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神殿のエルフ


 移動する前に救世教会へ使者を送っていたため、到着後の話の流れはスムーズだった。

 黎二たちが求める勇者が残したという遺物は教会とは別の場所にあるらしく、教区長である司教への挨拶を終えたあと、教会から再び馬車で移動する運びとなり、そして連れて来られたのは街から少し離れた場所に造られた巨大な神殿だった。



 巨大な石柱が何本も並んだ外装の中に、石膏造りの建物が収まっており、その奥には円堂が設えられている。まるでギリシャのパルテノン神殿とローマのパンテオンを合体させたかのような見た目。

 近付いてみるとその迫力には圧倒されるばかりであり、その例に漏れず瑞樹もまるで世界遺産でも目の当たりにしたかのように、大きな感嘆の声を上げた。



「うわー、すっごーい!」



 そう言って子供のように駆け出していく瑞樹に、ティータニアがまるでお母さんが幼子に言うような台詞を口にする。



「ミズキ、あまりはしゃいでいると転んでしまいますよ?」


「大丈夫! 水明くんシューズは超高品質みたいだから、向こうのスニーカーを超える履き心地の良さと性能があるんだよ! 飛んだり跳ねたりしても平気平気! ほら!」



 得体の知れない動物の革で作られた靴を指さし、そしてこれ見よがしに跳んで見せる瑞樹。ティータニアはそんな彼女に呆れつつも、優しい笑顔を向けて神殿へと歩いて行く。

 黎二も遅れて、グラツィエラやお付きの騎士たちと共に歩き出す。間もなく入り口前に到着すると、そこには救世教会の修道服を着た数名の導士たちが列を作って待機していた。

 先に連絡が入っていたためだろう。迎えの列から代表者らしき修道女が、前に出てくる。



「お初にお目にかかります。私はこの神殿の管理を任せられているファイレイと申します。ようこそおいで下さいました勇者様。異世界の方。そして両殿下」



 女性は出会いの挨拶を口にして、一礼。そして被っていたフードを取った。

 フードの中から現れたのは、白い肌と、白い髪、そして先のとがった耳。翠色の瞳と桃色の唇を持った、見目麗しくもどこか艶やかなエルフであった。



 顔立ちは二十代後半から三十代程度といったところ。格好は清貧だが、血色の良い唇が色っぽさを際立て、浮世離れした色気を感じる。

 瑞樹は後ろで「きれー」と熱を帯びた感嘆の声を上げる中、ファイレイの挨拶に対し、黎二が一歩前に出て返礼する。



「遮那黎二です。本日はお忙しい中お時間を作って頂き感謝いたします」


「ご丁寧にありがとうございますわ勇者様。でも、私たちは別に忙しくはありませんよ?」


「社交辞令ですので、気前よく受け取っておいて下さい」



 悪戯っぽい笑みを浮かべるファイレイに、そう笑顔で爽やかに返す黎二。そんな彼を余所に、その後ろではグラツィエラが、



「なるほど、タラシだなあれは」


「仕方ないんだよ黎二くんは。誰に対してもデフォでああいう爽やかな対応しちゃうから」



 グラツィエラと瑞樹がそんな感想を口にし合っていると、話は進んでいたか、ファイレイに導かれ黎二が歩き出す。話は歩きながらということになったのだろう。

 続いて入った神殿内部は薄暗く、光源は天井付近の採光窓から入る陽光のみ。灰色がかった石壁にいくつもの光線が射し込み、浮かんだ塵が良く見えるほど。早朝の教会という雰囲気があり、神聖なものを感じさせる造りとなっていた。



