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ふぁみりーチキン  作者: 魔桜
~fly away~
37/53

第36羽 はぐらかされて、

「あれー、優姫くん。学校はどうしたの? サボリ?」

 ずたずたになった身体と心を引き摺るように、家に逃げ帰った。

 まだ昼時にすらなっていないというのに、みみみさんはダイニングルームでテレビ鑑賞をしていた。なんだか自然体で座っている彼女を見ると、随分久しぶりに日常を味わった気がした。

 何故か頬の上部に込み上げてくるものがあって、僕は奥歯をギリッと噛み合わせた。

「そっちこそ、サボリですか?」

「そうじゃないわよ。大学生はね、一、二年ぐらい真面目に通ってたら後は結構楽なのよ」

 要はサボリとあんまり変わらないんだけどね、と笑う彼女の向かいの椅子に座る。

 そして気がつく。

 テーブルに置かれているのが包帯で、彼女が腕に巻いていたってことを。

 僕の視線に気がついた彼女はしまったという顔を一瞬させて、またいつも通りの顔に戻る。

「……それは」

 ザックリと心が削れる。

 手首から腕の付け根まで包帯は巻かれていて、明らかに軽傷とは思えない。血の痕はないようだから、打撲かもしれない。

「ああ、これはちょっとぶつけちゃってね。大したことないだけで、一応包帯巻いているだけよ」

「それは、誰にやられたんですか……?」

「……どういう答え方したら、優姫くんは納得するのかな?」

 ニコリと笑って、包帯を救急箱に閉まうみみみさん。

 そのまま救急箱を、テレビ付近の収納スペースに押し込む。

「闇で暗躍する秘密の組織? それともほんとうにただの事故? …………それとも――心の弱い人間の仕業?」

 振り向きざまに向けられた顔には、あまりに邪気のない顔。

「……人間はね、自分の行為が悪行だと分かれば分かるほど、自己正当化するものなの。だって、自己否定するのが怖いでしょ? だからどんなことをしても、心は痛まない。自分が正しいと思っているから、どんな言葉も届かない。そんな人たちのために自分が右往左往するなんて、やっぱり悔しいわよね」

 僕に向けられている言葉というよりも、自分に言い聞かせているようにも感じる。

 年上という理由からか。

 反駁することなくスッと言葉が胸に入る。

 もしくは、彼女の穏やかな口調からなのか。それとも、一緒に暮らしてきた関係だからか。

「他人なんて関係ない。最後の最後。本当に頑張らなければいけないなのは、自分自身よ。自分が何をすべきかなのか、何がしたいのか。……もしもこの二つの相反する感情が合わせったのなら、それは絶対に試してみる価値はあると思うわ」

「……そういうことって、あんまりないような気がしますけどね」

「そうね。私もあんまり経験ないわね。何がしたいかってことは、たくさんあるんだけど。周りの、さ。なんか周りの目とかそういうのが障害になって、これをやらなきゃ! って思っちゃうのよ。……そういうことをずっと続けてると、自分が何がしたいのか分からなくなる時がたまにあるのよね」

 なーんてね、とおどけたように言って、再び座る。

「なんだか、ちょっと家族っぽいこと言ってごめんね。ケッコーむず痒いねー、こういうこと言うのって。……でも、さ。優姫くんがよければ、やっぱり血の繋がりなんてなくてもさ、家族っぽくやってもいいのかな?」

 優しく微笑む彼女を拒む理由は、今のところ見つからない。

「いいと思いますよ。僕たち二人は……家族で」

 ガタンッ、ガッ、ガッ。

 頭上から何かが動く音がした。

 蒼白な表情を浮かべているのは、僕だけじゃない。

「……そういえば、何故かみみみさんって、僕が二階に上がることを執拗に邪魔してましたね」

「それは私の部屋があるから、見られてたくなかっただけよ」

「……もしかして、二階に誰かいます?」

 目に見えるほどに発汗しながら、組んだ両手を口元に持っていく。

 かなり思い悩んでいる様子だ。

「…………にゃー」

「今、完全にみみみさんでしたよね? 完全に裏声でしたよね?」

「ポルターガイストってやつじゃないかしら? この家……実はでるのよ」

「怖いですよ! なんて家に住んでいるんですか!? 除霊してくださいよ!」

 幽霊が滞在していらっしゃるのなら、家族二人どころか大家族の可能性もある。

 そういえば玄関口に、みみみさんとは趣味の違いそうな種類の靴が何足かあったり、歯磨きのブラシも三つあったりしたのは分かっていたけど。まさか、まさかこんな可能性が浮上するとは思いもしなかった。

「あっ、そういえば優姫くん、髪の毛伸びちゃったね。切ってあげようか?」

「ごまかさないでください!!」


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