ティータニアさん、語るに落ちる
…………しばらくして、レフィールが戻ってきたあと、グラツィエラが彼女に訊ねる。
「で、どうしたのだ? 神子殿の身体の方は?」
真面目な訊ねだが、まだ笑いが抜けていないらしく、グラツィエラは薄笑いを浮かべている。そんな彼女に、レフィールは「ムッスー!」とした子供っぽいむくれ顔を向け、
「別にどうということはない。ふん!」
これ見よがしに顔を背けるレフィールに、今度は黎二が訊ねる。
「でもレフィールさん。前に小さくなったときは色々と不便そうだったよね?」
「そうだが。以前のように完全に力が使えなくなったわけではないようなんだ」
黎二に説明するレフィールに、笑いをこらえたグラツィエラが、
「しかし、縮んでしまうとはな」
「文句でもあるのか、グラツィエラ殿下」
「いやいやそんなことはない。むしろ面白い。なんならその姿で定期的に帝都の大聖堂に顔を出してもらえないか? 可愛らしいなりで精霊の神子様をやってくれれば、信徒の信心もことのほか篤くなるだろう。主に保護欲だろうがな。ふ、ふふふふふ……」
グラツィエラは再び薄笑いを響かせる。おそらくはその「大聖堂であがめられている小さなレフィール」の姿を想像したのだろう。レフィールと因縁のある彼女には、面白いものとして映っているに違いない。
「絶対嫌だ! そんなもの見世物ではないか!」
レフィールが提案を拒絶すると、一転グラツィエラは真面目な顔になり、
「何を今更。どんな言葉で取り繕おうとも、権力者や有名人など少なからず見世物よ。それが役に立つというのだからそれ以上のことはないではないか?」
「むうう……」
確かに正論だ。レフィールが二の句を継げなくなったのもわかる。いくら見世物という言葉や状態に良い印象がなくとも、実際それによって良い効果があるのだから、決して悪いものではない。当人の心情などその限りではないが、ともあれ有名税に関しては仕方がないことなのだ。
「にしても可愛らしいな。もとの姿からはまったく想像がつかん」
「うるさい! もとの姿の私も可愛い!」
グラツィエラにすかさず反論するレフィール。一方、そのやり取りを聞いていた他の面々は「そっちかよ」という突っ込みを心の中で入れていた。
「スイメイくん! 君もグラツィエラ殿下に借りがあるだろう! ここでグラツィエラ殿下を倒してしまえ! 跡形もなく焼き払うんだ!」
終いにはイスの上に立ちあがって物騒なことを言い始める神子様。ここで決着をつけろというのか。さすがにそのレフィールの過激な発言には、水明も引かざるを得ない。
「いや……それはいくらなんでもよ」
「君は私の味方ではないのか!!」
「レフィってときどき無茶苦茶言うよなぁ……おい、お前どうにかしろよ?」
水明はそう言って、グラツィエラの方を見る。一方視線を送られた方のグラツィエラはと言えば、水明の王族を王族と思わないような態度に、不満そうな態度を見せる。
「貴様も相変わらず不遜な奴だ。私はこれでも一国の姫なのだぞ? 言葉遣いに気を付けるといった平民らしい奥ゆかしさはないのか?」
「人にケンカ吹っかけてきたヤツに今更おもねった態度なんて取れるかよ」
「そうだな。私もお前に敬語を使われるところを想像すると、背中が粟立ってしかたがないな」
にやりと挑発的な笑みを浮かべるグラツィエラを見て、水明は額に青筋を立てる。
「んだと?」
「スイメイくん! やってしまえ! 私が許可するぞ!」
水明が色めき立ったことで、今度はそれに便乗するレフィール。これでは話が一向に進まない。愉快げに笑っているイオ・クザミを除く他の面々が困っていると、見兼ねた黎二が代表して割って入った。
「ねえ水明、ここは抑えて」
「俺は別にだな……」
「グラツィエラさんも、ね?」
猫なで声を出した黎二は、グラツィエラに対して微笑みかける。彼はそれで宥めすかして退かせようというのだろう。だが、あのグラツィエラがそう簡単に引く手合いか。
