と取られるのは、まあ仕方ないと言える。しかしその辺りも、師範である鏡四郎は承知済みであるため、彼から何かしら言われるということはないのだが。



 ともあれ当然他の者は、それを知る由もない。

 思いの外、鏡四郎が強く出なかったためか。口さがない連中がぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。



 普段はここでもう一度、鏡四郎が柔らかめな一喝をするのだが、やはりその様子はない。ただ意味有りげにこちらに視線を寄こすばかりだ。



 そろそろ自分でどうにかしろと、これはそういうことなのかもしれない。



「おい、何か言ったらどうだ!」



 諏訪が、また責めるように言い放つ。



「…………」


「無視するつもりかお前!」



 道場に響く一際大きな声に、ため息が止まらない。やれやれと、お前はそれでも剣士なのかと。道場で禅を組んでいるのだからもう少し落ち着きを持てと言いたくなる。



 一向に口を開かない水明に、諏訪が立ち上がろうとした、そのみぎり、



「――黙れ」



 水明はそう一言、口にする。

 場を制圧するには、その呟き一つで十分だった。



 魔術師の威圧――心霊寒気(サイキックコールド)で、強制的に沈黙させる。

 神秘が働き、道場の体感温度が一気に低下した。騒いでいた口も舌もすべて、まるで凍り付いたかのように動かなくなる。先ほどまで文句や怒りで高まっていた熱気が、まるで幻か何かだったかのように霧散してしまった。



 あまりに簡単に静まったことに、水明の口からまたため息が一つ漏れ出て行く。口の割りには耐性がないのだなと思い横目で窺うと、威圧が効いていないのは、鏡四郎を含め五人と言ったところ。



 水明はそれを確認したあと、諏訪の方へと歩み寄る。上から睨みつけるように火眼金晴を露わにすると、幅を利かせに利かせていた青年は、あたかも金縛りにあったかのように固まってしまった。



「……いままでは体育会系の物言いしたくなくて黙ってたがな、俺の方が兄弟子なんだぜ? ちゃんと、その辺り、弁えておけよ」


「ぐ……、だ、だが……」


「何か文句言いたきゃこれで動けるようになってから言え……なんて贅沢は言わないさ。だが、イキるんならせめてちゃんと喋ることができるくらい度胸が据わってからにしな。わかったな?」



 そう言って、レフィールのもとに場所に戻るため、踵を返す。

 そして、ふと思い出したように振り向き、



「あと、言っておくがな。あんたがやってる部分の稽古は、俺が十歳のときにはもう終わってるんだ」



 水明がそう言い終え、威圧を解くと、徐々に驚きの声が上がり始める。

 やがて道場の奥から笑い声が聞こえて来た。

 漏れ出てきた忍び笑いの主は、朽葉鏡四郎その人。



「くくく……水明。俺の道場を凍らせてくれるな」


「申し訳ありません」



 水明が素直に頭を下げると、諏訪が鏡四郎に訊ねる。



「し、師範、いまの話は」


「ああ。言った通りだぜ? 水明は、基礎を十二までに全部終わらせてる。いろいろ事情がなきゃあな、ウチで塾頭させてるくらいの腕ではあるんだよ」



 諏訪は熊のような見た目の中年に、縋るような視線を向ける。

 現在、朽葉道場で塾頭を務める男だ。



「じゅ、塾頭……」


「この道場じゃ、師範代(はつみちゃん)よりも八鍵の坊が古株だからな。そう言われちゃあ誰も言い返せないさ」



 彼の言う通り、水明が鏡四郎から剣を習い始めたのは、道場が出来てすぐのことだ。ある意味、水明が彼の一番弟子でもある。



 ふと、塾頭と呼ばれた男が水明の方を向いた。



「坊。普段のときもその強烈な威厳を振り撒いてくれれば、道場の中も引き締まるってモンだがなぁ。ねぇ、師範」


「当たり前だ。そいつは俺がアニキと慕った男の息子だぞ? 弱いわけがないだろうが。わからないやつはみんな、そいつに謀られてんだよ。なあ、初美」


「わ、私は水明が強いことくらいわかってたわ!」


「ほんとかよ?」



 水明が面映ゆそうに後ろ頭を掻いていると、ふと後ろから神棚に拍手を送る音が聞こえて来る。

 いつ来たのか、長い黒髪を流した少女が神棚に礼を捧げていた。



 ハイデマリーの持つ黒々としたものとは別種の、藍色に照り映える黒髪。両目下にほくろを持ち、中世的な美貌を持つ。大和撫子の体現。完璧なる和製美人だ。雰囲気は、雪緒を更に楚々とさせ、物静か。影が薄いとも思えるように、気配がひどく希薄である。



