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ふぁみりーチキン  作者: 魔桜
~prologue~
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第5羽 第一発見者になりました。

 ススキに付き従いながら歩く、が。

 尖がりのある砂利に削られたのか、キャリーバッグのミニ車輪が地面と擦れて不快な音が耳をつんざく。注意されないか不安だが、深夜とはいえ人っ子一人いない。もっと誰か人とすれ違ってもいいとは思うのだが、まるで出入りが禁止されているかのように人の気配がない。

 地方ならではの決まりがあるかもしれない。たとえば、ボランティアの人間しか防犯のため、深夜帯は外出してはいけないとか。

 歩きやすそうなスニーカーで夜道を迷いなくつき進む地元民に、当然の疑問が湧く。

「そういえば、僕の家をすっ、ススキには教えてないよな」

 臆面なく名前を呼べる日は、もうすぐそこまで来てるな!

 今のところはただの願望だけど!

「ええっと。ほんとは優ちゃんの事を見かけた時から、迷子じゃないかと思って話しかけたんスよね。居候先って、波佐見さん家スよね?」

「……なんで知ってんだ?」

 警戒心を滲ませてしまった口調になったけれど、意に介さず話しかけてくる。

「ずっと根を張って生きてる人がこの島には多いから、新しく入居してくる人間の情報はすぐに出回るんスよ。波佐見さんとこに、あたしと同年齢の新入りが入ってくるってのは、多分もうこの島の人間ならみんな知ってるッス」

「僕って有名人?」

「有名、有名。超有名。だからあんまり悪目立ちするのはよした方がいいっスよ。ここでは都会より娯楽が少ない分、根も葉もない噂の伝達力は比較にならないっスから」

 と、なぜか立ち止まったススキを訝しげに思っていると、対象を見せびらかすように片手をあげる。

「それじゃあ、優ちゃ――お姫様。ジャジャーン! 波佐見さん宅はこの家ッス」

「なんで言い直した? なんで言い直した?」

 大事なことなので二回言いました。

「それじゃあ、新学期が終わったらまた会えるのを楽しみにしてるッスよ。お姫様」

「……その時は、ちゃんと優ちゃんって呼べよ」

 また会おうだなんて死亡フラグを立てながら、送り届けた騎士様が視界から外れるまで手を振り返す。

 そして、ここがようやく到着した僕の新しい家。

 白塗りの一軒家は二階建てで、道の角に押し込められている。

 この辺は住宅区なのか、さっきまでの田畑が耕された場所とは違い、少しばかり近代的。

「げっ」

 ぐぅ、ぐぅるるるるると腹の虫が獣化した唸り声を上げ始めたので、供え物が必要だ。できればガッツリと食べれる肉を所望する。主に僕のために。

「あれ、おっかっしーな? 誰も出てこないな」

 呼び鈴を数度鳴らすが、電灯がつくどころか人の気配が感じられない。

 予定時間より遅延した僕の探索か、グルメな細胞が騒いで、人生のフルコースメニューを飾る一品探求の旅に出たのかの二択に絞られたが、一体どっちなのかは見当もつかない。

 ギィィと妙に雰囲気のある音がする。

「……うわっ、いちおう在宅確認しようと思ったら、本当にドア開いちゃった」

 ひんやりとしたドアノブが回る感触が、臓物を萎縮させる。死体発見の第一発見者にならないように、今のうちに服の裾で触った箇所の指紋を拭き取る。

「改めて、おじゃましまーす」

 水を打ったような静けさが、より幻想をリアリティにさせてしまっている。

 夜目が効かず、慎重に靴を脱皮をさせながら、波佐見さん家の敷地内に足を踏み入れる。靴置場よりも一段上。フローリングの床が接触すると思いきや、想定とは全く異なる感触。ぷにっとした弾力のある感触が靴下越しに伝わってくる。

 ふにふにと足に当たる物体の正体を確かめるように、片足の五指を動かすと喘ぎ声が聞こえてきた。

「ぁん!」

 驚愕のあまり飛び去ると、弾道発射スイッチに手が当たったのか、時間差で照明弾が網膜に突き刺さる。予期していなかった組織の姑息な罠に目を瞬かせながらも、視覚野が回復すると眼球が現実逃避のスイミング。

「ぎゃあああああああああああ!!」

 そこには従姉が横たわっていた。

 素肌にバスタオル姿で! 素肌にバスタオル姿で!

 大事なことなので二回――

 そしてお尻からなんとかして足指を引き剥がすと、探偵頭脳をフル回転させる。

 生者が死者にできることは、どうやってこの死体を処理するかというかということだけだ。このままじゃ、僕が犯人だと疑われかねない! 山なら周りに腐る程ある。問題は移動手段。車の運転ができない以上、長距離の移動は諦めるしか――

「これが連続殺人の始まりだとは、優姫くんは知る由もなかった……」

「よっしゃー! 生きてた!!」

 愛すべき義姉が、うめき声をどうにか絞り出す。

 冗談とは言え、不可能犯罪に考えを巡らすのは心苦しかった。

 足でのお触りに声を上げた時点で、生存は確認していたけれど、こんなドッキリで祝ってくれる従姉のノリに乗ってあげないと可哀想だからね!

 

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