第8羽 契約しました。
「ふふっ、おふきゅにどうじょ」
房のついたままのバナナの皮を慣れた手つきで剥いて、口であむあむしている。
余裕綽々のみみみみ……あれ? みは何個だったけ?
「とりあえず、服を着てください。目に毒ですから」
「もふゅもふゅ」
「とりあえず、口からバナナを出せっ!」
「……ごっくんこっ! まあ、少し落ち着きなさい。ちゃんと深いワケを話してあげるから」
もう一度バナナを口に突っ込んでやろうか! セクハラで訴えられるから今は、薄生地の布を見るだけに止めておいてやるけどな!
「実は風邪を引いたみたいでね、体中が火照ってるの。だから昨日からその熱を鎮めるために、こうやって薄着になってるのよ」
「それが風邪の原因だよっ!」
卵が先か鶏が先かじゃねぇよ!
確実に原因は、胸元に大きめの蝶々が飛んでいてことがアクセントとなり、全体を引き締めさせる重大な要素になっていて、シックな黒基調の白い水玉模様は冷静な大人らしさとまだなりきれていない幼稚さが隠されていて、まさに大学生という現在の魅力を最大限に生かせていて、フェルト素材によるフンワリ感の醸し出されているその三角ビキニのせいだろうがっ!
ほんのちょっとだけビキニに詳しい理由は察してくれ!
「それじゃ、続きではい、あーん。野菜もちゃんと食べないとだめよ」
「はーい、モグモグ。……って、おいっ!」
カッパ召喚の供物つきのポテサラを口に含みながら、勢い良く立ち上がると椅子が仰向けになった。
とりあえずそのままにさせるのも忍びないので、元に戻した。
その一拍の沈黙が、重力を十倍にも感じさせた。
今のはなかったことにして、TAKE2始めます!
「なんだよ、このイチャイチャ感は! 僕たち夫婦かっ!」
カラン、とフォークを落として、瞠目したまま呆ける従姉。
威厳をたっぷり染み込ませて矛先を向ける。
「なんでみみみが驚いてんだよ! 驚きたいのはこっちだから! ……それで、いつから僕らはこうして夫婦になったんでしょうか?」
「うーんと、昨日の夜にお尻を弄ばれてからかな?」
「申し訳ございませんでした」
非道なる大人の論理的発言に返り討ちに合った僕は、誠心誠意平身低頭で登坂家一子相伝四つの禁術の一つであり秘奥義でもある即謝罪をした。適当な言い訳をしても想法の考えの相違が浮き彫りになるだけ。余計火に油を注ぐ凄惨たる自体を招く結果となるぐらいなら、気持ちを込めた謝りが一番有効的なんだと教えれた。
「それじゃあ、責任とってあたしと結婚してね」
「ごめん、それ無理」
容姿端麗眉目秀麗才色兼備でありながら、従姉である彼女との結婚なんて考えられない。
なぜなら僕は、まだ十六歳で結婚できる年齢じゃないから!
遠距離恋愛中で、名前も顔もぼやけてきた婚約者だっているからね!
「そうね。だったら、愛人でもいいけど?」
「いいだろう。結ぶぞ、その愛人契約!」
最初は無茶な注文を突きつけておいて、次に許容範囲内の要求を、甘い汁を差し向けてくる。それはセールスマンなど、交渉のプロ達の常套手段であることは百も承知だった。だが、この時の僕はまだ寝ぼけていて、あまり頭が働いていなかった。
と、自分で苦しい言い訳を言っていて虚しくなってきた。