表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふぁみりーチキン  作者: 魔桜
~fly away~
34/53

第33羽 助けられました。

「罪を被せるなんて人聞きが悪いよ。私が万引きしたわけでもないし、防犯カメラに記録されていたのはとても妹に似ていたんだ。犯罪者を生み出さないためのシステムを批判する人間なら、そんな行動にでてもおかしくないだろ?」

 僕は怒りのあまり言葉が出なかった。

「君は……私の妹をどれほど知っているつもりでいるのかな? 妹のことは私が一番熟知しているつもりだよ。私の妹ならやりかねないと、そう断言できる。……出来損ないのクズなんだよ、私の妹は。本当にデキが悪い妹でね、恥ずかしながらこんな事態を――」

 理事長と僕の間にあったガラスのテーブルに右手をついて、左手は胸ぐらを掴んでいた。

 掴まれた理事長はあまり動揺していない。

 それが更に感情を掻き立てる。

 隣りで柳生は立ち上がって、制止しようと「やめて……」と掠れた声で言ってくる。

 だけど、だけど、

「あんた、柳生と兄妹なんだろ? ……なあ、だったら……あんたが兄なら……妹のことを守ってやろうとは思わないのかよ……」

 なんでなんだ。

 なんで、柳生のことをそこまで目の敵にするんだよ。

 兄は妹を助けられるように、先に年齢を積み重ねているんじゃないのか。

「なんでって……。君は親族だからって、差別してもいいと思っているのかな?」

 差別はいけないよ、差別は、と理事長は柳眉を顰める。

「むしろ血縁関係にあるからこそ、邪魔建てするのなら徹底して排除すべきだと思うけどね。それが兄としての当然の責務だとは――」

 気がつくと、柳生の小さい悲鳴とともに、僕は理事長のシャツから手を離していた。

 殴打音と共に少しばかり吹き飛んだと思ったが、理事長は涼しい顔をしている。

「……ふん。どうやら資料に記載してあった通り、兄妹の話になると血相を変えるみたいだね。でも、ここまでスムーズにことが運ぶのも、あまり面白くはないもんだね」

 そんなことまで言ってくる。

 面白そうに表情を緩めながら、やおら立ち上がる。

「登坂くん、どうしようかな? 今の君の行動は立派な暴行罪にあたるよ? 私はこのまま警察に届けていもいいけど、実に、実にそれは心苦しい。理事長として一生徒を犯罪者にしたくない」

 グッともう一度どうにかしてしまいたい衝動を、湧き上がる前に抑え込む。

 挑発的ないい口は、罠にしか思えない。

「今可愛い妹に反抗されていて、私も気が立ってしまっている。普段の私だったら、彼を犯罪者にしないように自制できるのだけど、どうしたものかな? 今彼を救える人間は、たった一人しかいないような気がするんだが、一体それは誰なのかな?」

 なんだ? 

 一体なにを言いたいのか、遠まわしな物言いでつかめない。

 すると。

 僕の横合いから。

 ずっと黙っていた柳生が、

「……すいませんでした、兄さん。……私が……間違っていました」

 絶望したような声色が、鼓膜を微細に振動させる。

 なにかが音を立てて崩れたような気がした。

 視覚が横滑りになって、頭が真っ白になる。

 僕は……いったい、なにをしてしまったんだ?

「僕の妹がようやく反抗期から抜け出してくれたみたいだ。これも、登坂くんのお蔭だよ。兄として礼を言わないといけないな。……ありがとう、登坂くん」

 ま……さ…………か。

 ……僕……を……守るため……に?

 僕を…………庇って……こんな…………。

「大丈夫、妹を本当に犯罪者にしてしまったら、私の家にも傷がつくからそんなことはしないよ。そうだな、とりあえず今の学校から転校させて頭を冷やしてもらおうか。別に永遠の別れというわけでもないし、二人とも安心してくれ給え。金銭面ではしっかりと私が責任をもって不自由ないようにしよう」

 飄々となんのつっかかりもなく、すらすらと言う理事長は冷笑を浮かべている。

 ここで激情にまかせて、また暴言や暴行に至ればそれこそ立場が悪くなる。

 庇い立てしてくれた、柳生の想いをふいにすることになる。

 なにをやっているのかな……僕は?

 助けようとした人間に、逆に助けられて、僕は……。

 ――僕はまた、けっきょくなにもできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