誰しもがそう思っていたのだが――
「……う、まあ、そうだな」
グラツィエラは退いた。至極あっさりと。間にもう少しやり取りがあると思っていた水明他一同は、意外な展開に目を丸くする。
「……なんだ? 揃いも揃っておかしな顔をして」
「いや、やけにあっさり退いたなって……」
「悪いか?」
「別に悪いとかって話じゃないが……」
やはり腑に落ちない。先ほどレフィールのときに彼女が自分から退いたのは、レフィールが小さくなった状態ゆえのものだが、基本負けず嫌いそうなグラツィエラが因縁のある相手である自分に対しこんなに簡単に鉾を収めるとは、水明にはどうも得心がいかなかった。
唯一心当たりがあると言えば、仲介に入った黎二であり、当のグラツィエラはどこか落ち着かない様子を見せていて――
「え? なにこれ? もしかして黎二のヤツまた攻略しちゃった的な?」
「そう……なりますかね」
「うむ。そうなるな」
「おいおい、いつの間に攻略したんだよ……」
ティータニアとイオ・クザミ返事を聞き、水明は困惑の息を吐く。ある意味いつものことなのだが、呆れの息は止められなかった。
そう、水明たちはあずかり知らぬことだが、自治州での一件が終わってから、グラツィエラは黎二に対し、かなり好意的になっていたのだ。
どういうことか事情を知っているティータニアは、一人ブツブツと「レイジ様が助けるからいけないのです……」と何やら不満を呟いていたが。
ともあれ、
「……というか随分いまさらになるが、何でアンタがここに来るんだ?」
本当に今更な話。水明がそれをグラツィエラに訊ねると、彼女は怪訝そうに眉をひそめる。
「なんだ? お前は聞いていないのか?」
「……?」
当然そう言われても、水明にはとんとわからない。彼にとってはティータニアが通してくれとすんなり言った時点で、ちんぷんかんぷんだったのだ。
一方、事情を知っているらしき黎二の方はというと、間抜けのようにとぼけた表情を見せ。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「おい、聞いてないぞ? 理由があるならちゃんと説明してくれよ」
「スイメイ。グラツィエラ皇女殿下は、私たちと共に自治州へ行ったのです」
「は? なんだそりゃ?」
「忌々しい女神のお告げとやらのせいだ。お前たちが帝都を離れたあと、レイジに同行しろというお告げが出てな、それで今日もここに来たと言うわけだ」
グラツィエラはそう言って、改めて事情を説明していく。
同行についての経緯、そして今回の話し合いに加わることへの説明も受けた水明は、イスの上で腕を組んで唸りつつ、グラツィエラに訊ねた。
「……アンタがここにいる事情はわかった。その上でだが、俺たちとつるむのはいいのかよ?」
「仕方あるまい。公人である以上、私は殺さねばならんからな。必要であれば、嫌であってもやらねばならん」
「まあ、納得してるんなら構わないがよ」
そう言って、水明は自分の仲間の方に視線を遣る。
「あ、私は特に思うところなどはありませんよ」
フェルメニアは、蟠りはないと言うように首を振る。自国の姫が我慢して迎え入れている以上、臣下である彼女が口を挟むべきではないということなのだろう。
一方レフィールは不満げな視線を返してくる。先ほどのことが尾を引いて嫌なのだろうが、グラツィエラが「私を殺さねばならない」と言った以上、わがままは言えないか。
「改めて、グラツィエラ・フィラス・ライゼルドだ。お前たちとはよろしくしないだろうが、レイジたちと共にいるということは覚えておいてくれ」
グラツィエラはそう手短に自己紹介をして、リリアナの方を向く。
「リリアナ・ザンダイク、お前も久しぶりだな」
「ご無沙汰、しております」
「十二優傑に戻りたいと思っているなら、いつでも口を利くぞ?」
「いいえ、もう戻るつもりは、ありません」
「……そうか。まあ、それならしかたあるまいよ」
