第27羽 家族が気になって、
時が過ぎ去るのも早いもので、入学してから一ヶ月はあっという間に過ぎ去っていった。
僕の学校生活はというと、凡庸そのものとしか言い様がない。
朝と放課後の登下校は、家が近いマグロと柳生と三人で帰るのがいつの間にか習慣づいていた。
今日も一緒に帰宅しようとすると、靴箱にぽつん、と立っていた柳生。なぜか少し悲しそうにも見えるその横顔に声をかける。
「ああ、マグロ今日はなんか用事があるって言ってたから。先に帰ってていいってさ」
なぜか樫野先輩と一緒に連れ立って、どこかに行っていた。あんまり交流があるとは思えない組み合わせだったから、意外だった。マグロの普段の言動から、ボランティア団体そのものや理事長を忌避しているようにも感じられていたのに。
それから、「柳生には手を出すな」とも凄まれたけれど、何を勘違いしているのかが分からない。確かに柳生は本当に容姿から細かな仕草から全てが可愛いらしくて。それでいてそれを鼻にかけないというか、元々の顕著な性格とかが相まっていて、近くにいればその魅力が全て分かって。他にも以外にも気骨があるとか、芯があるとかいっぱい、いっぱい、いいところがある。
でも、それでも僕には無理なんだ。
柳生だけは、絶対に。
「あっ、そ、そうなんですか」
二人きりだと聞いた途端、露骨に落ち込こまなくてもいいのに。
柳生は靴箱に手を突っ込んで固まったまま項垂れている。
だけど、指先にはなにも掴まれていなくて、靴箱の中は空洞。
「あれ靴は?」
「そういえば、履いてくるの忘れてました。今日はスリッパで帰ろうと思います」
「え? 大丈夫なのか?」
こくん、と頷くが、心配なのはなにもスリッパで路上を歩くことだけじゃなく、少しばかり抜けているところだ。この前の体操服の件もだったけれど、あれはトイレで蛇口をひねり過ぎたらしい。その時濡れ鼠になってしまったから、ずっとあの格好でいるしかなかった。
なんとも間の抜けた話だけど、一緒にいると結構そういう部分を知ることが多い。
自然と話しやすいように二人隣になるのだが、人垣が真っ二つに両断される。
まさかドジな柳生の噂が認知されていて、その巻き添えを喰わないようにという事前の策なんじゃないだろうか。
「そういえば、柳生のお兄さんってどんな人なの?」
「え?」
なんだかまた琴線に触れたような気がしないまでもないが、出した言葉を引っ込めたらそれこそ泥沼になりそうだ。それに気になったんだ、柳生の家族のことが。どういう人間なのかってことが。




