第43羽 シャウトして、
カサっと床に滑り落ちた紙の音で、過去の回想から覚醒する。
手元を見やると、紙がない。
どうやら意識を失ったと同時に、僕の手をすり抜けたらしい。なんでこんな時にあんなことを思い出したのかは分からないけど、早く拾わないといけない。拾わないと、柳生のようにみんなから除外される。
力がない人間は、運命ってやつに逆らったらだめなんだ。
足掻けば足掻くほど、底なし沼ってやつにハマって、取り返しのつかないことになる。
でも、それは正しいことなのかな。
……いや、僕が何もしないことは保身のためじゃない。こうやって我慢することが柳生のためになるんだよ。僕にもしも力があったなら、柳生を助けることができた。でも僕には何もできないじゃないか。なにかやろうとしたって、また自分の首を絞めるだけ。
だったら、最初から何もしなければいい。
そうすることが、みんなにとって一番いいことで、それが賢いってことなんだ。馬鹿になったって、ひとりだけ周りに逆らったって何もなすことなんてできない。
紙を掴んで引っ張る。
前方にいる人の背が高く、指の先がどうなっているのか分からない。だけど、ちょっとやそっとの力じゃ動かない。もしかしたら、前にいる人の手にたまたま挟まったのかも知れない。こんなに引っ張っても避ける動作一つないってことは、寝ているのかな。まったく、こんな時に意識を失くすなんて、一体どんなやつだ。
ビリッ、と周囲に紙が破れる音がする。
勢いよく引っ張ってようやく手元に紙が戻ったと思ったら、それはただの紙片。
うげっ、と僕は低く呻く。
怪訝な表情で、近距離にいた皆さんはこちらを見やる。すいません、と超小声で頭を下げながら、動揺しまくる。どうしよう、この紙。あれだけちゃんと持ってろって厳命されていたのに。これが見つかったら反逆者とか勘違いされて、袋叩きに合っちゃうかも。
あーもう、ほんとに僕はなんにもできない。
泥にまみれた柳生を救い出そうとしても、自分も泥の底に沈んでいくだけだったし。臆病風に吹かれて自分に言い訳して、他人の意見に流されて自分を喪失したし。こうやって何もかも投げ出して朱に交わろうとしても、赤くなることさえできなかった。
もう何かをしても、何もしなくても同じ気がするんだ。
ああ、そうだ。
いつか枕を濡らすときがあるかも知れない。いつか後悔するときあるかもしれない。でも、諦めないのは今しかないから、もう一度立ち上がろう。……あれ、既視感が頭に過るけど、そんなことはどうでもいい。ぐんと、腕に力を入れて、その反動で立ち上がる。
がばっと立ち上がって、演説中の理事長を見据える。
もうどうだっていい。臆病者であり続けることしかできない僕だけど、たまにはきらめく時はある。例えば、婚約者に言ってのけた超かっこいいあのセリフをもう一度心の中でシャウトしよう。
僕は、どんな運命だって乗り越えてみせるっ!!