 歩き様、ファイレイの方から目的が切り出される。



「お話しはすでに承っております。遺物を引き取りたいと」


「はい。是非僕に使わせてもらえないかと思いまして」


「お引き渡しは構わないのですが、レイジ様の求める遺物は、レイジ様の助けになるかどうかわからないものなのです」


「それについては、エル・メイデの勇者エリオットから話は聞いています。使い手を選ぶということでしたね」


「ええ。勇者様が残された遺物は過去一度もものにした方はいませんでしたから、私たちもお役に立てるかどうか……」


「構いません。まずは使えるかどうか、僕に試させて下さい」



 丁寧に頼む黎二に、ファイレイは「はい」と了承の返事をする。その一方で、グラツィエラが内部を見回して怪訝な表情を浮かべた。



「ここにそんなものがな」



 疑っているかのような彼女の言葉に、ティータニアが訊ねる。



「グラツィエラ殿下はここを知っているのですか?」


「以前一度訪問したことがある程度だ。前も今回のように中は見せてもらったが、さりとて面白いものなどなかった。重要なものは見させてくれないと言うしな」



 そう言って、不満げに口をへの字に曲げるグラツィエラ。水明あたりなら「そりゃ重要だからだろボケ」とツッコミを入れているような案件だ。



 ともあれ、周囲を見回して内部を観察するティータニア。



「確かに、私も何もないように思いますが……」


「ええ、ここには何もありません。遺物の保管に奥を少し使っているだけなので、神殿のほとんどは見た目だけなのです」


「へー、要はおっきな物置なんだね」


「ミズキそれはざっくりすぎますよ……」



 瑞樹の小学生並の感想に、ティータニアは頭痛そうにして、疲れた声を出す。

 一方瑞樹はそんなことも気にせず、ファイレイに素朴な疑問を口にする。



「ファイレイさん。ここって随分綺麗ですけど、どれくらい前に造られたんですか?」


「暴君を倒してすぐです。当時は至急封印しなければならないものがありましたので、まず小さな保管場所を造り、そのあとこのように堅牢な神殿を造りました」



 遅れて瑞樹は何かを不思議に思ったのか、小首を傾げ、



「なんか見てきたみたいな言い方ですね」


「ええ。見てきましたから」


「へ?」



 瑞樹が素っ頓狂な声を出すが、ファイレイは柔らかな笑みを浮かべている。そんな心中知れない彼女に、黎二が恐縮した様子で訊ねる。



「あの、女性に年齢を訊ねるのが失礼なことはわかっているのですが、……ファイレイさんはおいくつなんですか?」



「しっかりと数えてはいませんが、少し前に五百歳になったはずです」


「そそそそんなにですか!?」


「さ、さすがエルフだよ……」



 狼狽した声を出す黎二と、呆然と口を開け放つ瑞樹。異世界に来て日は立つが、何百年も生きている者を目の当たりにしたのは初めてゆえ、驚きを隠せない。一方でティータニアやグラツィエラには常識なのか。全く驚いた素振りもしていない。



「ということは、当時の勇者もご存じなのですか?」


「はい。私がずっと若い頃に、お会いいたしました」


「どんな人だったんですか?」


「三人でした。どのお方も深い知識と強い力をお持ちで、この地を暴君の手より救って下さいましたわ」



 歩いているとやがて、奥の部屋へとたどり着く。



「ここですか?」


「いえ、目的のものはこの部屋のさらに奥に保管されています」



 ファイレイはそう言うが、瑞樹がその言葉が正しくないことに気付く。



「あれ? 何か置かれてるよ? ファイレイさん、これは違うんですか?」


「ええ、それはですね」



 そう言って、ファイレイは棚に置かれていた木箱を持ってくる。そして黎二たちの前で開いてみせると、そこからまるで現代世界にある懐中時計のような形をしたものが現れた。

 ファイレイは見やすいように配慮するか、取り出して黎二の手にそれを預ける。



 黎二が蓋を開けると、そこにはやはり時計のようなものがあった。ローマ数字に似た数字らしき文字の描かれた文字盤に、短針と長針に加え、ショーテルのように湾曲した短針と長針が重なって付いている。使われているのはこの世界の文字数字でもなく、全く不思議な時計だった。