リリアナが大きく首を横に振って、強い拒否の意を示すと、グラツィエラは食い下がることなく引き下がった。そのあっさりとした態度から、社交辞令のようなものかとも思えたが、どこか残念そうな雰囲気が垣間見えたゆえ、内心戻ってきて欲しかったのだろう。
リリアナのあの有能っぷりを見ればわかることだが、ローグも含め、抜けてできた穴は見過ごせないほど大きかったのかもしれない。
「それで、話はどこまでしたのだ?」
グラツィエラの訊ねに、答えたのは黎二。
「魔族の将軍、イルザールのことと、瑞樹のところまでは話し終わったよ」
「そうか。ではあれの話までには間に合ったということか」
「あれ?」
グラツィエラの抽象的な言葉に、水明が首を傾げる。
すると、それにはすぐに黎二が答えた。
「僕らが自治州に行った目的だよ」
「ああ、ということは例の勇者が残したとかいう武具の話か」
「うん。これなんだけどね」
そう言って黎二が胸のポケットから取り出したのは、銀色の小物だった。
それは、中心に青い宝石が埋め込まれた、片翼の徽章。まるで外国の勲章を思わせる意匠で、作りもかなり精緻な代物だ。
それを見たレフィールが、まず怪訝そうな顔をする。
「レイジくん、この小物がどうしたんだ?」
彼女の疑問も当然だろう。話の脈絡から、言葉のあとに武器を見せる流れだったのだから。しかし、彼が取り出したのは到底武器とは思えないような小さな装飾品である。これでは彼女を含め他の面々も首を傾げずにはいられない。
「レフィールさん。これがその勇者の残したと言われている武具なんです」
「これが?」
「……レイジ殿。私にはただの装飾品にしか見えませんが、何か神秘的な力でも有しているのでしょうか?」
困惑極まったという様相のフェルメニア、彼女の訊ねに、黎二は曰く言い難いような顔を見せる。
「神秘的な力を有しているのは確かにそうみたいなんですが――」
装飾品を見詰めながらフェルメニアに説明していた黎二は、ふと何かに気付いたように顔を上げた。眉根を寄せたようなその顔の先には、水明の険しい顔。
「水明?」
「いや、それ武器なんだろ? それが何でこんなどこにでもあるようなアクセサリーみたいなのなんだよ?」
「あ、うん。これが変化するんだ。剣にね」
「これがねぇ……」
曖昧な息を吐いた水明は自分の顎をさすりながら、黎二の手のひらの上のものを矯めつ眇めつ。角度を変えながら検めていく。
そんな彼に、黎二は険しい顔をしながら説明をする。
「僕も最初見たときはどうして装飾品なのか不思議だったんだけどね。確かにこれが武器に変化するんだ。なんでそうなるのかは、まったくわからないんだけどね」
言い終えると、黎二は周囲の視線が装飾品ではなく、彼自身に集まっていることに気付いたらしい。見せてくれと、それは武器に変化させるのを期待しての視線だ。
しかし、
「ごめん。武器には変化させられないんだ」
「どういうことです? 武器に変わると断言したということは、武器に変化させることができたのでしょう?」
「ええ、そうなんですけど、どうも変化させるには条件があるみたいで、できたのはそのとき一回きりだったんです」
「白炎殿。レイジ様がこの武具を変化させることができたのは、魔族の将軍との戦いの最中でした。当時私たちは劣勢に追い込まれていたのですが、レイジ様が叫ぶと突然変化して……」
「これを武器に変えることができた途端、魔族の将軍との力量差をまったく感じなくなったんだ。あれだけ絶望的だったのに。攻撃もよく見えるようになって、受け止められるようにもなったし……」
「武器に変えることができたら、レイジくんが急に強くなったというのか……?」
レフィールは身体能力が強化されたことについて、いまいちピンと来なかったのだろう。彼女の疑問に答えたのは、見ていたうちの一人であるグラツィエラだった。
「私たちが見ていた限りの話だが、おそらくその武具は持ち主の力を強化する能力も付与されているのだろう。他にも特殊な力を操っていたしな。まさに勇者の武具と言われるに相応しいものだった」
