第7羽 耳の味を堪能して、
「好きに食べていいわよ」
「いいんですか?」
「ええ、どうぞ! 昨日はしっかり食べさせてあげられなかったから、お腹すいているでしょ?」
将来は紙飛行機になる可能性が高い新聞紙を脇に置く。
まずはオードブルである耳に歯を当てる。
こんがり焼いているために、肌色よりも濃い色をしている箇所は柔らかく、ズブリと何の抵抗もなく僕の食欲旺盛な衝動を受け入れる。
「あのね」
ゆっくりと歯ごたえを気にするように噛む僕を見かねたのか、微量の真剣さを顔に塗りつける。
「おいしいかな? 一人暮らししてると、他人に料理なんて作る機会ないのよね。といっても、こんなの料理のうちに入らないでしょうけど」
「そんなことないですよ。僕の家の主食はコンビニ弁当なので、こういうありきたりな朝食に飢えてるんですよ」
「そっか、ならよかった」
頬に微熱あり気な朱を携えながら、僕の荒廃したご飯事情について微笑む。真っ黒な腹を持つ小悪魔は、瓶や容器を差し出す。
「苺ジャムでも、蜂蜜でも、ブルーベリーでもお好きなものどーぞ」
「あっ、ありがとうございます」
ベチャリとぬめりのある蜂蜜を練りこむと、耳を歯で引き千切って咀嚼する。トースターで日焼けしたパンの耳を喉に滑らせて、コーヒーを嚥下して食道に流し込む。
「べつにテーブルマナーは気にしないから、新聞読みながら朝食楽しんでもいいわよ。みみみも、テレビを観ながら食べてるしね」
「あっ、じゃあ。続きが気になってたんで、お言葉に甘えて読ませてもらいます」
ハムエッグを頬張りながら、他人の不幸をあげつらった記事に心を痛めながら目を通す。
ちなみに、みみみは僕の従姉である『波佐見巳巳』の自家製あだ名である。溶接した字名を口外して愛嬌振り回す年上の従姉、ちょーかわいい(棒読み)
「ホットケーキもあるから食べてね。はい、あーん」
「あーん」
新聞で両手が不自由な僕は、不本意ながら声のトーンを上げて雛鳥のように啄む。親鳥に餌付けされながら、童子のごとき問いかけをトスする。
「ひとつだけ言ってもいいですか?」