「これは?」


ラケシスメーター

「刻の秤というものだそうです。当時の勇者様が、サクラメントと共に所持していました」



 黎二はファイレイの説明を耳にしつつ、竜頭に当たる部分を探す。だが、動かすためのゼンマイ機構は付加されていないようだった。



「動かせませんけど、どうやって使うんです?」


「それが……私たちにはわからないのです」


「わからない? 伝わってはいないんですか?」


「当時の勇者様は、これに関してのことを詳しくお話しになっては下さいませんでした。私たちの世界には、おそらく関係ないだろうということでしたので。これはサクラメントとは違いこちらの世界では意味をなさないものだと」


「意味をなさないとは、どういう?」


「なんでも、こちらの世界は『世界の終わり』が始まっていないからとのことです」


「世界の終わりが始まっていない?」


「はい」



 ファイレイが口にした勇者の残した言葉は、奇妙な言い回しであった。世界の終わりは結果を指す概念であって、終始のある『期間』を指す言葉ではない。始まりなどはないし、その言葉が使われる時点で全てが終わっている。

 黎二たちが怪訝そうにしていると、ファイレイは申し訳なさそうに口を開く。



「私もよくわからないのです。世界の終わりが始まるということは、それ自体が襲って来るのだと言っていましたが、それ以上のことはよくわからない単語ばかり口にされまして。結局、関係ないから気にすることはないといって締めくくられました」



 ファイレイは、それで刻の秤についての説明を終える。黎二たちもこれについてはこれ以上問いかけても無意味だろうと判断し、彼女に本題を訊ねた。



「それで、そろそろ武具の方を見せていただいてもよろしいでしょうか?」


「そのことなのですが、申し訳ありません。この先にはお通しすることができないのです」



 サクラメントのある場所か。奥の方を示して、しかし謝罪するファイレイ。彼女のかみ合わない行動に、まずティータニアが険の交じった声で訊ねる。



「どういうことですか? 先ほど話は聞いているとおっしゃっていたと記憶していますが」


「ここにいるのは救世の勇者だ。協力するのが筋ではないのか?」


「いえ、渡せないというわけではないのです。ただサクラメントは厳しく管理されており、扉には勇者様方が扱っていた魔法によって封印術がかけられています。ですので、それを解くのには私を含め専門の魔法使いが何人も必要で、解除に要する時間も半日近くいるのです」


「だからいますぐには通せないと?」


「はい。準備ができ次第お通しいたしますが、おそらくは明日になるかと」


「明日か……随分とまあ厳重なことだ」



 グラツィエラは無駄足をつかまされた気分か、凝った肩をほぐすような素振りを見せる。すぐに渡せないのなら、今日案内する必要もなかっただろうとでも言いたいのだろう。

 すると瑞樹が、



「誰でも使えないはずなのに、そこまでしなきゃいけないものなの?」


「当時の勇者様は、これはこの世界にあってはならないもの。世界の理を捻じ曲げてしまうほど強大な力を持っているものだとおっしゃっていました。それゆえ、その力を解き明かされないよう、暴君の遺物と共に封印することにしたのです」



 壮大もしくは過剰とも言えるファイレイの説明に疑問を抱いた黎二は、彼女に訊ねる。



「その強大な力というのは?」


「私が見聞きしたのは、万物を氷結させる力でした」


「万物を?」


「はい。勇者様は世のあらゆるものに干渉することができると言っていましたし、その通りそのサクラメントの力で凍らせられないものは存在しませんでした。他の勇者様も、サクラメントだけは例外だと言っておられました。条件さえ重なれば、それこそ神さえ殺すことができる武器だとも」


「か、神さえ殺すことができる、だと?」


「そんな思い上がりも甚だしいものだというのですか?」



 ファイレイの言葉に、グラツィエラとティータニアがそれぞれ驚きと憤りを露わにする。女神アルシュナの威光のもとにあるこの世界の住人ゆえ、神を殺すという言葉は随分と過ぎたように聞こえるのだろう。