納得の頷きを交えつつ、そう語るグラツィエラ。彼女が茶化さないあたり、武器に変化させてからの黎二の強さがそれだけ強く印象に残ったということなのだろう。
だが黎二たち以外の面々と言えば、まだ半信半疑――というよりは、実感が湧いていないといった具合だった。だがそれも当然だ。黎二たちが嘘を言っているとは思ってはいないが、実際に見せられたのは装飾品であり、肝心の『武器にするということができないのだ。
一見は百聞に如かずとはよく言ったもの。言葉のみの情報は、視覚的な情報には敵わない。
ふと、フェルメニアが隣を向いて、水明の顔を覗き込む。
「スイメイ殿?」
「ほー、これがねぇ……」
彼女の問いに、一拍遅れで返って来る水明の胡乱そうな声音。勇者の残した武具を眺めつつ、どこか部外者然とした雰囲気を醸している。しかしそれがティータニアには、疑いのように見えたらしく。
「信じられないかもしれないですが、いま言ったことはすべて事実ですわ。レイジ様がそれを武器にしたあと、私も苦戦したあの魔族の将軍をいともたやすく圧倒し……」
そう口にするティータニアは黎二の雄姿を思い出しているのか、うっとりとした表情を浮かべている。先ほどと言っていることが多少なりと違う分、乙女の妄想で盛っていることは疑いの余地はないが、ともあれ。
そこで黎二が何かひらめいたらしく、ポンッと手を叩いた。
「そういえばいま思い出したけど、ティアって剣も使えたんだね。あんなに強くてびっくりしたよ」
「いえ、それほどでも……」
ティータニアは会話の流れのまま、淑やかな謙遜を返す。それを口にして、彼女は気付いたか。
「――あ」
結局口にするのは、しまったと言わんばかりの呆けた声。
一方それを口止めされていた水明は、彼女のあまりの間抜けさに、催す呆れを禁じ得ない。
そしてそんなやらかしてしまった少女はと言えば、黎二の前で動揺も動揺。右往左往甚だしく、まごまごしており、言葉も上手く口にできていない。
「あ、いえ、あれは、あれは、あれは……」
しかし、そんな彼女とはまったく違い、嬉しそうな声を上げる黎二。
「もう、あんなに強いなら先に言ってくれればよかったのに。僕はほとんど素人なんだから、立ち回り方とか教えて欲しかったなぁ」
「…………」
もちろん黎二は責めているわけではないし、ティータニアが絶句しているのも責められたと彼女が受け取ったからではない。すでに頭の中で『剣士として強い=お転婆=嫌われる』という飛躍しまくりの謎の等式ができてしまっている彼女にとって、それがバレたことは一大事だったのだ。
小刻みに震えているティータニアを尻目に、グラツィエラが黎二に不思議そうな顔を見せる。
「お前、ティータニア殿下が強いことを知らなかったのか?」
「え? グラツィエラさんは知ってたんですか?」
「当たり前だ。なにせティータニア殿下は……」
「あああああああああああああ! 駄目です駄目です駄目ですグラツィエラ殿下! それを言ってはいけません!」
正体を口にしようとしているグラツィエラに、ものすごい声と勢いで詰め寄るティータニア。そんな彼女に、グラツィエラは冷めた視線を向け、
「何が理由で隠しているのかは知らんが、あの大立ち回りを見せたのだ。もう今更だろう?」
「で、ですが……」
指摘を受け、ティータニアは口ごもる。抵抗があるということは、やはり黎二に嫌われたくないからということなのだろう。いじらしい気もするが、多分にズレているため周囲はよくわからない空気で満たされている。
ティータニアのそんな潔くない姿が、フェルメニアは臣下として複雑だったのだろう。彼女が説明に口を開いた。
「レイジ殿。姫殿下は、七剣の一人です。七剣が第四位、薄明の斬姫の二つ名を持つ、ここ北方でも最高峰の剣士なのです」
「――――」
