第45羽 拍手されて、
「この島にきて知り合えた猫は、無残にも惨殺されました。そしてどこかの誰かさんはたった一人の妹を邪魔だといって、転校させようとされていますよね。……うーん……そんな島の人たちは、僕はとても素晴らしい頭の持ち主たちばかりだと思っています」
どよめきが沸き返る。
不審なやつを見るようなみんなの視線は、敵意が上塗りされてしまっている。
ううーん、どうにかして世渡り上手になろうと思案したものの、今まで溜め込んでいた怨嗟のような皮肉めいた言葉しか口から飛び出てこない。僕はねちっこい性根であり、恨みつらみのボキャブラリーはつきないからな。……というかふっーつーに性格悪い奴、それが僕だった。
そんな僕だからの発想があった。
脳髄に叩き込んでやりたかった。
……ここにいるみんなが、柳生を追い込んだ加害者なんだってことを。
知らなかっただけじゃ済まされないことだってある。
柳生があれだけ傷ついているのを間近で見たのは僕だけで心動くだけの要因が作られていたのだとしたら、それを今からでも伝えようと思う。
それが響かなくてただ雑音として受け止められとしても、それでここにいる全員は事態を知ることになる。それでも耳を塞ぐというなら、それは立派に加害者だ。
知っていて尚立ち向かわない人間にだって物申したいことがある。
理事長の支配に怯えてしまって、被害者である柳生本人の優しさにすがるのも間違っている。他人に迷惑をかけたくないからとあいつが意固地になっていても、人身御供のように身を投げ出したあいつの強さに甘えていいはずがない。本人が宣ったからと大義名分を得て、見て見ぬふりをしてしまえばそれこそ全部理事長の掌の上のことになってしまう。
どうせそんなことぐらいみんな分かっているのに、他の誰かがやってくれるとか、どうせ無理だとか諦観決め込んでいるだけじゃないのかよ。
……ふざけるなよっ、何も傷つかないで傍観しているだけで終わらせてたまるか。こんな悲劇的な結末のまま幕を下ろすわけにはいかないんだ。
ああ、僕はこんな結末なんて望んでいない。
……ふんっ。ボロ雑巾のように精神をズタズタにされたのが僕だけっていうのは、どうしても納得ができないんだよっ!! 悪いかよ、ええ!? なんだよ、ほんとにこの島は。ほんとにここに移ってきてから最悪だよ。どうせこんなことをしでかした僕は、ただでは済まされない。
こうなったら地獄の道連れはここにいる生徒全員だ。どうせ悲劇的な終焉しか望めないというのなら、もっともっと掻き回して奈落に突き落としてやる。
「この島には変人の集団の集まりかと思うぐらい、変わった人間の宝庫でした。その他にもたくさんおかしな人間がたくさんいますが、そんな中でも飛びっきりな変人の女の子が一人います」
どいつもこいつも変人だよ。
たとえば一人の少女にあれだけ肩入れするような言動をしながら、それでも何もしようとしないクラスメイトとかかな。少女を傷つけようとしないための、ご立派な行動。でも、それができているってことは、もっと欲張ったっていいだろ。
それでもあいつの意見を尊重できるのは、きっと付き合いが長いから。
でも僕は出会ったばかりで絆は浅い。だからこそ、僕がみんなの意見は代弁してやる。それができる僕がやってやる。ほんとうは完全完璧に柳生のことを救ってやりたいって思っているんじゃないのかな。こんなどうしようもないような、誰もが閉口せざるを得ないなんて結果なんて、少なくとも僕は認めたくない。
「その少女は出会ったときには最悪の印象で、こちらの話にはひとつも耳を貸しませんでした。それどころか、まともに話そうともしませんでした。でも、初めてまともに話してくれた時があったんです。なんていうか、長い髪の毛のせいで表情があんまり見えなかったんですけど、たしかにその少女は笑ってたんだす」
ファミレスで柳生が滔滔とみんなのことを話してくれていた時に、確かにあいつは笑っていたんだ。どれだけみんなから阻害されようとも、それでも真っ正直に生きていたんだよ。
でもそれなのに、あんなに柳生が口を閉ざしていたのはなんでだ? もしかしたら、性分なのかも知れないけど、あんな状態にさせてしまったのはきっと周りのせいなんだ。
もしもここで颯爽と物語の主人公が柳生を助け出したたとしたら、魔法のようなものを使って簡単に救いだとしたらどうなるんだろう。一時的には確かにハッピーエンドかも知れない。
……でも、たったそれだけなんだよ。
どれだけ劇的な展開になったて現実は往々にして残酷。みんなのわだかまりは、一瞬にして霧散することはできない。
だから、本当に変わらないといけない、諸悪の根源はここにいるみんななんだよ。ああお前らが悪い。だから、だからさ、お願いだから動いてくれ。ほんと、僕にはこんなことしかできないんだよ。何一つ成功を収めたことがない無力な人間なんだよ。勝手かもしれないけどさ、本当はみんなの力が必要なんだ。
「なあ、本当にこんなんでいいのかよっ!! 今、目の前で傷ついている少女がいるんだっ!! 泣いている女の子がっ、目の前に!! ……なんで……なんでそれでも立ち上がろうとしないんだよぉおおお!!」
静寂が空間を支配する。
地を曝け出してまで出てきたのは、穿った言葉で、こんなことでほんとうに何かがわかるのかって思うんだ。でもそれぐらいしか、馬鹿みたいに足掻くことしか僕にはできなくて。
壇上に上がっている柳生の頬に湿らせているものが伝染したのか、瞳が潤って景色が歪む。思わず天井を見上げるとライトの光が網膜に突き刺さって、なおさら眩しさを感じさせる。視界の輪郭がぼやけて、拳が自然と震える。
パチ、パチ、パチと不規則な拍手が起こる。
その音は無言になった体育館にはよく響いて、何の音かと思って、必死で制服の裾で拭う。拍手の音の先に視線を向けると、