 まるで勇者のことを庇うかのように、ファイレイが首を振る。



「いえ、もとの用途は違うものだったそうです」



 それの言葉にピンときたのは、瑞樹だった。



「もしかしてさっき言ってた『世界の終わり』のことですか?」


「はい。サクラメントはそれを回避するために造られ、結果その副産物として、途轍もない武器になったのだと」


「そんなものが、この奥に……」



 黎二は奥の部屋に続く扉を見詰める。そして思いを馳せるのは、やはりこの先にあるだろう武器のこと。

 世界の終わりを回避し、世界を救うことの出来る武器。そんなものがこの奥にあり、自分はそんなものを手に入れようとしている。

 昂揚する反面、過ぎたるものなのではないかという不安もまた、胸の内に去来していた。





 解除の儀式は今晩から始め、封印が解けるのは明日ということなので、黎二たちは一度ファイレイと別れ、再度馬車に乗ってアッティラの街を目指していた。

 馬車の中は、人いきれにも似た妙な熱気を孕んでいた。それもそのはずだろう。ファイレイからあんな説明を聞いたあとでは、興奮しないはずがない。いつもは冷静なティータニアでさえも、落ち着かないのかしきりにそわそわと足を動かしている。



 かくいう黎二も、興奮は冷めやらない。もしかすれば、途轍もない武器を手に入れるかもしれないのだ。それも、いままで誰も扱うことのできなかった武器でもある。選民意識など毛頭ないが、自分が特別なのだと思わせられるような事柄は、少し気持ちのいい感じもする。

 早く、手にしてみたい。試してみたい。そんなことを考えながら自分と手のひらを見詰めていると、ふと瑞樹の呼び声が聞こえる。



「ねえねえ、黎二くん」


「ん? 瑞樹、どうしたの?」


「さっきのファイレイさんの話で気になったことがあったんだけど、黎二くんは気付かなかった?」


「気付く?」



 どこか勿体付けたような瑞樹の訊ねに、問いを返すと、彼女は険しい顔をして言う。



「うん。さっきあの人、ファイレイさんが見せてくれた遺物の一つ、ラケシスメーターって言ってたよね?」


「うん。そうだけど、それが?」


「メーターって、私たちの世界の言葉でしょ? 英語。それにラケシスも、確か外国の神様の名前」


「神様の名前の方はよくわからないけど、メーターって言えば確かにそうだね」



 だが、それが何か気にすることなのか。そんな風に黎二が不思議そうに瑞樹を見詰めると、彼女は察しの悪さがもどかしいというように、



「あう……よく思い出してみてよ黎二くん」



 言われた通り、思い出す。はてあのとき、何かあっただろうか。話しと言うからには、瑞樹が言うのはファイレイの口にしたことについてなので彼女の行動に疑問を持ったわけではないだろうし、それに疑問についても特定している。

 ラケシスメーター。確かに彼女はそう言っていた。それに間違いはない。間違いは――



「あ! 口の動きだ!」



 黎二は気付きがもたらした驚きで、咄嗟に馬車の中で立ち上がる。一方瑞樹はやっと気付いたことに喜ぶか、嬉しそうにうんうんと頷いた。



「そうそう。ファイレイさん。あのときちゃんとラケシスメーターって言ってたんだよ。英語――つまり私たちの世界の言葉で」


「なるほどな。あれはミズキたちの世界の言葉なのか。……ティータニア殿下、ちょっと言ってみろ」



 グラツィエラがそう言うと、ティータニアはあからさまに不機嫌そうな顔をする。



「なぜ私が指図されねばならないのですか…………まったくもう、りゃ、りゃけしうめいたあ……?」



 他の世界からもたらされたものゆえ、こちらの世界で対応する物品がなく、言葉もない。そのため彼女たちは変換されていない言葉をそのまま口にしなければならないため、慣らさないと発音がおかしくなるのだ。



「ぷ……」


「く……」



 ティータニアの創り出した変な言葉に、瑞樹と黎二は堪らず噴き出した。



「笑わないでください二人共! もうっ!」


「ごめんごめん」



 羞恥で顔を赤くさせるティータニアに、黎二は素直に謝る。一方で言わせたグラツィエラはといえば、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。ムッとした顔をグラツィエラに向けるティータニア。そんな二人を見ていると、そう仲が悪いようにも見えなかった。

