第3羽 美少女と遭遇し、
「どうしたんスか? こんな夜更けに一人歩きは危ないスよ?」
深くかぶっている野球帽のせいで、マスカラの額縁に描かれている瞳のキャンバスは、ペンギンの嘴のような鍔によってベールに包まれている。被り物からはみ出ている茶髪は毛先から微妙に色褪せていて、自毛ではなくて染物のようだ。
「むしろそっちの方がマズイだろ? 女の子がひとり歩きなんて」
「あれー、バレちゃったスか? あんまり女の子扱いされた経験ないんスけど、深夜の女の子の一人歩きは何かと危ないっぽいんで、カモフラージュのためにも帽子被ってるんスよね」
「……すぐにわかると思うけどな」
「ばっか、やめろいっ! そんな褒められた照れるッス!」
なぜか僕の言葉に過剰反応した彼女の足をチラリと一瞥する。
スカートを履いて深夜を徘徊している男子なんて、あんまり想像したくない。
でも、その決定的な点がなければ男と見誤るかも知れないぐらいラフな格式ばっていない物言いと、ラフな格好だ。
ショルダーから線の細い腰にかけて、自作っぽい缶バッチが留められている小さめなバッグが,キッチリと掛けられている。
唯一の女性らしさは極小の胸。
小ぶりで手のひらにすっぽりと覆える寸法の両胸(実際に掴んだことはないが)の間に、斜め直線上に革が割って入ることによって、僅かばかりできた天然の渓谷は絶景かな絶景かな。
「それにしても、その自転車一体全体どーしたんスか? 不法投棄ならあたしは見過ごすことはできないスよ」
「あー、違ぇよ。この自転車が誰のかも知らないし、倒しちまったから起こそうとしてただけだって。よっと」
「ああっとと、それならあたしも手伝うっスよ」
二人がかりで横たわっていた、酸化しきった鉄クズにしか見えない物質。
まるで事故にでもあったようなボロイチャリがまた倒れてこないように、電柱と壁の隙間に押し込む。引き上げ作業の最中注視したのは彼女が腕に装着している、『防犯中』と銘打ってある腕章。蛍光性のあるそれは、この闇夜でもしっかりと文字が見える。
僕の熱視線に気が付いたのか、
「ああ、これ? 実はボランティアってやつなんスよねー、この島じゃあ、この腕章をつけていれば警察の人からも一目置かれるスーパーアイテムなんスよっ!」
ビシッと、決めポーズらしきものを披露されるけど、筋力なしの腕は迫力なし。というか,警察からもっていうのはちょっと胡散臭い。奥ゆかしい日本男児の鑑である僕は失礼千万な言動は自粛して,ちょっとばかりのボランティア活動を依頼してみる。
「あー、悪いけどだったら道を教えてくれないか? この島、秘境過ぎて」
「なんだとー、この島はいつだって正々堂々スよ!」
脳内で『卑怯』と誤変換されたらしい。しかも、島が正々堂々? 語彙力のなさは僕と同等ぐらいのようだ。