「伊月か」


「お久しぶりです八鍵さん」



 水明の声に応えた少女は、優しげな笑みを見せ、頭を下げる。

 彼女は、鏡四郎から剣の手ほどきを受けている別流派の人間だ。その力量は高く、初美と同格。水明程度の剣の腕では敵わないほど強い。



「先ほど冷たいものを感じましたが、なにかあったのですか?」


「いや、些細なことさ。長く開けて悪かったな」


「いえ、心配していましたが、お二人のことですし大事はないだろうとも思っていました」


「初美とはもう手合わせしたのか」


「はい。先ほど庭先をお借りして、三本ほど」



 水明が訊ねるように初美に視線を向けると、彼女は不敵に微笑んだ。



「一勝一敗一分けよ」


「いまのお前でかよ?」


「そうよ。さすが伊月さん。目が覚めるわ」



 初美と伊月、二人で笑い合っている。年が同じということもあり、普段から仲が良い。

 すると、伊月はレフィールに視線を向ける。その瞳には、確かな斬意と、好戦的な光がぎらぎらと輝いていた。そんな目をするということは、その力量を見抜いたのだろう。



 そしてそれを真実と示すように、



「そちらの方も、相当な腕前とお見受けします」


「ハツミ嬢と腕を競うほどの方か。是非とも手合わせしたいな」


「ええ、機会があれば」



 レフィールが軽く武威を向けると、その途端、剣呑な気配と共に、伊月の周囲を無音が支配する。

 音、死す。そんな言葉が似合うかのように不自然な静寂のせいで、身じろぎの音、息遣いの音すら聞こえない。



 無音に自ら沈み込んだ剣士に対し、水明は慌てつつ、



「おい伊月。先生にいろいろと見てもらいたくて連れて来たんだ。悪いがあとにしてくれ」


「それは申し訳ありません。つい」



 伊月が気配を解くと、音が戻って来たような感覚を覚える。そして、ふとした微笑み。



「では、失礼します」



 彼女はそう言って頭を下げ、道場の空いた場所に正座する。



(なるほど。粒ぞろいだ)


(あいつと初美と馳斗と権田さんは特別だかんな)



 水明はレフィールと小さな声で会話をしつつ、ふと気付く。



「あっと、師範(せんせい)。作法の方は……」


「気にしなくていい。んなもん一から教えてたら日が暮れちまうだろ」



 水明がレフィールを案内するように導き、鏡四郎の前に座らせる。正座は慣れないだろうと楽な姿勢を取ってもらうと、鏡四郎の方から声がかかった。



「それで、助言が必要ってのはお前さんかい?」


「はい。レフィール・グラキスと申します」


「話はあらかじめ聞いてるぜ。ま、肩肘張らずに楽にしな」


「お気遣いありがとうございます」



 そう言って、レフィールは軽く頭を下げる。そして顔を上げ、鏡四郎の顔をまじまじと見て――



「…………」



 こんな、おかしな顔である。


「どうした?」


「いえ、ハツミ嬢の御父上と聞いたのですが」


「ああ、親父で間違いねぇぜ?」


「……御内儀もそうでしたが、若々しいですね」


「まあな。これでも今年で四十五だ」


「…………」



 鏡四郎の言葉を聞いて、レフィールの目が点になった。雪緒の見た目も三十代くらいと若いが、鏡四郎については輪をかけて若い。



「妖怪だよなぁ」


「妖怪よねぇ」


「ほんとそれな」



 息子、娘、甥っ子にそんなことを言われ、うっと顔をゆがませる鏡四郎。



「お前らな」



 言われるが、全員示し合わせたように目を背ける。息ぴったりな水明たち。

 ともあれと、水明はレフィールに訊ねる。



「……それで初見の感想は?」


「怖いよ」


「へぇ?」


「なんだろうな。まるで普通にしか見えないからかな。君が強いというのだから疑うべくもない。だが、その片鱗がまったく見えないんだ」


「だよな。――師範(せんせい)、詐欺ですってよ」


「詐欺師うんぬんは君が言えることでもないと思うがね」



 レフィールから改めて指摘が入り、水明は舌を出す。

 すると、鏡四郎がやにわに立ち上がった。



「さっそくやろうか」


「よろしいのですか? 道場の稽古の方があるのではないでしょうか?」


「問題ない。見てるだけってのも修行になるからな」



 鏡四郎は、木刀などが掛けられた壁際に足を運び、選ぶように視線をさまよわせる。しかしてその眼差しは、獲物を狙う鷹のように鋭いもの――ではなく、壺やら盆栽に胡乱な視線を這わせる素人目利きのようなもの。



 んー、と遠目から見るように、どこか覚束なさがある。

 そして、何か意に適うものを見つけたのか。



「そうだな。まるっきりお前さんの武器の代わりになるようなものはないが、これなんてどうだ?」

 鏡四郎は、レフィールに長めの木剣を差し出す。長さは彼女の得物よりも少し短く、身幅もないが、現在道場の中にある木剣の中ではもっとも近いと思われる。



 鏡四郎がまったく訊ねもせずに差し出しことで、レフィールが困惑を露わにした。



「あの、私の得物を」


「お前のは、身幅の広いデカめの剣だろう? 段平とかそっちだな」



 レフィールに返されたのは、いたずら小僧のするようなニッとした笑み。ふとレフィールが「伝えておいたのか?」と探るような視線を寄こしてくるが、水明は首を横に振る。



 水明も、見て欲しい剣士がいると伝えただけで、そんなことまでは言っていなかった。


 すると、



「それくらいわかるさ」



 鏡四郎は、これである。うそぶくようにそう言い放って、ケラケラと笑う姿は、やはり只者さを感じさせない不気味さが見え隠れしていた。



 しかして木剣を握りしめたレフィールの表情は、期待に満ちたわずかな笑み。鏡四郎の埒外さを思い知らされ、剣士としての興が膨れ上がったのだろう。



 彼女がすぐに、立ち合いの位置に着くと、


「ほう? これはこれは……」



 まず声を上げたのは鏡四郎だった。

 構えを見ただけでも、わかることがあったのだろう。隙のない構えを取るのはありがちなことだが、わざと隙を作った構えを取ったことから、経験が豊富であると言うことを見抜いたか。



 レフィールは両手で木剣の柄を握り、脇を締めて立ち、一方の鏡四郎はと言えば、肩に木刀を担ぎ、無造作に立っている。



 ただそれだけのこと。



 やがて、レフィールが踏み込み……立ち合いが始まった。






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