 それはともかくとして、だ。



「……そうか。じゃあそれをこの世界にもたらした人は、僕たちの世界の人間ってことになるんだ」



 自分たちの世界の言葉で名が付けられた物品というならば、自分たちの世界から持ち込まれたものであるのは当然の帰結だ。

 黎二はそう答えを出したが、しかしそれを教えてくれた瑞樹はまだ答えに急いではいないようで、



「かも知れないって段階だけどね。でもそうなると、だよ?」



 当時呼ばれた勇者は三人。一人はサクラメントの持ち主で、もう二人は魔法使いだったという。そして三人とも同じ世界から呼ばれていたというなら。



「……ぼくたちの世界に、魔法使いがいたってことになるよね」



 たどり着いた真実は、衝撃的なことだ。黎二も思わず息を呑む。自分たちの世界には、人知れずそんな小説に出てくるような人々がいるのだと。そう考えただけで、何とも言えない気持ちになる。

 黎二がえも言われぬ気持ちに浸る中、ふと隣から気味の悪い忍び笑いが聞こえてくる。



「ふふふふふふふふ、すごいすごいすごーい! 黎二くん黎二くん! 私たちの世界に魔法使いがいるんだよ! 夢が広がりまくりすてぃだよっ!」


「瑞樹、サムいよそれ……」


「いいの! いちいち細かく突っ込まないでよ!」



 ギャグに対する指摘にぷんぷんと頬を膨らませる瑞樹。だがやはり嬉しいのか。すぐに相好を崩し、にやにやが止まらない様子。



「これでもう水明くんに中二病なんて言われなくて済むよ! むしろ私が正しかったことが遂に証明されるんだよ!」


「そうだね。……水明ご愁傷さま」



 馬車に谺する少女の高笑いと、それにかき消される少年の気の毒そうなため息。それを聞いている他の二人は、逆に黎二や瑞樹の方を気の毒そうに思っていたりもするのだが。

 そんな中、グラツィエラが、



「まさか、当時の勇者も二人と同じ世界から呼ばれているとはな」


「こういうこともあるみたいだね。僕ら三人の例もあるし、僕たちの世界の人間は英傑召喚で呼ばれやすいのかもしれないね」



 黎二はそんな風に思うが、しかし瑞樹の考えは少し違うらしく、一人訳知ったような笑みを浮かべる。



「でもまだわからないよ? 可能性があるって段階だから。もしかしたらパラレルワールドって線もあるんだし」


「ぱられるわあるど、ですか?」


「うん。私たちが生きているこの世界とは別に、同じようないくつもあって、それぞれに別の未来があるの。この並列世界での私は異世界に召喚されてるけど、別の並列世界の私は召喚されてなかったりとかね」


「う、ん…………難しいですね」


「そっか、だよね」



 眉間にしわを寄せ、険しい表情を見せるティータニアに、瑞樹は苦笑いを返す。やはり想像が乏しく概念の発達していない世界では、理解出来ない話なのだろう。



「だがミズキ。そんないくつも世界があるというのなら、私が何人もいることになるぞ? そんなものがあるわけないだろう」


「でも異世界っていうのがあるから、あながち頭から否定できるものでもないと思うけど?」


「それを英傑召喚とつなげるのか?」


「それくらい私たちにはこの世界に呼ばれたことは大事だったんだよ? 他の世界と行き来するなんて。これからどれだけ科学が発展しても、それは出来ないと思うなぁ」


「ふむ……」



 瑞樹の思いを聞いて、グラツィエラも少し納得したか。ふと彼女は隣に座るティータニアに耳打ちする。



(こういうのも、奴に訊けばわかるかもしれんな)


(そうですね。スイメイならおそらく何か知っているでしょう。ですが……)



 水明に勝ったような気分でいる瑞樹は、真実を知れば怒り出すことは間違いないだろう。

 瑞樹に「ぜっこーだよぜっこー!」と言われている姿が、目に浮かぶティータニアだった。





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