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ふぁみりーチキン  作者: 魔桜
~fly away~
33/53

第32羽 へらへらしていて、

「一体何の用なのか……なんて無粋なことは聞かないにしても、少しばかり私の話に付き合ってはくれないかな? 登坂くん。恐らく君は樫野にからかわれてここに来ただけであって、私たちの間には少しばかり誤解が生じているような気がするんだ」

「誤解……ですか?」

「ああ、その通りだよ。私は決して大切な妹を傷つけるつもりは毛頭ない。そのことを君に分かってほしいと思っている。なにせ、私が創立したボランティア団体に入ってくれたらしいじゃないか? 最早この島の一員となった君と、私はことを構えたくはないんだ」

 両手を合致させながら、思い悩んでいるかのように理事長は話し出す。その仕草は柳生に類似していて、やっぱり兄妹なんだなあと少し思った。

 柳生とはいうと、手首を抑えていて、まるで脈でも測っているようだった。もしくは手の震えを抑え込むような、そんな手の持ち方をしていた。それでも、しっかりと理事長を視界に捉えているようだった。

 事勿れ主義の僕は、和解できるというなら是非もないので肯く。

「……わかりました」

「ありがとう。君なら賢明な判断をしてくれると思ったよ」

 さてと、と一度考えるように視線を落とすと、またこちらを見やる。

「私はね、この島の人間が平和に暮らせるようにしたいんだよ」

 あまりにも歯が浮くような台詞だ。

 僕の反応が面白かったのか、微苦笑を顔面に携さえながら話を継ぐ。

「君は知らないかもしれないが、平和に見えるこの小島ですら犯罪者は蔓延っているんだよ。器物損壊に盗難被害、動物虐待に強盗。果ては殺人なんていう軽度のものから大きなものまでね。……どうやらその顔から察するに、多少は心当たりがあるみたいだね?」

「それは……はい……」

「……私はね、そんな悲劇を食い止めたいんだ。世界の恒久的な平和なんて、どんな英雄ですら成し得なかった泡沫の夢だ。だから、『世界を救う』なんて大それたことは言えない。私はそんな夢想家などではなく、あくまで現実主義者なんだ。……笑われてしまうかもしれないけど。私はね、この島の人間全てが幸福であるような社会を作り上げたいだけなんだよ」

 なんなんだ。どうして、そんなことを言うのかわからない。

 この島の人間全てを幸福にしたいというのが本心なら、どうして。

 それならどうして、柳生が辛そうに顔を歪めているのかの説明がつかない。

「私の悲願のために必要なのは『助け合い』や『絆』という素晴らしい思想なんだよ。みんなで手を取り合って、犯罪を防止しようじゃないか。SNSというネットでの相互監視システムだけで完璧なる犯罪撲滅できないのならば、ボランティア団体という人為的な監視システムを追加しようと思ったんだ」

 助け合い? 絆?

 じゃあどうして、柳生のことは助けられないんだろう。

 助け合いって、みんなで助け合って柳生を虐げることなのかな。

 絆って、一人を阻害することによって、更に団結しようという集団心理のことなのかな。

「――24時間常に牽制し合うことによって、人は犯罪を起こさなくなる。実際にこのシステムを起用してから成果はでているんだよ。実証データによれば、この島の犯罪は去年に比べて三割も減少したんだ。これがどれだけ凄いことか分かるかな?」

「いやー、すごいっすねー。へー、三割もなんですかー。凄いっすねえ」

 へらへらと、腰は低く。

 下手に自分の考えなんて言ったら、跳ね除けそうだから相手の言葉を復唱するだけ。

 理事長は目を眇めて、馬鹿を見るような目つき。

 ああ、もうそれでいいです。

 僕はそんな彼の目線に気がついていなように、ただしているだけで胸糞悪い悪い笑みを浮かべる。

「……分かってくれて嬉しいよ。私のこの考えを受け止めきれないのが、不肖ながらこの妹なんだ」

 ビクッと柳生がたじろぐ。

 でも何も話そうとしない。怖いのかもしれない、実の兄なのに。それなのになにも意見を挟めないぐらい、怯えているのかもしれない。

「私の妹はね、邪魔ばかりしようとするんだ。私の意見を翻すということは、悪党を増長させるということが理解できないらしい。君にもくだらないことを吹き込んだらしいが、そんなことは忘れてしまって構わないよ」

 こちらがどんな心持ちなのかは些事。とにかく反乱因子に成り得る僕を、抱きかかえるという算段ということはなんとなく分かった。

 でも、正直僕なんか不必要なんじゃないだろうか。説得する意味があるのだろうか。

 まさか島の人間全員の幸福なんて甘言を鵜呑みにするつもりはない。

 そんな建前が必至なら、実の妹をどうにかする方が先決だ。

「なんで……」

「ん? どうしたんだい? なにかあるのなら言ってくれて構わないよ」

 思わず口から出しまった疑惑の声。

 それを見逃さずにすかさず尋ねるのは理事長だけど、その言葉を額面通りには咀嚼できない。

 それでも僕は、

「なんで柳生に罪を被せようとするんですか? あなたの深い考えは分かりましたよ。だけど、それとこれとは――」

「それが! ……それが関係あるんだよ、登坂くん」

 こちらの意見を聞けと言わんばかりに、一瞬声を張り上げられる。


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