サーッと、血の気が引いたような音が聞こえてきそうなほど、真っ青になるティータニア。ついに知られてしまった。そんなひどい絶望が伝わってきそうな顔をしている彼女に、しかし黎二の反応は色よいものだった。
「すごい! ティアってそんなにすごかったんだ!」
「え?」
「……? どうしたの?」
まるで予想外……といった声を上げるティータニアに対し、黎二は不思議そうに訊ね返す。ここでやっと認識の齟齬が見つかり、二人共目をパチクリさせていた。
ティータニアがおずおずと確認の訊ねをする。
「れ、レイジ様? あ、あの、お転婆とか思わないのですか?」
「どうして?」
「だ、だって、剣を使って相手に勇ましく斬りかかるなんて、お淑やかさに欠けますし……その、がさつな女だと」
「ううん、そんなことないよ。ティアはお淑やかだし、細やかじゃないか。むしろ尊敬しちゃうよ」
「ほ、本当ですか!?」
その訊ねに黎二が「うん」と言って頷くと、ティータニアは顔をぱあっと明るくさせる。
一方、二人のやり取りを横目で見ていたグラツィエラが、皮肉気に口もとを歪め、
「ティータニア殿下の眼力も甘いな。あの魔人から身を挺して誰かを守ろうとする男が、女のことを支配欲を満たすための道具と見ているわけがないだろう。それに剣を使える女がすべてお転婆で物騒なら、そこにいる神子殿などがさつの権化になるぞ?」
「いちいち私を引き合いに出すんじゃない!」
嘲るような視線を向けて来たグラツィエラに、レフィールがもろ手を上げてガーッと叫ぶ。完全にとばっちりだった。
一方水明は、欧米人よろしく大きく肩を竦めてティータニアに言う。
「だから前に言っただろうが。黎二はそんなの気にしないって」
すると、それに答えを返してきたのは黎二で、
「あれ? 水明は知ってたの?」
「ん? あ、ああ、まあな。危うくぶっ殺されかけたあと、口止めされてな」
「……なに? ティアとケンカでもしたの?」
黎二はそう訊ねて、非難まじりの胡乱げな視線を向けてくる。
しかしてそれに慌て始めたのは、ティータニアだった。
「な、何でもないのです! あれはその、私とスイメイの間に意見の食い違いといいますか、認識の誤りがありまして……いろいろ。その、いろいろ……」
そう、あのときの決闘は、そもそもティータニアから仕掛けたものだ。それについてちゃんとした理由はあるにせよ、剣を向けたのは確かゆえ、知られたくないのだろう。
だが、黎二は黎二で勘違いをしたようで、
「あー、水明がティアを怒らせたんでしょ?」
「は? はぁあああっ!? 何で俺が悪くなるんだよ!!」
「だって水明、この世界に来たとき先生も怒らせてたし、またなんかしたんじゃない?」
黎二は疑いの目を向けてくる。そんな彼に、水明は反論を試みた。
「俺があのときいつティアを怒らせることができたんだよ! つーかそんな素振りなかっただろ!?」
「でもそれ以外考えられないし……やっぱり水明が自覚のないうちに何かしたんだよ。謝っておいたら?」
「だからその件はすでに解決してるわ! ……ほんとひでぇとばっちりじゃねぇか…………おいティア、お前のせいだぞ? ……ティア?」
最初の呼びかけに反応がなく、水明は再度呼びかけるが、ティータニアはうわの空で、
「ふふふふふ……。レイジ様は強い女でも問題なし……そうとわかれば怖いものなど何もありません。魔族の将軍だろうが恋敵であろうが全て切り伏せて差しあげますわ……」
ティータニアは暗い笑みを浮かべながら、剣呑な独り言を呟いている。まるで天の意でも受けたかのような物言いだが、物騒なこと極まりない。背景がドス黒く見えてしまうような危ない気を放っているのが、またなんとも。
一方それを見ていた黎二は、引きつった笑みを浮かべ、
「……なんかよくわからないけど、すごくやる気になったみたい……だね。これは勘違いが解消されたってことでいいの、かな?」
「……たぶんな」
水明は大きなため息を吐いて、話題の転換を促す。正直この話はもうどうでもよく、すでに気分は適当であった。